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だらだら文章の短編集  作者: 餅井
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天使の化石

少女の両親が経営している民宿『よねくら旅館」に半年に一度、来訪する謎の男に少女は惹かれていた。しかし男と両親にはある秘密があることを知ってしまう。

少女が何を思いどのように行動するか見てやってください。


 不服な顔で窓を見ながら指を髪に絡めて遊ぶ。視線の先には路線がある。三十分に一回は定期的に電車が通っている。今日の天気は晴れていて快晴だった。教室は騒がしい、少し前に休みのベルがなったから。女子二名近づいてくる。

「放課後どこか寄って帰らない」

 少女は振り向いて、

「いいよ、でも遅くまでは無理かな」

「仕方ないよね、いつものことだし気にしなくていいよ」

 髪が少し奇抜な色の女子は少女の肩に手を軽く置いた。眼鏡をかけた女子も机の前に立つ。

「私の貸した『天使の化石』読んだ」

「読んだよ、面白かったけど私にはちょっと難しかったかな……」

 机の中に手を突っ込んだ。眼鏡の女子は顔を近づける。少女は視線をずらした。奇抜な女子は眼鏡の彼女に向かって話しかけた。

「その『天使の化石』ってどんな話よ」

 眼鏡の女子は彼女に向かって説明し始める。現代よりもっと未来の話、感情の持たない少女が『天使の化石』に触れることで物語は始まる。それまで感情がなかった彼女はある一人の男性のことを好きになる。好きな思いは日に日に積もらせていくがある日、親から出生を聞かされる。少女は限りなく人に近い機械人間だった、そのため今まで感情を持つことがなかった。彼女はそのことで悩み始める。この「好き」とういう感情は本物なのか、もしかしたら本当は感情など虚構のものだったのか―――

 彼女が物語を言い終える前に休みが終わるベルが鳴る。

「その話ちょっと面白そうじゃない、放課後その先聞かせてよ」

「これは読んだ方がいいわ」

「じゃあ、これ読んだし又貸してもいい」

 机の中から取り出した本を眼鏡の女子に見せる。

「いいよ、ファンとして嬉しいし」

 本を受け取った女子二人は自分の机に戻った。先生が教室に入ってくる。机の上の肘をついて窓に外を向けた。


 街中はクリスマスの準備が進められている。少女三人は商店街の喫茶店に来ていた。店の中は夕方なので客数は多く、騒がしいかった。机の上にはイチゴパフェとミートボールパスタ、ミルクティーが置いてあった。眼鏡の女子が、

「明日から冬休みね、暇になるわ、学校があった方がいいのに」

 彼女の言葉を聞いて奇抜な女子は読んでいた『天使の化石』を閉じて驚いた。

「嘘、全然暇になんないよ」

「あんたはアレがいるからそんなことが言えんのよ」

「あーでもクリスマス付近は会えないんだった」

 溜息で肩が下がりながらパスタを食べる。少女は少しずつパフェを食べながら眼鏡の女子のことを見る。ミルクティーを横に置きペンを走らせている。

「そういえば何やっているの」

「これ、宿題よ、宿題」

「あんた真面目ね」

 パスタを食べ終えた彼女は本を読みながら意地らしく言った。眼鏡の女子は少し膨れて、

「休み最後になってヒイヒイ言ってなさい」

「大丈夫、私はやってもらうし」

 二人が言い争っている中、少女は携帯の画面に目を向ける。画面には日付と時間が表示されていた。十二月二十三日金曜日、16時30分。

「私、もう時間だしそろそろ帰るね」

 パフェを食べ終え、代金を机の上に出す。言い争っていた二人は少女の方に向いた。

「あーもうそんな時間か」

 奇抜な彼女が名残惜しそうに少女のことを見つめてくる。眼鏡の彼女が代金を預かった。

「仕方ない、一緒に払っておいてあげるよ」

「ごめんね、ありがとう」

 鞄を持って喫茶店から出る。人が多い中、走ってバス停まで向かい乗り込む。少女は少しだけ商店街を振り返った。そこはクリスマスの準備でキラキラと光っているのが見えた。


 海岸近くの周辺に少女の家がある。海からくる風は冬なので肌に刺さる。外套の光はあるものの薄暗い。少女は旅館の前に着く。目の前にある建物は民家にしては大きく『よねくら旅館』の看板が無ければ旅館には見えない。彼女は裏口から家に入った。板場には母親が今夜の食事の用意をしている。

「ごめん、遅くなっちゃった」

「早く着替えってらっしゃい」

 母の言葉を受け取った少女は寝室へ向かった。部屋に入ると制服を脱ぎ、着物姿に着替える。『よねくら旅館』は家族経営でしている旅館だ。父がフロントをやり母が板場で少女は接客をしている。今夜の泊まり客は『よねくら旅館』の常連客だ。少女が初めて父と一緒に接待した相手でもあった。

 着替え終えた彼女は寝室を出て玄関に向かう。表に出てお客様を待ち東側からタクシーのヘッドライトが見えた。タクシーは停車して一人の男性が降りてきた。

「ようこそ、おいでになられました」

 男性は旅行鞄を渡し彼女と一緒に旅館の中に入る。父のいる受付でチェクインを済まし、部屋に案内をする。二階へ続く階段を上がり一番奥の部屋に向かう、男性が不意に尋ねる。

「半年ぶりだね、高校生活はどうかね」

「はい順調です、高倉様こそ毎度家に泊まっていただき誠にありがとうございます」

「ここの宿は安いし何より若女将がこうして出向いてくれる」

「それに年々、君の母に似てきて美しくなっている」

「それはありがとうございます」

 少女は顔を崩さないように視線を足元に向ける。高倉洋一、半年に一度、三日間ほど泊まっていく父と母と古くから繋がりのあるお客様と聞いている。しかし年齢も職業も両親からは彼女は何も聞かされていない。部屋の前に付き襖を開ける。彼が入る前に鞄を渡す。その時、少女の小さな手と大きい男性の手が触れ合う。

「では19時にお食事を持っていきます、どうぞごゆっくり」

 頭を軽く下げ一階の方に降りる。彼女は右手を左手で覆い顔へと近づけた。


 食事の時間の少し前となり板場に少女は向かった。母は今夜出す品を作り終えている。その品をお盆にのせ二階に持っていく。部屋の襖を軽く叩くと中から返事が聞こえた。

「お食事を持ってまいりました」

 彼女は品を机の上に置いていく。白米、みそ汁、旬の刺身、香箱蟹、漬物と茶碗蒸し。置き終えると部屋の入口付近に座り食事が終えるまで正座している。高倉は、「いただきます」と言うと食べ始めた。その間静寂が続く、まず初めに白米を一口、次に鰤の刺身に手を出した。食事をとる姿勢はとても綺麗でよく噛んで食べている。次に香箱蟹に手を出した。足の殻を取り剥き出しになった身を食べる。足を全部食べ終わり最後に濃厚な内子と外子が入っている殻を剥ぎ少しずつ味わう。部屋の時計の針は均等に進んでいた。最後に冷めたみそ汁を飲みおえ、「ごちそうさま」と言って食べ終えた。

「暇ではなかったかい」

「いえ、慣れていますので」

「……そうか」

 食事の片づけが済むと高倉は彼女が部屋から出るさい、灰皿を持ってきてくれと頼んだ。

「はい、お布団を敷く際にご一緒に持っていきます」

「かまわない」

 部屋の襖を閉め少女は父と母のところへ向かった。


 少し時間が経ってから高倉の部屋へ尋ねに行った。少女は手に灰皿をもって中に入っていく。机の上に置き彼女は正座をして頭を下げる。

「では、お布団を敷かしていただきます」

 まず初めに部屋の物置から布団一式を出す。敷布団を引いているときに高倉が話しかけてきた。

「毎回、家の手伝いをして大変じゃないか」

「慣れていますから、今は特に」

 懐から煙草を出し彼は口にくわえ、ライターで火をつけ始める。

「慣れているか……辛くないかこの仕事」

「辛いですけど、夢を見られます」

 彼女は敷布団の上にシーツを被せて布団を作る。デコに手を当て机に肘をつき煙草を吸い始めながら顔を見つめ聞き返す。

「夢ね……どんな夢よ」

「……言葉にできません」

 少し沈黙が流れる、男は煙草を吸い少女は掛布に包布を付けていた。次に言葉をかけてきたのは彼女の方からだった。

「高倉さんは一生を添い遂げたい人はいますか」

「いない、……君こそどうなんだい」

 彼からは優しい声で投げかけられる。彼女は布団を敷き終えると物置の襖を閉め、部屋の入口近く行き振り返った。

「私はいます、今好きな人がいます」

 ハッキリ言った彼女は部屋を出る。その姿を高倉は煙草を噴かせながら見ていた。階段を降りる少女に月の光が差していた。


 今晩の『よねくら旅館』は高倉以外の客は止まっておらず、仕事の量もなかった。茶の間で父と母と少女は夕食をとり今夜の業務は終了する。仕事で疲れた体を洗い寝室に戻った彼女はいつもより早い時間で寝ることとなった。深夜寝室の前を通る足音が聞こえた。目が覚めた少女は部屋の外を覗く。暗い階段を上がっていく父の姿を見えた。彼女もこっそりと後をつける。階段を上がりきると高倉の部屋に入っていく姿を見た。聞き耳を立てて二人の会話を聞く。襖は少し薄く今晩の静寂さだと内容がよく聞き取れる。

「高倉さん、やはり無理でしょうか」

「ああ、無理だよ、これだけ落ちていれば」

「そこを何とか、これで家は何十年と食いつないでいるんです」

「無理なものは無理だ、これ以上支援することは出来ない」

「せめて娘を……娘を高校から出すまでは……何とか」

「社長の私でも出来ることと出来ないことがある、残念だが今年一杯までだ」

 立ち上がる音が部屋から聞こえた。少女は隣の部屋に隠れる。廊下を歩く音は弱く彼女には聞こえた。部屋には高倉が机の前に座り肘を置いて頭を掻いていた。彼女は誰にも気づかれず寝室に戻る。暖かい毛布に包まり目を瞑る。手を強く握る、体を小さくするが今夜は寝付くことが出来なかった。


 窓から日の光が差し込む。携帯電話の画面に目を移す。十二月二十四日 6時30分。少女は寝巻から着物に着替える。板場に向かうと朝早くから母の姿が見えた。ゆっくりと包丁がまな板に当たる音が響く。彼女は少しだけ拳を強く握る。

「あれ、お父さんは」

「今日は朝食を食べたら用事があって出かけています。今夜は戻ってこれないそうです」

 少女は一度、母から顔を逸らしまた向き直した。

「……そうなんだ、今、手伝うことある」

「もうそろそろで作り終えるから」

「わかった」

 窓から日差しが母を当てる。少女は他の作り終えている品をお盆の上に準備する。使い慣れた食器皿や食器棚など目に映る。

「今日もあのお客さんしかいないからこれが終わったら夕方まで暇にしてもいいよ」

「……わかった」

 料理を作り終えた母は最期の一品をお盆に乗せた。朝食を持った彼女は板場を出て廊下を通る。玄関にいた父と出会う。フロントの準備をしていて複雑な顔をしていた。少女は少しだけ戸惑いながら話しかけた。

「おはよう、他にもお客様来るの」

「今日はあの人しかいないよ」

「……そう、今日帰ってこれないの」

「……うん、少し大事な用事があるから」

「頑張ってね、これ持っていくから」

 階段を上がり二階の廊下は日差しが出ていた。高倉の部屋前まで来ている。襖を軽く叩いた。中から彼の返事が聞こえた。彼女は部屋の中に入る。

「朝食を持ってまいりました」

 朝食を机の上に置き、部屋の襖前に座る。部屋は日差しが窓から入ってこなく薄暗い。ゆっくりと部屋時計の針が動く。二人に会話がなく静寂が続く。タンスの前に置いてあるチャックの開いた鞄からノートパソコンが出ている。彼女は年季の入った畳に手が触れた。左手で指を髪に絡めていじっている。高倉がゆっくり息を吐き、茶碗を置いた。食べ終わったのを確認した彼女は片付けを始める。

「ここは静かだな」

「そうですか」

「そうだとも、都会の朝はこんなものじゃない」

「なら一生ここに居てくださればいいのに」

「それが出来れば苦労しない、私にも立場がある」

 高倉はため息をつき懐から煙草を出す。少女は片付け終え彼の部屋から出ていく。板場にお盆を置き、朝食を取らずに寝室に戻る。彼女は着物を雑に脱ぐとそのままベッドに体を預けた。そしてもうひと眠りに着いた。


 昼、ひと眠りから覚めた少女は、寝室の扉が開いていることに気が付いた。閉めに行こうとすると二階から何か音がしている。彼女は小鳥のさえずりを消さないように二階へと上がる。すると彼の部屋の扉が少し開いた。彼女は中腰でそこから中を覗きこむ。高倉は布団に入っているが一人分の膨らみではなかった。

「君と遊べるのもこれで最後かもしれない」

「そうですか、もうこれでおしまいね」

 少女はもう一人の声に聞きき力が抜けるように、床にペタリと女の子座りをした。その声は母のものだった。布団から半裸の彼が上半身だけ起こした。母を見ながら話し始める。

「何故、もっと感情的にならない、私は君を捨てるのだぞ」

「私は夫のために貴方を色仕掛けしていたの……捨てるのは私に魅力がなくなったのよ」

「そんなことはない」

 高倉はそう断言した。そして彼は母に覆いかぶさる。波の音が響く。

「私は、君が好きだから抱いたのだ、そして君も抱かれたのだろう」

「……あなたは一生を添い遂げたい人はいますか」

 覆いかぶさっていた高倉は母から少し離れた。そして母は上半身を上げ掛け布団で隠し、高倉と目線を合わせた。高倉の出ていた左手が強く握られる。

「君もそのようなことを」

「とても大事なことです」

「……あなただけです、だから亭主と別れてこちらに」

 彼はそう言うと彼女に抱きついた。母はそれを受け止めて抱きしめた。少女はそんな光景を見ながら体が少し揺れ、下唇を嚙み、両腕を強く握っていた。彼女は抱きしめた高倉の両肩に手をのせ少し離して話す。

「それは出来ません、私が愛したのはあの人なのですから」

 時計の針の進む音が部屋に響き渡る。彼女は彼に言った。

「それに、あなたの周りにもっと魅力的な子がいるじゃありませんか」

「なら最後にもう一度だけ思い出を私に」

 彼はそう言って母を再び抱きしる。母もまた受け止め布団の中へと入っていた。少女はその場から音を絶てず逃げるように寝室へと帰った。ベットの上に寝転がると目を閉じる。昼の日差しが彼女を照らすし、瞼を閉じても明るかった。そして先ほどまで流れなかった涙が少しずつ落ち、意識が光へと消えていった。


 夕暮れ、窓の景気を見ていた。数十分に一度、車が通る。海が穏やかに揺れている。海面は光が反射して輝いていた。少女は徐に携帯電話を取り眼鏡の女子に電話を掛ける。二回コール音が鳴った後、電話が繋がった。

『もしもし、珍しいわねこの時間に掛けてくるなんて』

「ごめんね、今大丈夫」

『うん、暇だけどどうしたの』

「質問していい」

『何よ、本当にどうしたのよ』

「昨日話していた『天使の化石』の続き聞いてもいい」

 電話越しに眼鏡の女子に溜息をつかれた。少し声を落として聞き返してくる。

『読んでなかったのね』

「……ごめんね」

『いいわよ、これ聞いたら読んでよね、約束』

「うん、ちゃんと読むよ」

 眼鏡の女子は少女に何処まで覚えているか聞いてから話始めた。自分を知った機械人間は中にある「感情」に疑問を持つ。しかし誰に聞いても納得のいく答えが出なかった。少女は明確な答えを欲しかった。『この感情は虚構ではない』街をさまよっていると男性と初めて会った場所にいた。しかも男性はベンチに座っている。彼女は思いを伝えようと向かうが先に知らない女性が彼と接触した。様子を見るとどうやら男と女の仲のように見えた。少女はその場から去る。それから『天使の化石』に触れる以前の感情のない少女に戻った。しかし時々彼女は思い出すあの男性は本物だったのかと―――

『これで終わり、結局この子にとって男性こそ自分で作った虚構のそのものだったと私は考えるわ』

 少女は小さな声で聞き返してきた。

「本当にそう思うの」

『何かあったの、話してくれる』

 下唇を甘噛みして、床に置いてある着物を見る。左手を強く握った。

「……何にもない、本当に何にもないから」

『そう、無理しないでね』

 返事を返し電話を切る。薄暗い部屋の中で少女はただ一人椅子に座っていた。数分たった後、奇抜な髪の子に電話を掛けた。


 クリスマスも真っ只中、商店街は催しが派手に輝いていた。喫茶店に眼鏡の女子が来ていた。周りはいつも通り人が多く騒がしい。その中でも若い男女が多い。机の上には珈琲とフレンチトーストが置いてあった。

「遅いな、まさかすっぽかしたんじゃ」

 入室のベルが鳴り奇抜な髪の女子が入ってくる。彼女はウエイトレスに連れられてテーブルの近くに来た。眼鏡の子の向かいに座りイチゴパフェの注文をする。

「遅い、何をしていたのよ」

「急に呼び出してごめんね、はい本持ってきたよ」

 そして鞄の中から『天使の化石』を出し机の上に置いた。

「はいはい、こちとら宿題で忙しいのに」

「思い出したらすぐに返さないと、忘れちゃうし……いいじゃん、息抜きってことで」

 本を受け取り眼鏡の子は鞄の中にしまう。珈琲を一口飲み彼女と少しだけ話している。その時、思い出したかのように奇抜な髪の子が質問してきた。

「そういえばさっきあの子から電話かかってきたよね」

『天使の化石』の話をしたとたん彼女は眼の色を変えて質問してきた。

「そういえば来たね、そっちはどんなこと話したの」

「この本の感想が欲しいだって」

「そうなの、貴方の感想は私も気になる、聞かせてよ」

 その時ウエイトレスがイチゴパフェを持ってきた。奇抜な女子は肘を付き、食べながら感想を言い始めた。

「結局、機械の少女って自分から諦めていったんだよね、私ならそんなことしないもん。横取りされようが自分の気持ちに気づき付きあいたいのなら言えばいい、それで断られたとしても言ったら言った事実が出来る。その気持ちは虚構じゃなくなるはず、だから後悔しないように行動してみようよと答えたな」

 眼鏡の子は手で口を覆い真剣に話を聞いていた。奇抜な女子はウエイトレスを呼びドリンクの注文を頼んでいる。口にスプーン咥え彼女は話しかけた。

「あの子何でこんなこと聞いてきたのかな」

「さあ、でも何だか思い詰めているみたいだったけど」

「変なこと起こしてなければいいけど」

「起こさないでしょ、積極的な子じゃないし」

 窓の方に彼女たちは視線を向ける。止んでいた雪が少しずつ降り始めていた。


 夜遅く高倉は銭湯から、雪で少し白くなった車道を歩いている。街灯はともっていても道は暗かった。夜中になると車一つ走っていない。煙草をふかしてゆっくりと歩いていた。空は雪少し降りながら満月が出ている。海面は光を反射して揺れていた。『よねくら旅館』の前まで戻ってきた。玄関は明るいが二階の部屋は暗い。

「おかえりなさいませ」

 掃除をしていた少女の母親が玄関先に出てくる。高倉は軽く手を振って答えた。

「ここは本当に寒いところだ」

「海が近いのですから仕方ありません」

「もっと暖かいところに住まないのか」

「ここが気にいっています」

 彼は額に手を当てる。彼女は手を口の前に当てて息を吐く。白い息はすぐさま消える。

「もう一度考えてくれないか、不自由なんてさせない」

「それは、大変ありがとうございます、今日は静かですのでごゆっくりと」

 能面の表情で答えを返してきた。高倉は頭を掻き旅館の中に入る。階段は月の光が入らず薄暗い。床は歩くたびに軋む音がする。彼は部屋まで来た。襖が少し開いている。隙間から影が伸びている。部屋には人影が少し動いた。襖を開け中に入る。中には背を向き着物を着た髪の長い女がいた。窓から月の光が当たり顔はよく見えない。

「君は……君は誰だい」

 彼女は少しも動かずにいた。高倉は強めに聞いた。

「ここは私の部屋だ、なぜここにいる、答えなさい」

「……あなたの心を奪に」

「何……君は」

 そこには少女ではなく女がいた。彼女は駆け寄り高倉の胸元に飛び込みそして何度も接吻をした。彼は襖を閉め女の肩を掴み距離を開けた。

「彼女の差し金かね」

「違います」

 そして彼女は近づきもう一度、接吻をする。今度はゆっくり長く。時計の針の音が鈍く遅く部屋に響く。

「心に決めた人が君にはいるのではないのか」

「これが答えです」

 接吻をしながらお互い目を見つめあう。息が皮膚に掛かる。体同士が触る。二人は温もりも感じあう。窓からの月光が二人を当て影が繋がる。静寂が部屋を包む。今度はゆっくりと体を剥がした。

「何をやっているのかわかっているのかい」

「私は機械じゃないこの感情は本物なの」

 女は彼の胸元に体を預ける。高倉はそれを硝子の陶器を持つように抱きしめる。優しい声で話しかけた。

「君は私の話を聞かないのか」

 胸の中で首を振る。そして呟くように言う。

「あなたとの繋がりが欲しいの」

 彼女も強く彼の体を抱きしめた。彼女の言葉を聞き、高倉は女の母親の言葉を思い出す。そして彼女の思いに彼は答えるように抱きしめ返した。月光に映る、影が一つになる。


 朝早く高倉は帰りの支度をして一階に降りた。玄関では掃除をしている少女の母に出くわした。彼は彼女と話さずに迎えに来てくれたタクシーに乗ろうとする。しかし彼女に呼び止められた。

「どうしたのです、こんな早くにお帰りになるなんて」

「やらなければならない、用事が入りまして」

「そうですか」

 そういうと彼女は彼の耳元に口を近づける。

「あの子の褥はどうでしたか」

 高倉は彼女から離れ瞳を見つめる。能面のような表情でいる彼女に彼は答えた。

「旦那さんに伝えといてください、あの子が卒業するまで支援しますと」

 少女の母親はニッコリと笑顔になる。彼はそんな彼女を背にしてタクシーに乗り込んだ。そして窓を開け、顔を出し彼女に話し始めた。

「それともう一つ伝えといてください、あの子が卒業するときにまた来ますと」

「わかりました、そう伝えておきます」

 高倉をのせたタクシーは早朝の日の出に向かって走り始めた。


 肌寒さで少女は起きる。窓から見える景色は一面、白銀の世界だった。玄関の近くには足跡とタイヤの跡が残っている。着物を着て板場に向かう。朝早くから母と父が話し合っていた。母は父を抱きしめ、父は目の下に涙を浮かべ喜んでいた。そんな二人の光景を見ながら、笑顔を浮かべ少女は「どうしたの」と話しかけた。


  終


読んでくださりありがとうございます。私が投稿する処女作です。感想のことお待ちしています。

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