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第七話 最胸を目指して

 四限の授業が終わり、昼休みになった。


 私がカバンから可愛らしいさくらんぼ柄の風呂敷を取り出すと、前の席の薫が机をくっつけてくる。


「荻川、結局帰っちまったな」

「みたいだね、なんか悪いことしちゃったなぁ……」

「自覚があるならタマもちっとは男に興味持て興味を。あのままだと荻川のヤツ去勢手術とかにも手出すぞ」

「んー」


 了解と聞き流しの中間のような返事。そんな事を言われても、興味ないものには興味がないのだから仕方がない。


「そういや今日はどうすんだ? また例の子に性懲りも無く会いに行くのか?」

「うん、今日もバイトがあるらしいからその帰り道に待ち伏せするつもり」

「待ち伏せって……タマお前もう隠すつもりないな犯罪者め」


 薫はそんな事を言いながら大きな体とは対照的な小さな弁当箱を開ける。中身はミニトマトやブロッコリーのヘルシーなものが詰められており、その端っこにはちょこんとそぼろご飯。


「薫、いつも思うんだけどそんなんで足りるの?」

「ん? ああ私はこれくらいが丁度いいんだ。あんまし食っても午後眠くなるしな」


 ちまちまとミニトマトを口に運ぶ薫。私は視線を少し落とし、膨よかな二つの膨らみを凝視する。


「何故だ……」


 私は自分の胸と薫の胸。自分の弁当と薫の弁当を見比べる。おかしい。私の弁当は蜜葉お手製のボリューム満点焼肉弁当。毎日栄養をたくさん摂取して牛乳を飲むのも欠かさない。それなのに。


「まあタマは背も小せえしそんくらいが丁度いいって。それで私よりデカかったらアンバランスで気持ちわりぃよ」

「えー! ロリ巨乳いいじゃん! あの胸揉まれる為だけに生まれてきましたみたいな体つきがいいんじゃん! 私ロリ巨乳がいいー! ロリ巨乳になって硬派な先輩キャラを陥落させたい! ちょ〜可愛いでしょロリ巨乳の後輩!」


 私は立ち上がり密かに夢見てた自分の理想を語る。


「キャラに合ってないからやめておけ」


 だけど薫はバッサリ。そんな私の高貴な夢を否定した。


「ふん、絶対ロリ巨乳になって薫に『タマでシコった』って言わせてやる。そのためにも私は日々精進するよ」


 私は座ってかき込むように焼肉弁当を頬張った。完食した後、ポーチからバストアップ用のサプリメントを取り出し口に含む。


「くくく、この薬さえあれば私は最強……いや最胸に……」

「げ、サプリまで飲んでんのかよ。それ効くのか? たまに薬局で見かけるけどよ」

「最近私の胸もだんだん膨らんできた……気がするしなにより四千円もしたんだもん。効くにきまってるよ。ううん、効いてくれないと私が困る!」


 たった三十日分で四千円。心の隅で「あれ? これボッタクリじゃ?」とか考えつつも私は製薬会社を信じ、私の未来を託した。サプリメントをポーチにしまいカバンに投げ込む。


「あ、そうだタマ。あんまり蜜葉ちゃんのこと困らせるなよ」

「え? なんか困らせたっけ?」

「風呂場に急に入ってきたと思ったらひっくり返って気絶したらしいじゃねえか。昨日蜜葉ちゃんに相談されたぞ。姉の奇行が止まらないって」

「あー、そのことか。それはしょうがないんだよ蜜葉の裸体があまりにもセンシティブだったから」

「そうか、それはしょうがな……くないだろ。タマが無茶しないかしっかり見ててくれって昔から蜜葉ちゃんに言われてんだよ。なあ、あんまり心配かけんなよ。タマは……」


 薫の表情は、片眉だけあがって、口元はふにゃふにゃ。なんだそれ。どういう顔なんだろう。


「大丈夫だって! 昨日は蜜葉が私の目が覚めるまでそばにいてくれたみたいだから」

「蜜葉ちゃん、面倒見良すぎるだろ……」

「だよねだよね! 私の事邪険に扱うし姉貴〜なんてぶっきらぼうに呼ぶけどあれ絶対本当は私の事好きだよね! あー蜜葉風邪引かないかなぁ〜そしたら看病イベント突入で個別ルート入るのに」

「アホ言ってないで蜜葉ちゃんの為にもしっかりせんか」


 ビシッと箸で私の脳天にチョップをかます薫。


 いびゃ、と舌を噛む私。


「愛の鞭だね!」

「それな」


 食べ終わったのか、薫は適当な生返事をしてその小さな弁当箱を風呂敷に包んだ。


「ねぇねぇ、薫今日も暇なんでしょ? 放課後駅でアイス食べに行かない?」

「アイスゥ? 別にいいけどタマは例の子に会いに行くんじゃなかったのかよ」

「だいじょぶだいじょぶ。彼女バイト終わるの十一時だから。それまで暇だからさぁ遊ぼうよぉ〜」

「はいはい、放課後な」


 私が猫なで声でお願いすると薫は了承してくれた。


『キーンコーンカーンコーン』


 そこで昼休憩を終える合図のチャイムが鳴った。


「ええー、もう終わりー?」

「次の授業は英語だな。タマ、この前の英語の授業で爆睡してただろ。伊藤がキレてたぞ。次寝たら鼻にチョーク突っ込むぞって」

「ゲ! そんなこと言ってたの!?」


 伊藤とはウチのクラスを担当する英語の教師だ。普通に授業を受けていれば何の害もない人なんだけど何故か居眠りにはめちゃくちゃ厳しくて、噂では以前何度も授業中居眠りしていた生徒を校長室に呼びつけ六時間近く説教したらしい。


「だから次の授業は死んでも起きろよ」

「わ、わかってるよ寝ないよぉ」


 念を押してくる薫に私は少しふてくされた様子で返事をする。ご飯を食べた後とはいえ、別に今は睡魔があるわけでもないし寝るワケがない。


 私は机から教科書を取り出し、背筋を伸ばして授業が始まるのを待った。

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