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前編

真の強さとは何なのか?

主人公の心の葛藤と成長を通じて、それを描ければと思っています。

『ペリエ城の雇われ城主』の続編

荊姫リオーネと騎士シセルの物語。

領地に設られた練習場に少年達が集まっている。

乗馬の練習をする者、武具の扱いを手解きされる者、剣さばきを習う者...ここにいるのは概ね8歳から10歳の騎士の卵だ。

アンペリエール卿ことユーリ・ド・アンペリエール男爵が出資して開いた騎士の養成所は、今や領内のみらず領外の訓練生も多く受け入れる大規模な施設になっていた。

13歳になれば、騎士見習いとしてブランピエール公爵の居城グスターニュ城での修行が決まる。彼らはそれを目指して自らを鍛えているのだ。


シセルは騎乗しながら乗馬の練習場周りをゆっくりと巡っていた。

初夏の日差しが眩しく、時折爽やかな風が凪いでいく....

視界の先に少女がひとり立っていた。馬場の柵に寄りかかり一点を見つめている。その容姿から、この子が目的の子供だと理解した。

シセルは馬を降り、柵に手綱を括ると少女に向かって歩み寄った。

「リオーネ様。」

呼ばれた子供はシセルのほうを向いたものの、少しバツの悪そうな表情をしている。

「僕はリオーネじゃない。カインだ。」

「カイン様?」

シセルは反問した。カイン・アンペリエールは確か男子のはずだが、彼の着ているチュニックは明らかに女子のものだった。

カインと名乗った子供は被っていたヘッドドレスを頭から取り去り、「リオンはあっちだ。ほら...的当ての練習をしている。」と言って指を差した。

シセルは彼の指差す方向に視線を移した。そこには小型の馬を走らせ、右手に模倣槍を持った子供がいた。

「あれがリオーネ様ですか?」

シセルは目を丸くした。

確かにカインと瓜二つだが....

「僕がこんな服を着ているからって変に思わないでよ。リオンの頼みだから仕方ないんだ。」

「頼み...ですか?」

シセルが困惑してるのを観て、カインは訝しげに言った。

「貴方は誰?リオンに何の用事?」

シセルは我に返って即座に跪いた。

「失礼しました。我が名はシセル・バージニアス。お父上の部下です。」

「父上の?」

「はい。」

ふうん...とカインは頷いた。漆黒の瞳がシセルをじっと見つめる。

「今、リオンを呼ぶよ。」

カインは言い、柵を潜って馬場の中へと歩いて行った。


「リオン!来客だよ。君に用事があるんだってさ。」

カインは手を振ってリオーネの馬を止めさせた。

「来客?なにそれ」

リオーネはカインを見下ろして眉をひそめる。

「あの騎士だ。父上の部下らしいよ。」

リオーネは柵の外に立っているその騎士を見た。白いブラウスにオリーブ色の袖なしの上衣、胴にはベルトを巻いていて、脇に剣を携えている。

「もういい加減、ぼくのチュニックを返してくれよ。正体バレているんだから。」

カインは言った。

「ああ...ごめんカイン。」

リオーネは馬を降り、自分のチュニックを脱いでカインに手渡した。

服の入れ替えを終えると、カインは馬に乗り、代わりに練習を始める。リオーネは待っている騎士に向かって歩いて行った。


歩み寄ってくるリオーネの姿はカインそっくりだった。違いがあるとすれば瞳の色だけ...男爵譲りの黒髪は首の辺りで短く切り揃えられている。

「リオーネ姫...」

セシルが跪き、右手を差し出すと、リオーネは「跪くのは辞めて。」と短く言った。

「立って握手をして下さい。騎士殿。」

リオーネは自ら右手を差し出し、シセルに握手を求めた。シセルは驚きつつも立ち上がり、その右手を軽く握った。

「シセル・バージニアスと申します。グスターニュ城にてお父上の近衛隊長を務めている者です。」

「近衛隊長?...では戦士なのですか?」

「はい。」

リオーネの目が大きく開かれた。珍しい菫色の瞳が輝いている。

「ようこそ、隊長。私に用とはなんですか?」

シセルは、身の丈が自分の胸ほどしかない姫君を見下ろすことに躊躇いを感じたが、跪くことを禁じられたため、そのままの視点で言った。

「お父上から姫様の教官を務めよと命じられました。今日よりお仕え致します。」

「教官?」

「はい。」

「何の?」

「さあ...そこまでは。」

二人の間に沈黙が流れた。

リオーネは意味がわからず目の前の騎士を見つめた。眉目秀麗な近衛隊長も黙ったままこちらに目線を合わせている。

「父上はなんて?」

リオーネは問うた。

「姫様に必要なこと全てをお教えせよと」

ますます意味が解らなかったが、リオーネはもう考えるのが面倒になった。

「いいわ。父上がそう言うのなら。」

リオーネは口角を上げて微笑んだ。男児の様な見た目の姫君...でも笑顔のリオーネは、愛らしく可憐な少女だった。


「まあ、久しぶりねシセル。」

ペリエ城でシセルを迎えたシャリナは笑顔で言った。

「お元気で何よりです。奥方様。」

シャリナの手にキスをしながら、シセルも応える。

「よく来てくれたわね。ユーリからお話は聞いているわ。あの娘の教育係を引き受けてくれて...本当にありがとう。」

応接の間にシセルを導き、シャリナは彼と向かい合って座った。肝心のリオーネと言えば、すでにどこかへ行ってしまったようだ。

「驚いたでしょう?リオーネが男の子のようで...髪も自分で切ってしまったのよ。その時は、ユーリがとてもショックを受けてあの娘を叱ったの...でもリオンは謝らなかった。カインとは双子なのに、何故私だけを特別に扱うのかと言ってね。」

シセルは、なるほど...と内心で頷いた。グスターニュ城でペリエ伯に呼ばれこの依頼を聞いた時、彼は何度も溜息をつき、「もう俺では手に負えん。」と吐露していた。「とにかく、リオーネに必要な全てのことを教えてやってくれ。」...と。

「奥方様。正直言って私は何をすべきなのかが解りません。姫君に従い、お側を警護することならば可能ですが...」

シセルの言葉に、シャリナはそうよね...と頷いた。

「ひとつだけ言えるのは、リオンがユーリのような騎士になりたいと思ってるということよ。カインに出来ることは自分にも出来ると信じて疑わないの。」

「閣下のような...ですか?」

「ええ。最強と謳われた『漆黒の狼』に憧れているの...だからユーリも強く否定できないのよ。」

「それは...」と言ってシセルは苦笑した。ユーリ・ド・バスティオンこと漆黒の狼の強さは伝説的だ。騎士なら誰しもが目指す指標ではあっても、決して到達できない頂点なのだ。

「貴方はとても優秀な騎士だわ。その若さで隊長を務めている。きっとあの娘は貴方を尊敬するでしょう。あと一年もすれば、カインとは体格差も現れてくるし...僅かな時間だけど、騎士としてリオンが納得行くまで鍛えてあげて欲しいの。それがユーリと私の願いよ。」

シャリナは優しい微笑みを浮かべて言った。それは真から我が子を思う母親の顔だった。

「解りました。」シセルは頷いた。

「出来る限りのことを姫君にお教え致します。」

シセルの応えにシャリナは笑顔で頷こうとしたが、「但し...」とシセルが遮った。

「相手が姫君だからと私が手を緩めることはありません。その事、ご承諾いただけるでしょうか?」

シャリナは戸惑った。昔馴染みのシセルだったが、今の彼はまるで別人の様に厳しい表情だった。

「え...ええ、もちろんよ。」

シャリナは頷いて言った。

「ありがとうございます。」

シセルは恭しく頭を下げた。そして次にシャリナと視線を合わせた時には、いつもの柔和な彼に戻っていた。

 シセルは城内に部屋を用意され、馬から荷を下ろしてその場を整理した。少なくとも3か月はここで暮らすことになるだろう。

男爵の勅命とは言え、難儀な案件を引き受けた....さて、どこから手を付ければいいものか....

窓の外から声が聞こえる。子供の声だ。観ると、リオーネとカインが追いかけっこをしていた。彼らは12歳...シャリナの言う通り、来年には体格差が現れる年頃だ。カインは騎士見習いとしてペリエ城を離れねばならず、将来の道はおのずと分かれていく。

「その日までには、姫君も納得なさるだろう。」

シセルはリオーネのためにも容赦をするつもりはなかった。養い育ててくれた、亡きブランピエール公クグロワの教えを、そのままリオーネに伝授しようと決めていた。


その夜、シャリナはシセルのためにささやかな晩餐でもてなしてくれた。大広間の席を勧められ、シャリナがテーブル越しに向かい合って座る。すると、次にリオーネとカインが姿を現した。

カインは男子らしいチュニック姿だったが、リオーネのほうは裾の長いドレスを身につけている。瞳の色と同じ菫色のドレスだ。

「改めて紹介するわ。息子のカインと娘のリオーネよ。」

シャリナが言うと、二人は礼儀正しく挨拶をした。

「カインです。」

「リオーネです。」

シセルも立ち上がり、会釈をした。

「シセル・ド・バージニアスと申します。今日よりしばらく城内に滞在させて頂きます。」

「さあ、ふたりとも席に着いて。シセル隊長の歓迎会よ。」

双子の姉弟はシャリナの隣の席に並んで座った。召使い達が食事を運んでくる。大人の前にだけ銀杯が置かれ、そこに果実酒が注がれた。

「バージニアス隊長の滞在を歓迎します。」

シャリナは言って盃を掲げた。

「ペリエ城の繁栄に。」

シセルも応え、盃を掲げると口をつけた。

その後は和やかな時間が続いた。カインの話題は来年には行くであろうグスターニュ城内の様子や騎士団の話で、いずれは王都に行き、王の騎士として働きたいと言うことだった。

「乗馬も武具の扱い方も父上に教えて頂いたんだ。僕は父上や隊長のような立派な騎士になる。リオンの分もね。」

その言葉に、黙って食事をしていたリオーネの手が止まった。物言いたげにその表情を曇らせている...

シセルはずっとリオーネの様子を観察していた。姫君と向き合うには、先ず彼女自身を知ることから始めなくてはならない。

しかし、そんなことはお構いなしにカインはシセルに様々なことを問いかけていた。悪気はないのだろうが、リオーネの心中は決して穏やかではないはずだ。

「カイン、おしゃべりが過ぎるわ。」

シャリナが嗜め気味に言った。

「お父様の教えを忘れたの?」

カインははっとして押し黙った。父は不在でも、その存在は絶対だ。

食事を終えると、リオーネはすぐに席を立った。

「もう部屋に戻っても良いですか?お母様。」

リオーネはシャリナに訊いた。

シャリナは少し躊躇ったが、ええ、いいわ。と頷いた。

許しを得ると、リオーネは無言で大広間を出て行った。

「奥方様」シセルは言った。

「少し姫様と話をしたいのですが、お許しを頂けるでしょうか?」

「シセル....」

シャリナは救われたように頷いた。

「ええ、お願い。」


シセルはリオーネの部屋に向かおうとしたが、ふと思い直して庭園の方に足を向けた。直感的に気配を感じたからだ。

案の定、夕暮れに包まれた庭園のベンチにリオーネは座っていた。膝を抱え、空を見上げている。

「あの星の名前を知ってる?」

リオーネはいきなり問いかけた。

シセルも空を見上げた。暮れかけた空にひときわ輝いている星が見える。

「ヴィーナス...ですか?」

シセルは答えた。

「正解...さすがね。隊長。」

リオーネはシセルに視線を移して言った。笑顔ではあったが、その表情は寂しげに見える...

「ヴィーナスって美の女神の名前なんでしょう?...やっぱり隊長も美しい女の人のほうが好き?」

「は....」

シセルは口籠もった。何という質問をするんだこの姫は...

「心が美しい...と言う意味でなら。」

シセルが答えると、へええ....とリオーネは小さく言った。

「じゃあ、体が女の子で、心が男の子でも愛せる?」

「リオーネ様...」

シセルは答えに詰まった。

「...ご自身のことを、そんなふうに思っておいでなのですか?」

「わからない。...ただ、お父様の様な騎士になりたいと思っているのは本当。お母様の様な淑やかな貴婦人ではなくてね。」

「漆黒の狼の様な...ですか?」

「そう。だって私、お父様の子供だもの。漆黒の狼の娘なのよ!」

リオーネは訴えた。

「淑女ってなに?大人しく刺繍をやれとかありえない!どうしてそんな無駄なことをしなければならないの?」

「無駄....」

シセルは呆然とした。あの淑やかさを絵に描いたようなシャリナから、どうしてこんなに気性の荒い姫が生まれるのだろう....

「姫君はお母上のなさっている仕事も無駄と...そう思っておいでなのですか?」

シセルの問いかけに、リオーネが押し黙った。眉をひそめて俯いている....

「強さのみを騎士に置き換えておられるのでしたら、それは大きな間違いです。騎士は女性の支えあればこその騎士。ご婦人を敬うことは騎士道の極みです。その意味では、女性のほうがはるかに屈強だ。」

12歳の少女には理解できまいと知りつつも、シセルは語った。いずれ必ず姫君にも解る日が来るはずだ。

「ともかく、姫様はお父上の様な最強の騎士を目指したい...そう仰るのですね?」

「ええ、そうよ。」

リオーネは頷いた。その表情は決然としている。大きな菫色の瞳はシャリナに似て愛らしかったが、意志の強い眼差しはまるで父であるユーリの写し身の様だ。

...面白い姫だ。こんなに斬新な感覚は初めてだ。

シセルは笑顔を浮かべた。

どうやら私はこの少女を気に入っているらしい...

「何故笑うの?私を馬鹿にしてる?」

リオーネは訴えた。

「馬鹿になどしておりません。」

シセルは即座に笑を止めて言った。

「私にとって身体と心が乖離する現象は特別な問題ではありません。姫様はその宿命を生まれ持った...ただそれだけのことです。」

「生まれ...持った?」

リオーネは反問した。

「はい。全く同じではありませんが、近い者なら何人か見知っておりますので、気にはなりません。」

リオーネは瞳を輝かせて立ち上がった。

「じゃあ、隊長は私を受け入れてくれるのね!」

「もちろんです、我が君。」

シセルは頷いた。

リオーネから喜びが溢れ出すのが判る...理解者を得た感動で瞳が潤んでさえいる。

シセルは、この無垢な姫君を明日から厳しく鍛えなければならないと思うと複雑な気持ちになった。本当にそれが正しいのかは判らない。

....だが、道標は必要だ。

「リオーネ。」

シセルは気持ちを切り替え、毅然としてその名を呼んだ。呼ばれたリオーネは驚いてシセルを瞠目する。

「明日より私は貴方をひとりの人間として扱い、騎士道を学ぶための指導を授ける。道は厳しく、決して楽ではないが、それでも着いてくる覚悟はあるか?」

リオーネはシセルの瞳を見つめた。夕闇に包まれる寸前の彼のシルエットが浮かび上がる。これこそ、憧れて止まない騎士の姿だ。

「失望はさせません。サー・バージニアス。」

リオーネは答えた。

「これよりはリオンとお呼びください!」


シセルが戻ってくるのをシャリナは大広間で待っていた。

自分の娘でありながら、他人に....しかも男性のシセルに任せなければならないなんて...なんて情けない母親なの。

シャリナは深くため息をついた。

今年初め、12歳の誕生日にユーリから初めて拍車を贈られたカインははしゃいでいた。すでにカインの背丈が僅かにリオーネより高くなっていて、声変わりも近いとユーリには解っていたからだった。

「カインをこの城に留めるのも今年が最後だ....」

ユーリはシャリナに言った。

ユーリ自身が騎士の育成に心血を注いでいるため、摘子のカインはペリエ城に長く留め置かれたが、それももう限界だった。カインは父母から離れた場所で修行を積み、いずれ正騎士になるまでペリエ城に戻ることは許されなくなる。カインもその事実を知っているが、もう覚悟はできているようだった。

一方、リオーネには新しい馬が贈られたものの、当然、拍車は与えられなかった。拍車の授与は騎士となる者の証であるからだ。

リオーネは父に不満を訴えた。何故私にカインと同じものをくださらないのかと....

「お前はカインとは違う。男ばかりの世界にお前を送り込むことができようはずがないだろう。」

ユーリは困惑しながら言った。

「性別が違うから騎士にはなれないなんて...そんなの変です。カインと私...どこが違うと言うのですか?」

食い下がるリオーネの傍に立ち、ユーリはその頭を優しく撫でた。妻のような亜麻色ではなく、自分そっくりな黒い髪...シャリナによってきちんと結われ、可愛いらしくまとめられている。

「....父を困らせるな。こんなに可愛いお前をなぜ男のように扱えと言う?お前は私の大切な娘なのだぞ。」

「大切...?」

リオーネは父を睨んだ。

「ああ、そうだ。」

「だったら、私の気持ちを解って下さい。お父様は....何も解っていないわ!」

リオーネはそう言うと、部屋を出て行ってしまった。

ユーリは途方に暮れ、救いを求めてシャリナの方を見やった。しかし、シャリナも黙って俯いたままだった。

「妻よ...俺はどうしたらいいんだ?」

ユーリは訊いた。

「私にも...解らないわ....」

その時だった。リオーネの侍女の悲鳴が聞こえ、次に嘆きの言葉を叫んでいるのを城の全員が耳にした。

ユーリが一目散にその場へと駆けつける。

リオーネの部屋の前で侍女のメイサが腰を抜かしてへたり込んでいた。

「ああ...お館様。お赦し下さい。私は姫様のお命じ通りに...」

ユーリはメイサの怯えきった様子に胸騒ぎを覚えたが、すぐにその視線の先を直視した。

「リオーネ...!」

ユーリは驚愕して叫んだ。

リオーネは短剣で自分の髪を切っていた。長い黒髪が床に散らばり、それでもなお残っている髪に刃を当てている....

茫然としているユーリの脇に立ったシャリナは、あまりの状況に目眩を感じてふらつき、ユーリに抱き抱えられた。

「リオン...何をしているの?」

カインがリオーネに歩み寄りながら言った。

「もうよしなよ...それ以上切ったら、僕より短くなってしまうよ。」

その言葉にリオーネは手を止め、カインを見上げる。

「さあ、短剣を僕に頂戴。...あー、顔が傷になってる。本当に馬鹿だなリオーネは....」

カインがさりげなく短剣をリオーネから取り上げ、離れた場所へと放り投げた。

「メイサ...リオンの顔が傷だらけだ。何か拭うものを持ってきて。」

カインの命じるまま、メイサが慌てて走っていく...

「リオン....」

シャリナがようやく駆け寄り、リオーネを抱きしめた。

「痛いでしょう...こんなに傷を作って....」

「お母様...」

リオーネは泣いていた。大きな目から大粒の涙が溢れていた。

メイサが桶に水を入れて持ってきたので、カインがリオーネの髪を払い、シャリナが傷を布で拭った。

その光景をユーリは黙って見つめていた。娘の行動が全く理解できなかった。

何故そうまで騎士にこだわる?俺がカインとお前をどう差別したと言うんだ....

「ユーリ...」

シャリナが振り返って言った。

「あとは私に任せて...お話は後でするわ。」

シャリナはメイサを呼び、他の召使い達に散らばった髪を片づけるように言うと、リオーネの部屋の扉を閉ざした。

ユーリは未だ茫然としながら、その場を離れるしかなかった。怒りとも悲しみともつかない感情で、やりきれない思いだった。


翌日の朝、朝食の時間に姿を現したリオーネを見てユーリは衝撃を受けた。カインと同じ短髪のリオーネ....顔に幾つもの傷があり、頬が僅かに腫れている...

「リオーネ。お前は自分が何をしたのか解っているのか?」

ユーリは思わず声を上げた。

「髪を...切りました。自分で。」

リオーネは悪怯れる様子も見せずに答えた。

我が娘ながらこれほど強情とは...

ユーリは呆れるしかなかった。自分では手に負えない...もうあの幼く無邪気だったった頃のリオーネではないのだと...

それからしばらくの後に、ユーリはグスターニュ城に居を移した。リオーネのせいではなく、城の管理上のためだったが、それ以来、父と娘は疎遠になった...

「奥方様...」

シセルは独りで大広間で座っているシャリナに声を掛けた。

「シャリナでいいわ。...それで、あの子と話は出来た?」

「ええ。姫君のご希望も概ね理解できました。明日から早速、指導を始めます。」

「まあ...」

シャリナは笑顔になった。

「良かった...これであの子もきっと納得してくれるわね。」



翌朝、

朝日が登ると同時にリオンはシセルに起こされ、顔を洗い、用を足すところから自分で行うように言い渡された。いつもなら召使いが全てを用意してくれ、着替えさえ手伝って貰っていたのに、今朝は誰も来てはくれない。

「着替えが済んだらベッドを整え、部屋の掃除だ。」

リオーネは眠い目を擦りながら起き上がりはしたが、やったこともない作業に手間取り、なかなか仕事が捗らなかった。顔を洗うために水を汲み、用を足してからその処理をし、着替えを自分で用意する。その全てが生まれて初めてする動作であり仕事だったからだ。

「時間がないぞ。掃除が終わったら馬の世話と厩舎の掃除だ。もっと手早くやりなさい。」

教官となったシセルは厳しかった。リオーネはとにかく目まぐるしく働かされた。文句を言う暇さえない。弟のカインはまだベッドの中だと言うのに...

やっとのことで厩舎まで辿り着くと、すでにシセルは自分の馬にブラシをかけていた。馬丁達が掃除を終えて餌やりをしている。

「遅い。」シセルは言った。

「自分の世話にいつまでかかっている。馬を餓えさせる気か!」

餓えているのは私のほうなのに....

リオーネは心の中で訴えたが、かろうじて言葉にはしなかった。

馬丁が取りなし顔でブラシを手渡してくれる。リオーネは父から贈られた小柄な馬の頭を撫でてから、優しくブラシを当てた。

...疲れた。お腹がすいた。

それでも、頑張ってブラッシングを終え、シセルに報告をした。

「良し...では食事にしよう。」

シセルの許可を得て、ああ..ようやく朝食だ。そう思った途端、視界が歪んで意識が遠のいた....


瞼を開いた時、リオーネの視界に見えたのは、天幕の天井だった。

そこが自分の部屋だとすぐに解ったが、横に居る人影が母だと気付いたのはその後だった。

「目が覚めた?リオン...」

シャリナは言った。リオーネを覗き込み、心配そうに見つめている。

「お母様....」

リオーネは未だ頭がぼうっとしていたが、次には空腹感が襲ってくる。

「お腹空いた....」

シャリナはクスリと笑い、当然ね。と言って、何かを口に入れてくれた。

「葡萄よ。まだ少し酸っぱいかしら...」

「いいえ、美味しいわ...」

「そう、良かった。」

シャリナは優しく微笑みながらリオーネの髪を撫でた。

「朝から大変だったわね...慣れないことばかりで...倒れるのも無理はないわ。」

その言葉で、リオーネは自分に起きたことを思い出した。

「お母様、...教官は?」

「自室に控えておいでよ。少し無理をさせ過ぎたと言って反省しておられたわ。」

リオーネは自分に失望していた。やはり生意気なだけのお姫様だとシセルは思ったことだろう。

「教官のところに行かないと...」

リオーネは起き上がったが、すぐに目が回り始めた。とても気分が悪い...

「彼のところに行くのはきちんと回復してからになさい。でないと、今度こそ本当に呆れられてしまうわよ。」

シャリナは言いながら、リオーネにまた果実を食べさせた。

リオーネの顔色は青ざめていて、すぐには食事も摂れそうには見えない。

「食べたらまた少し眠りなさい。その時までに食べやすい食事を用意しておくから。」

「ありがとう...お母様。」

リオーネは葡萄と林檎を少しずつ食べ、再び眠りに落ちた。シャリナが優しく汗を拭いてくれたので、それがとても心地よかった。


シセルは自室に籠り、自己反省に勤しんでいた。

厳しくするにしても、あまりにも配慮が足りなかったようだ。

姫君の育成を考えれば、もう少し段階を慮るべきだった。姫君は嫌がるだろうが、見合った指導をするべきなのかも知れない....

倒れたリオーネを抱き上げて運んだ時、その軽さに驚き、シセルは思わず唸ってしまった。筋肉の薄いしなやかな身体は首回りも細く、双子でもカインとは明らかに違う。

姫君はこれからその懸隔と戦わねばならないが、必ずしも筋力や力技だけが重要ではない。武具の選別や調整によってはそれも補うことができるし、勇敢さに関しては男女だからと大差はないからだ。

騎士には様々な任務がある。まして良家出身の騎士であるなら品行方正こそ一番だ。姫に道があるとすれば、そこにこそ可能性があるのかも知れない。

シセルは一計を案じた。

「この際だ。あの荊姫の目指す場所に、私も共について行くか...」


リオーネが完全に回復したのは陽が高く登った昼下がりだった。

初日からみっともない姿を晒してしまったので、シセルにどんな言い訳をしようかといろいろ悩んで見たものの、結局、情けない自分を認めるしかないと諦めた。

教官はきっと呆れてる....

シセルの部屋の扉の前に立ってなお、リオーネは深くため息を着いた。それでも大きく息を吸って、背筋を伸ばす。

「教官、リオンです。入っても良いですか?」

声を掛けると、ほどなく扉が開いた。シセルが現れ、リオーネを中へと導く。しかしリオーネは奥へは行かず、きちんと姿勢を正して頭を下げた。

「命じられた通りの作業が出来ませんでした...ごめんなさい。」

その素直な謝罪に愛しさを感じ、シセルは思わず笑みを漏らしたが、リオーネにそれは見せなかった。

「それを言うなら、ごめんなさいではなく、申し訳ありません...だ。」

シセルは訂正し、リオーネの顔を覗いた。 

「気分はもう悪くないか?」

「はい。食事も取りましたので大丈夫です。」

「そうか。」

シセルは安堵し表情を綻ばせた。

シセルに叱られるとばかり思っていたリオーネは、彼の穏やかな微笑みに驚き、何故か顔が熱くなった。

「今日はもう無理はできないな...うん。ならば少し外に出よう。」

シセルは頷くと、自分のマントを手にした。リオーネについて来なさいと言って部屋を出る。

リオーネはシセルの後ろを着いて行きながら、その理想的な肢体にうっとりとしていた。長身で手足が長く、肩幅はあるが広過ぎず、引き締まった上半身にはしっかりと筋肉が付いている。

...教官は私の理想だ。

リオーネの胸がときめいていた。こんな騎士になりたい。心からそう思った。

「痛っ!」

シセルが急に立ち止まり、ぼうっとしていたリオーネは彼の背中にぶつかった。鼻をぶつけて痛みが走る。

「歩く時は距離を取れ。」

シセルは振り返りながら注意した。

「はい...申し訳ありません。」

謝るリオーネが鼻を押さえ、涙目になっているのを見て、シセルは思わず失笑した。もう堪えられない...姫は可愛すぎる。

シセルが肩を震わせ笑っているので、リオーネは「酷い...」と小声で文句を言った。

屋外に出ると、シセルは厩舎から馬を出して鞍の準備を始める。

「丘へ行くぞ。特別授業だ。」

装備をする間も、シセルはその教えを怠らなかった。リオーネへ説明をしながら、一つひとつ丁寧に経験させて行く。リオーネも一生懸命に従った。朝の失敗を取り戻したかった。

リオーネと相乗りで城外へと走り出し、シセルは近くの丘まで一気に駆け上った。さすがにリオーネは乗り慣れているようでリズミカルに動作を合わせている....

丘の上の野原に着くと、シセルは馬を止め、リオーネを降ろした。

野原一面に色々な花が咲いており、とても素敵な場所だとリオーネは思った。

シセルは地面に足を着けると、そのまま少し離れたところまで歩いて行き、花々を摘み始めた。

リオーネは立ったままその不思議な光景を観察していたが、暫くするとシセルが戻り、沢山の花の入った布を地面へと広げる。

「さあ、ここに座って。」

羽織っていたマントを地面に敷き、シセルはリオーネをその上に座らせた。自分はそのまま座りあぐらの姿勢になる。

「この花をどうするのですか?」

リオーネは訊いた。

シセルは口角を上げ、花を手に取って見せた。リオーネが見つめる中、シセルが器用にそれを編んでいく....

リオーネは目を見開いた。少しずつ形が作られて束になっている。色とりどりの花を入り混ぜていて、とても綺麗だった。

「良し...出来た。」

シセルは束を結び輪の形にすると、それをリオーネの頭に乗せた。

「これが花冠と言うものだ。」

リオーネは頭の上にあるそれを手で触った。名前の通り花の冠のようだ...これって私への贈り物?

「次は自分で作ってみなさい。作り方を憶えるのが今日の課題だ。」

「これも...騎士の修行ですか?」

「ああ。私は仕えた主人のためにこれを憶えた。その方を喜ばせるために。」

「主人?」

「そうだ。我ら騎士は主に仕えてこそ価値がある。主のために従軍する者もあれば、側近として優れた才能を発揮する者もいる。....まあ、貴方のお父上は例外だが....」

リオーネは父の話題が出ると俯いた。花を手に取り、シセルに差し出す。

「作り方を教えて下さい。」

シセルは頷き、手本を見せつつ、今度はリオーネとともに編み始めた。

リオーネは途中で頭がこんがらがったが、何度もやり直して懸命に練習した。

夕刻、シャリナは帰って来た娘の姿を見て「まあ...」と声を上げた。

リオーネはマントを身につけていた。くるぶしまである長いマントを...

「シセルが貴方にマントを?」

シャリナが尋ねると、リオーネは黙って頷いた。その手には花冠が握られており、シャリナがそれを見詰めると、リオーネはさりげなくマントで隠した。

シャリナは微笑み、それ以上追及することはしなかった。シセルはどうやらリオーネの心を掴んだようだ。まだ初日だというのに....

  

その日以後のリオーネは、周囲が驚くほどの変貌ぶりを発揮した。

早朝の起床も自分の世話も召使いの手を一切借りずに行い、時間通りに厩舎の掃除と馬の餌やりを終えさせ、少し居眠りをしながらも朝食を摂った。

昼前は礼儀作法や道徳を学ぶ座学、そして夕刻まで武具の扱いや騎乗練習などの実技で、夕食の時刻を迎えるまではほとんど休む暇もなかった。

「リオンがまた寝てるよ。母上。」

カインが小さく笑いながらシャリナに向かって言った。

「あらあら...」シャリナも笑った。

リオンが食卓の上に俯して眠っている。食事を済ませて自室へ行き、着替えをして就寝するまでが1日の課題なのだが、2日に一度はこうなってしまうのだった。

「部屋までお連れします。」

シセルが席を立ってリオーネを抱き上げた。リオーネはそれでも目覚めない。

「いつもいつもごめんなさいね。」

シャリナはシセルに着いて行きながら謝った。

「いえ、姫君の頑張りから考えれば、私の奉仕など当たり前の褒美でしょう。」

シセルの口調は穏やかで優しかった。教官としての厳しい顔しか知らないリオーネが今の彼を見たら、いったいどう感じるのだろう。

部屋に入ると、シセルはリオーネをベッドへと横たえさせた。

シャリナはぐっすり眠っているリオーネに上掛けをかけると、シセルと共にすぐに部屋を出た。

「シャリナ様」

廊下に出るとシセルが言った。

「私が来てから2ヶ月が経ちました。自立や礼儀、それに奉仕の精神など、姫君は概ね理解されるようになりました。冬が訪れる前には、基本の全てを学ばれるでしょう。...ですが、その先について、私はどうすべきなのか迷っています。」

「シセル...」

シャリナは頷いた。

「解っているわ。親である私やユーリでさえも決めかねているのに、貴方にそれを決めろというのは、あまりに他力本願よね。」

「いえ...正直に言えば、その逆です。」

「え...?」

「お許しを戴けるのであれば、私は姫君を一人前の騎士にして差し上げたいと考えています。」

「騎士...?」

シャリナは驚いて声をあげた。

「何を言っているのシセル...そんなことできるわけないでしょう。」

「私も初めはそう思っていました。ですが、あれほど努力なさっている姿を見せられて、どうしてそれが無駄だと告げられるでしょうか。」

「でも...」

...リオーネは女の子なのよ。とシャリナは言いたかった。シセルに期待していたのはリオーネを騎士にすることではなく、気の済むまで騎士の体験をさせるだけが目的だったのに。

「私は軍人ですが、必ずしも騎士が戦士になる訳ではありません。姫君が真に騎士を目指すならば、カイン様と同様、然るべき場所にお預けし、従者としての修行をさせるべきと存じます。」

シャリナは動揺し過ぎて頭が混乱していた。娘であるはずのリオーネを騎士の修行に?そんなこと夢にも思っていなかった。

「待って...待ってシセル...私では整理がつかないわ。」

シャリナのあまりな動揺ぶりに、シセルは少し罪の意識を感じたが、どのみち男爵には手紙を送ろうと考えていた。冬の訪れを迎える前にはグスターニュ城に戻らねばならない。リオーネへの指導もあとひと月ほどだ....

「これは単なる私からの提案です。お心を痛めたのでしたら謝罪します。」

シセルは頭を下げた。

「いいの...大丈夫よ。」

シャリナは複雑な表情で応えた。

「とにかく、ユーリと話してみましょう。」


10日後、

ユーリはペリエ城へと帰還した。

突然の帰還だったため、召使い達が

驚き城内が騒然となっている。

そんなことはお構いなしに、ユーリは出迎えたシャリナを想う様抱きしめて濃密な挨拶をした。

「逢いたかったぞ、妻よ。」

「私もよ、旦那様」

ふたりは見つめ合って笑った。

「子供たちはどこだ?」

「今頃は騎乗練習かしら...帰るのは夕刻ね。」

そうか...と言って、ユーリはシャリナに意味ありげな眼差しを向けた。

「では、それまで水入らずだな。」

「ええ、そうね。」

シャリナもほんのり頬を染めながら頷いた。

ユーリは安堵した。数か月分の飢餓を埋めるための時間はどうやら十分にあるようだ...


夕刻、シセルと共に城内に戻ったリオーネは父が還ったと聞き、気持ちが落ち着かなくなった。

髪を短く切って以降、父とはほとんど会話をしていない。関係を修復しないままグスターニュ城へと行ってしまった父と向かい合うのは、すでに3ヶ月ぶりだった。

リオーネはまだエントランスの外に立っていた。カインはとうに帰って父に会っている。中に入れば、きっと父は待っているだろう。

シセルは、そんなリオーネの様子を傍で見守っていた。今日の騎乗訓練の時には明るく活発であったのに、今は別人のように肩を落としている。

...これは姫君と男爵の問題だ。

シセルは立ち入るべきではないと思った。他人の自分では、何が出来る訳でもない。

だが、リオーネが中へと向かわず、脇へと歩き出そうとした時、咄嗟に

その手を掴んでしまった。

「逃げるんじゃない。」

シセルは静かに言った。

「ここで逃げても意味はないぞ。」

「手を離して下さい。」

「だめだ。離さない。」

「何故ですか?貴方には関係ないでしょう?」

リオーネは振り返ってシセルを睨んだ。

「大ありだ!」

シセルは言った。

「このひと月、私は貴方を指導して来た。おそらく男爵はその成果と報告を聞くために帰還されたのだろう。ここで貴方の立ち居振る舞いが以前のままなら、私の存在は無意味と言うことになる。私は直ちに解雇だ。」

「解雇...?」

リオーネは茫然となった。

「本当?」

シセルは黙って頷いた。嘘をつくのは得意ではないが、こうでも言わなければリオーネの気持ちは変えられない。

「それで良ければ好きにしなさい。」

シセルは言って、掴んでいた手を離した。

リオーネは明らかに動揺している。今にも泣きそうだ。

「そんな...そんなことさせない!」

リオーネは叫ぶと、踵を返して中へと走っていった。

大広間へと向かったリオーネは、ユーリの前に進み出ると両足を揃え、左手を胸に当ててお辞儀をした。

「お帰りなさい父上。お元気そうでで何よりです。」

突然のことに、ユーリは仰天して娘を凝視した。シャリナやカインも目を丸くしている。

「お前も...元気のようだな。リオーネ。」

ユーリはかろうじて平静を装ったものの、はげしく困惑していた。

いったいこの豹変ぶりはなんだ...?

リオーネが顔を上げると、その危機迫る表情にさらに驚かされる。言葉とは裏腹にとても歓迎しているようには見えなかった。

「では、失礼します。」

リオーネは笑みひとつ浮かべることなくユーリに背を向けると足早に歩み去って行く。

ユーリはその一部始終を背後でじっと見守っていたシセルに気づき、自ら傍へと歩み寄った。

「娘に何を言った?」

ユーリは尋ねた。

「特別なことは何も....ですが、少し薬が効きすぎたようです。申し訳ありません。」

シセルは本当に申し訳なさそうに言ったが、その表情は何故か失笑寸前だった。

ユーリは訳が判らず、とにかくシセルに席に着くよう勧めた。

「積もる話がありそうだな。」


「リオーネを他へ預ける?」

ユーリは驚いて反問した。

「はい。」

シセルは深く頷いた。

既に人払いがされていて、大広間に残っているのはユーリとシセルだけだった。手元には果実酒の注がれた杯が置かれ、互いに酒を酌み交わしながらの会話だった。

「姫君のご希望に添うにはそれしかないと、私は判断しました。向かう先は戦士ではないにしろ、騎士は騎士です。」

「戦士ではなくとも...か。俺には娘がそれに納得するとはとても思えんぞ。」

ユーリは眉根を寄せた。

「騎士道は必ずしも、兵として優れた者だけを讃えているわけではありません。友愛や弱き者への慈しみ、それに人間の尊厳を大切にせよと指南書には書かれている。少なくとも私はクグロワ様からそうお教え頂きました。その意味においては、姫君の精神は騎士のそれに最も近いと思われます。」

ユーリは唸り、両腕を組んだ。リオーネを奉仕のための修行に出す。それは即ち、自分の庇護の届かない場所へひとり娘を放つと言うことだ。

男爵家の姫君として生まれた者が騎士を目指すなど前例がないし、ともすれば規範に抵触する可能性すらある....

「ありえんな....危険すぎる。」

ユーリは首を横に振った。

「如何に誠実な主人でも、リオーネが女である以上、間違いは起き得る。そんな危険を娘に冒させる訳にはいかない。」

こんな話を容認すれば、シャリナに離縁されるに違いないとユーリは思った。いったいシセルは何を考えているんだ!

「リオーネ様の預け先ですが....」

シセルはなおも言った。

「実は、私に当てがあるのです。」

「当て?...それはどこだ。」

「グスターニュ領内のアノックという城です。城と言っても、こじんまりした館のような規模で、城主はセオノア・アノック子爵。国王の専任画家、モガート卿の御子息です。」

「モガート?」

ユーリの記憶にモガートと言う人物は居なかった。画家といえばあまり目立たず、例えどこかですれ違ったとしても気付くこともないのだろう。

「それで、その画家の息子が当てだと言う理由はなんだ。」

「セオノア殿が父親から館....いえ城を貰い受けたのは昨年のことで、現在は召使いも僅かに数名、従者も未だ居ません。それに、アノックはグスターニュ城の東、馬で走れば半日の距離です。その場所なら、私も様子見に通うことができます。」

「確かにな...」

ユーリは頷いたものの、だがな...と切り返した。

「城主が男であるなら答えは同じだ。それはお前にだって判るだろう?」

訝しげなユーリに対して、シセルは僅かに広角をあげて微笑んで見せた。

「私が当てにしたのはそこです。セオノア殿は絶対に安全です。彼ほどリオーネ様の主人に相応しい人物は居られないでしょう。」

「それは...どう言う意味だ...?」

自信に満ちたシセルの言葉に、ユーリは不審な表情を浮かべた。

「セオノア殿は姫君とは真逆...身体は男性でも、心は女性だからです。」

「は...」

ユーリは唖然とし、我が耳を疑った。


リオーネは瞼を開き、すぐに起き上がった。外は未だ早朝で薄暗い。

昨夜のうちに用意しておいた着替えに袖を通し、いつものように手順を踏んだ。部屋を出て厩舎へと歩いて行くとすでにシセルが待っていた。

「おはよう、リオン。」

シセルは穏やかな表情で言った。

「おはようございます。教官。」

リオーネも笑顔で言った。

掃除をして餌やりも終え、ブラシをかけ終わると、少しの時間、休憩がとれるようになった。作業に慣れて余裕が出来たからだ。

シセルが持参した甘い焼き菓子を2人きりで食べる時間が、リオーネにとっての至福の時だった。菓子が美味しいからだけではなく、シセルが一番優しい顔になるからだ。

「今日はお父上が剣の手解きをしてくれるそうだ。」

シセルは言った。

「お父様が?」

「ああ、憧れの『漆黒の狼』がだぞ...良かったじゃないか。」

喜ぶかと思いきや、リオーネは深く溜息を吐いた。

「お父様は容赦がないの...全然相手にしてくれないから嫌よ。」

「以前はそうだったが、今は違う。私が鍛えた弟子は強くなった...そうだろう?」

リオーネは顔が熱くなった。シセルに褒められるといつもそうだ。

「はい...多分。」

リオーネはシセルの灰色がかった青い瞳を見つめた。彼の瞳は大きく、その目で見詰められると何も言えなくなる....

「自信をもって挑むことだ。期待してるぞ。」

シセルは爽やかな笑顔で言った。

「はい...頑張ります、教官。」

「さあ、休憩時間は終わりだ。」

シセルは言い、立ち上がった。


その日は座学もなく、朝食後から剣戟の稽古になった。

リオーネとカインは防具を身につけ、稽古用の剣を携える。

準備が終わる頃に父が現れると、二人の緊張は一気に昂まった。

ユーリは漆黒の衣装と防具を装備していた。左手に盾を持ち、右手には剣が握られている。

気付くと、シセルも防具を身につけていた。同じく盾を手にしていて、ユーリよりも細身の剣を持っていた。

「これからシセルとの剣戟を見せる。実戦と同じく剣は本物だ。よく見ておきなさい。」

久しく見ることのなかった父の武装した姿に、リオーネの心が震えた。

実の父とは言え、憧れて止まない「漆黒の狼」が目の前にいる。滅多に観られないと言われているその剣さばきを今から観ることができるのだ。

ユーリとシセルは対峙し、互いに構えの姿勢をとった。

シセルが初めに攻撃を仕掛ける。ユーリはそれを盾で受け、一旦身を引いてから右手の剣を突き出した。

シセルはそれを上手く交わして再び攻撃に転じる。連続で打ち込むシセルの攻撃を、ユーリはひたすら盾で防戦していた。

 リオーネの横にいるカインは身を乗り出し、瞳を輝かせて見つめている。リオーネも興奮が抑えられない。父とシセルの闘う姿は、何より精悍で野生的だった。

シセルの猛攻が止むと、今度はユーリが攻めの体制に入った。その強力な攻撃力は凄まじく、シセルは盾の防御すらままならない。

これがお父様の攻撃...凄い!

闘う父の気迫にリオンもカインも圧倒されていた。いつもの優しい父とは全く違う戦士の顔に恐怖さえ感じる....

打ち込みは暫くのあいだ続けられたが、やがて決着がついた。ユーリの一撃でシセルが剣を落としたからだ。

「参りました。」

シセルが敗北を認めた。肩を大きく揺らしている。息が上がっているようだ。

ユーリは平然としていた。剣を鞘に納め、子供達の方に視線を向けた。

「盾の使い方は理解できたな?」

ユーリの問いに、カインは「はい!」と即座に答えた。

「リオン、お前は?」

リオーネも深く頷いた。

間を置かず、ユーリはリオーネを先に呼び寄せた。

「さあ、全力でかかって来い!」

ユーリは大声で言った。

リオーネは歯を食いしばった。

教官の言う通り、父に実力を認めさせる!

シセルは噴き出た汗を拭いながら、リオーネが父親と剣を交える姿を眺めていた。

...なかなかどうして、やるじゃないか。

リオーネの動きは以前よりも格段に上達していた。シセルが教えたとおり、無駄な動きをせず、相手をよく見て間合いを保っている。

攻撃に転じるだけが剣戟ではないとリオーネには教えた。筋力の無さを補うためには防御を身につけ、常に頭を使って闘えと。

ユーリはリオーネの動作に驚いていた。

小さく軽量の盾を持ち、木製の剣で向かって来る愛娘は、以前とは全く違う人間のようだった。攻撃力は弱いが、こちらの攻撃を受けないように上手く身をかわしている。

...シセルに大分鍛えられた様だな。

ユーリはほくそ笑み、ならば...と少しばかり力加減を上げることにした。

リオーネはすぐにそれを感じ取った。父の攻撃速度が上がったからだ。リオーネは盾で懸命に防御した。上から脇から打ち込まれるので、見極めないと痛い思いをしてしまう。

「今だ、突けリオン!」

シセルの声が聞こえた。

リオーネは目を凝らして父を見た。

父の腕の下...脇が見える。リオーネは言われたとおり剣を突き出した。

手応えがあった。

ユーリは防具にリオーネの攻撃を受けて動きを止めた。

初めて娘の剣先を身体で感じ、歓喜に震えた。

「リオーネ...」

ユーリは言った。

「良くやった。」

リオーネは父を見上げた。

剣を納めた父の大きな手が、頭ではなく肩に置かれる。

「良いだろう。父はお前を騎士見習いとして認める。いずれ準騎士になれるよう、できる限りの後押しをしよう。」

「お父様....」

リオーネの菫色の瞳が輝いている。

ユーリは目を眇めた。シャリナに似た大きな目が愛くるしい...

できることなら、妻のような淑やかな娘に育って欲しかったが....

しかし、ユーリは誇らしくもあった。『漆黒の狼』を目指し敬う自分の娘が心から愛しくて堪らなかった。

シャリナは怒り責めるだろうが、シセルの進言に賭けることにしょう。

ユーリの心は決まった。

「母を説き伏せねばならんぞ。」

リオーネに向かってユーリは言った。そこが一番の難問だろうと思った。


「今...なんて言ったのユーリ...」

シャリナは呆然としてユーリを見詰めた。

「あの子を...リオーネを他の城主に預ける?」

「ああ。」

ユーリは短く答えて頷いた。

「そんな...貴方...どうかしてるわ。」

案の定、シャリナの顔色が悪くなった。驚愕のあまり血の気が引いている。

「シャリナ...」

ユーリはシャリナを優しく抱き寄せた。その身体が震えている。

「俺も正直不安だが、シセルの報告と実際のリオーネを観て判断した。お前が心配なのは解る...当然だ。だが、リオーネの成長のため、機会を与えてはやらないか?」

「機会...?」

シャリナはユーリを睨んだ。

「本気で言っているのユーリ。心はどうでも、あの子は男爵家の姫君なのよ。他の...城主の身の周りの世話をさせるなんて馬鹿げてる...ありえないわ!」

シャリナは怒っていた。こんなに憤慨する妻を見たのはユーリも初めてだ。

シャリナはユーリの腕を振り解き、後ずさりながら言った。

「貴方は反対してくれると思ったのに....」

「シャリナ...落ち着け....」

「どうしても...どうしても行かせると言うなら、もう貴方とは離縁よ!」

シャリナは踵を返して走り去り、そのまま寝室の扉を閉めて籠ってしまった。

ユーリは頭を抱えた。こんな事態は結婚以来初めてだ。

「シャリナ、話を聞いてくれ...」

追いかけて声をかけるものの、反応はない。ユーリは困り果て、扉の前で途方に暮れた。予想はしていたがまさかここまでとは....

そんな父の様子を観たリオーネとカインは顔を見合わせた。

理由は判らないが、母が怒り、父がなだめているようだ。

「何があったの?」

リオーネが言った。

「さあね。」

カインは冷めた表情で答えた。

「父上を助けてあげたらどう?こういう時は女同士の方が解りあえるだろ?」

「うーん。そうかなぁ...」

リオーネは首を捻った。

「まあ、確かにお父様よりはマシかも...」

リオーネは頷いてから父のいる場所へと歩み寄った。

「リオーネ...」

「お父様、そこを退いて。」

リオーネは言い、ユーリに構わず扉をノックした。

「お母様...リオンよ。中に入れて下さい。」

その声に反応し、扉がすぐに開いた。リオーネは部屋の中へと入って行く....

残されたユーリは深く溜息を吐いた。

女とは何故こんなにも面倒な生き物なんだ....

「父上。」

気付けばカインが傍に来て、笑みを浮かべて立っていた。

「大丈夫。リオンが上手くなだめてくれるよ。」


シャリナはリオーネが入ってくるとすぐにその身体を抱きしめた。

「何があったの?お母様...」

「リオン...」

母の手が優しく自分を包み込む...温もりが心地良い。

「私ね....幼い頃にお母様が亡くなって、家族はお父様と兄様だけだったの。その二人も15の歳に戦死してしまって独りぼっちだった。だから、ユーリと結婚してあなた達が生まれた時は、ああ、もう独りぼっちじゃない...そう思ったのよ。」

いきなりシャリナが切り出した。

「お母様....?」

「一度に2人の母になって戸惑ったけど、そのうちの1人が女の子でとても嬉しかった。...だって、貴族の男の子はすぐに巣立ってしまうから....」

言い終わると、シャリナは抱きしめた手を緩めてリオーネの瞳を覗いた。

「貴方は本当に騎士になりたいの?女性である事を捨てて、本当にそれで幸せ?」

母の問いにリオーネは戸惑った。その表情はとても悲しそうだった。

「ええ...お母様。」

リオーネは答えた。

「私は貴婦人にはなれないわ。」

リオーネの答えに、シャリナは落胆し失望した。顔を見ればリオーネの決意が判る。どんなに自分が願っても、その心が変わることはないのだと....

「私のことでお父様と喧嘩をしたの?」

リオーネは尋ねた。

「いいえ...私が怒ってしまっただけ。ユーリとは一度も喧嘩なんてしたことないもの。」

シャリナは首を横に振った。

「ただ...気持ちの整理がつかないの。貴方が生まれてからずっと楽しくて、まだまだそれが続くと思っていたから。私は貴方に貴婦人として生きて欲しい、今もそう思っているわ。...でもそれは私の願いでしかない。そうでしょう?」

リオーネは母の寂しそうな顔を見るのが辛かった。自分がどれほど母の期待を裏切り、親不孝なのかも理解していた。それでも、前へ進めと心が叫んでいる。その気持ちを止めることはできなかった。

「教官が言ったの。これは生まれ持った宿命だって...だから私は騎士を目指すわ。絶対に。」

「リオーネ...」

その意思の強さに、シャリナはかつてのユーリの姿を重ねた。孤高の騎士、屈強かつ最強と謳われた『漆黒の狼』の勇姿を...

シャリナは瞼を閉じた。

やはりリオーネを留めておく事はできない。例えどんなに寂しくても...

「....良いわ。」

シャリナは言った。

「私も貴方の意思を尊重するわ。もう....好きなようになさい。」

「ありがとう。お母様!」

リオーネはシャリナに抱きついた。

優しくその身体を抱きしめながら、シャリナはいつまでも溢れ出る涙を止めることが出来なかった。


翌年の初めに、リオーネとカインは13歳になった。

冬の間に巣立ちのための支度や勉強を毎日行い、春の訪れを静かに待つ日々が続く。

シセルは雪が積もる前にグスターニュ城へと帰って行き、リオーネは彼が残して行った指南書を何度も読み返していた。春になればペリエ城を離れ、アノック城という見知らぬ場所へ行くことになっている。そこで寝起きをしながら、城主の伴や世話をするのだ。

期待と不安が募るなか、リオーネが想うのはシセルのことばかりだった。

「どうしてるかな...教官。」

リオーネは溜息を吐いた。

シセルがいた日々はめまぐるしかったものの、毎日が本当に楽しかった。花冠の作り方を教わった丘や、早朝の休憩時間が懐かしい....

「早く春にならないかな....」

春になればグスターニュ城でシセルに会える。その日が待ち遠しかった。

その頃、シセルは隊務の傍ら3日に一度はアノック城に通い、観察を続けていた。

静かな森の中に建つこじんまりしたその城は、外部からの来客もほとんどなく、常にひっそりとしている。

城主のセオノアはあまり外出をせず、たまに絵筆を持って森へと向かう。長く垂らした薄茶の髪と青白い肌...そして、くるぶしまで隠れたチュニック姿は、とても成人を迎えた男子には見えなかった。

評判通りのようだな...

観察を始めてから2か月、セオノアにはまったく不審な行動は見られず、シセルは胸を撫で下ろした。これならリオンを安心して預けられるだろう。

口火を切った以上、重い責任を感じていた。愛娘に何らかの厄災が降りかかれば、男爵は私を処断するに違いない。

「...まあ、それ以前に私が自分を赦せないが...」

シセルは声に出して言い、リオーネの顔を思い浮かべた。

ペリエ城を去ってから半年...13歳になったリオーネは少し背が伸びたかも知れない。

....指南書はちゃんと読んでいるか?冬だからと身体を鍛えるのを怠けてないだろうな?

シセルは思わず笑みを漏らした。

今やリオーネの成長がシセルの生き甲斐の様になっていた。

「再会するのが楽しみだ。」

春の訪れを予感させる暖かな陽射しが、森の木々から漏れ差し込んでいる....シセルは目を眇め、そこに立つ男装の乙女を想像した。


リオーネとカインの巣立ちの日、

シャリナは朝から泣いてばかりいた。せめて双子でさえなければ、一度に旅立つこともなかったのにと悔やんでしまう....

そんな母をリオーネとカインは必死に慰めた。大丈夫、心配しないでと言って交互に抱きしめてキスをした。

ユーリは2人を伴ってグスターニュへ帰還する予定だったが、直前になって取り止めた。シャリナの体調が思わしくなく、暫くの間ペリエ城に残ることにしたのだ。

前日に到着していた迎えの騎士団の準備が整い、警護隊長がユーリに出立の報告をした。

リオーネとカインは最後の挨拶を父母と交わして馬に跨った。

「アノック城に着いたら、必ず手紙を書きます!」

リオーネは笑顔で言った。

シャリナはユーリに支えられながら泣き顔で頷いた。

「しっかりね。」

やがて一団が出発し、リオーネとカインはペリエ城を後にした。次第に遠ざかっていくペリエ城を振り返り、リオーネは瞳を潤ませる。

「泣くなよリオン。」

カインが言った。

「男は泣かないものだ。」

カインは泣いていなかった。そして一度も振り返ろうとしなかった。

「うん。そうだな。」

リオーネも頷いた。

....そうだ。もう私はペリエ城の姫君じゃない。騎士見習いのリオンなんだ。

リオンは背筋を伸ばした。

引き返す事はできない。先へと前進するのみだ!




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