05~06:一つ恋愛について、回想してみようと思う。
05
「おはよう」
その言葉はすっかり思いつかなくなっていた。
一緒に来た友人とも別れ、特に不快感も快感も覚えずに来た学校。
一歩、二歩と歩を踏んで自分の席を目指す。
その途中――。
「おはよう」
俺にそう声をかけるものがいた。その顔を見た時、流石だなと思わず微笑んでしまう。
学年一位。それ故に人脈が広く、強い存在感がある彼――鏡昴。
彼が微笑みながら、手を振って挨拶してきたのだ。
戸惑ってしまって一瞬通り過ぎてしまうがその後咄嗟に声を出す。
「あ、おはよう」
どうやら少し遅かったようだ。
それを悟ると共に、俺は改めて思った。
やはり彼は恵まれているのだと。
モースだかマズローだかの欲求五段階説だったら、大体自己実現を叶えようとしている人なのだろう。
自分もそうだったはずだ――だが今の自分はどうだ? 承認されて欲しくて、愛情ではない愛が欲しくて、そこで足掻いている。全ては自分の所為だとしても、自分は自己実現なんてしようとも思わない。
ああ、彼が羨ましい。
――しかしその感情は、不思議と妬みなどを含まない。それは彼の人柄によるものだろう。
つくづく出来た人だ、本当に。
間もなく女子から話しかけられる彼を見て、俺は更にそう思った。
……着席。
さて、どうしようか。取り敢えず話し相手を探そう。
ふと斜め後ろを見てみる。しかしその時。
――思わず視線を逸らしてしまう。
そう、その視線の先に彼女はいたのだ。
俺の思い人である彼女、長和 凛が。
いやなんで振り返った? いやまあ話し相手のうち一人はそりゃ斜め後ろの席だけどさ?
――今来てるわけないだろ……。
さて、心を落ち着けよう。それほど長時間見ていないはずだ。はっきり言って、俺の行動に不自然はない。――そう自分に言い聞かせて、漸くいつもの通りになった。まあこの間、1秒未満だったが。
「ふぅ……」
それにしてはやはり、彼女は視界には入れても、直接見るものではない。もう見ただけで思考が一瞬払いのけられる。外にその動揺を悟らせるまでにはいかないが、それにしては不便すぎる。
そうだ、不便だ。全く以て不便な体を手に入れたものだ。
もう……それもこれも彼女の所為。
責任――取ってよな。
需要の無いその台詞を、俺は心の中で呟いた。
06
彼女こと長和さんと会ったのは、一昨年である。
その出会いは別に特別なものでもなく、ただのクラスメイトとしてそこにいただけだった。
最初の印象は特によくも悪くもなかった。ただ、そうだ。
――人気者。
それ一言だっただろう。
その頃の純粋無垢なる俺が最初に関わったのはとある合宿の係。
そこにいた女子達は彼女を取り巻き、とにかく自分は人気者と捉えた。
はっきり言って、そこまではどうでも良かった。
だが自分。面倒臭いことに恋に恋をしてしまうタイプなのである。
「好きな人いるの?」
切っ掛けは、クラスの数村がそう聞いてきたことだったと思う。
そう大体、中一10月くらいだった。
「え……」
何、たわいもない小中学生の会話である。ただの興味でしかない。
しかしこの時、恋愛に疎い系男子を演じていた純粋無垢なる思春期を思う期時代である俺はこの質問に、こういう答えを持っていたのである。
「まあいないけど、他よりもちょっと気になってる人なら6人いるよ」
それからその6人の詮索が始まりそうになるわけだが、その前に自分はちゃんと答えたことを口実に、それ以上の話はしなかった。
しかしこの時気付いてしまったのだ――いや実際はこの時からかもしれないが、とにかく知ってしまったのだ。
自分が、恋愛を欲していることを。




