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3-3

 向かうのはモンスターの巣穴である。

 その道のりは、極めて困難というほどではないが、決して楽でもない。

 道は何によっても舗装されておらず、でこぼことした岩山の山道として伸びていた。山を登るため、緩やかではあるが上り坂となっており、じんわりとした疲労を与え続けてくる。

 冒険者たちは慣れているようだが、リコネスは慢性的な頭痛のようなものを感じるほどだった。なんとか遅れまいとして、喉を広げて大きく呼吸を繰り返す。

 そのせいで喋れなくなった彼女に代わるように、マナガンが言う。

「巣穴は元々、山を通るトンネルだった場所だ。開通した当初は持てはやされたようだが、その後すぐ、都市部の方で別のトンネルが開通してしまい、廃れた。そのためにこの近辺が発展することもなかったのだ」

 リコネスはそれを聞きながら、ちらりと周囲へ視線を向けた。一方は滑り落ちれば肉ごと剥かれそうなごつごつした崖であり、その下に広がる荒涼とした大地を見せ付けてくる。もう一方には正反対に、苔生すように緑を生やす断崖がそびえて視界を覆っていた。道幅は馬車が悠々と通れるほどではあるが、そうした景観と足場の悪さのせいで、窮屈に思えてしまう。

 しかしよく考えてみれば、舗装されていないとはいえ道があるというのは、確かに発展させようとして放棄された証拠かもしれない。

「……と、こう言ってしまうとトンネルまで廃棄されたように聞こえるかもしれないが、実のところそれ自体は現在でも残っているし、他国へ通じているため検問所も、検問官も配置されている――依頼主の住む村と、トンネルの先の村か町の住民しか利用しないため、閉鎖しようという声も上がっているようだがね」

「へえ……そんなところだったのね。全く知らなかった」

 エルがどこか大袈裟に、感心したような声を上げる。それでもぼそぼそした声音ではあったが。

 オデッサは興味なく憮然としていたが、どこか嘲笑を含んだ調子で口を挟んできた。

「ってことは、国としては勝手に潰してくれて有りがたがってるわけか」

「そこまではわからないがね。ただ、正式に閉鎖しなければ却って面倒なことにはなるだろう。モンスターの対処ができる犯罪者に、逃走経路を与えることになってしまう」

「対処ができれば、だろ」

 吐き捨てて、オデッサは不意に剣を抜いた。

 ひゅんっと鋭く風を斬り、切っ先が触れずとも地面の砂を巻き上げる。さらに身体の向きを変え、周囲に油断なく視線を走らせた。意識を張り詰め、足は止めている。

 他の冒険者ふたりも、釣られるように立ち止まり、同じ方向に向き直る。

「……どうかした?」

 エルの言葉に、青年は答えなかった。無視して無言で斜面や断崖、そして荒涼とした山道を睨み据える。そこには地表だけではなく、地中まで透視しようとするほどの意志が感じられたが――しばらくすると、ふっと緊張の糸を解いた。

 あっさりと剣を鞘に納めると、勝手に進行を再開し始める。

「なんでもない、気のせいだったらしい」

 背中越しに軽く手を振るオデッサ。冒険者たちは顔を見合わせると、小首を傾げて歩き始めた。

 ……リコネスはそれらの一連に一切関わることなく、追いつくのに必死だったが。

「いずれにせよ、我々が行うのはそこにいるモンスターの退治だ。トンネルを巣とし、村を襲う不届き者を撃滅すればいい――そうだな?」

 再び目的地へ向かいながら、マナガンが問いかけてくる。

 その投げかけている相手が自分だということに、リコネスはしばし気付かなかった。二歩ほど遅れて歩きながら、沈黙を感じ取って顔を上げ――そこでマナガンがこちらを向いているのを見つけ、ようやく理解する。

「あ……は、はい、そうです。モンスターの群れを退治する、っていう依頼です」

 ぜえはあと息を混ぜながら頷く同行員に、冒険者たちは一様に不安げな表情を浮かべていた。

「こいつ、やっぱり報告書を書けなくなるんじゃないか? メモすら残せてねえだろ」

「せめて記憶していることを祈ろう」

「……付いてこられないなら、その辺りで休んでいればいい」

「い、いえ……大丈夫です。がんばりますから……」

 そうした話をするうちに――引きずるようだったリコネスの足が、まだ辛うじて動くうちに。

 山道はひとまずの区切りを迎えたように平坦になると、そこにトンネルの姿を出現させた。

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