第10話 水魔法の追跡
「やっぱりストヤノフ一族だから狙われたって感じ? オズ?」
「どうでしょうね。でもまあ、彼女の兄が演説している場所を考えると、元々何かしら準備していた輩かもしれないですが」
「どちらにしても早くエルヴィラを助けないと色々とヤバいことになりそうだってことは確実だ。見失わないよう目を離すな」
大通りの人込みを抜けながら、3人は分析する。エルヴィラを誘拐した男たちは通行人の視線も気にせず、むしろ邪魔な通行人を突き飛ばしながら逃げていく。そして、大通りから路地の方へと入っていく。私たちも同じ路地へと入ったが、すでに男たちの姿が見えなくなり、どこの小道に入ったのか、分からなくなってしまった。
「……見失った」
「無暗に探すのは良くない。手がかりを見つけるぞ」
「は? そんな簡単に言わないでくんない? あたしら中学生なんだけど」
「メーヴィス。そう突っかからないで。もしかしたらエルヴィラがなにか目印を残してるかも」
「そうだね。探そう皆」
私たちは無我夢中に地面を見つめる。なんでも良いから何かしら見つかってほしいと強く思いながら。
(このまま会えなくなるのは絶対に嫌だ!)
そう強く願った時、ある小道の端に少しだけ光るものを見つける。私はそれに近づき、注意深く見ると、そこには小さな氷の破片のようなものが落ちていた。
「みんな、ちょっとこれ見て」
私は皆を呼び、見てもらった。
「うわ、めっちゃちっさ! よく見つけたね、アルマリア」
「確かに、この道で氷が落ちるようなことって、……なにかあります?」
「いや、ないね。明らかに魔法で作られた氷だろ。エルヴィラは氷魔法が得意だったな、アルマリア」
「そう。つまり、可能性としてはこの道を通った可能性があるってことだよね」
「そう考えることは出来ますが、この流れを繰り返しても彼らには追い付けない。ここは任せてください」
オズマンドはそういって、氷の破片を手のひらに乗せる。そして、氷の破片に小魔法をかけると、その氷の破片は水に戻り、その水が小魚の姿になった。そして、その小魚は宙に浮き、空中を泳ぐように、ある方向へと迷いなく進んでいった。私たちは小魚の後を追う。
「氷魔法の魔力元へと向かうように魔法をかけました。長時間は無理ですが、無暗に探すよりは良いでしょう」
「さっすがオズだわ! 戦闘が糞雑魚だけど、こういう時頼れるの、かっこいいよ!」
「いえ、そんな大したことじゃないですよ、メーヴィス」
「またそんな謙遜しちゃってさ。ね、アルマリアもすごいって思うよね?
「うん、こんな芸当が今の時点で出来るのはかなりすごいと思う。一体どうやったの?」
「簡単な話です。氷を形作っっている魔力を水属性に変換して、その魔力元の方へと戻るようにしただけです」
「そ、そっか。その芸当が出来るのがすごいよ」
そうして、水魔法の小魚の後を追い、複雑に入り組んだ路地を抜けていく。道中、同じような氷の破片を見つけ、魔法を更新していき、そして最後には小魚は、食卓に出てくる程度の魚になり、その魔力の主へと戻って行く。そして、路地を抜けた先は、人が少ない小さな広場だった。その中にあるベンチに、私たちが追っていた男たちが座っているのが見え、水魔法の魚もそちらの方へと泳いでいく。
「あなたたち。私たちの友達を返して」
私は男たちに聞こえるくらいの声で言葉を投げる。その声に気づき、ベンチから立ち上がった男たちの隙間から、手足と口を縛られたエルヴィラの姿が、目に映ったのだった。
その姿をみて、私は心の内から湧き上がる嵐を感じていた。