14話 どうしてこうなった。
「フェイトさん。助けていただいて、ありがとうございま、す」
ゾーイがわたくしの手を握る。
「か、、かっこいい。フェイトさんは、私の憧れ、です」
ゾーイの優しい瞳にはうっすらと涙が。
「フェイトさんと、一緒なら、私は怖くない、です」
いつまでも、こうして手を握っていたかった。
わたくしは、手をはねのける。
「えっ?」
とまどう、ゾーイ。
「私、なにか失礼なことを、言いました? 謝りま、す」
「ゾーイさん。イザベラ達だけでなく、貴方のこともはっきりと言わせていただきます」
淡々と言った。
「えっ」
「ゾーイさんのウジウジしたしゃべり方、オドオドした態度も……実は好きではなかったの。……そんな姿を見て、わたくしはいつも、イライラしておりました」
ゾーイはわたくしの真意をはかるように目をこらしていた。
彼女が勇気を出して、イザベラから助けてくれた場面が浮かぶ。
ゾーイの為に、悲しみを減らす為に。勇気を出して、さあ! 言うのです!!!!
「でも、そんな臆病な貴方が、勇気を出してわたくしを助けてくださったことにいつも感動しておりました。ですが、それも今日まで! これからはわたくしはひとりで――」
しゃべっている途中に、ふたたびゾーイに手を握られる。
「そ、そういう風に思っていたんですか、はじめて、本音で、お話してます。フェイトさんと、私は、マブダチです!」
――えええええっっ! どうしてこうなるんですか! マブダチって俗語で親友という意味、でしたわよね。わたくし、嫌われようと勇気を振りしぼったのですが、なぜ、マブダチへと関係性が深まってしまったのでしょうか!!!! ヴァイオレット様、教えてください。
「私、自分に自信が、なくて。フェイトさんと一緒にいてよいものか、ずっと悩んでいたんで、す。そんな私に、勇気が、あるなんて……嬉しい……いまの言葉は、私、一生、忘れません」
顔が上気し、瞳がうるうるとしています。
しかたない。ダメ押しです。
わたくしは扇子で口元を隠す。
「わたくしは、ゾーイさんが嫌いです!」
「ええ。本音で話してくれて嬉しかった。私も、私が、、大嫌い……。でも、フェイトさんが、勇気があるって言って、くれた。いまこの瞬間から、胸をはって、生きていけま、す」
ゾーイがわたくしを抱きしめる。
――わたくし、嫌われようとしましたのに……どうしてこうなった……。
いままであまり話してこなかったクラスメイトが近寄ってきた。
こ、今度はなんですの!
「みんなイザベラさんたちのこと目に余ってたけど、怖くて言えなくて、すっごいすっきりしたぁぁぁぁぁ! ゾーイさん、アシュフォードさん、よくぞ言ってくれたぁぁぁぁ!」
いままでほとんど接点のなかったクラスメイトに囲まれ、歓声をあびた。
「み、みなさん。私、が、フェイトさんの初代親友、なのです。フェイトさんを、と、とらないで」
ゾーイがわたくしの前に立ち、クラスメイトを牽制した。
「ゾーイさんもなんか勝手に話しかけづらいって思っていたけど、楽しい人だよね」
ゾーイとわたくしはクラスから孤立していましたが、みんなと仲良くなれてよかった。
あれ、これも、ゾーイの悲しみを減らす一環なのでは。
わたくしがいなくなっても、お友達は残りますもの。
結果オーライです。
さて、最後にダメ押ししておきますか。
「みなさん、わたくしはひとり静かに残りの学園生活を送りたいので、明日から話しかけないでくださいね」
わたくしは扇子で口を隠す。
これは決まった!!!!!!!!
もはや、ヴァイオレット様もびっくりの悪役令嬢でございましょう。
クラスメイトは肩を震わせてたり、歯を食いしばっています。
わたくしの悪役令嬢ぶりに恐れをなしているに決まっています。
ようやくわたくしの悪役令嬢は完成したといっていいでしょう!!
「わはははははは!」
えっ! なんでみんな笑っています……の??
「アシュフォードさんって冗談言えたんですね。いつも言葉遣いが綺麗で礼儀ただしいから、ギャップがすごくて。というか、めちゃくちゃ話しかけちゃいますって。いままで、公爵令嬢の超お嬢様だし、王太子妃になられる方なので、話したかったけど、なかなか話しかけづらくて……。今回だって、ゾーイさんとクラスの為に、イザベラさん達、やっつけてくれたんでしょう。めちゃくちゃかっこよかったですよー」
クラスメイトが笑う。ツボにはいって、笑い転げている人までいる。
わたくしが笑いをとっている……。
だれもが恐れる悪役令嬢に、なっているとばかり思っていましたのに。
悪役令嬢の振りをするたびに、墓穴を掘ってないか。
帰ったら、死ぬまでにしたいリストの変更をしよう。
イザベラは黙ってクラスの成り行きを見ていた。
ミラーとウィレムスは立ち上がり、「お、覚えてなさい!」と捨て台詞をはく。
ミラーたちの方がよっぽど悪役令嬢です。悔しい!!!




