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【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと  作者: 淡麗 マナ
第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

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81話 茨の魔女の正体

 墓石の階段を降りると、真っ暗でなにも見えない。

 カビのようないやな匂いが鼻についた。

 ジェイコブが先にランタンに火を灯しておいてくれた。ぽわっ、と明かりが広がり、すこし安心した。

 天井はそれなりに高い。人が3人歩けるぐらいの幅がある。数日、数ヶ月の突貫で作れるような通路ではない。



 足下や壁を注意深く照らしながら進む。蜘蛛の巣や、虫が異様にいない。



「ここは、どういう目的で作られたのでしょう。茨の魔女が作ったにしては、手が込みすぎていませんか」

「ここは城の近くなのだろう? だったら、ここは、王族が逃げる為に作られた脱出用の隠し通路だと思うぞ。いかがかな? 騎士殿」

 マデリンがうつら、うつらとしながら言った。

「たしかに。聞いたことがあります。脱出用の秘密通路がどこかにあると」



 まっすぐにのびた道を進む。先に入っていった男の気配はすでにない。急がないと、逃げられてしまうかもしれない。



 しばらく歩くと、道が3つに分かれた。ただ、同じように見える通路がのびているだけだ。



「こっちだ。妾に続け」

 マデリンは小声で言って、左側の通路を指さした。

「魔力を感じるのですか!」



 返答はなかった。緊張しているか、はたまた、敵が近く、しゃべりたくないのか。



 違う! わたくしはなにもわかってはいない。いつ、いかなる時も、マデリンは、寝る! それが、マデリン!!



 足下になにかの気配を感じた。

「ひぃっ!」

 思わず声が出てしまう。ジェイコブが明かりを照らすと、ちいさなネズミが逃げるようにわたくしたちを走りぬけていった。

「すみません。声を出してしまって」

「いや。敵には我々が来ていることはわかっている。いまさら声を出したところでそんなに状況は変わらんだろう」



 しばらく進んだところで、後ろから、なにかを引きずる、重い音が聞こえた。

「まずいな。俺たちを尾行してきたやつが墓石から入ってきたのかもしれない」

「はさみうちってことでしょうか」

「かまわぬ。敵は茨の魔女のみ。どうせ妾たちは誘い込まれておる。ならば、進むのみ」

 勇ましく言ったマデリンを見つめるも、すぐに首ががくん、と下がった。

 わたくしとジェイコブは互いにため息をつく。マデリンの召使いは終始仏頂面だ。



「大丈夫でしょうか……。頼りにしていますよ。マデリン」



 後ろから迫ってくる気配は気になるが、前に進む。



 急に明るい場所に出た。目が慣れるまでまぶしかった。ジェイコブがランタンの火を消した。

 右手の壁が低くなって、腰よりすこし高いぐらいだった。そこから下に大きな広場がすこしだけ見える。なにかを煮ているような鼻につくにおい、人の気配がした。


 嫌な予感は最高潮に達する。

 前にも、同じような体験したような、不思議な気持ち。それでいて、とても嫌な感じ、だ。



 マデリンが、口もとに指をたてて、声を出さないように合図した。

 そのまま、まっすぐに歩いていけば、下の広場から、わたくしたちは見えてしまうだろう。

 腰を屈め、背の低い壁に腹をつけて、下の様子をちらりとのぞき込む。



 たくさんのろうそくに火が灯されている。そこには、10数人の武装した兵士と、魔術師の格好をした人が見える。

 中央に、白いローブを着た人がいる。背が高いのでおそらく男性だ。男は大げさすぎるほど大きな鍋に火をくべて、かきまわしていた。緑色の薄気味悪い色だ。



 わたくしの手は震えて、悪寒が止まらない。


 それを感じ取ったのか、マデリンが手をにぎって、耳元で言った。

「もうしばらく我慢できるか。そうすればなにもかもわかるだろう」


 かろうじて、うなずき、下の広場の様子を見つづけた。



 白いローブの男がまがまがしい力を発露する。

 それを、巨大な鍋に入れた。

 鍋は悲鳴をあげるように、吹き出した。



「いま中央にいる奴が、茨の魔女だ」

 マデリンは、言った。




 わたくしの心臓はうるさくなって、苦しかった。

 からだを壁に預け、首を振り、目を閉じた。

 何度も、首を振った。



 見なかったことにしたい。

 叫びだして、すべて無かったことにしたい。



 ジェイコブが心配そうにわたくしを見つめていた。



 わたくしは、それによって、勇気をふるいだした。




 呼吸を整えてから、もう一度、下の様子をうかがう。

 わたくしは寒気がして、すぐにしゃがみこんだ。




 白いローブの男がこちらを見ていた。



 笑い声がする。





 わたくしが、いつも聞いていた、笑い声。




 間違いない。信じたくないと思っていても、現実としてそれはわたくしに選択をせまってきた。




「フェイト、待っていたよ。さあ、こっちにおいで」

 白いローブの男が言った。




 わたくしはゆっくりと立ち上がった。白いフードの男と視線があった。




 震える手をにぎって、言った。

「ずいぶんと時間がかかってしまって申し訳ありません。ブラッド殿下。貴方が茨の魔女だったのですね」


 白いフードをとった顔は間違いなく、ブラッド殿下だった。

 その表情にはどんな感情も浮かんでいないように見えた。

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