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Singalio Rou' Sel' fier-Autrue ch Rutuc  作者: 篠崎彩人
第一週「貴方の天国」

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6/30

第六曜「破壊の記憶・前編」

 300日前。私が最初にこの地に足を踏み入れた時の事を、私は昨日の事の様に覚えている。私は、アーキ・ファルファ王立独立国家の科学技術省における人型自走兵器、通称「ラグドゥーズ」研究の総合顧問だった。「ラグドゥー」とは、この国の古い神話に有る、人に文明の泉、機械をもたらしたとされる機械神の名だ。ズと言うのは複数形ではなく、所有格。つまり意味は「ラグドゥーの」と言う事になる。もはや人の発明品はラグドゥーのそれと並ぶレベルまで来た、という、今考えると奢りでしかないナンセンスなコードだった。

 私はそんな常軌を逸した非人道的な悪魔の兵器を生み出すのに抵抗が無かった訳ではない。ただ、時代がそうさせた、といえば虫が良すぎたのだろうが、私は、そうしてしまった。それはアーキ王からの絶大な支持が有った事、またその開発援助金が莫大だった事が私の正常な判断力を麻痺させていた部分もあるのだが、そんな事を喜んでいる自分の不甲斐無い精神の中にも、志の欠片とでも言うべき物は存在した。それは、この技術の応用、そして世界普及によって戦争の被害の緩和がもたらされるのではないか、と言う希望。人が人として、それぞれ別の社会を築き、それぞれ別の道を歩んでいこうとする時、その道筋で両者が出会った時に起こる事は必ずしも幸せな事ばかりではない。人はきっと、それぞれの道を認めなかったり、踏み躙ったり、時にはその歩みを止めさせようとしたりもするだろう。その歩みを止めようとする時、言葉による助言である事もあれば、一方的な暴力を振るう事による事も有るだろう。そんな時、その暴力が相手を傷つけたり、更には、一生回復する事の無い傷跡を遺してしまうような事が有れば、その傷を付けた方は、きっと、後で必ず後悔する。そして後悔とは、歩みを止めることの出来ない人にとって、事去って後にはどうしようもなく愚かしく、救い様も無く無思慮な事に思えても、その時には避け方の分らなかった危険な障害物として人の前に立ちはだかる事が多々有るのだ。

 そんな時、この技術を貴方方の代弁者として使って欲しい。人と人とが血を求め合う、たとえそれが事実でなくとも、お互いが本当の自分を見失っているからに過ぎなくても、時代の狂気が貴方方を取り巻くからだとしても、ちょっと立ち止まって、この技術の、神のもたらした知恵の産物の事を思い出して欲しい。貴方方自身が戦う必要なんて無い。どうしても戦うと言うのなら、貴方方はどうか、血を流すのではなく、血を受け継いであげてください。次の世代の、若い笑顔達の為に。そう、思っていた。そう、願っていた。それが、この研究に携わった私と、助手としてだけでなく、その他のあらゆる面でその心強い味方だった妻、そして研究に関わってくれた仲間の皆、その全員の強い願いだった。そのはずだった。

 だが、願いは望んだのとは違う形の物を連れてきた。

 ちょっと考えれば分った筈だった。一体何が神の創造物のレベルまで到達したと言うのだ。科学技術?戦争?神の与えられたこの技術ならばこの人の創りし単純明快な不幸を解消してくれると信じていたのかもしれない。しかし、科学技術とはどこまで行っても人の手による物であり、与えたのは誰であれその使い方は全て自分で判断せねばならなかった。それを扱って良いのかさえも。そして私達は、その使い方を誤った。誤ったまま、道具は完成してしまった。戦争を喜ばせるだけの、哀しい玩具が。

 自走兵器。自分が戦う事だけを定義付けられ、そしてそこにこの上ない喜びを見出せる存在。それは殺人兵器だ。そしてその者にとって殺人は遊び、悪い事ではない、むしろいい事だ、という思念を刷り込む事が出来たらどうなる。そしてその遊びを最も良く知り、最も良く付き合い、最も良く愛する、遊びに愛されているのは誰だ。答えは頭の中で吐き気と共に回転して明滅して私の理想は混沌の海へと沈んだ。子供だ。

 AI、人工知能の可能性をもう一度考えた。人工知能に、人間の根源的欲望を刷り込む事など出来なかった。AIの何も要求しない、発展性の無い頭脳など、子供の純粋なまでに遊びに貪欲な心に太刀打ちできるはずが無かった。太刀打ち?いや、AI同士戦うならそれで力は互角、誰も血を流さない戦争というものは実現するのではないか…戦争にそんな抑制された貧弱な戦力など意味を為さないではないか、むしろもっと実用性を考えた兵器を投入すべき…実用性だと?人の心に実用性も糞も有るか!!では、今までの研究は何の為、何の為、妻の献身的な支援は、娘への愛情を注ぐのも惜しんで取り組んできたこの研究は何だった、何だった?無だったのか?見返りも無く?…気づくと私は研究の報告書をまとめて王に提出する準備を進めていた。

 愚かだった。この時ですら、私は自分の発想を突飛過ぎる、誰にも思い至らないであろう私だけの禁じられた思考だ、自分の研究には意味がある、と自分を許してしまっていたらしい。提出の直後、王からその言葉を聞いた時、私は初めてこの王が何故あれだけ熱心にこの技術の力を支持していたのかようやく分った。「人が戦場に行くには代わり無い。ならばどうすれば良いか?もっと簡単に人を殺せるようになればいいのだよ。簡単にね、子供がアリを殺す様に」私は、この国と袂を分つ決意をした。

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