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男はやっぱり拳でしょ

「さて、戦うのは良いとして……とりあえず殴ろうか。」


高速で駆けた僕は、スピードそのままに跳躍する。

必死の形相で馬にしがみついている騎士(仮)達の頭上を飛び越え、今にも食らいつかんと口を開けようとしている竜(仮)の鼻っ柱に拳を叩き込んだ。


「ーーーっ!?」


某ジュラシックな映画の恐竜のような鳴き声を上げながら、竜(仮)は地に落ちた。

体長は3m弱といったところであろうか。

それだけの巨体が砂埃を巻き上げながら転がっている。


「うゎーお。気持ち良いね、これ。」


着地した僕は竜(仮)に追撃をかける。

ヨロヨロと体を起こそうとする竜(仮)に飛びかかり、太い首に乗った。

混乱と恐怖と怒りにまみれた瞳が僕を見る。


「君に恨みはないけど、人助けの為だから。ごめんね。」


岩のように硬そうな顎やら頬やら首やら、とにかく届く範囲を滅多打ちにした。

一つ一つの拳打から伝わる確かな手応えと衝撃。

甲高い叫び声を上げていた竜(仮)も、10発ほど叩くと静かになった。


「…っと、倒したかな?」


見開かれた瞳が空を映している。

もはやそこに命の気配はなかった。


「ふぅ、勝てて良かった。スキル万歳だね。」


滲んでもいない汗を拭う仕草をした後、飛び降りて騎士(仮)達の方を見た。

少し離れたところで呆然とこちらを見ている。

僕は現代日本社会人の必殺技『作り笑顔』を遺憾なく発揮して大きく手を振った。







「危ないところを助けていただき、感謝する。私はフォルテーヌ伯爵家の騎士ローラントと申す。」


こちらを警戒しつつも近寄ってきた5人のうち、1人が下馬して兜を脱いだ。

赤髪短髪で精悍な顔つきの渋いおじさまだ。

やっぱり騎士だったんだね。


「間に合って良かったです。私は金西秋人と申します。」


「カネニシャキート?異国の方とお見受けするが、珍しい名前ですな。」


「あ、すみません。金西は家名です。えーと、こっち風に言うと、アキヒト・カネニシですかね。」


「家名持ち?カネニシ殿は貴族なのですかな?」


意外そうな顔をするローラントさん。

気品がないって言いたいのかな。

ただのサラリーマンだから仕方ないけど。


「いえ、私の国では誰もが家名を持っています。私はただの庶民です。」


「国民全員が家名を?そんな国があるとは……」


突っ込まれたら面倒だな。

流そう。


「遥か遠くの島国ですから。今はしがない旅人です。」


「世界は広いという事ですな。それにしても、旅人…ですか。」


ジロジロと僕の体を眺める。

え、なに?


「えっと、何か?」


「いえ、ただの旅人がワイバーンを単独討伐などできるものですかな。しかも武器を使わず素手でなど。」


あらやだ奥さん、ワイバーンですって。

竜(仮)の正体はワイバーンでした。

てかめっちゃ疑われてる、というか警戒されてる。

しかし大丈夫だ、落ち着け僕。

泰然自若スキルの出番だ。


「力には自信がありますから。それもスキルのお陰ですが。」


「ほう、その系統の強力なスキルでも持っておられるのですな。……いや失礼、命の恩人を詮索するのも不粋ですな。」


「お気になさらず。騎士であれば疑って当然でしょう。」


「そう言っていただけると。それにしても先程の戦いはお見事でした。重ねて、御礼申し上げる。」


「いえいえ。」


作り笑いで首を振る。

こういう時、日本人ならいえいえって言っちゃうよね。




ローラントさんとそんな風に話していると、残りの4人もやや警戒を解いて近寄ってきた。

だが、1人だけ様子がおかしい。


「はじめまして、私はアキヒト・カネニシと申します。ところでそちらの方は大丈夫なんですか?」


メイド服を着た女性が怪我をしていた。

背中が刃物のようなもので切り裂かれたようになっており、血も出ているようだ。

顔色が悪く肩で息をしている。


「なっ!大丈夫かミレア!?」


ローラントさんが慌ててメイドさんに話しかける。

ミレアさんというのか。


「うっ…す、すみませんお父様…実は先程から息苦しくて……あっ…」


力が入らなくなったのか、膝から崩れ落ちるミレアさん。


「ミレア!!……まさか、ワイバーンの毒か…おのれっ!!」


ミレアさんはローラントさんの娘みたいだね。

てかワイバーンって毒持ってたのか。

切り傷っぽいから爪で攻撃されたのかな。


「いや!ミレア、死なないでっ!!」


お嬢様っぽい人がミレアさんに泣きついている。

ミレアさんも大粒の涙を流していた。

うーん、どうにか助けられないかな。

あっ、あれを使えば治るかも?



「えーっと……あった。あの、良ければこれ使います?」


リュックから緑色の液体の入った丸底フラスコを取り出して見せる。


「ライフポーションか!……すまない。気持ちは嬉しいが下級ではワイバーンの毒は治癒できんのだ。」


喜色を浮かべたのも一瞬。

悔しげに唇を噛み締めるローラントさん。


「むむ。ならこっちでどうです?」


次に取り出したのは青緑色のライフポーション。


「中級ポーション!!こ、これならあるいは!!」


「いえ、駄目です。既に毒は全身に回ってしまっています。しかも、ミレアさんの体力ではもう……」


ローラントさんの部下っぽい騎士が嘆くように首を振った。


「くっ、そんな…ミレア……くそっ……」


怒りに震えながら地面を殴るローラントさん。

中級でも駄目なのか……仕方ない、よね。



「はい、ローラントさん。」


「そ、それは…!!」


俯くローラントさんの肩をポンッと叩いて新たなポーションを差し出す。

こちらを見ていたお嬢様っぽい人が驚きの声を上げた。

ローラントさんが顔を上げる。


「ぬ?…ぬおぉぉぉ!!こ、これはっ!!上級ポーションだとぉぉ!?」


驚愕に目を剥いて飛び上がる。

ギャグ漫画みたいで面白い。


「これなら効きますかね?」


「も、もちろん大丈夫です。間違いありません。」


部下の騎士さんに問うと、カクカクとした動きで何度も頷いた。


「では、どうぞ。」


「こ、これをくれると言うのか……上級ポーションだぞ…?」


「まぁ、助けられるのに助けないというのも寝覚めが悪いですし。」


ここで見捨てたら罪悪感で押し潰されてしまうよ。

泰然自若スキルを手に入れても根が小市民なのは変わらないみたいだ。

ついでにいうと上級ポーションがどれほどの価値なのかも正確にはわからないし。


「し、しかし…」


「良いから使って下さい!はやく!」


ミレアさんの体が小刻みに揺れ、顔色がどんどん白くなっていくのを見て、僕は強制するように押し付けた。

反射的に受け取ったローラントさんが呆然とポーションを見つめる。


「ロ、ローラント!ミレアが!!」


「っ!カネニシ殿、忝い!!」


焦ったように声を上げるお嬢様っぽい人に急かされて、ローラントさんがコルク蓋を開ける。

そして倒れているミレアさんを抱き起こして、その背に半分を振り掛ける。

更に半分を飲ませた。

さて、どうなる。




効果は劇的であった。

抉られていた傷痕は綺麗になくなり、艶かしい背中が露わになる。

不健康ど真ん中な青白い肌は温かみのある健康的な肌に変わった。


「おっ、おぉ…これは!」


「ミレア!あぁ、良かった!治ったのね!!」


「こ、これが上級ポーションの回復力なのか…」


「おー…これは凄いですね。」


一様に目を見開いてその瞬間を見守った。

やがて、ミレアさんは眠りから覚めるように目を開いた。


「んっ…ここ、は……?」


「ミレア、大丈夫か?」


「お父様?私は…そうだ、私はワイバーンの毒で……あれ?どうして苦しくないんでしょう?」


キョトンとして己の体を確かめている。


「ミレア、お前は九死に一生を得たんだ。こちらのカネニシ殿がポーションを譲って下さったお陰でな。」


「ポーション?でも、あの状態からワイバーンの毒を解毒するなんて……」


「カネニシ殿が下さったのは、上級ポーションだ。」



「上級?……え…そ、そんなっ!上級ポーションを、私に!?」


顔面蒼白になって慌てるミレアさん。

え、また倒れたりしないよね?


「あ、安心しろミレア。お礼は何としても私がお支払いしてみせる。」


「で、でもお父様、上級ポーションは最低でも金貨5枚はするのですよ!?」


金貨5枚……えっ、500万円相当!?

あれ、そんなに高いの!?


「だ、大丈夫だ。これでも私は伯爵家直属の騎士だぞ。それくらい、なんとか……」


そこで、親子の会話にお嬢様っぽい人が割り込んだ。


「そのお礼は私がします。ミレアが切り裂かれたのも私を庇ってのこと。ましてやミレアは私の従者です。私が償うべきです。」


ほう、ミレアさんはこのお嬢様っぽい人を庇ってワイバーンに襲われたのか。

なるほどなるほど。


「そ、そんな、お嬢様!?」


あっ、やっぱお嬢様なんだ。


「それはなりません、モニカ様!ここは父親である私が!」


「しかし、そうしなければ私の気が収まらないのです!」


お嬢様はモニカさんっていうんだね。

ローラントさんが伯爵家の騎士だっていうなら、モニカさんは伯爵令嬢だったりするのかな。

伯爵ってのがどんなのかもよくわかってないけど。




「あの……」


誰がお礼をするかの議論で僕が除け者にされるってどうなのだろう。

ラチが明かなさそうだったので口を挟んでみた。


「はっ!カ、カネニシ殿!」


「どうも。お礼云々の話ですが……」


「それは私が必ずお支払いしますぞ!」


「お待ち下さい。カネニシ様、私はフォンテーヌ伯爵であるゲルド・フォンテーヌの長女、モニカと申します。」


「あ、どうも。アキヒト・カネニシです。」


「この度は我が従者であるミレアを救っていただき、感謝致します。御礼については私からさせていただきます。」


「モニカ様!なりませんぞ!」


「しかし!」


「あーのー……ちょっと良いですかぁ?」


うんざりしたように再度口を挟む。

2人が同時にこちらを見た。


「なんでしょう、カネニシ殿。」


代表してローラントさんが尋ねた。


「お礼についてなんですけど、金銭以外でお願いしたい事がありまして。」


「お願い……とは?」


怪訝な表情。

何を要求されるのか、という感じだろう。

だが僕がお願いしたいのはローラントさんではなく、モニカさんの方だった。



「……?」


モニカさんが首を傾げる。

僕は率直に要求を突きつけた。



「冒険者になりたいので、推薦をしていただけませんか?」


『異世界のススメ』に書いてあったけど、貴族の推薦があると色々都合が良いらしいよ。

使えるものは使わないとね。

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