うたわらべ。
「ねぇ、もっと聞かせてよぉ」
「続きはまた今度ね?」
まるで母親が我が子を寝かし付けるように絵本を読んでいた。
ただ、血は通っておらずに ──。
それもそのハズで、相手にしていた幼児にはもう、家族と呼べる者がいなかったのであった。
突如交通事故に捲き込まれ、頼りになる親族もいない。
唯一生き残った幼児を相手に看護婦は心苦しさを隠しつつ、真実に気付かれないようにと必死に立ち振る舞っていたのだ。
「ちぇ。 つまんないなァ~……」
明らかに不満そうである。
「あ、そんなコト言ってると……来ちゃうぞぉ??」
それは寝かし付けるために選んだ題材からの使者だった。
「ヤだ~。 やめてっ!!」
おもいっきり頭から布団を被るしかなく、ただ……好奇心は擽られたのだろうか。
「……ホントにいるの??」
「居るわよ~……。 だからちゃんと寝なさい」
怯える様子の幼児の胸を優しく撫でて、安らかな寝息を確認してから寝室をあとにする看護婦。
「……どうか、あの子だけは助かりますように……」
診察結果は他所にして、本心は正直なのであった。
長年懸命に看護を担当していて、亡くなってしまった命は数知れない。
きっと、誤魔化しに過ぎないだろう。
それでもなお ── 神に祈るしかなかった。
「ゆら~り……ゆらり。 ねんねんコロリ♪」
思わず振り返る。
チカチカと点滅を繰り返す天井。
予想だにしていなかった。
ついさっき、語っていた台詞。
全身の毛孔が凍り付く。
「う……そ……でしょ!?」
何の予感があったのか、たまらずその病室へと駆け付けたのだが ──
生温い湿気と、真っ白いシーツを万丸く照らしつける月明かりだけがそこにあったのである。
「そ……んな……」
ガックリと項垂れる彼女の耳許に。
聞き覚えのある声が囀ずる。
「ねんねんコロリ♪ ねんねんコロリ♪」
それ以上はどうしようもなく。
また、明日からも魘されるのだろう。
有りとあらゆるパターンで。
「お転びよ ─── 」
坊やは、謳い続けてゆく。