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冒険者になりました

「うぁっはっは!見事にやられたぜアキヒト!!」


試験代わりの模擬戦から1時間。

ギルドマスターの執務室で、ハリスさんと話していると、勢いよく扉を開け放ち入室きてきたグリーブさんが豪快に笑った。


「グリーブ、もう少し静かにはいってくれたまえ。」


「おう、すまんすまん。」


ハリスさんの苦言も効いた様子はない。


「まったく…怪我の具合はどうだ?」


「治療魔法のお陰でこの通りだ。」


グリーブさんは顎を摩りながらニヤリと笑う。

試合後、失神したグリーブさんはすぐにギルドの医務室に運ばれていった。

医務室にはギルドが雇っている治療魔法師がおり、有料で治療を受ける事ができるのだ。


「元気なようで何よりだ。君が失神するとは、余程の攻撃だったのだろうな。」


「おう、脳天にとんでもない衝撃が走ったぜ。頭が砕けちまうかと思ったが、ギリギリ手加減してくれたみてぇだな?」


グリーブさんが僕を見てそう言った。


「手加減というほどではないですよ。寸止めできる程の余裕はありませんでしたし。」




「いずれにせよ、カネニシ君は見事にその実力を知らしめた。これで君の戦力レベルを公的に認定する事が可能になったよ。」


「なんてったってこの俺に真っ正面から勝っちまったんだからな。相応のレベルで認定しねぇと、負けた俺としても納得できねぇぞ。」


「わかっているよ。彼の戦力レベルは9で登録しておこう。」


「良かったな、アキヒト。登録直後に戦力レベル9認定なんざ、前代未聞だぜ。」


「ありがとうございます。」


「だが、冒険者ランクはFになる。ランクについては知っているかね?」


「はい。」


『異世界のススメ』で予習済みだ。

冒険者ランクを上げるには、戦力レベルと貢献度が共に水準を超える必要がある。

だからどれだけ戦力レベルが高かろうとも、登録したばかりで貢献度が0の僕は最下級であるランクFになるのだ。


「まぁ、アキヒトの力があれば、適当に強い魔物をぶっ殺してくりゃランクはあっという間に上がるぜ。」


「でもランクを上げる為には試験があるんですよね?」


「Dランクより上は、ランクアップの試験が必要となる。」


「おめぇなら大丈夫だろ。軽い軽い。」


グリーブさんが僕の肩をドンドンと叩いた。

強化されてなかったらこれだけで肩が壊れそうな衝撃だ。






「これが君の冒険者証だ。無くすと面倒な手続きが必要だから、注意してくれたまえ。」


「はい、ありがとうございます。」


鉄のようだけど違うっぽい灰色の謎金属のカード。

そこには僕の名前と年齢と性別、そしてランクと戦力レベルが刻まれていた。


「これからどうすんだ?討伐に行くのか?」


横からグリーブさんが問いかけてきた。


「いえ、今日は登録だけの予定だったので、帰ろうかと思います。」


まだ昼前だから時間はあるが、急ぐ必要もないよね。

明日は朝から討伐に行ってみよう。


「そうか。俺は今からメンバーと合流して狩ってくるぜ。」


「あ、グリーブさんってクランを組んでるんですか。」


クランというのは、冒険者が作る固定パーティーだ。

ギルドに正式なクランとして登録する事で特殊な依頼を受けたりもできる。


「おう、"竜砕戦斧(ドラゴンアッシュ)"ってクランのリーダーやってんだ。」


「竜砕…?」


「グリーブの2つ名が"竜砕の雄牛"なんだよ。彼は竜の頭を叩き割って討伐し、Aランクになったんだ。」


「それまでは俺の2つ名もクラン名も違ったんだがな。ランクアップを機にクラン名も変えたんだ。」


2つ名ときたか。

高位の冒険者になったらそんなのもつくのかな。


「ちなみに、模擬戦の前に屋根裏に隠れてたのが、うちのクランの斥候だぜ。」


「え、そうだったんですか。」


Aランク冒険者であるグリーブさんがリーダーを務めるクランの斥候か。

どうりで隠密のレベルが高い訳だ。



「俺を超えるスピードとパワーに加えて、あいつの隠密を破る索敵能力か。アキヒトなら、いつかSランクにもなれるかもしれねぇな。」


Sランク、それは冒険者の頂点である。


「そうなったら、ヒューマンでは初めてのSランクだね。」


この世界には人間以外にも亜人と呼ばれる種族の人々も多く存在している。

種族人口の多いドワーフなんかは、その種族主体の国などもあるのだとか。


「ヒューマンのSランクっていないんですか?」


「ギルドが開設されて200年が経つが、未だにヒューマンでSランクまで上り詰めたものはいない。Aランクも十分に超人的だが、それでもSランクに比べればまだ()()()なんだよ。」


「まるでSランクは人じゃないみたいですね。」


亜人も人だよね?


「人という枠組みからかけ離れた力を持つ。それがSランクというものだよ。現在Sランクの認定を受けているのは、実に4人しかいない。」


「そんなに少ないんですか。」


大陸中の各国に開設されている冒険者ギルドで4人しかいないは……


「俺はその内2人に会った事があるし、1人は一緒に戦った事もある。ハイドワーフの爺だったんだが……ありゃマジのバケモンだぜ。」


グリーブさんが何かを思い浮かべて顔を顰めた。


「純粋な()で絶対に敵わねぇと思ったのはあれが初めてだった。実力の差ってやつを嫌でも悟っちまったぜ。」


「グリーブさんが力で負けるんですか……」


おんな大きな斧を軽々と振り回す怪力無双なのに。

驚く僕に、グリーブさんは笑った。



「なに言ってんだよ。アキヒトだって純粋な力で俺を上回るバケモンじゃねぇか。だから言ったんだぜ。いつかSランクになれるかもなってよ。」


「…頑張ります。」


折角の異世界だ。

男として生まれたからには、やはり力で成り上がる事に憧れてしまう。

努力次第でその頂きに至れるかもしれないと感じ、胸が熱くなるのを感じた。







冒険者登録をして城に戻った僕は、ミレアさんやモニカさんに結果の報告をしたり、ローラントさんに頼まれて騎士達の訓練相手になったりした。

ミレアさんとモニカさんは自分の事のように喜んでくれ、高位の冒険者と繋がりを持ちたい貴族達の社交界でも話題になるだろうとはしゃいでいた。


共に訓練した騎士の中には、僕の姿を見て侮るような態度を取る人達もいたけど、頑丈な大鎧をストレート一発でグシャったら真剣な(怯えた)眼差しになった。

その後の訓練で剣をへし折ったり10m程ぶん投げたりしたら、終わる頃には訓練場を出る僕を敬礼で見送るようになってくれた。



その夜、クラインさんに招待されて食事を共にした。

その際にギルドでの一件を話すと、クラインさんは心底驚いたように目を瞬かせた。


「まさかあのグリーブ殿に勝つとは…これは予想以上だな。」


「グリーブさんを知っているんですか?」


「当然だとも。王国内でも有数のAランク冒険者が我が領地にいるのだ。彼とは懇意にしているよ。父上が王都へ向かう時には護衛を依頼したりもした。」


「そうだったんですか。」


「それにしても登録当日に戦力レベル9に認定されるとは……これは父上にも報告しなければならないな。」


お父上というと、王都にいらっしゃる伯爵様だよね。


「なぜ伯爵様に…?」


「君がモニカを救ってくれた経緯と、我が家に食客として滞在してもらっている事は一昨日の内に手紙を出していた。だがそれが戦力レベル9の冒険者ともなれば話の重要度が更に上がる。」


クラインさんは香りの良い葡萄酒を上品に含んだ。


「君の噂は各地のギルドへ瞬く間に広まるだろう。当然、王都のギルドへも連絡がいくはずだ。国内の有力貴族達が君を欲するだろう。高位の冒険者を囲うのは一種の価値だからな。」


「はぁ、そうなんですか?」


「何かあった時に頼る事ができるというのもあるが、人々にとっては凶悪な魔物を圧倒する冒険者は憧れなのだよ。冒険者に権力はないが、時に貴族をも超える権威を持ちうるのだ。」


「僕の事が噂になれば、貴族の方々にアプローチされる可能性があるんですね。」


「可能性どころではない、確実にそうなるだろう。だから一刻でも早く父上に知らせなければならない。余計な手合いに囲まれるのは君としても面倒だろう。」


そりゃそうだ。

要するに、僕は既に伯爵家にお世話になってますよと知らしめる事で面倒ごとを回避しようと。

その手回しの為に伯爵様にご協力いただこうという訳だね。


「お世話になります。」


「気にする事はない。我々としても、有望な冒険者である君と近しくあれるのは嬉しい事だからな。」


そう言って葡萄酒を呷ったクラインさんは、おかわりを注ごうとしたメイドさんを止めて、席を立った。



「さて、そういう訳だから、申し訳ないが私は中座させてもらうよ。父上に追って手紙を出さなければならないからね。」


「はい、宜しくお願いします。」


ぺこりと一礼すると、クラインさんは鷹揚に頷いた。


「うむ。……あぁそうだ、ローラントに指示をして当家の騎士達にワイバーンの解体をさせている。明日もギルドへ行くのだろう?ついでに売却してくると良い。それなりの額がつくはずだ。」


部屋を出る前に思い出したように振り返ってそう言った。


「ありがとうございます。」


明日も朝からギルドだな。

ワイバーンを売って、武器屋にも行ってみたい。

それから魔物の討伐かな。


いよいよ冒険者活動の始動って感じだね。

楽しみだよ。

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