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お互いを知るって大事だと思うんだ

「カネニシ殿、もし良ければミレアを娶っていただけませんかな?」


「………え?」


真面目な顔でショッキング発言をぶちかますローラントさんに、僕はキョトンと首を傾げた。


「ほう、そうきたか。」


「ローラント…」


クラインさんは面白そうに笑い、モニカさんは何故か悔しそうに唇を噛んでいる。


「あの、どういう事でしょう?」


考えてもわからないことは聞くしかない。

いや、言葉の意味はわかるけどね。

何でそうなったのかがわからない。



「まず、上級のライフポーションは最低でも金貨5枚はする。」


「はい。」


最初は驚いたけど、死にそうな怪我でも一瞬で治せるなら500万円くらいするかもね。


「しかしそれはあくまでも最低の額なのです。一流の薬師が希少素材を使って作る上級ポーションは、ほとんどが王族や上級貴族、そして高位の冒険者等に買い取られます。」


作れる人が珍しい上に必要な素材も希少だと。

そりゃ高くもなるよね。

そして、それだけ希少な薬は作られた途端に一部の人間に取られていく、と。


「それ故、上級ポーションなど我々のような貴族でさえそう簡単に手に入るものではないのだ。」


クラインさんが肩を竦めてそう言った。

更にローラントさんが続ける。


「仮に私が上級ポーションを手に入れようとするなら、冒険者がダンジョンで入手したものがオークションに出た時に参加して競り勝つくらいしかないのです。」


ダンジョンですって、ファンタジーだね。

子どもの頃やってたRPGを思い出したよ。


「薬師のように貴族との繋がりをメリットと捉えない冒険者も多くいる。そういう者達は値を吊り上げる為にオークションに出品するのです。当然、それを落札しようとしたら金貨5枚程度では不可能になる。」


「ちなみに、その場合どれくらいになるものなんですか?」


「大抵の場合は、金貨10枚を超えますな。」


1000万円!?


「富豪商人などが落札する事が多いですな。薬師が作るものは上位の貴族に流れるから、そういったところで手に入れるしかないのです。」




「わかっていただけましたかな。私が上級ポーションを入手する為には、低く見積もっても金貨10枚以上を要するのです。オークションで商人達と競ることを考えると、実際には金貨15枚はかかるでしょう。」


ローラントさんが神妙な顔で頷きながら話している。


「私は伯爵家の騎士なれど、そのような額を謝礼としてすぐにお支払いする事はできませぬ。そこで、我が娘です。」


ドヤ顔でミレアさんの肩に手を置く。

ミレアさんは顔を真っ赤にして俯いていた。

チラチラと上目遣いにこちらを見ている。


「親の贔屓目抜きにしても、ミレアはなかなかの器量です。伯爵家のメイドとして家事なども高いレベルでも修めています。」


「…それで、謝礼金の代わりに私の妻に、と?」


人身売買っぽくて嫌なんだけど。


「いかがですかな?私共としては、誠意を見せさせていただいたつもりですが。」


「誠意…はわかりましたけど、問題はいくつかありますよね?」


「ふむ、例えば?」



「まず、ミレアさんの気持ちはどうなるんです?命を助けたとは言っても、ポーションのお返しとして娶られるってのは、嫌なんじゃないですか?」


「なるほど…ミレア、どうだ?」


「わ、私は、その……」


ローラントさんに振られたミレアさんがより一層顔を赤くしてモジモジしている。


「私は…カネニシ様さえ宜しければ…あの……」


「と、ミレアも満更でもないようです。」


まじかよ、モテ期キタコレ?

いやいや、ただの吊り橋効果だろ。



「しかし私は冒険者になります。様々な所を旅したい気持ちもありますし、この街にずっと留まる予定もありません。」


ミレアさんはモニカさんの専属メイドらしい。

ならば旅についてくるには辞職しなければならない。

それはモニカさんも困るだろうし、ミレアさんだって嬉しくはないだろう。

モニカさんを庇ってワイバーンに引っ掻かれるくらいだし、忠誠心みたいなものは相当なはずだ。


「その場合は現地妻としていただければ宜しいのではないですか?子種さえいただければそういった形も可能かと思います。」


「いやいや、何言ってるんですか。」


なにその発想、こわっ。

しかしローラントさんは僕の反応に首を傾げている。


「各地で引く手数多の高位冒険者ならば、よくある事ではありませんか。」


そうなの!?

カルチャーショックだよ!

地球にはそもそも冒険者なんていなかったからギャップもなにもないんだけどね。




「……ふむ、もしやカネニシ殿には心に決めたお相手でもいらっしゃるのですかな?」


僕がなかなか良い反応を見せないからか、ローラントさんが眉を顰めてそう言った。

ミレアさんが悲しげに瞳を揺らしている。

罪悪感がぱない。


「いえ、そういう訳ではないんですけどね。」


「それでは、ミレアでは不服でしょうか?」


「カネニシ様……私ではいけませんか…?」


そんな泣きそうな声で聞かないでっ!!

こっちまで泣きそうになるから!

いますぐ抱き締めたい衝動に駆られるから!


「い、いえいえ、そういう事でもないのですよ。ミレアさんは素敵な女性ですし、とても魅力的ですから。」


苦し紛れにそう答えると、ミレアさんの表情がぱぁっと明るくなった。

ちくしょう、可愛い!!


「では、何故?」


「そ、それは、その……年齢の事もありますし、まだお互いの内面などもよく知らないではないですか。」


「互いの事はこれから知っていけば良いかと思いますが……年齢、ですか。ミレアは今年で18歳。確かにこの歳で結婚している者は少なくないですが、決して遅れているという程でもないと思いますが?」


ミレアさんって18歳なんだ。

じゃなくて、その歳で結婚してる人がそこそこいるの!?

この世界、この国ではそういうものなのか。

でもそれなら尚更、僕なんて完璧に不良在庫じゃないか。


「ミレアさんが行き遅れてるなんて欠片も思っていませんよ。」


また暗くなりかけたミレアさんを必死にフォローする。


「逆に、僕なんて全くの売れ残りではありませんか。ミレアさんにはもっと素敵な相手が見つかると思いますよ。」


「………はて、売れ残りとは?」


ローラントさんが首を傾げる。

ミレアさんやクラインさん、モニカさんも同様に不思議そうな顔をしていた。


「この国では、18歳までに結婚している人がそれなりにいらっしゃるんですよね?」


「そうですね。貴族であれば15歳で成人を迎える頃には既に婚約者がいる事が多いですし、平民でも成人して数年以内に結婚する事が多いです。」


「ほらやっぱり。僕なんて売れ残りの不良在庫ですよ。ミレアさんとは釣り合いません。」


「………?」


「………?」


ローラントさんが困惑したように眉を顰める。

僕も同様に首を傾げた。

え、なに、どういう事?



「……何やら認識に齟齬があるようだね。」


クラインさんが顎に手を当ててそう言った。


「カネニシ殿、貴殿は幾つなのかな?私の見立てでは、モニカとそう変わらない程度だと思っていたのだが。ちなみにモニカは14歳になったばかりだ。」


「……え?」


「私も1つか2つ上かと思っておりましたが……」


モニカさんが不安そうに言う。

ローラントさんとミレアさんも頷いていた。


「そうですな。私にもそれくらいに見えますぞ。」


「私もです。」


それを聞いて僕は内心で頭を抱えたくなった。

そういえば、外国人からすると日本人は童顔に見えるそうだ。

僕はこの歳になってからも、私服を着ていれば二十歳くらいに見られる事がほとんどだ。

それにしたって15歳くらいに見られていたのかよ。

ちょっと悲しい。


「…僕、これでも25歳なんですけど。」


「「「「…………えっ?」」」」


満場一致のえっ?をいただきました。

もちろん嬉しくない。






その後。


「それでも私は構いません!!」


というミレアさんのお言葉をいただいた。

ローラントさんもミレアさんが良いのならと反対はせず、むしろしっかりと歳を取った大人であると判断されて好評価を得てしまった。


クラインさんも賛成のようだが、モニカさんだけはずっと不機嫌そうな顔をしていた。

大切な従者であるミレアさんが僕みたいなおじさんと結婚するのが嫌なのだろうか。

それにしては僕への態度は変わらず丁寧だ。

女の人はよくわかんない。

それが思春期の女子なら尚更だよ。


ともかく、流れで婚約しそうなところであったが、なんとか保留という形にさせてもらった。

やはり異世界に来たばかりで、深く知らない人と急に婚約するとかは勘弁してほしかった。


ひとまずは互いを理解する時間が必要、という事で妥協させる事ができた。


「まずは胃袋を掴んでみせます…私は負けませんっ!」


「うむ、その調子だ我が娘よ!!」


などと燃え上がっている親子がいたが、見ないフリをした。

どうしてこうなったんだろう。

そんな風に思いつつも、なんだか物語の主人公になったような気分で、頬が緩んでしまう僕でした。

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