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【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと  作者: 淡麗 マナ
第一章 死ぬまでにしたい10のこと

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41話 文化祭編② 運命が人生の主役であるのなら、それに立ち向かう存在として、わたくしは悪役令嬢であろうと思うのです。

 足下で血を流しているウィレムスが痙攣し始めた。

「え……ええ、ええええ!?」

 ミラーはわけがわからなくてパニックになりそうになる。



「私の魔力で悪役令嬢を召喚し、フェイトに憑依させよう」

 急に後ろから黒いローブを被り、杖を持った人があらわれた。

 ミラーには聞き覚えのある女の声だ。

「イ、ザベラ?」



 ミラーには聞き取れないはやさでイザベラが呪文を唱えていく。

 白蛇はイザベラに牙をむき、心配そうにフェイトの様子をうかがっている。


 

 フェイトもからだじゅうが痙攣し、首が、がくり、とたれる。白蛇はフェイトを心配そうに舐めた。


 急に、フェイトが目を開いた。


 その瞳は白にうすく緑をまぜたような、にごった色になった。

 眉毛がつりあがり、切れ長のイザベラのような目の形となる。



「あっははははははは。妾は生まれ変わった気分ぞ。これが、悪役令嬢召喚、か。素晴らしい。だが、まだ足らぬ。生け贄が、な!!」

 フェイトはニタリ、と笑みをはりつけたまま、白蛇のあたまをつかむ。

「すまぬな、イタム。そう噛むな。おとなしくせい」


 



  

 後ろを向き、首をかたむけ、白蛇になにかをしている。肩や首がおおきくうごいた。




 


 ばり、ぼりと、総毛立つ音をたて、ぶちっという決定的な音が、した。





 ミラーはショックで口を手で覆った。





 ――白蛇を、食べている!――








「ずっとイタムとこうなりたかった。妾とはしょせん、別の生き物。さびしゅうて、さびしゅうてな。だから、食った。これで永遠にイタムと妾は添い遂げる。さあ、次は……」


 フェイトがミラーになにかを投げつけた。血がべっとりとついた、()()()()()()()()。あたまが食いちぎられている。



「きゃあああああああああああああああああ」

 

 フェイトが口からあふれた血を舌で満足そうになめとる。



「次はおまえだ! ミラー!!!!!!!」

「たすけて! たすけて! 洒落にならないって! くんなくんなくるな!!!」

「よいぞ、よい反応だ。おまえはどんな味がするのか楽しみだ……」

 フェイトはすさまじい速度で走ってくる。


「ご令嬢様の足のはやさじゃないだろう! はやすぎるんだって」

 ミラーは入り口に突っ走る。



 さっきまでなかった、巨大な車椅子が道を塞いでいた。




 車椅子は高さがあり、段々になっていて、のぞき込まないと、奥は見えない。







 ミラーがのぞき込むと――。




「ばあああああああああああ!!!!!」

「はぎゃああああああああああ」


 隠れていたマデリンが立ち上がり、ミラーに覆い被さるように手をのばした。

 腰を抜かし、壁に手をついて震えるミラー。


「まったく。なんと楽しき宴よ。くかかかか」


 マデリンは、片方の目玉が飛び出していた。



「でかしたぞ。マデリン」

 フェイトが言った。




「ミラー!!!」

「ひぃぃぃ!」


 腰が抜けているミラーにフェイトが駆け寄る。


「私にふれるな!!!! お父さまに言いつけてやる!!!」

 ミラーはしゃくり上げた。涙がぽた、ぽたと流れる。

 地べたを這いずり回り、逃げようとする。


 


「謝罪なさい! わたくしがいちばん許せないことは、ゾーイに手をだしたこと。今後、わたくしの友人に手をだしたら、こんなものではすまさない! わかりましたか?」



「私、ぜったい。あやまら……ない」

 


 フェイトは毎日練習した、凶悪な悪役令嬢顔をお披露目した。見下し、跳ねさせた眉を寄せ、にたり、と笑った。



 ミラーはなに、その顔? といわんばかりにキョトンとした。

(おかしい。自分でも震え上がるほど怖い顔でしたのに。もうちょっとあごを立てないとだめかしら)



「自分のしたことを悪いと思っていないのですか? あきれました……。アラン殿下といい、わたくしのまわりにはこういう方ばかり……」



「悪いな、とは思っていた。でもあやまらない。あやまったら、負けるから……」

「勝ち負けなど、ほんっっっっとに、、どうでもよい! なぜ、わたくしを目の敵にするのですか? わたくしがミラーになにか、しましたか?」


 ミラーは唇を噛んで、フェイトをにらみつけた。


「悔しかった……。うまれた時から魔女の家系で公爵令嬢、みーんな、私よりも上」

「えっ……」



 ミラーは涙をこぼしながら、話す。

「憧れのアラン様と……最初から婚約が決まっていた。みんなからちやほやされて、学業だって、貴方に一度も勝てなかった。アラン様に手が届かないのなら、ブラッド様と婚約したかった。でもあの方は、私のことなどまったく見ない……。いつも、貴方のことばかり見ていた。うらやましくて、うらやましくて、たまらなかった」

 


「ミ、ミラー……」



「貴方は天才ではない……。魔法だって使えない。貴方はだれよりも努力し、様々なものを習得してきた。私が努力すれば貴方に追いつける。それでも私は、貴方の圧倒的な努力を超えられない。それがわかってしまった。私はその時、アシュフォードへの憎悪で自分がおかしくなりそうだった……」

 ミラーは涙をふいて、フェイトに立ち向かおうとしてきた。



「ミラーには、わたくしがそのように見えていたのですね……」

 

 フェイトが屈むと、ミラーが怯えた。


「くるな! 私は絶対あやまらないわよ!!!」


「わたくしへの謝罪など必要ない! ゾーイに謝り、二度と手をださないと誓いなさい! 嫌がらせしたいなら、わたくしだけを狙いなさい!!!!」


「あんたは強いからそう思うよね。でもね、私は弱くて卑怯者なの! 直接立ち向かうことなんてできない。それは強い人が押しつける理屈だわ!!!!」

 ミラーが叫んだ。



 フェイトはおだやかな表情になった。

「わたくしは弱くて、泣き虫で、死におびえ、嫉妬深いのを知っていましたか?」

 


「冗談でしょう。とてもそんな弱みを持っているようには見えない」


「わたくしは弱い人間です。わたくしとミラーの違いは2つだけ。悪役令嬢の心をその身に宿しているかと、死を忘れることなかれ(メメント・モリ)。この2つのおかげでずいぶん強くなることができました」


 フェイトはミラーに手をのばす。ミラーは怯えた。


 

「ミラー、わたくしと友達になってください」

「はあ? 私と? 本気で言ってるの」



「貴方は素晴らしい才能を持っています。なにせ、わたくしの弱点や嫌なところばかりを攻撃していた。貴方は世界に誇れる極悪令嬢です。しかし、悪役令嬢っぷりはじつに惜しい。悪役令嬢は、文字通り、悪役を演じる令嬢。そうせざるをえない、理由をかかえている者。なにかに敵対する存在。悪役令嬢にあって、極悪令嬢にないものは、演じること。弱さも脆さもぜんぶ受けとめたうえで、ただ、演じるのです。もしくは自分のなかに悪役を召喚すると思えばよい。そうすれば、わたくしごときに嫉妬しないですみます。それはいつか、本当の貴方になる時が来るでしょう」

 

 フェイトの言葉に、ミラーは目を見ひらく。


「アシュフォードさんは……どうして悪役令嬢なんてやっているの?」


 フェイトはあごに手をあてて、考え込むように天井を見上げた。



「そうですね。わたくしは寿命、病気、運命。そういったものが人生の主役であるのなら、甘んじて受けなければならないと思っていました。でも、わたくしの大切な人の言葉や行動によって考えが変わりました。運命が主役であっても、絶対にそれに抵抗なく屈してはならない。運命に立ち向かう存在として、わたくしは悪役令嬢であろうと思うのです」



 ミラーはにこやかに話すフェイトを見て、大げさに首をふった。とても敵う相手ではない。


「……ゾーイには謝罪するし、あんたに突っかかるのもやめる。アシュフォードさん。いじめの件、ゾーイの件、ほんとうにごめんなさい」

 あたまを下げたミラーにフェイトはうなずいた。



「よかったら、わたくしが悪役令嬢のなんたるかを教えて差し上げます。なにせ、このお化け屋敷のテーマは、友達がほしい少女の願いです。ミラー、わたくしの手をとってください。まだ、間に合います」


「アシュフォード……さん」



 フェイトたちは手をとる。


「もう、動いていいですか」

 ウィレムスの死体から声がする。


「ぎゃひっっ!!」

 ミラーはフェイトの後ろに隠れて、がたがたと震えている。



 ウィレムスは腕を振るわせ、立ち上がった。ふらふらとした足取りで、歩いてきた。


「どうして、私を、助けてくれなかったの? ミラー!!!!」

「ぎゃあああああ。ごめんなさい!!」

「あはは。ゾーイですよ。部屋が暗くなった時に、すり替わったんです。ウィレムスは元気ですよ」

 かつらをとって、ゾーイは長い髪をかきあげた。


 へたり込んで、ミラーはつぶやいた。

「イネスがほんとうに殺されたって思ってた……よかった~」

 ミラーは安堵のため息をもらす。


「ちょっとやり過ぎてしまいましたね。すみません。このぐらいはやらないとミラーが信じてくれないのではないかと思いまして。ただ、貴方のお気持ちがわかって、わたくしは嬉しかったです」

 フェイトはミラーに、あたまを下げた。


「いいよ。私もゾーイとアシュフォードさんにはやりすぎたと自覚があったし……。ゾーイ。ごめんなさい」

 

 ミラーはあたまを下げ、ゾーイは丁寧にお辞儀した。


 本物のウィレムスが走ってくる。

「グレタ! 大丈夫!! 無事でよかった! ほんとすみませんでした。アシュフォード様、ゾーイ様、私は今後絶対に、あなた様には逆らいません。申し訳ありませんでした!!」


 ウィレムスはミラーに抱きついた。


 

 そして、彼女たちはフェイトに笑いかけた。

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