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【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと  作者: 淡麗 マナ
第一章 死ぬまでにしたい10のこと

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1話 人生最良の婚約発表の日

「実は……。重大な病気が見つかりました」

「重大な……病気……」


 今日はわたくしとアラン王太子殿下との婚約が発表される日。


 先生は汗を拭く。部屋はそんなに暑くはない。わたくしの肩に乗っている白蛇のイタムが、わたくしの頬をちろちろと舐める。



 先生は、口をパクパクとさせている。言いづらいのだろう。お辛い姿だ。わたくしから助け船を出さないと。


「それで……先生。わたくしはあとどれぐらい……生きることができますでしょうか」

 なんでもないように聞いたつもり。




「余命は3ヶ月……前後になるかと思います。……――大変――申し訳……ございません」



「3ヶ月……ですか」

 イタムを見つめる。イタムはわたくしにキスをした。


 

「病名は不明。原因も不明です。初めて見つかった病で。からだの細胞をいまこの瞬間にも破壊しています。大変申し上げにくいのですが、最後にどのような死に方になるのかもわかりません。痛いのか、その……からだがそのままなのかも……」

 先生の声はどこまでも萎んでいく。


「死に様もわからない、と。……わたくしが生きている間に、特効薬ができる可能性はありますでしょうか」


 先生は天を仰ぎ、呼吸が出来なくなったように青い顔をした。

「……善処……します」


 ――無理……ですか。時間がなさすぎですものね。先生を苦しめる為にした質問ではございません。


「先生! 一刻も早くお薬を作れるように、病気の事を調べて欲しいのです。わたくしの体はいくらでも差し出します。どうかお願いいたします」

 ベッドの上に正座し、頭を下げた。


「お任せください。フェイトお嬢様。私が必ずこの病を解き明かし、お救いします」


 全然顔が笑っていない。そんな顔なさらないで。わたくし、必死で我慢してきたのに、いまにもあふれ出しそうです。

「先生にお任せすればすべて問題ないですね。安心しました。この病気の事はわたくしと先生だけの秘密でお願いいたします」

 努めて笑顔で言った。



「約束します。お忙しい日にお邪魔して申し訳ありませんな。また、日を改めてご報告と診察をさせていただければと」


 先生は一礼し、部屋から出て行った。


 

 まくらに顔をうずめ、嗚咽をもらし、泣いた。

 アラン殿下との思い出や、思い描いていた未来がすべて、音をたてて崩れていく。イタムは涙を舐めとり、わたくしにキスをする。


 わたくしは頬をはって、涙をぬぐう。

 頬を無理矢理あげた。はい、最高の笑顔のできあがりですわ。



「エマ、今日のパーティの身支度にとりかかりましょう」






 マルクール王城の広間はきらびやかなドレスで身を包んだ貴族で溢れていた。



 わたくしはプラチナブロンドのドレスを選ぶ。アラン殿下が、ご自身の髪の色にあわせ、プレゼントしてくださったもの。自分の色に染めたいと穏やかな声でささやくものですから、どぎまぎしたのでした。


 イタムは服の中に隠した。蛇を苦手な方のほうが多いから。


 アラン殿下はまだいらっしゃっていない様子。ここ1、2週間ばかり公務が忙しいとのことで、 満足にお会いできていない。



 婚約を発表する前に、事情をお伝えしなければ。でも、どのように。アラン殿下の苦痛に歪む顔を思い浮かべると、素直にお話ししていいものか悩みます。


 いっそ、他に好きな人ができた、なんていかがでしょう。――ダメですね。私の勘違いでなければ、アラン殿下はわたくしのことを好いてくださっているはず。余計傷つけてしまいますわ。




 扉が勢いよく開かれ、アラン殿下が入ってきた。



 ――えっ!!!!!!!!!!!!!



 その横に、見慣れない、プラチナブロンドの絶世の美女をともなって。 

 ――腰に、てて、手を、手を……まわしておいでです。



 わたくしは状況がわからず、混乱する。しかし、婚約の話を進めさせるわけにはいかない。貴族の方々がアラン殿下に挨拶しているのをかき分けて進む。


「さて、静粛に願おう」

 アラン殿下は、よく響く声で告げると、ざわついていた会場が静まりかえった。


 広間の階段に登り、みんなを見下ろした。美しい女性も一緒に。その女性はいったいだれなのですか。アラン殿下。


 蜂蜜色の瞳をふせて、アラン殿下は隣の女性を見た。女性もうなずく。




「本日、アラン・マルクールとフェイト・アシュフォードは婚約を破棄し、リリー・バルクシュタインとの婚約を発表する!」





 会場にいる誰もが困惑した。

 

 アラン殿下がはじめてわたくしを見た。その目は。わたくしがいつも見ていた優しい目ではなく、侮蔑し、軽蔑しているような目。



「アシュフォード嬢、婚約破棄の理由だが、第一の理由は容姿。おまえは魔女と同じ容姿である。当然だな。あの照覧(しょうらん)の魔女の血筋だからだ。しかし無能。なんの魔力も発動できない。目はオッド・アイ。その奇妙な血を王家に入れることはできない」



 アラン殿下は隣の女性を抱き寄せる。彼女がバルクシュタインというのだろう。


 わたくしのことはいままでフェイトと名前で呼んでくださっていましたのに、いまでは、アシュフォード。それにおまえ……呼ばわりでございますか。


「その点、リリーの美しいプラチナブロンドを見よ。彼女こそ、王太子妃にふさわしい」


 確かに! とわたくしが言ってはどうしようもないのですが。アラン殿下との子どもは美しいプラチナブロンドの子が生まれるでしょう。


「理由の二つ目。これが一番許しがたい。アシュフォード嬢は学園でいじめを行っていたのだ。これが証拠となる」



 水色のドレスを着た令嬢が、アラン殿下に呼ばれて階段を上る。



 彼女は同じクラスのイネス・ウィレムス伯爵令嬢。

 彼女に肩を貸すのは グレタ・ミラー侯爵令嬢。

 


 ウィレムスが涙ながらにわたくしに教科書を破られた。鞄を傷つけられたと訴えている。


 いや、やってませんよ。むしろ、わたくしに散々嫌がらせをしていたではありませんか。おふたりともアラン殿下と良い仲になりたくて、婚約者のわたくしが気に入らなかったのですよね。



 その時、わたくしは見逃さなかった。リリー・バルクシュタインが笑ったのを。

 勝ち誇ったようにわたくしを見て、笑ったのだ。



 もう、向こうから婚約破棄されたのだし、手間がはぶけました。余命わずかのわたくしと婚約なさらなくて、アラン殿下にとってよかったではありませんか。


 

 では、堂々と会場を去るとしましょう。



 わたくしは何も言い返さず、出口に向かう。

 ジロジロと見られようとも、公爵令嬢として堂々と背筋を張り、胸を張って優雅に歩く。



「これ、使って……」

 

 豪奢で巨大な車椅子に乗った女性が、ハンカチを差し出してきた。どうやら盲目の様子。特に使う理由もなかったので断る。



「いいから……上げる。使って」



 彼女は目が見えないはずなのに、わたくしの頬をハンカチでぬぐう。

 そこではじめて、自分が号泣していることに気がついた。


「……すみません。必ずお返しします」



 それを言うのが精一杯。走って会場を去った。会場を走るなど、公爵令嬢としてあるまじき行為だ。





 どうやって帰ってきたのかわからないが、自分の部屋に帰ってこれた。




 さて、人生最良の日に余命宣告され、婚約破棄までされた。

 おなかいっぱいですわね。しかし、このままでは終われません。




 一冊の本をとった。



 いったい何度読み返したことか。

【公爵令嬢ヴァイオレットは今日も涙をひた隠す】という小説。悪役令嬢というジャンルを開拓した金字塔。


 この本に【死ぬまでにしたい10のリスト】をつくり、辛い日々をなんとか生きようとするヴァイオレットの描写がある。



 わたくしにとってヴァイオレットの生き様は気高く、美しい。憧れのひと。


 辛い時こそ、わたくしも10のリストを作り、残りの人生を精一杯生きようではありませんか。



 その前に。すみません。もう一度だけ、泣かせてください。


 そうしたら、わたくしはもう、人前では泣かないことを誓いますから。

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