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灯消えて異世界へ

1時間程の残業を終えて退勤の支度をしていると、急に胸が苦しくなって目の前が真っ白になった。

座り慣れたオフィスチェアを巻き込んで倒れ伏す。

室内にいた同僚達の驚きの声、慌ただしい喧騒を耳にしながら、意識を失った。




金西秋人(かねにしあきひと)君じゃな。ようこそ天界へ。」


目を覚ますと一面真っ白な空間。

目の前には古代ローマやらギリシャっぽい白い()を纏った、微笑むお爺さんの姿。


「えっと、ここは……えっ?」


天界という聴き慣れない言葉に首を傾げる。

ふと違和感を持って自分の体を見ると、生まれたままの姿で立っていることに気付いた。

しかし、不思議と羞恥心などは湧き上がってこない。

まるでこうある事が自然な事のように思えた。



「ここは天界。我々、神の住まう天上の世界じゃよ。」


「神様…ですか。」


突拍子もない言葉。

だが疑わしいとは全く思わなかった。

ただ、なるほど、と思っただけだ。


「私は死んでしまったのでしょうか?」


「うむ、そうじゃの。若くして残念なことじゃが。」


「そうですか。」


ひどく落ち着いている自分がいた。

僕はこんなに冷静な人間ではなかったはずだ。

この不可思議な空間にいるからか。

神様の放つ優しく暖かくも絶対的なオーラに影響されているのか。

ともかく、小市民の僕らしくもなく、自分の死というものを自然に受け入れていた。



「私は何故死んでしまったのでしょう?」


記憶にあるのは強烈な胸の痛み。

心不全の類いだろうか。


「うむ。君の死因は……」


神様が申し訳なさそうに眉を寄せた。


「天使の過失じゃ。」


「天使の…過失?」


意味がわからない。

いや、それぞれの言葉の意味はわかるが、何がどうなって僕の死に繋がるのだろう。



「天使とは我々の部下のようなものでの。君のいた地球、その中の日本を儂の名代として管理している天使がいたのじゃが、こやつが誤って君の灯を消してしまったのじゃ。」


「灯…」


「命の灯じゃ。いかなる理由があろうとも、決してこれに触れる事は許されんのじゃがな。」


「しかし、何かがあってその天使様が触れてしまい、私の灯が消えたという事ですか。……天使様とはそのような失敗をなさる方なのでしょうか。」


「このような事、そうそうあるものではないのじゃが……弁明はできんの。」


「その天使様はどうされているんですか?」


「消した。今は他の天使が管理しておるよ。」


消した。

淡々とした言葉。

僕は絶句した。


「たった1度の失敗で、ですか?」


「1度の失敗も許してはならんのじゃよ。それが世界を管理するという事じゃ。」


変わらず和やかな表情。

しかし、その言葉には有無を言わせぬ力があった。




「ともかく、儂の部下の過失により、君の未来が奪われてしまった。その償いをさせてほしいのじゃ。」


「償い、ですか。」


もしかして生き返らせてもらえたりするのだろうか。

しかし、僕の考えを読んだように、神様はゆっくりと首を振った。


「申し訳ないが、君の灯が消えてしまった以上、あの世界に返す事はできんのじゃよ。」


「そうなのですね。」


神様も全知全能ではなかったようだ。

それも当然か。

もし神様が全てを知っていたなら、僕がここにいるのがおかしいのだから。




「君が望むならば、儂は君を異世界へ送ろうと思っておる。」


「異世界?」


急にサブカルチックなものが出てきた。


「他の神が管理する世界へ、君を送るのじゃ。」


「しかし、私の灯は消えてしまったのですよね?」


そういえば、何故僕はこうして神様と話できているのだろう。


「灯とは、君がその世界で生きているという証明のようなものじゃ。1度消えてしまったものを、もう一度証明する事はできんのじゃよ。」


再取得不可能な免許取り消しのようなものだろうか。


「じゃが幸いにして、君の存在そのものである魂は、無に帰する前にこうして回収する事ができた。」


魂。

僕の存在そのもの。


「その魂を他の神に託し、その神の管理する世界でもう一度灯を灯す。そうすれば君は再び生きる事ができる。」


「是非、お願いします。」


即断した。

死を受け入れた僕だが、もう一度生きられるならそのチャンスを逃す手はない。


「君の世界でいうゲームのような、魔物(モンスター)もおる世界じゃが、良いのかの?」


「このまま死ぬより嬉しいです。」


神様は頷いた。



「そう言ってもらえて良かったのじゃ。既に先方には話を通してある。」


「その神様ともお会いするのですか?」


「いや、その必要はなかろう。特に話もないじゃろうしの。」


「そうですか。」


それもそうだ。


「さて、異世界へ行く前に、特典を与えようかの。」


「特典?」


何の話だろう。


「ただ異世界へ送るだけでは、君の未来を奪ったというマイナスを0にしただけじゃ。いや、慣れない異世界で暮らす事を考えると、0にすら届いておらんじゃろう。それでは償いとしては不十分じゃ。」


なるほど。

それもそうだ。




「まず、異世界の言語知識を君の魂に刻もう。読み書きもできんとなると困るじゃろうしの。」


「それは非常に助かります。」


異世界というワードが強烈すぎて失念していた。

言葉や文化もこちらとは違うんだよね。


「次に、異世界で役立つ物を色々と与えよう。向こうで確かめると良い。」


麻のリュックサックを渡された。

中に色々と入っている感触がある。

今すぐ中を見たいが、言われた通りに後で確認しよう。


「そして最後じゃが、君にはこれからこれを回してもらう。」


どこからか取り出された1m程の機械。

子どもの頃によく見ていたそれは……




「ガチャガチャ?」


そう、ガチャガチャである。


「これはスキルガチャという。」


「スキルガチャ?」


首を傾げて復唱すると、神様は頷いた。


「うむ。君の行く異世界にはスキルというものが存在している。神より授かった才能を具象化したもの、とでも言おうかの。君のいた世界ではありえぬような特殊な現象を引き起こす事もできるのじゃ。」


なんとなくわかるような、やっぱりわからないような気がした。

魔法みたいなものかな。

だとしたら嬉しいな。

僕は子どもの頃から魔法使いに憧れていたんだ。


「スキルとは生まれ持った力であり、後天的には手に入らぬ。」


「そのスキルというものをいただけるのですね。」


このガチャで。

運任せなのは不安だが、何もないよりは良い。

できれば魔法使いみたいになりたい。

僕の大好きなタリー・ホッパーみたいな。




「異世界の者達は、通常1〜2個のスキルを持っておる。特に才能を持つ者は3つ以上のスキルを持つ事もある。」


このガチャは何度回して良いのだろうか?


「君には特別に、10連ガチャを回してもらう。」


「10連ガチャ、ですか。つまり僕は10個のスキルをいただけるのですか?」


「うむ、そうじゃ。しかも、その内1つはUR確定じゃ。」


「URとは何ですか?」


「スキルにはその効果に応じて階級が定められておる。下からN(ノーマル)R(レア)SR(スーパーレア)UR(ウルトラレア)の四階級じゃ。」


話を聞く内に、どんどんソシャゲ感が強くなっている気がする。

気にしないことにしよう。

それより、最高級のURが1つは確定で手に入るらしい。

どんなスキルかわからないが、使えないという事はないだろう。


「早速、回してみるかの?」


是非。






①身体強化(N)

身体能力をあらゆる面で向上させる。


「扱いやすいスキルが出たの。」


「そうなんですか?」


「体が強くて悪い事はないじゃろうて。全体を強化する分、筋力強化(R)や敏捷強化(R)と比べると効果は薄いが、持っておいて悪いスキルではないぞ。身体操作の技術にも補正がかかるしの。」


「なるほど。」




②身体強化(N)

身体能力をあらゆる面で向上させる。

重複により、所有する身体強化(N)を(R)へ昇華。


「え、2回目?」


「ほう、珍しいの。」


「こんな事があるんですか?」


「珍しいが、ない事はないの。流石にもうないじゃろうが。」




③身体強化(N)

身体能力をあらゆる面で向上させる。

重複により、所有する身体強化(R)を(SR)へ昇華。


「…神様、これは……?」


「3回連続とは…ある意味凄まじい運じゃの。重複する度に確率が下がっていくから、もう出ないじゃろうの。」


「そうなんですね。安心しました。」




④鑑定(R)

物質の情報を読み取る事ができる。

生物は非対象。


「うむ、良いスキルじゃぞ。」


「よくわかりませんが。」


「異世界には君の知らない物も沢山ある。知らずに食べた物が毒だった、というような事は回避できるじゃろう。」


「なるほど。それは良かったです。」




⑤泰然自若(SR)

精神的に強くなる。

予想外の出来事にも冷静に対処できるようになる。


「おっ、SRだ。」


「うむうむ、良かったではないか。魔物と対峙した時にも役に立つはずじゃ。」


「小市民の私には特に嬉しいスキルですね。」




⑥身体強化(N)

身体能力をあらゆる面で向上させる。

重複により、所有する身体強化(SR)を(UR)へ昇華。


「え……えぇ……」


「う、うむ。……ここまでくれば、ドラゴンと肉弾戦ができるレベルじゃの……悪い事ばかりじゃないぞ。」


「は、はい……フォローありがとうございます。」




⑦探知(R)

自身の周辺の生物を探知する事ができる。

任意で虫や小動物等を非対象にしたり、対象物を絞る事も可能。


「よし!」


「これもなかなか良いスキルじゃよ。魔物の位置がわかれば、狙う事も避ける事もできるからの。」




⑧愛撫(N)

撫でるのが上手くなる。


「何だこれ……」


「ハズレじゃの。こういう事もあるじゃろうて。」




⑨身体強化(N)

身体能力をあらゆる面で向上させる。

重複により、所有する身体強化(UR)を(UM)へ昇華。


「………えっ…………えっ?」


「な、なんという………つ、次を回すのじゃ!UR確定じゃぞ!」


「いや、でも…」


「良いから回すのじゃ!」


「は、はい。」




⑩延命息災(UR)

老化に対する耐性を持ち寿命が長くなる。

あらゆる病気、状態異常を無効にする。


「素晴らしいスキルではないか。これで病気になる心配もいらないの。」


「いや、でもその前に身体強……」


「身体が強くなって良かったではないか!」


「僕、実は魔法使いになりたかったんですけど……」


「大丈夫じゃ!スキルがなくても魔法使いにはなれる!才能があればじゃが……」


「え、いまなんて……」


「とにかく、身体が強くなって良かったではないか!身体が資本じゃからの!!」


「は、はぁ……神様、キャラ変わってませんか?」


「細かい事は気にするでない。さぁ、スキルは既に君の魂に刻まれておる。今こそ、旅立ちの時じゃ!」


「か、神様?え、ちょっと!」








「ふぅ……まさかこんな事になるとはの。URの上じゃと…そんなもの初めて見たわい。」


神は1人、冷や汗を拭う。


「それにしても……unmeasurable…測定不能、か。どうなる事やら……元気での、金西君。」

「それにしても、何故あれほど同じスキルばかり……どんな確率じゃ。」


神はしげしげと興味深そうにガチャを眺める。


「……ん?んん?………こやつ…故障しておるな。」


神の額から冷や汗が一筋。


「だ、誰じゃこんな作り方したのは……むっ…あやつ(天使)…か。」


作者が既に消滅させた問題の天使だと知る。


「………まぁ、たかが身体強化があれほど強化されたのじゃから……結果オーライじゃろ。」


神は諦めた。

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