The Third Day「Oh Lord, Please Tell Me,」
この世界は終始僕に微笑みかけて来る。それは例えば太陽を遂に失ったかと思っている暫しの長大な空白を経て後の月であったり一つの音楽を思いつきそれに伴いまた一つの音楽を忘れてゆく静かなる精神飢餓を緩ませる為の空の色彩の音階であったり陸地を海だと誤解している当たり前在り来り平凡な僕みたいな雑草群の種子の奥に密やかに佇む、珊瑚であった日々の約束された楽園の幸福な温度を再現しようとして雲の隙間から裸身を曝し透明な言語で死と横たわる幻想を生と共に歩む力の帆船に換えてしまう光の洪水であったりし、そんな様々な様々は僕に色香の様な困惑混乱をずっと添えながらそれでもそれ以上の反応に窮乏するではない風で星宿の目指す近未来を指先と目線で応答願っている僕の、重く短調一色な夜を、黒です、と言った、それは愛おしさを狂おしさと読ませる為の猛烈なる純粋悪の黒です、純粋悪の黒ですが、純粋はどうしても黒の裏に未踏の白を残し、また白の合間に黒の嬌羞を含ませている物なのです、即ち空が海と交わろうとする事無く平らな線上を何処までも続いて行こうと果てずに居るのは自身の涎も涙も知っている幼時よりの鏡が悲しい哉、彼女自身の姿は見知る事叶わない事を知っての涙、そんな可哀想な彼女に自分の一部分が溶け込んで行く快楽を望んでの涎、そんな見初めを我の姿した彼女にしているという罪悪感、そんな彼女を産み出した自らに対する烈しい憎悪不信、それらを全く処理出来ないが為になのです、彼は自らが思い描いた純潔を護る為に自身という汚物をその純潔から遠ざけてしまうのです、彼女は本当は彼の緋に染まる瞳の暖かさが好きなのに、汚物を汚物と認識する心の中には間違い無く何よりも素敵で大きな空が広がっているのは彼が教えてくれた事なのに、実らぬ二人の儚い恋は、何処までも続く水平線の彼方まで、何処までも悲しく続いて行きます、二人が交わってしまった所に、恐らく純粋は存在しないから、二人が離れて見詰める同じ星はそれでもきっと彼らの夢見る光の結晶だから…この純粋な悪であるという黒の荒海に揉まれながら細々と苦しげに悶える様に切なく自らの体を燈す幾億もの細微な白達のどれかの中で、結晶した純粋は有るのだろうか、僕は世界が僕に囁き掛ける千一夜物語をそんな風に自分なりに見つけて行くのが、この黒い世界の白に少しだけ恋心を抱いてみたりするのが、好きだった。




