43話 文化祭編④ その背中
《アラン殿下side》
数分前。
ドン、という鈍い音と共に、怖いメイクをした生徒たちが体育館からでてくる。
「逃げて! 魔法暴発しちゃって火事になりそう!!」
「まだなかにアシュフォード嬢やミラー嬢が残っている! 水魔法や消火ができそうな人を呼べ!」
聞こえた瞬間に、体育館のなかへ走りこんでいた。
◇◇◇◇◇
アラン殿下の背中を見て、わたくしが10歳の時、国王陛下から守ってくださった時のことを思い出した。
お母さまの葬儀に駆けつけてくれた国王陛下とアラン殿下。アラン殿下は仏頂面だった。
国王陛下はなんとも言えない顔をして、お父さまとわたくしに言った。
「アシュフォード公爵夫人に心よりお悔やみ申しあげる。まことに我がマルクールの為に尽力してくれた」
国王陛下は膝を折り、わたくしを見つめた。わたくしは挨拶をした。背筋が曲がっていますよ、そう言われた気がして、振り返る。けれど、お母さまはもう、いない。
「次は、アシュフォード公爵令嬢。君が照覧の魔女の名を継ぎ、マルクールを守っておくれ」
わたくしはその時、いかなる魔法も使えないことがわかっていた。
「謹んで、お受けいたしま――」
言葉をさえぎられた。アラン殿下はわたくしと陛下に割って入り、わたくしをかばった。
わたくしと大してかわらない身長と背中なのに、おとなにも負けないほどおおきく、頼もしく思えたのでした。
「父上! それはフェイトにも犠牲になれということ? 国の為に死ねってこと?」
「よさないか、アラン」
国王陛下が興奮したアラン殿下をなだめる。
「違うよ!! 僕たちはただ、あやまるべきなんだ。だれかが犠牲にならないと、維持できない国なんて意味ないよ。みんなが、安心して、生きられる国を作るべきなんだ。君のお母さまや、フェイトが、犠牲にならなくてもよい国を僕は作って見せる。フェイト。僕はがんばるよ。アニエスお母さまのこと、ほんとうにごめんね」
殿下は頭をさげた。
わたくしは殿下にすがりついて泣きます。お父さまに叱られるまで、わたくしは殿下を離さなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
「逃げて!!!! アラン殿下!!!!!!」
わたくしは叫ぶ。
「ごめん!!!! もう無理!!!! みんな逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
存分に強まった炎が、天井につきそうなほど燃え上がり、それが、放たれた。
アラン殿下はみずから炎に飛びこんでいった。
「殿下!!!!!!!!!!!」
アラン殿下からすさまじい冷気が発せられる。
「きゃああああああ」
ミラーの炎は、アラン殿下の放った魔法によって、ぐっと押され、一瞬で霧散した。
ミラーはへたりこんで、泣き出した。
すごい。あの一瞬で、呪文を唱え、ミラーと同じ魔力で相殺したなんて。
「フェイト、怪我はないか?」
アラン殿下が言った。
「はい、大丈夫……です」
アラン殿下はそのまま、去っていこうとする。
「助けていただき、ありがとうございます」
わたくしはあたまを下げた。
気がつくと、ブラッド殿下もいつの間にか部屋に来ていた。
ブラッド殿下がへたりこんだミラーの元にやってきた。
「グレタ・ミラー侯爵令嬢。どういう理由かはこれから聞くとしても、相応の処分が下ることを覚悟しなくてはならない」
ミラーはなんとか立ち上がり、頭をさげた。
「弁解の余地もありません。すべて私が悪いの――」
「ブラッド殿下! ここはお化け屋敷! 火の玉とはお化け屋敷の伝統的な、なくてはならないヤツ。ミラーにお願いしたら、ちょっと予想より大きめのやつがでてしまったのです。もうやりません! ご心配かけてすみませんでした。ねっ!! 皆様?」
「そう、なります、ね」
「まぁ。お化け屋敷だからな。火の玉ぐらいでるさ」
「そうじゃ。フェイトの言うとおり!」
「あの……アシュフォードさん、私が悪いので、かばっていただかなくてフゴゴゴゴ」
わたくしはミラーの口を塞ぎ、おほほほほ、と笑ってごまかす。
ブラッド殿下は半目になる。みんなのごまかし笑いを見て、ため息をついた。
「まっ。そういうことにしておくよ。ミラー嬢。もう絶対に火の玉つくらないでね」
「こらーーーーーー!!!! なにやってんの!!! なんの音?」
先生が乗り込んできた。
ああ。なんと言い訳しようかと考えておりますと。
「ごめん、先生、私のくしゃみだよ……。あのドーンって音は。びっくりさせてしまって悪かったな」
イザベラがローブをがりがり掻きながら言った。
「くしゃみ! ですって!! まぁ、イザベラさんはもうすこし、ご令嬢としての嗜みがないといけませんよ。わかりました。先生、帰りますね」
「イザベラ、助かりました。貴方は機転がききますね」
「くしゃみって冗談のつもりだったのに、そのまま受け取りやがって先生! 私のことなんだと思ってんだよ。まったく」
聞いていたみんなが笑った。




