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第4話【西の町】

 私はウキウキした気分で街道をひた歩いていた。

 目指すは西の洞窟。


 既にブレイブたちは一足先に向かっているはずだが、流石にまだ洞窟の中の主を討伐するには早いだろう。

 世界には魔王が生み出したとされる、魔族や魔獣がはびこり、人々の生活を脅かしていた。


 魔族や魔獣は様々な場所に生息し、人間と同じように群れていることがある。

 そういった場合には、必ず群れの主が存在していて、群れを統率しているのだ。


 そんな群れを討伐して、人々の生活に安寧をもたらすのも、勇者パーティを始めとした、討伐パーティの仕事だった。

 魔王討伐が任務なら、そんな寄り道せずにまっすぐ魔王を倒しにいけばいいという話をする人がいるが、それは無理な要求だ。


 魔王と呼ばれる存在が確かに存在すると信じられているが、それが何なのか、何処にいるのかを知る者はいない。

 しかし、魔王を討伐すれば、全ての魔族や魔獣の群れが瓦解すると信じられている。


 つまり、群れの主を討伐していれば、いつかは魔王を討伐できる日が来るかもしれない。

 というのが、私たち討伐パーティの最終目的なのだ。


「と、言っても。ぶっちゃけ何処にいるかも、本当にいるのかも分からない魔王を討伐するってのも無茶な話よねー」


 私は身もふたもないことを呟きながら、さらに西へと進んだ。



「ここが洞窟に最も近い町かしら……何だかずいぶんな人だかりだけれど……」


 今回の討伐は、この町から出された討伐依頼をブレイブたちが受けたのがきっかけだった。

 討伐依頼は、町の周辺で魔族や魔獣たちの根城が発見された際に出される依頼だ。


「さー! 会場はあっちだよ‼︎ 力自慢もそうじゃないみんなも! 一度は記念に挑戦してみてねー‼︎」


 町に入ると、どうやら何かの祭りの最中だということが見て取れた。

 通りは人だかりができていた。


「わー祭りだ! カンロアメあるかしら?」


 カンロアメというのは、カンロの実をすり潰して、粘性のある液を煮詰めてから冷やして固めたもの。

 カンロの実をそのまま食べるより、ずっと甘く美味しいけれど、祭りのような祝い事の時にしか市場には出ない。


 私はついついブレイブのことを頭の隅に一度置き、カンロアメ屋を探していた。

 目線が低くく、周りは人で溢れているので酷く歩きにくいが、カンロアメのため、私が人混みをグイグイとかき分けて進んでいく。


「あ! あった!!」


 少し歩いたとこでお目当ての出店を見つける。

 通りの隙間に、簡易的に作られた屋根と台だけ設置した店だった。


「おにいさん! カンロアメちょうだい!!」

「おや? これは可愛らしいお客さんだねぇ。お父さんかお母さんはどこだい?」


「何言ってるの? 私は一人よ。そんなことより、カンロアメをひとつちょうだいってば!!」


 私の頭の中は、既にカンロアメでいっぱいになっている。

 なにか大事なことを覚えていなくてはいけなかったはずだが、今は忘れてしまっていても仕方がないだろう。


「一人って……お嬢ちゃん。お金は持ってるのかい?」

「そんなのあたりま……え? お金?」


 当たり前のことを聞かれて私は青ざめる。

 というのも、今の私は文字通り無一文だったからだ。


 何故か、ブレイブたちは私に必要最低限の、子供のお小遣いくらいしか持たせてくれなかった。

 残りのお金は、ザードが管理してくれている。


 そんななけなしのお金も、つい最近全額使ってしまった。

 万が一の時にと服の間に隠していた虎の子も全てだ。


 巻物を売ろうとした商人は、私の全所持金を知って、哀れみの表情を向けていたのを覚えている。

 しかし、ありったけの金額を手渡すと、快く私に強化の秘法が書かれた巻物を譲ってくれたのだった。


「あ! そうだ……商人よ。あの商人も探さなきゃ。見つけてこの身体のことを問いたださないと!」


 私がそんなことを思っていると、私の肩が優しく叩かれた。

 思考から現実に引き戻され、目線を上げると、そこには笑顔を作った女性が一人。


「この子ですね? 迷い子というのは」

「ええ。お金も持ってないみたいです。ただ、親がいなくて一人だなんて言っていたから、家出かもしれません」


 女性は私の両肩に手を乗せたまま、首だけ動かしカンロアメを売っているおにいさんの方を向き、そんなことを言った。

 それに答えるおにいさんの発言に、私はさっきよりも顔が青ざめたのを感じた。


「大丈夫よ? 怖かったわね? お姉さんと、いい所に行きましょうか?」

「あ、あの……私、そういうんじゃなくて……」


「あら? 本当に迷い子じゃなくて、家出? どちらにしろ一緒に行きましょう。お家の人が探しているかもしれないわ。ねっ?」

「え、あ、あの!」


 私はなにか言おうとしても、おねえさんは首を横に振り、私の手を取りずんずんと進んでいく。

 私はどうしようか本気で悩んだ。


 このままおねえさんの手を振りほどくのは簡単だ。

 だけど、そうしても事態はなんの改善を見せない。


 私は……いかにおねえさんにカンロアメをご馳走してもらうかを、ひたすらに考えていた。

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新作ハイファン書き始めましたヾ(●´∇`●)ノ

千年の眠りから覚めた天才魔道具師は創りたい〜冬眠装置に誤って入った私が目覚めたのは、一度文明が滅びた後の未来でした〜

魔道具師が滅んだ千年後の未来で、コールドスリープから目覚めた天才魔道具師が、魔道具を創りたい衝動に駆られてあれこれ騒動を起こす話です。 良かったらこちらもよろしくお願いします!
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