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白昼夢

作者: 師走

 写真家というものは人脈がないと正直どれだけ頑張ろうとも運だ。ただ自分に実力がないのも分かっている。ただその一言であきらめたくなかった。

 自分に才能がないのがわかるのが怖かった。だからがむしゃらにいろんなものを撮っていった。結局いつまでも目が出ないまま5年が過ぎた。はじめはいろいろなものを撮っているのが楽しくて楽しくて、これさえあればいつまでも楽しく生きていけるように思っていた。ただ思っていただけだった。

 そう気が付いてから早く自分一人で生きていかなければならないという気持ちが出てきた。そう思うようになってから写真を撮るのが楽しくなくなった。学のない自分を今更雇ってくれるところなど見つからない、と半ばヤケになって、後に引けなくなっているのも感じていた。

 そんな気持ちは近所の人の目を見ていたら特に出てきて、最近は特に人の目を気にするようになった。昼間に外に出ているだけで誰かに噂されている気がしてならなかった。それに従って日が昇っている時間の写真が減ってきて次第に見てくれる人もさらに減り、作品展にものらない時も出てきた。

 ただこの前久しぶりに昼過ぎに家を出たときになかなか不思議なことに出会った。

 久しぶりに日が昇っている時に外に出たくなってカメラを持って重くない足取りで外を歩いていた。普段外を歩くときはどうしても足が重くなるのに今日は昔のような気持になっていた。

 こんな気持ちになるのは次はないと思えるくらいで山で写真を撮っていた。普段山に来ない俺はわからなくならないように気を付けていたのに結構深くに来ていた。

 いつもならすぐに引き返すが、今日はだんだん調子が出てきていてとても引き返す気にはなれなかった。しかもなぜかとても懐かしい気持ちになっていてとても引き返す気にはなれなった。

 この気持ちを写真に表現しなければならない。そんな気持ちになってきたときのことだった。

 誰もが忘れ去っていたであろう廃線と出会った。線路は赤く錆が浮いていて、本来砂利が引いていなければならないところから雑草がたくさん生えていてとてもではないがもう一度使うためにとっているというものでは無かった。

 こんなところに忘れ去られてもう恐らく使われることのないだろうに。と頭の片隅に思いながら俺はこの自然と人工物の合同作品を自分がフィルムに収めなければと強く思っていた。

 ここなら、この場所の写真なら誰かに見てもらえると見えない誰かに背中を押されているようだった。

 ここでしばらく写真を撮ってしばらく考えた後に廃線の写真だけでは少し物足りないと思いこの線路に沿って少し歩くことにした。

 始めは何もないと思い引き返そうかと思ったけど、何かあると信じてもう少しだけ歩くことにした。

 10分ほど歩きやはり何もないと思い始めたころだった。その不思議な建物が目の前に出てきた。

 この建物との出会いが俺の人生に大きな影響を与えたがこの時は何も知らなく、ただただこの建物を写真に写すことに必死になっていた。

 一通り写真を撮り終わった後にそこに建物があることに気が付いた。かなり朽ち果てており、線路の近くになければ何の建物なのかもわからないようなものが建っていた。

 「これは駅舎か?」

 誰に聞けるわけでもないがその言葉がぽろりとこぼれた。

 そんな言葉を口にしながらもこの建物も写真に収めようと思いカメラを構えた時に後ろから声をかけられた。

 「ねえ、そこでなにしてるの?」

 俺はこんなところで声をかけられるとは思ってもいなくて肩をビクッとさせてから振り向いた。

 「あははは、ものすごく驚いたね。こんなところに人がいるから思わず話しかけたくなっちゃって。」

 「びっくりした…」

 最初に話しかけられたときはここの管理人かと思い振り向くまで内心とてもびくびくしていたが、相手の

服装を見てそうじゃないとわかった。

彼女は制服を着ていた。

 そんなこちらの考えを無視するかの如く彼女はこう続けた。

 「お兄さんこんなところで写真撮ってるの?」

 「そうだよ。歩いてたらここを見つけたからね。」

 「こんなところ撮っても面白くないでしょ?」

 「そんなことないよ、人が来なくなったところでしか撮れない写真もあるんだよ。」

 「ふーん」

 彼女は特に興味がなさそうに後ろに手を組み駅舎に向かって歩き出した。

 「ここはね、昔から使う人が少ない駅だったの。だから廃線になったから取り壊そうって偉い人がいったんだ。だけどね、こんな山奥にある駅なんて壊せないって工事をする人が言ったから残ってるんだよ。」

 「ふーん」

 興味なさそうに返事をしながら俺はカメラのシャッターを切っていた。正直ここがどういうところで、どんな歴史があるかなんて正直どうでもいい。今ここにいるのは写真を撮るためであって、歴史を感じに来たのではない。

 (俺には学なんてないし、そもそも興味がないなんて言ったら、どんなことを言われるか分かったもんじゃない。)

 そのあとは、黙々と写真を撮り続けていた。

「ねえ。」

 「なに?」

 「さっきも聞いたけど、何でこんなところの写真なんかを撮ってるの?」

 「さっきも答えたようにこういうところでしか取れない写真を撮りたくて撮ってるんだ。」

 「じゃあさ、こんなところじゃなくてもよくない?」

 「さっきも答えたけど歩いていたら見つけたんだ。」

 「ならもっといい写真を撮れるところを教えてあげるよ。」

 「え?」

 彼女はそう言うなり、ついてきてと、言うなり駅舎に入って行った。

 俺はもっといい写真という言葉に反応して彼女のほうへ歩いて行った。

 

 

 

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