初戦闘
過激な表現があります。
今、思い出しても、失敗したなと思う。
すっかり日常と化した、ゴブリン観察を続けていた。
餌となるウサギの捕り方も調理の仕方も覚えた。ゴブリンも意外と文化的な生活をしてると思った。勝手にゴブリンと呼んでいるだけだけど。せめて名前や種族だけでも見えるようにならないもんかな?
話は戻すが、なんと火も使えるようになった。
ある集団が少し離れたところで野営を始めたんだ。そこで、あの謎の石を取り出して、薪を始めて、ウサギ肉を焼き始めた。
内臓はうまいと聞いてるけど、調理を始めた奴は食べず、焼いた肉だけを食べてた。ちょっとグルメ?
俺としては見習いたい。見回りをするタイミングも何となくわかったし、実践してみたい。
野営跡を見ると、火種が残っている。
あぶないなぁとつぶやきながら火種を大きくする。
声に出さずに口パクだと、吐き気が起こらないことは発見済みだ。
それでも発するであろう音はなんとなくわかるので、それを繰り返しつつ話す作業を繰り返す。
「あぶないなぁ。あぶないなぁ。」
繰り返しながら作業する。
どっちかというと危ない人である。
久しぶりに食べた、焼いた肉は格別であった。
ちょっと生焼けな感じがしたが、良しとしよう。次からはもう少し焼いてから食べることにしよう。焼けるまで待てなかったのだ。
次のグループの巡回まで時間がない。適当に火を始末して、木の上に逃げる。野営跡はそこかしこにできているので、それでも問題ない、筈だ。
そんな油断が事件を招いた。
事の起こりは、いつものゴブリン観察から起きた。
ちょうど真下で野営を始めたゴブリン達。今回は火を起こすグループじゃない。一度近くでたき火をやられたが、あれはひどい。燻されて、死ぬところだった。殺してやろうかと思ったがやめた。俺は平和主義なのだ。
今は事件のことだ。
思い出すが、きちんとアジトとしてる、鳥の巣もどきをメンテナンスしなかったのが原因だ。
覗き込んでると、突然目が合った。
ビックリした。今まで上を見ることがなかったのに、突然だ。
「ギャ」
どっちが発した声だったのか。
隠れようと動いたのも失敗だった。
手が鳥の巣を突き抜ける。完全に下から丸見えだ。
「やばっ」
これは俺の声ね。
音を出したうえ、声まで出したら、気づくよね。8匹が一斉に上を向く。
「ども」
なんとなく挨拶?
人を支えられるほどの鳥の巣もどきよ。その上持ち込んだ大量の石。逆によくぞいままで落ちずにもったもんだ。意外と才能あるんじゃね?鳥の巣作成者として。
落ちる。大量の木、石。10メートル上空から。
とっさに手を伸ばしてつかんだ木。5メートルくらいで失速。その横を通りすぎていく大量の木や石。その下にはゴブリン。
何匹がが下敷きになる。
キラキラ光って、そのキラキラが自分の方へ。
それと共に自分も落下。
さらにキラキラが。
自分は平和主義だっていうのに。
経験値獲得、でしょうか。
それより、このゴブリンの敵確定、だと思います。
相手はまだフリーズ状態。はは、俺のフリーズの魔法はだてじゃない。よく飲み会や職場でもフリーズさせてたからな、だいぶ熟練度上がってる。ただ、このフリーズは自分も凍る。なので、上がるのはフリーズさせる方だけじゃなく、復帰する方もだ。立ち上がって逃げる。
しかし、3歩ほどのアドバンテージを得た。復帰するの早すぎねぇ?
逃げるものは追う。自然の掟。それも肉食動物の方のな。
失敗したと思う。
でも、やり直しは効かない。
このゴブリンども、ちっこいのに早い。ほぼ俺と同じ速度だ。
身長はこっちがかなり上なのに。
そういえば小学校から短距離走は遅かった。いくら全速力で走り続けられても、最高速度がお粗末なのが現実で、これは詰み?
引き離せばどうにかなるかと思ったけど、終わる気がしない。しかもあきらめる感じがしない。しつこいなぁ。
しょうがないか、仲間6匹やられて、相手は逃げてる、格下だ。やっちまえばいい、と思うよね。
おや?格下?それはあっちだよね。
上から落ちてきた石や枝で、やられちゃった感じからして、そこらの大枝でも拾って殴れば、俺でもいけそうなんだよね。あと2匹だし。
あとは自分のやる気しだい。
あー、緊迫感にかけているのは、この余裕感のせいか。
でも、5分も走れば、これまでの行動範囲から外れる。
その先に何があるかわからない。ひょっとするとゴブリン達の集落とか、崖で行き止まりとか。
これってフラグかなんて思って走っているが、急にやる気が起きる。
そう殺す気が。
急に立ち止まる。
すぐ後ろを走ってるゴブリンは対応できずにぶつかる。おれもな。
一匹はだいぶ先まで止まらずに進んでいく。
こんな時に妄想が役に立つとは!
横に転がり起き上がる。転がってる。急所の首筋を踏み抜く。骨の折れる感覚が気持ち悪い。ウサギの時はこれほどじゃないのにな。食べるつもりなら気にならないのかも。それとも、グギャグギャだけど、会話らしいしていたのが忌避感が原因か?
考察は後でよい。残りを片付ける。
見ると何かを探している。あー棍棒か。
走って飛び蹴りを食らわせる。避けた。ちっ。当たり前か、こんな大技初めから食らうやつもいない。
いや、そうでもなさそうだ。転んでる。避けるだけでぎりぎりだったみたいだ。ひょっとして息が上がっている?ならあのまま逃げきれたんじゃないか。
思い直してももう遅い。ここまで来たら走り抜けるだけだ。
先ほどと同じように首筋を狙うが、転がって逃げる。
なんかいじめてる感覚だ。正直つらい。
手足重点的に狙う。転がって逃げる。それを追う。なかなか決着がつかない。
それでも段々動きが鈍くなってる。こっちは無限の体力があるから、持久戦では分がある。5回ほど繰り返し止めを刺した。
こんな戦いはダメだ。精神的なダメージがでかすぎる。
一方的な戦いなのに、なかなか決着がつかない。いじめてる感覚が強すぎて、つらい。逆がいいとは言わないが。その手の性癖がなくてよかった。どっちもやだ。
キラキラ。
ゲームみたい。
ゲームだったらよかったのに。でも、こんなリアルなゲームは嫌だな。
キラキラの後にはちょっと変わった石が落ちていた。
拾ってく。
ゴブリンが使っていた不思議な石に似てるしね。なんとなく色が違う気がするが。どっちにしても使い方がわからない。だれか教えてくれないかな。さすがにゴブリンには聞けない。
気づいたけど、ウサギはキラキラしなかった。
俺が死んだらどうなるんだろ?そんなことを考えながら、自分のアジトに戻る。
大量に落ちてる木や石を見て、なにか、ここであったと一発でわかるなと思った。
精神的な疲れがほとんどだけど、疲れたので眠りたい。とりあえず、一番離れた鳥の巣もどきに向かう。