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【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと  作者: 淡麗 マナ
第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

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83話 あの時の男!

 金糸の刺繍をあしらった白い軍服にマントを羽織って、優雅に階段を下りてきた。

 蜂蜜色の瞳には怒りや困惑を感じ取ることができた。


 堂々と闊歩する。その威厳ある佇まいを見つめた。

 薄暗い墓地の地下であっても、そのプラチナブロンドはまばゆく輝いていた。




「アラン第1王子である! 剣を捨てよ!!!!!」


 手を伸ばし、敵兵を威圧した。



 しかし、武器を捨てず、戦闘のかまえを解かない。



「この方たちはおそらくプラッド殿下に操られています」

 わたくしが伝えると、殿下はうなずいた。

「つくづく俺は、決まらない男だな」

 自虐っぽく笑い、剣を抜いた。


 敵は兵士、魔術師含め、20人ぐらいいる。


「アシュフォード嬢、よくやってくれた。茨の魔女は我々で押さえる。いますぐ引き返して、助けを呼んでくれ。我々だけでは心許ない」

「ブラッド殿下はどうなります?」

「とらえたいが、できない場合はしょうがないだろう。さあ、はやく!」

 やはり、そうなりますね。



「わたくしも様々な方から剣術を学んでおります。もはや、戦力の要と言っても差し支えないかと! お供致します」

 わたくしは胸に手を当てて、必死にアピールした。



 アラン殿下は大げさにため息をついた。優しい目で、さとすように言った。

「気持ちは嬉しいが頼む、助けを呼びに行ってくれ。俺たちの為に」

「そうですか。残念です」

 わたくしはうなずき、ゆっくりと階段に向かって歩く。



「ああっ! えええ!!! あれはなんでしょう!!!!」

 わたくしは階段の上を指さした。



「どうした? 敵か?」

「なんじゃ、騒がしいの」

 敵、味方含め、みんなが一様に見上げる。



 わたくしはその隙をついて、敵の兵士を突っ切り、ブラッド殿下が入っていった扉を開いた。


「とてつもなくどうしようもなく、しごかれたわたくしはもはや、誰よりもはやい足を手に入れました! ブラッド殿下と話し合って解決してまいりますので、ご安心ください!!」


「無茶苦茶がすぎるぞ!! 待つんだ! アシュフォード嬢!!」

「待ちません! 待っていても、運命に押しつぶされるだけ! ならば、自らつかまえに行くまでです!」

 扉を閉めた。



 なかは人が3人ぐらい通れる幅の広い1本道だった。



 全力で走ったせいか、心臓が痛む。胸を押さえ、壁に手をついて歩く。

 脂汗が背中を伝う。

 ブラッド殿下と話すまでからだが保てばよい。からだがもとに戻る確証などなかったが、自分に言い聞かせた。




 奥の方に人影が見える。




「ブラッド殿下……」

 わたくしはつぶやく。


 しかし、ブラッド殿下ではない。




 尾行していた顔に傷のある男だった。



 わたくしの赤い右目が熱を持つ。

「つっっっっっっ」

 痛みで、声が出る。


 男はフードを脱ぎ捨てた。胸に金属の鎧を着ていた。



 わたくしは男の顔を見た。




 ――この男だ。



 わたくしが【死ぬまでにしたい10のこと】を決めようとしていたとき、右目にうつる映像のようなものを見た。




 ――この男に刺された。間違いない。




 本当にわたくしの目の前にあらわれた。





 わたくしはとっさにあたまを切り替えた。



 壁から手をはなし、耳をすませた。

 金属音や爆発音がする。アラン殿下たちが戦ってくださっている。



「イタム! 出なさい! 早く」


 床に下りたイタムは不満げな表情をわたくしに向けて、端に逃げた。

「居心地が悪かったでしょう。ごめんね」



 男は鍵をわざとらしく見せて、首にぶらさげた。

 奥の扉に鍵穴があった。

 鍵を奪わないと、さきにはすすめないということですね。


 わたくしはゆっくりと後ずさりする。通路の奥行はそんなにない。すぐに、入ってきた扉に行き当たる。



 急に、男に刺される恐怖が全身に回った。

 手足の震えが、とまらない。


 男が見下した。

 筋肉質で、ジェイコブほどではないが、背も高い。

 わたくしを威圧し、剣を抜いた。



 後ずさるわたくしに、容赦なく距離を詰める。

「は,話し合えませんか? わたくし、争いごととは無縁の生活をおくってまいりました。武力で屈伏させるのも、男性的にはよいかもしれませんが、わたくしは女。とても、貴方のような屈強な男性に戦って勝てるとは思えません。是非、お慈悲をください」


 あたまを下げてみたが、男の目はうつろで、わたくしを見ているのか、その奥を見ているのかわからない。


「いや……怖い! こんなところで死にたくない! どなたか助けてください!!」


 誰も助けには来てくれない。

 わたくしの叫びはむなしく響いた。


 急に間合いを詰めてくる男に心臓がどきり、とした。



 剣の先がするどく光る。



 わたくしのドレスに穴があき、脇腹を突き抜けるような衝撃が襲ってきた。



「ぐうっ……」



 わたくしは体勢を崩し、四つん這いになった。




 脂汗が床に落ちた。男をにらみつける。





 男はニヤリと笑った。





「いま、油断、しましたわね?」



 わたくしは前転して、男のふところに飛びこんだ。

 首の下をつかみ、肘のそでを下に思いっきりひっぱった。

 体重を乗せると同時に、相手の足を蹴り上げて投げ飛ばした。



 ドゴッと鈍い音がした。

 男は気を失い、動かなくなった。



「……ジョージ護身術で習っていたのは、剣だけではありません。やはり、照覧の魔女の魔法の正体は、予知……でしたのね。おかげで助かりました」


 脇腹を触って、ドレスの下に仕込んだチェイン・メイルの様子を見た。鍛冶屋のスミスさんから紹介してもらった武器屋で買っておいた。一部破損しているようだ。打撲ぐらいしているかもしれないが、大きな痛みはない。


 予知の結果自体は変えられないようだ。つまり、刺さるという結果が見えたのなら、それは変えられない。なんとなくだが、直感がそう教えてくれた。



「イタム、行きますよ。ジョージにはここまでしごきます? ってぐらいに散々やられましたが、おかげでなんとかなりました。後でお礼にいきませんと」



 わたくしはジョージ護身術での教え、汗、そして、わたくしをしごきすぎる師範への恨みを思い出した。


『おまえが戦う相手だと想定しているのは、自分よりデカくて、強い奴なんだろう。だったら、おまえの武器であるダンスの足の強さや体幹を使って、投げ技でもなんでもいい。とにかく油断させて、一気に決めろ。よし、あと、500回投げ技の練習をするぞ!』

『なんですってぇぇぇぇぇぇ!? あと、500回って冗談ですわよね!?』

『やるんだ! その先に、世界が、おまえを待っている。つかむんだ!! 世界を!!!!!』


 あの時は本当に恨みましたけれど、まさか、感謝できる日がくるとは。あの辛い日々も無駄ではなかったのですね。


 イタムを手に乗せて、奥に行こうとすると、男がうめきながら立ち上がり、わたくしの行く手を塞いだ。



 わたくしはイタムを床に置いて、ドレスに仕込んでいた剣を抜いた。


「貴方がわたくしの邪魔をする運命ならば、乗り越えていく! さあ、来なさい!!!!」


 わたくしはドレスの裾を剣で切り裂いた。これですこしは動きやすくなるだろう。

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