44話 文化祭⑤ みんなでシリルの執事喫茶にお邪魔しました
「他の文化祭の出し物を見てきなよ。お化け屋敷は俺たちでやっておくから」
イーサンが声をかけてくれた。
「ありがとうございます! わたくしはシリルの執事喫茶に遊びに行きたいのです」
ゾーイに話しかけたつもりだったが、 マデリン、イザベラ、バルクシュタインもついてきた。
1年生のシリルのクラスに着いた。
「たのみ、ますわ!!!!」
「お帰りなさいませ、お嬢様!!」
「あっ、はい。ただいま帰りました!?」
わたくしはとっさに挨拶を交わす。
まだあどけない顔の1年生執事達が扉を開いてくれる。
赤と黒の絨毯が敷かれ、黒くて艶のある豪華な椅子と机が用意されていた。
「なぜ、初めて来たのにお帰りなさいと挨拶されるのですか? あと、わたくしはみなさまのお嬢様では、ないのですが……どなたかと勘違いなさっているなら、訂正して差し上げないと」
「フェイトさん、お約束に、突っ込みをいれたらダメで、す」
「くっっっ! 陽キャしかいない世界など地獄。目が潰れる!! 闇に還れ!!!」
イザベラがぶつぶつとローブの中から、呪いの言葉をはいた。
「姉さん、来てくれたんだ! 嬉しいよ……。はっっ! お帰りなさいませ、お姉様」
いつもの人好きのするくしゃくしゃの笑顔から、きりりと顔を整え、シリルが言った。
わたくしは、息をのむ。
燕尾服のシリルは、いつもよりも、ぐっと大人っぽくて、凜々しく見えた。
シリルはいちばん奥の席に案内してくれた。
席は満席。お客の視線はシリルとクールな顔立ちの燕尾服の女の子がそれぞれ独占していた。
マデリンは……。気持ちよさそうに眠っている。
「シリル様はその……アラン殿下に似て、すごくかっこいい、です、ね」
ゾーイの言葉にわたくしは大きく、大きく、何度もうなずく。
「シリルはすごく優しくて、気遣いもできて、書類仕事もできて素晴らしい才能の持ち主です。いまは婚約者もおりませんし、わたくしが勧める令息、ナンバーワンです!!!」
ゾーイの手を取ると、ゾーイは顔を赤らめた。これは、脈あり? わたくし、仲人となって、ふたりの仲をとりもたなければ!!
「お帰りなさいませっ! お姉様。メニューをお持ちいたしました」
シリルがやってきて、恭しく、お辞儀した。
「なになに。紅茶とマカロンに、このシリルトッピングというのは?」
シリルがわたくしの耳元でささやく。
「それは、お姉様限定の特別メニューでございます。是非、ご賞味くださいませ」
今日のシリルはあまり笑わない。それがいつものシリルと違う雰囲気で、なぜか、胸がざわつく。
「では、わたくしは紅茶とマカロン、シリルトッピングで」
みんなは紅茶とマカロンを頼む。
「かしこまりました。お嬢様方。しばし、お待ちくださいませ」
燕尾服の胸部分に手を添えて、お辞儀するシリル……。我が弟ながら、決まっています。
マカロンと紅茶はすぐに持ってきてくれた。
「シリルトッピングは、準備がありますので、お姉様はそのままマカロンには手をつけずに少々お待ちください」
二週間前はまさかこんな風になるとは思わなかった。急な余命宣告と婚約破棄。死ぬほど打ちのめされた。それが、こんなに友人ができ、楽しい学園生活になるなんて想像もできなかった。
楽しい。ずっとこのまま、友人たちと一緒に生きていけたらいいのに。
シリルが山ほどのマカロンを持ってやってきた。
「お姉様。お待たせいたしました。シリルトッピングにございます。お姉様の腕に、重たきマカロンを持たせるわけにはまいりません。よって、僕……いえ、私が直接食べさせていただきたく存じます。さっ、あーんして、ください」
「なっ……ななん、ですっっっっってぇぇぇぇぇぇ!!」
「攻めてくるじゃねーか。弟。どれだけフェイトを困らせられるかやってみろ!」
「きゃああああああ。はかどりま、す。私、とてもいま、はかどってます、よ」
「まあ。アシュフォード様を見ているだけで、とても楽しいです」
わたくしの動揺にゾーイ、イザベラがニンマリと笑った。
マデリンは……やっぱり、ぐっすりと寝ていた。




