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メロメロコンプレッション   作者: とわいらいと
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第2話「ヘブンズ・ナイトメア」

(はぁ~なんか今日は疲れたましたね…いや、当たり前ですよ…形はどうあれ命の危機に遭遇したのですから…)

 数分前ヒトミと連絡先を交換し、何かあればすぐに連絡してくれ!と言われたアユミは自分の家へと歩いていた。

 淫魔と天使の存在、その血を引くもの同士の命を懸けた熾烈なバトル、魅了攻撃と呼ばれる謎の特殊能力の発現、平穏に過ごしてきたアユミにとって今までに味わったことのないほどの非現実を突き付けられ、精神は限界まで疲弊していた。

(しかも、変なハートの中に閉じ込められて…あんな醜態を……ううっ///)

 アユミは一刻も早く家に帰って休みたかった。しかし、非情な現実はアユミを休ませることを許可してはくれない。なぜなら、アユミの家にはあの人がいるのだから。

(はぁ…ミユねえ…今日もまたいるんですかね…)




 「アユミちゃ~ん♡おっかえり~!♡♡♡ご飯?お風呂?それともわ・た・し♡?ねぇ!ねぇ!私よね!!そうよね!そうに決まってるわよね~♡♡♡」

「や…やめてください!離して…はな…して……やめろぉぉぉぉぉ!!!」

家の扉を開けたとたんに抱き着いてくる、長身でスタイルがよく、少し紫がかった色のロングヘアーの成人女性。

アユミは拒絶するように強制的な抱擁から脱しようとするが、非力なアユミの力では振りほどくことが出来ず、声を荒げて抵抗することしかできない。

「今日はちょっと遅かったじゃないの~♡寄り道もいいけど、あんまり遅くなったらお姉ちゃん心配しちゃうわ~ぐすん…もしアユミちゃんの身に何かあったら、いつか会えるご両親やあなたの本当のお姉ちゃんにも申し訳なくなっちゃうわ…」

「…うっ……私の家族の話は止めてくださいよ…もう思い出したくもないんですから…」

「なに言ってるのよ~…アユミちゃんのご両親とお姉ちゃんは私の財団捜索チームが絶対見つけてくるんだから!そしてその時には…私はアユミちゃんと性別の垣根を超えた婚姻関係を……!ぐえへへへへへへへ♡♡♡♡♡♡」

「ああっ!もう!今から自室で休ませてもらいますから…!離してください!!」

 アユミはするりとしゃがんでミユの腕から逃れ、そのまま走って自分の部屋に向かう。

「ああん!♡もう…あと少ししたらご飯だから!!今日はお姉ちゃんの愛情たっぷりシチューよ♡ア・ユ・ミちゃん♡む~~ちゅっ♡♡」

 ミユがアユミに投げキッスをすると同時に、アユミの部屋の扉が閉まる。アユミは荷物を置いた後、ベットの上に横たわり思いふける。

 10年前、アユミは家族に捨てられた。

恐らくそれは、父の仕事のミスによる膨大な借金によって子供を養うことが出来なくなってのことだろう。

 家計が困窮しているのにもかかわらず、急に遊園地に行こうと言い出した父。無理やり観覧車に一人で乗せられた後、扉がロックした直後に園の出口へと足を向けた。泣きながら叫んでも父は振り向いてはくれず、一周して降りることが出来た時には完全に一人になっていた。

 その後、警察に保護され、孤児院で9年過ごした。

 父、母、姉の警察による捜索はその間続いていたが遂に見つかることはなく、結局打ち切られてしまった。遺体も見つからなかったため、恐らく海で心中したのではないかと言われている。姉ともども。

(でも…そんな私をミユねえは助けてくれたのですよね……私の姉の親友であった彼女は…)

 七楽美夢ならく みゆ世界をまたにかける七楽財閥の社長の娘。

 成績優秀にして、スポーツ、スタイル、美貌、において右に出る者がいない。まさに、天賦の才をもつ完全な人間。一つ欠けているところがあるとするなら、大好きなアユミの前では完全なる変態へと化してしまうこと。

 ミユはアユミの姉である空魔あきま 遊麻ゆまと親しい関係にあり、警察による捜索が打ち切られた後でも、財団の捜索チームを派遣しユマとその家族を探している。

また、アユミを孤児院から引き取り、新たな家を建てた。アユミ一人のために。最初はアユミだけでその家に住むことになっていたのだが、暇さえあれば駆けつけ、家の家事などをしている。

(私一人のためにここまでしてくださるのはありがたいのですけどね…しかし、あの過度なスキンシップはどうかと思…)


ガシャャャァァァン!!!!!


 大きな物音が鳴る。ベットに横たわっていたアユミはとっさに起き上がり、固まる。

(何…今の音……まさか…!)

 慌ててベットから降り、自室の扉を置け、音がした方へと駆け出す。その先は台所。ミユねえが夕食の準備をしていたところだ。とっさに駆けつけ、状況を確認する。

「ミユねえ!大丈っ……!」

 目に飛び込んできたのは、白を基調とし、神聖さを感じさせるデザインの服を着た女の子が、手を拳銃の形にし、小さなハートがついた指の先をミユねえの胸部に突きつけているものだった。

 一瞬で理解した。天使軍の人間が自分を始末するために追ってきたのだということを。ミユねえを人質に取ることで、優位な状況を作り出していることを。

「あなたが…アユミさんですか…私の…私の大好きなましろちゃんを殺した…」

目の前のボーイッシュな感じでどこか威圧感のある女の子は、一瞬鋭くアユミをにらみつける。

「…ましろ?…ましろって誰ですか?…そんな人知りません…」

「…彼女の天使名は『リラエル』…私の一番の友達でした…」

 一瞬アユミの背筋が凍り付く。

 この女の子は恐らく、つい先ほどヒトミと共に倒した天使軍の少女の仇を取りに来たのだろう。しかし、アユミは戦いに加勢したとはいえ、完全なるとどめを刺したのはヒトミだった。復讐ならヒトミの方にすればいいと、少し悪い考えが出る。

 それに、ミユねえを巻き込んでの戦闘は避けたい。アユミは説得を試みようとする。

「ちょ…ちょっと待ってください!…あなたの友達を殺したのは私ではなくてっ…」

「あ~いえいえ。別に私はあなたを憎んでいるわけではありません。落ち着いてください。」

予想外の発言にアユミは少し戸惑う。目の前の女の子はミユねえを人質に取りながらも丁寧に話し始める。

「申し遅れました。私の名前はキラエル。慈愛の心の力を使った魅了攻撃を得意とする天使軍の者です。結論から言いますと、私はあなたに復讐するつもりはありません。ただあなたの私の親友に対する、謝罪の気持ちが欲しいだけなのです。」

目の前の女の子は淡々と話を進める。

「天使軍と淫魔軍は相容れぬ存在。両者の戦いの中で犠牲者が出てしまうのは仕方のないことです。しかし、やられるたびにやり返していては、いつになっても争いは終わりません。この悲惨な戦いを終わらせるためには、どちらかが寛容なる精神のもと、相手を許すことが必要なのです。ですがっ!…ですが、せめて一言頭を下げて私に謝ってほしい…そうすれば私はこの女性を解放し、すぐさま撤退致します。」

 どうやらこの子は戦うつもりはないらしい。一言謝罪の言葉を言い、頭を下げれば戦闘は避けられる。

 アユミは頭を下げ、謝罪の言葉を述べようとする。

「ご、ごめんなさい…。あなたのお友達に対してひどいことを…」

「ありがとう!♡♡♡♡♡♡じゃあ私の虜になって!!♡♡♡♡♡♡一生!!!!!!」

 キラエルはミユに向けていた指先を即座にアユミの後頭部に向け、ハート弾を発射しようとする。

 アユミは異変に気付き、攻撃を避けようとするがとても間に合いそうにない。

「アユミちゃん!危ない!!!」

キラエルの横にいたミユがアユミより一瞬早く気づき、キラエルに体当たりする。

 体勢を崩したキラエルの指先は明後日の方向へ向き、アユミには当たらなかった。

「ちょ…ちょと!何してくれてんのよ!!私の華麗なる復讐を邪魔するなんてっ…!許せない!!!」

 キラエルが自身の指先にキスすると、小さなピンク色のハートがつく。その指先を今度はミユに向ける。

「『マグナム・フォーリン・ラブ(恋の弾丸)』…この指先から打ち出されたハートに当たった哀れな子羊ちゃんを私への盲目の恋に堕とす魅了技…まずはあなたに使ってあげる♡」

ミユが目を背けた瞬間、何かがキラエルの頬をかする。アユミの恋募の矢だった。

 アユミはあの後とっさに弓を現界させ、矢を放つも、練習不足もあってかキラエルには当たらなかった。

 (まずい…は…外した…!)

 「…っ!やったわね…!!♡♡じゃあ、やっぱりあなたから!♡打ち抜いて♡♡♡あ♡げ♡る」


 ぱっっきゅぅぅぅぅぅんんん♡


 キラエルの指先から打ち出されたハート弾はアユミの胸元を華麗につらぬき、その衝撃と共にアユミは壁際に吹き飛ぶ。

「がはっ……あっ♡…あっ♡…ふぇぇぇぇぇ♡♡♡♡♡♡…なに…この気持ち…♡♡♡♡♡♡はあぁぁぁ♡♡♡しゅきぃぃぃぃ♡♡♡」

 恋の弾丸に打ち抜かれたアユミが、その場で倒れる。目の前の天使の女の子に対する異常なほどの恋心を強制的に植え付けられたアユミは正常な思考が出来ないほどに悶え苦しみ始める。

「めいちゅうしちゃったね~♡どう?♡どう?♡こんなカワイイ女の子に打ち抜かれた気分は!♡♡♡心臓どきどきだよね~!♡ハートマークがとまんないよね~!!♡♡♡」

「…!アユミちゃん…!!」

 キラエルの横でこの絶望的な惨状を見たミユは、どうすればいいのかわからなかった。自分にはよく分からない特殊な能力を使って戦っている状況の中、一般人のミユにできることは何もなかった。でも…

(…お願い……誰でもいいから助けて…このままじゃアユミちゃんが…!私にもせめてアユミちゃんが使っていた力があれば…力になれるのに…!!)

 その時、ミユの体からピンク色の霧のようなものが出始める。ミユの横で勝ち誇っていたキラエルも、その異変に気付く。

「…?え…なに?…これ…」

 ピンク色の霧のようなものが部屋全体に広がる。意図せずしてその霧に顔を近づけてしまったキラエルは、何かを察したかのように顔を青ざめる。

「この匂い…この色…まさか…!?くぅっ……!」

 突然この場から立ち去ろうと走り出すが、途中で体に力が入らなくなったかのように床に倒れ伏す。ひどく怯えた表情をし、体全体が恐怖のあまり小刻みに痙攣している。

「いやっ!…いやよこんなのっ!やだっ!誰か助けて!だれ…ぇ…ゕ……ぁ…zzzzz」

キラエルはその場で深い眠りに落ちてしまった。




「……っ!ここは…!」

 目を覚ますと、周り全体がこの世のものとは思えないほど美しい花畑になっていた。しかし、なぜか空はぼんやりとピンク色になっており、異質な空間であると感じざるを得ない。

「ま、まずい!早く目を覚まさなくちゃ!……っ!!う…動けない………」

 見ると、両手足が花を編んで作った蔓のようなものに捕らえられ、仰向けになったままで起き上がることが出来ない。

「はぁ~い♡今の気分はどう~~♡カワイイ天使ちゃん♡♡♡♡♡」

 上を見ると、そこには長身でロングヘアーの女性…先ほどまで人質に取っていた女だ。

「簡単に説明するとね♡…ここはあなたの夢の中…つまり私はあなたが無意識下で生み出したあなたの精神のなかの七楽美夢…♡ミユねえって呼んでもらって構わないわ…♡あなたがさっき吸い込んだ外の私のフェロモンには睡眠成分と精神汚染成分が含まれていて…♡相手を眠りに落とすとともに魅了することによって、幸せな悪夢を見させてあげることができるの…♡」

 キラエルの震えが大きくなる。キラエル自身は前もってこの能力について知っていた。相手を魅了するとともに眠りに落とすことによって発動する淫夢。もともと淫魔軍の先祖である純正のサキュバスが得意とする技であり、多くの人がこの技によって襲われたという記録が存在する。

「『ヘブンズ・ナイトメア(天国悪夢)』これがこの技の名前♡ここは魅了されたあなたの夢の中だから絶対に私に逆らうことはできない……つ・ま・り、あなたはなんの抵抗もできずじっくりわたしの愛を教え込まれてしまうってこと…♡それじゃあ…さっそく…天使ちゃんのちっちゃなくちびるから頂いちゃおうかしら…♡♡♡ちゅぅぅぅぅぅぅ~~…」

「…!や…やめっ…やめて…!いやぁぁぁぁ…こないでぇぇぇぇ……うぐっ♡♡♡♡♡…うっ♡…うっ♡…むぅぅぅ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 夢のなかのミユがキラエルのくちびるを塞ぐ。夢の中だというのに関わらず感じるミユの柔らかなくちびるの感触は、キラエルを快楽の虜にした。キラエルは必死に抵抗してミユから逃れようとするが、体は思い通りに動かない。それどころか、夢のなかのミユにキスされたことによってミユに対する恋慕の感情が膨らんでいき、抵抗する気力は徐々に削がれていく。

「ちゅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡ぷはっ♡♡♡はぁ♡…はぁ♡…と~~ってもよかったわよ♡♡♡♡…天使ちゃんのくちびる♡そ・れ・じゃ・あ♡…次は、私と一つになってみない?♡」

「ぷはっ♡♡♡…はぁ♡…はぁ♡も…もう…や…やめ…て…ぇ…ぇ……」

 ミユが起き上がると、一瞬にしてミユの体は裸になった。それと同時に、キラエル自身の体も裸になっていることに気づく。

「普通…女性同士では成しえることのない行為…でも…夢の中だったら♡あ~~~ん♡♡♡♡♡天使ちゃんのちっちゃな体…かわいい~~~♡♡もう…ガマンできないっ♡♡♡♡♡」

「やっ…やめ…やめてぇぇぇ………いやぁぁぁ……ぁ♡…ぁ♡……♡♡♡♡♡」

 もうキラエルには抵抗する力さえ殆ど残っていなかった。圧倒的に絶望的な状況の中で、徐々に蝕まれていく精神。目の前の美しい女性に対する禁断の恋愛感情。もう、どうすることもできない…ただ快楽の波に揉まれ続け、完全魅了のときを待ち続けるだけ…。

「じゃあ…♡さっそく…♡だきついちゃえ~~♡♡♡♡♡え~~~~い♡♡♡♡♡」

 キラエルは無抵抗のまま裸のミユに抱き着かれる。キラエルのそれとは比べ物にならないくらい大きく柔らかな胸の感触とともに、全身がほんのりと甘い香りを漂わせた柔らかな肉体に包み込まれる。それは、今まで生きてきた中で一番の快楽だった。

「はわぁぁぁ♡♡♡♡♡しゅき♡しゅきぃぃ♡♡すきです~♡~だいすきでしゅ~♡♡♡みゆねえぇ~~♡♡♡」

「ふふっ♡もうすっかり私の虜ってとこね…♡それじゃあ…ちょっと早いけど…フィニッシュといきましょうか…♡」

 ミユは体制を立て直した後、自らの秘部をキラエルの秘部に密着させる。

「これでフィナーレね♡♡…暗黒魔界へ誘われたあとも…私のこと忘れないで…♡…ねっ♡♡ちゅっ♡」

 ミユが投げキッスをした瞬間、キラエルは想像を絶するほどの快楽に襲われ、しばらく体を痙攣させた後、意識を手放した。最後に見たのは、自分を完全に魅了したことで、勝ち誇った表情で見下ろしてくる、この世で一番好きな女の子の顔だった。




「いやぁぁぁぁ!!!やめっ…やめてぇぇぇぇ!!!」

「んも~~~照れないで♡アユミちゃん♡♡♡ミユねえと一緒に気持ちよくなっちゃお~♡♡♡♡♡」

一方、キラエルに魅了されて絶体絶命だったアユミもミユのフェロモンを吸ってしまったため同様の夢を見させられていた。しかし、いくら夢の中でアユミがミユに魅了されたとしても、暗黒魔界へ送り込まれることはない。ましてや、天界に送り込まれることもない。淫魔軍は天使軍に、天使軍は淫魔軍を完全魅了した場合でないと、相手を異空間に送り込むことはできない。

「ほんっと♡…夢の中でもアユミちゃんはカワイイわね~~♡♡♡もう待ちきれないし…さっそく使っちゃおうかしら♡♡♡えいっ♡♡♡」

「…!?え…えええ!!ふ…服が消えた!?」




 「アユミちゃん!アユミちゃん!しっかりして!どうしちゃったの…いきなり倒れて…それに…なんだかうなされてるみたい…」

 現実の世界では、急に倒れたアユミをミユが必死になって起こそうと試行錯誤していた。キラエルの体はすでになくなっていた。夢の中で完全魅了されたことによって、体は暗黒魔界へと送られたのだった。しかし、そんなことをミユ自身は知る由もないため、今は必死になってアユミを起こそうとするのだった。

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