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【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと  作者: 淡麗 マナ
最終章 最期にわたくしがしたいこと

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最終話 人生最良の結婚式の日

 朝、はやくにわたくしは目覚める。

 見ていた夢を思いかえした。

「すべてわたくしにお任せください。とうとう、今日がやってきましたね」

 その声にイタムがすり寄ってくる。

「おはよう。イタム」

 イタムはなぜだがうれしそうにわたくしの頬を舐めた。



◇◇◇◇◇




「フェイト様、ほんとうに……綺麗です。言葉にならない……。アニエス様に見せたかった」

 王城の広間の控え室にいた。

 メイド長のエマが言った。メイクをすませ、わたくしにウェディングドレスを着せてくれた。



「大丈夫です。お母さまは見てくださっていますよ。だから、わたくしが見ておかないと」

 わたくしは赤い右目で鏡をのぞきこんだ。


 ウェディングドレスはお母さまのもので、金糸の刺繍をところどころに加えさせてもらった。

 アランの髪や目の色だ。


 エマは鼻をすする。泣くのを我慢しているようだ。

「今日は人生でいちばんおめでたい会、泣くのはうれし泣きだけって決めてますので」



「エマ」

 わたくしはたちあがった。子どものときにはおおきかったが、いまはほとんどかわらない背丈になったエマと向きあった。

「今日まで、わたくしをお母さまの代わりに厳しく育ててくださり、ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」

 ゆっくりとあたまをさげた。


 目をほそめ、首を何度もふるエマ。ぽろぽろと涙がこぼれた。

「やだぁ……。泣かないっていったばかりなのに……泣かせるんだから」

 エマを抱きよせた。

「せっかくの純白の衣装が……汚れてしまうから」

「いいのです。これまでたくさんわがまま言って、ごめんなさい。ありがとう」

「フェイト様! やっぱりお嫁になんていってほしくない。いつまでも私のそばにいてほしいですよ。私と結婚しましょう」

 エマはドレスにかからないように顔をそむけて、さめざめと泣いた。



 エマは準備ができたと、給仕に伝えにいった。



 鏡にうつる自分を見つめる。

 白く、長い髪はアップでまとめられている。ウェディングドレスも白いので、ずいぶんと白の分量が多いかも、と苦笑いする。



 とても、とても、綺麗ですよ。と聞こえた気がする。

「ありがとうございます」



「姉さん、いま、入ってもいいかい?」

「シリル! どうぞ!」

 シリルはすらりとしたスーツを着ていて、とても似合っていた。プラチナブロンドの髪はアランを思わせるが、目元がとても優しげだ。

 シリルはまるで太陽でも見るかのように目をしばたたき、わたくしを見つめた。

「綺麗だ……」

「ありがとう」


 気まずそうにそわそわとするシリルは近くの椅子に座った。

「こんなときに言うべきではないかと思ったんだけれど、どうしても気持ちをおさえることができないんだ」



 わたくしはシリルと向きなおって、つづきを待った。



「僕は姉さんが好きなんだ。どうしようもなく」


 眉間にしわを寄せ、苦しそうに、思いを吐露した。



 わたくしは、おおきく首肯した。

「ありがとう。シリル」


 シリルは子犬のような笑顔をよこした。

「言えてよかったよ。でも、全然驚かないんだね」



「うん。実はわかっていた。ごめんね」

 わたくしは目を伏せた。


「そのほうがいい。知られないでいるほうが辛いもの。でもこんなタイミングで言われても、困らせるだけだよね。ごめん」

「いいの。わたくしはシリルのお姉さんだから。いつでも言っていいの」



「姉さん、幸せになってね」

 目元を隠しながら、シリルは逃げるように部屋を出ていった。



「ありがとう、シリル。アシュフォード家をお願いね」






 エマに連れられ、アランにウェディングドレスを見せにいった。

 アランはぴたっとした白いタキシードを着ていた。プラチナブロンドの髪ともよく似合っていた。

 わたくしはほんとうに王子様と結婚するのだと、なんだか、ぼぉっとしてしまった。



「フェイト。素晴らしい仕立てだ。美しい。ブラッドにも見せてやりたかったな」

 ブラッド殿下は行方不明となり、捜索が続いている。



「そうですね。ですが、今日は、アランに見て欲しいです。わたくしの姿を」

「すまない。照れ隠しだ。あまりにも……素敵だったから」

 互いに恥ずかしくて目をそらした。その様子をエマに笑われた。





 結婚式はつつがなくおこなわれた。



 司会は陛下が引き受けてくださり、わたくしとアランは会場に入場する為に、扉のまえで陛下のお言葉を待っていた。



「こんなときに話すことではないかもしれませんが、聞いていただけますか」

 わたくしはアランの顔を恥ずかしくて直視できない。じっと扉の木目を見つめていた。


「そんなことは気にしなくていい。話してくれ」

「わたくしは、最近、夢をよく見るようになったのです。それは上下巻ある小説もびっくりの大長編でございまして。そこで、わたくしは毒を盛られて、余命3ヶ月と言われたり、剣をもって、傷のある大男と戦ったりもするのです。いまいる世界とうりふたつで、夢に出てくる方も、アランや、バルクシュタインなど、身近な方ばかり。そこでは、アランにわたくしは婚約破棄されてしまうのです」


 殿下は苦しそうな顔をして、わたくしを抱きしめてくださった。わたくしの耳は痛いぐらいに熱を持つ。


「すまない。そんな夢を見させてしまって」

「なにをおっしゃいますか。アランはなにも悪くはありません」

「それで、その悪夢がどうした?」

「その夢で、アランはわたくしを守る為にしかたなく婚約破棄をしたことを知るのです。夢とはいえ、ほんとうに辛くて、起きたときに涙がとまりませんでした」

「すまなかった。そんな思いをさせていたとは」



 わたくしは笑いかけた。

「優しいですね。アランは。わたくしはそれから夢の検証をはじめました。バルクシュタインや、みんなを観察して、どうやら、夢の出来事は、あったかもしれない出来事、そして、その人たちの本質をうつす鏡なのではないかと考えるにいたったのです」

「フェイトにそんな力があるとは驚いた」

「わたくしがいちばん驚いております。この力は、アランを酒に酔って婚約破棄をしてしまった直後から発生したのです。アラン、わたくしは知っています。いまの優しい貴方も、夢のなかでわたくしの為にじぶんが辛くなる行動をとれるのも、すべてはアランなのです。わたくしは心から貴方様をお慕いしております。今日、貴方様と結婚することができて、幸せです」


「俺もうれしい。フェイトに婚約破棄をされてしまったときはほんとうに死んでしまうかと思った」

 アランはもう一度、わたくしを抱きしめてくれた。


「此度のとんでもなく無茶なお願いも聞いてくださってありがとうございます。それがわたくしにできる、最後のことですので」

「話してくれてありがとう。ただの浪費ではないと思っていたよ。やりたいようにやっていい。今日の主役は俺たちだからな」

「ありがとうございます。アラン」





「新郎、新婦入場!!!」




 陛下の威厳ある声に、給仕が扉をあける。

 アランはわたくしの手をとり、ゆっくりと会場を進んでくれる。

 エマがわたくしのウェディングドレスの裾をもってくれた。


 会場にはあふれんばかりの人がいて、拍手をくださった。

 綺麗、素敵という声が聞こえ、わたくしはすこしうつむく。




 陛下のありがたいお言葉を聞き終わる。



「では、誓いのキスを」

 わたくしはアランの目を見られないので、鼻のあたりを見つめた。

 すこしつま先で立って、そっと、目を閉じた。

 心臓が、からだの外に飛び出てしまっているのではないかと心配になった。



 そこに、アランのうすいくちびるが、ふれた。

 アランの熱を、かすかに感じることができた。

 わたくしはほんのすこしだけ、押しかえした。


 すさまじい拍手が巻き起こった。

「マルクール、万歳! マルクールの栄光はここからだ!!!!!!」

 指笛を吹くものもあらわれ、陛下は苦笑いしている。



 陛下は落ちついてきたことを見計らって、静粛に、と声をあげた。

「さて、稀代の花嫁、フェイトとマルクールの王子、アランの結婚式だ。普通にこのまま終わるわけはなかろう。あと9回! ドレスを変更して、誓いのキスをおこなってもらうぞ」

 陛下のおどけた声に会場は大盛りあがりだった!!!



 夢で確認できた()()()()は、全部で9名。どのフェイトも、わたくしと似ている部分があり、違う部分もあった。そのすべてにウェディングドレスを渡し、誓いのキスをおこなう。もちろんわたくしが代行するのだけれど。




 これが、わたくしが最後にしたいこと。




 ドレスも夢のなかのフェイトが気に入るようなデザインを考え抜いた。スカート部分がひろがっていたり、極端に裾をひきずったり、ギャザーをつけたものなど、それぞれに異なっていた。



 なるべく短時間で着替えなおし、そのたびにアランにキスをしてもらった。



 最後のウェディングドレスの衣装を着て、キスが終わった。



 ――ありがとう。わたくしの最後の願いが叶いました。


 耳元にフェイトの声のようなものが聞こえた気がした。



「いえいえ。どういたしまして。あとはわたくしにお任せくださいませ」




 9種類のウェディングドレスを会場に並べてもらい、そのまえでアランにもう一度キスをねだった。


「何度も申し訳ございません。もう飽きたのではないですか」

 アランにたずねる。


「なにをいう……あと1000回でも1万回だってしたいさ」

 つるりとした白い肌が赤くなっている。


「わたくしもです」

 そういって、わたくしはじぶんから、キスをした。


 また、おおきな拍手がまきおこった。





 ――そうだ。わたくし、ひとつ聞き忘れておりました。いまのフェイト自身がしたいことは?




 わたくしの耳に、また、フェイトの声が聞こえてきた。



「そうですね。皆様の分もふくめて、幸せになってみたいと思います」



 わたくしはもういちど、アランにキスをした。





(終わり)

(あとがき)

 ここまで読んでくださってほんとうにありがとうございました。

 フェイトの冒険はこれにて完結です。


 読んでくださった方、ブックマークを入れてくださった方がいてくれたおかげで、ここまで書くことができました。


 最後に、すでにブックマークや評価をしてくださった方、まことにありがとうございます。

 もし、評価がまだの方は是非、評価のほどをお願いします。

 

 それでは、また次回作でお会いできますことを心より願っております。


 ありがとうございました!!!

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