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Singalio Rou' Sel' fier-Autrue ch Rutuc  作者: 篠崎彩人
Last Week「破壊の記憶・後編」

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23/30

The First Ray: "Sky-Blue"

 この世界の明るさの意味が見えてきた。そして、私の存在が永らえた意味も。私はそう、外部に出た精子であり、この明るさとは、その精子を卵子まで正確に導く為の物だ。そして、ずうっと明るいということが何を意味するか?それは、私と言う個体の生命に世界の明暗の切替が、活動存続の時休眠停止の時の入れ替わり立ち替わりが必要とされていないと言う事だ。つまり、私には早期に卵子と合体する事に因るか、他の精子との戦いで朽ち果てるかして消滅する事が期待されている、のである。そしてそんな死を間近に控えた生に、休息の余等全くの無意味なのだ。

 あの過酷に走破した三百日間、あれは紛れも無く私と言う個体に課せられた試練だった、選び抜かれた精子だけが、この世界の究極の勝利、受精を勝ち取る前段階の予め準備された淘汰の儀式だ。今この景色を見ればよく分かる。この明るさを前にしてようやく見えてきたこの世界の真実。手が無かったのでは無かったのだ、顔の真正面よりも外側の幅の世界への洞察がすべて遮断される空間が有ったと、そして走り終えた後の空間には、常に計算され尽くした、この世界の真実へ手を伸ばそう等と言う疑いの種子の発育条件から懸け離れた十分な安らぎの仮想母胎が、用意されていたと言う事だ。その一つの面影が、あの肉の元となる動物と言う犯すべき他者、「まだ自分の物でない、肉体で愛すべき女性」のメタファーの不在だ。勝者となる精子には彼が今まで抑圧して来た肉慾の全てを最期の闘いに於いて自分の使命の原動力として使う事が設定されていた(彼女に性的能力が無かったのもその一環であろう)。そして、走り抜けたあの空間は女性の膣に当たる、他の精子の死に様に慄き、現実への逃避感、悲愴感で満ちた精子に生き長らえる好機等有りはしない、あれは自分が目の前の唯一の生に繋がる突破口へ突き進もうとする時の自分の命の懸った集中力を研ぎ澄ませる為に存在した。実際、あの狭隘なる空間に違和を感じなかったのも、矮小な光の投げ掛けの縁も有るが何より、常軌を逸した緊急からの脱出の際に人間が陥るパニック症状にも似た過剰な視神経の集中に因る限定円視界との同一性の利用があった所為だろう。そして今、私はその集中力を試されている。辺りにまるで砂浜に所々在る色取り取りの小石の様に当り前を繕いながら、色んな場所に同じ表情をした私の過去に有り得たかも知れない死のヴァリエーションが転がっている。皆、大体足が以前直線を描けた筈の物体であるとは信じられない程、ひしゃげ消し炭の様な黒ずんだ骨と溶解肉になって散らばっている。手の方の死に位置にはほぼ何の法則性も無く、只自分が何故運動を停止してしまったのかも分からない様な綺麗な形でその生涯を終えている。頭の向きが、我等が女神の居た真正面を死の直前まで向いていた事を示唆している物が多いのは痛々しい。そうではない、地面と接吻したままの物や、顔面陥没をしながら遥か真上の空―彼の望んだ青き光はその飢えた瞳に齎される事は無かったであろうが―を見据えていたりする死体は、彼らの命途切れる瞬間まで、何を思っていたのだろう。

 体の表面が焦げる様に熱い。この光は、精子の緩やかなる殺戮を目指して投げ掛けられているのだろう。多分、私の顔はもう人のそれとは呼べない物になっている筈だ。だが私は目指す。この全てを溶かし全てを一つにしてしまう様な神々しい光の中、何処かに居る筈の、あの日の女神を。どんなに私が壊れてゆこうと、消えていってしまう事の無い、彼女への愛を抱きながら。

 この永遠の、そして人生最後の朝焼けの向こう側に有る真昼の綺麗な青空に、本物の天使の羽根を生やした彼女があの笑顔で待ってくれている、そんな気がした。

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