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【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと  作者: 淡麗 マナ
第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

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79話 尾行→←尾行

 薬草を売る店の裏手に隠れて、随分経つ。


 日も暮れて、すこしずつ明かりがともるようになってきた。

 風が、通りを抜ける。気持ちよくて、すこしだけ目を閉じた。

 赤い右目が熱を持って、痛む。朝からずっとこうだ。



 店にバルクシュタイン商会から薬草を仕入れてもらって、5日目。

 店主の許しをもらい、頬に傷のある男が買い物にきたら、合図してもらうことになっていた。


 しかし、なかなか男は買いにこなかった。



 ここ数日、頻繁にからだに痛みが走った。


 いまも、痛みが来てしまった。

 心臓をおさえた。からだを突き破るような痛みを堪え、声がでそうなのを我慢する。意識を奪われそうになった。顔をしかめて必死で耐えた。

 


 思った以上に、わたくしに時間は残されていないのだろう。

 残り時間は1ヶ月半を切ったが、最後は寝たきりになって動けない可能性だってある。



「大丈夫か? アシュフォード嬢、具合がすごく悪そうだが」

 騎士のジェイコブが声をかけてくれた。

 レザー・アーマーを着てもらっている。


「ええ……。大丈夫……です。茨の魔女のことで気がかりなことがあって、最近眠れていないのです。解決さえすれば、すっかり元にもどるでしょう」

 脂汗をぬぐって隠し、無理して笑った。


「ここにいなくても、俺とマデリン嬢で尾行ぐらいはできるぞ。家で休んでいてはどうだ?」

「そうも言ってはいられません。ちゃんと準備はしておりますので、ご安心を」

「そのドレスがそうなのか? 動きづらいのでは」

 ジェイコブは指摘しづらそうに指を差す。エマに夜会用のゆったりとしたドレスを着せてもらった。

 ゆったりとしていて、全体的にもさっとしている印象だ。流行遅れだが、このドレスにした。

  

「問題ありません。使者があらわれるのを待ちましょう」


 ドレスのなかにいるイタムが抗議するように動く。

「ごめんね。もうすこし辛抱して」


 マデリンは以前学校に来た召使いに抱きかかえられていた。尾行の時に巨大車椅子は目立ちすぎるし、押している時間はない。とはいえ、白髪の巨漢の召使いと、190センチはあるジェイコブがいるだけで目立つ。尾行という点ではマイナスだが、しかたがない。



 その時、勝手口が3回、ノックされた。

 わたくしたちは目線で合図した。



「さあ、行きますよ」




 店から出てきた男は、大きな旅行カバンを持っていた。顔が見えないようにフードをかぶっている。背が高いので尾行しやすい。

 

 城下町の中央通りに入っていった。


 わたくしたちは距離をとって、男の後を追う。


 男は町に溶け込むように町の人たちと歩幅や速度を合わせた。

 道幅いっぱいに買い物客や帰る人でごった返していた。

 こうばしい香辛料のにおい、甘いにおいが強烈に混ざり合う。


 

 人混みをかき分けて進む。男の背はあたまひとつ抜けていた。

 


 男の首もとが動く気配があった。



 ――いけない!!


 急いで、皆を連れて、屋台の後ろに隠れた。


 

 男は振り返り、辺りを見回したあと、ふたたび歩きだした。


 

 安堵のため息をついて、男を追った。




「おかしいな。このあたりをぐるぐるとしているだけではないか」

 ジェイコブに言われ、たしかに、と思う。


 男は人通りの多い中央通りを抜けて、路地に入った。その後、中央通りにもどってを繰り返していた。


「妾たちもつけられておらぬか? 見られている気配には敏感なのだ。どうじゃ、騎士殿?」

 マデリンは召使いに抱きかかえられながらも、大胆に足を投げ出して、ふんぞり返っていた。

「たしかに、見られている感じはしているのですが、こうも人が多いと、わかりませんね。アシュフォード嬢、どうする? 今日はここまでにしておくか?」



 当然、辞めておいたほうがよいに決まっている。しかし、また、薬草を買いにくる保証はない。そして、次にわたくしが満足に動けるのかどうかもわからない。




「続行します。なにかあったら、わたくしを置いて、全力で逃げてください」

 わたくしはふたりにあたまを下げた。


 あたまを上げると、ジェイコブがずっこけて、マデリンが爆笑していた。

「そこは一緒に死んでくれとか、そういうセリフだろう? まったく。まあ、そこが貴方の良いところだが」

「はっは! フェイト。とことん付き合おう。なぁーに。お主と妾の仲じゃ」

「ありがとうございます。頼りにしております」

「問題ないさ。今日も無事に帰って、家でおいしいシェフのディナーを頂こう」

「それなら、妾もご相伴に預かりたいの」

「ええ、是非いらしてください。歓迎します」


 男を追った。


 わたくしは後ろを振り返った。たしかに見られている気配を感じるが、人が多くて、だれなのかはわからない。



 男が、中央通りから抜けた。しばらくついていくと、ようやく、ぐるぐると同じ場所を回るのを辞めて、王城のある丘にむかって歩き出した。


 こちら側を進むと、王城にいくか、墓地しか場所はない。

 

 足下は暗く、1本道で、隠れる場所はなく、人はほとんど歩いていない。



 十分に距離をとっていたが、振り返られると、尾行が一発でバレる。

 暗くて、もっと距離を詰めないと見失いそう、そんな気持ちで揺れ動くなか――。




 ――男は、落ちたものを見つめるかのような自然な動作で振り返った。



 あっ!!

 心臓が、どくんと鳴った。

 わたくしたちはなすすべもなく、その場に立ち尽くした。



 ――見つかった。




 男が歯を見せたようだ。笑ったのか? 暗くてはっきりとはわからない。

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