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2-9

 その日は――いや、その日も。

 リコネスはひとり、頭を抱えるように机に突っ伏していた。

 以前にランク二への昇格を聞かされ、歓喜した大部屋とは違う、『派遣管理十一課』と記された小さな事務室である。そこにある自分の机で、彼女は乱雑に置かれたいくつもの書類の中に紛れていた。

 周囲には同僚の机がいくつも並んでいるが、たいていは同行の仕事で出払っている。そのためひとりになることが多く、こうしてうつ伏せるのに気を遣う必要もなかった。

「私は……」

「まだ落ち込んでるわけ?」

 誰もいないと思っていた室内で不意に声をかけられ、リコネスはハッと顔を上げた。

 そこには黒く真っ直ぐな長い髪を持つ、パンツスーツの似合う女が立っていた。リコネスは苦悩のために一瞬、彼女の名前を思い出すことができなかったが。

「……あ、ローザさん」

 彼女は名前を呼ばれると、勝手に近くの椅子を拝借し、そこに座った。頬杖をつくようにしながら、目を閉じて暗唱するように言う。

「シオン・ラバー。ランク二依頼遂行中、魔獣と思われる生物によって片足を負傷。外面的な負傷の度合いは大きくないが、魔獣の爪に神経毒が含まれていたと思われる。現在、ヴィレアゾット内の診療所で治療中――」

「……毒があったなんて、気付けませんでした」

 リコネスが独り言のように言うと、ローザが目を開けた。吐息と共に。

「魔獣の情報なんてそう多くないんだから、気付ける方が稀よ。ましてその冒険者――旅人だったかしら?――は、別に死んでしまったわけじゃないわ。しばらくは動けないでしょうけど、そのまま命を落とすなんてこともない」

 彼女はそこで言葉を区切ると、未だ俯く部下に向かって顔をしかめた。

「ランク二の依頼で負傷者が出たからって、気に病んでいたらキリがないわよ。きつい言い方だけど、死者が出なかっただけマシよ。まして魔獣と戦ったのならね」

 ローザは何度かこうして、リコネスに声をかけていた。単純な励ましというより、受け止めることを教えるという様子だったが。

 いずれにせよ部下の方は、どうしても肩を落とすだけだった。

 しかしそれでも、その日は少し変化があった。リコネスは僅かに顔を上げると、首を小さく横に振った。

「違うんです。そのことは……ショックでしたけど、無事ならと思って安心したんです。ただ……」

「ただ?」

「……すみません、上手く説明できません」

 しゅんとして、リコネス。

 言葉にすることができなかった。帰路の時と同じ。いや、それよりも強く、大きくなっている。自分でもわからない感情が膨れ上がって、自分を内側から押し潰そうとしているようだった。

 ローザはやれやれと吐息すると、立ち上がった。部下の頭に軽く手を置き、いつもと変わらぬ上司としての口調で言ってくる。

「まあいいわ。とにかく今は貴女の役目を果たすだけよ」

「はい……」

「それがわかったら、早く準備しなさい。仕事よ」

 リコネスは再び、頭の上に依頼書を乗せられた。

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