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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

誰がために舞台は成るか

作者: 徳田 進

 なんとなくで書いた物語です。肩の力を抜いて御覧ください。

 僕は歩いていた。果てしなく続く階段を、頂上を目指して延々と。この塔を登り始めてから一体どれほどの月日が流れただろうか。長いこと陽の光を見ていないので定かではないが、1,2週間では済まないだろう。そもそも終わりがあるのかも分からない。けれど、僕は歩みを決して止めることはない。たった一人の家族、唯一の肉親である妹のためにも。


 少し僕という人間の人生を紐解いてみよう。生まれはごく平凡な田舎の家亭だった。優しい父と母、それと妹に囲まれて生活していた。村のみんなは優しく、悪友と呼べる者達と毎日バカばっかりやっていた記憶がある。

 しかし、そんな普通な人生を送っていた僕の生活は一変する。そう、悪名高き魔王が誕生したことだ。かの魔王は傍若無人、極悪非道を体現した魔族であった。そんな魔王は各国に電撃戦を繰り返し、もはや人間側がどうにもならない程の損害を与えていたのである。そんな時、聖王国である予言が精霊よりくだされた。勇者の存在である。

 歴史を紐解くと世界のターニングポイントに幾度も存在する伝説的存在である。彼らは縋った、自らの力の無さや呆けっぷりを棚に上げて。そうして彼らは莫大な費用と、膨大な人間を使って見つけたのだ。勇者を、僕を。だが、僕の住んでいた村はかなりの田舎でほとんど隠れ里みたいなものだった。そんな村を魔王が襲う道理もなく王国の上層部はどうやって僕をあぶりだそうか考えた。そうして、最も残虐で愚かな方法を選んだ。

 魔王軍と偽り、僕の村を襲ったのだ。まだ、あの時の景色は脳裏にこびりついている。燃え盛る火炎、崩れ去る家。そして、助けを呼ぶ家族の声。気付いた時には保護されていた。それからは訓練の日々である。剣術、魔法、サバイバル。旅に必要だと思われることはすべて叩きこまれた。厳しい訓練をくぐり抜けること1年。僕は魔王討伐の旅に一人で旅だった。

 傷つけ、殺し。罠に嵌め、泥水をすすり。屍肉をあさり、生き残るためにはなんだってやって来た。今思うと旅だった頃が一番良かった。最初は知性のない魔獣と呼ばれる連中を殺すだけでよかった。だが、魔王のいる魔大陸に渡ると、魔物と呼ばれる知性のついた奴らと戦うことになった。こいつらは厄介だった。言葉を話し、群れる。この2つの要素があるだけで戦いの難易度が跳ね上がった。今までは、ただ動物を殺すような感覚だった。だが、奴らは腹立たしいことに人間の言葉を話していたのだ。

 時に人質を取り、村の井戸に毒を入れ。酸の魔法で溶かし、仲間の場所を吐かせるため拷問にかけた。そうして1年ほど旅をしただろうか。魔王城についたのだ。

 魔王と一対一で対峙する。他のクズ共は皆殺しにしてきた。あとはこいつだけだった。

『ふむ、勇者よ貴様何のために戦っておる?』

 クズが話しかけてきた。僕は復讐のためだと答えた。だが、奴は腑に落ちない顔をしていた。

『先に攻めてきたのは貴様ら人間の筈だ。何か勘違いしていないか』

 これ以上聞いてはいけない。なぜか僕はそう思い、魔王に斬りかかった。

 結論から言うと勝った。復讐を確かに果たしたのだ。しかし、僕の心は晴れなかった。逆に、よけいモヤがかかったような気がする。

『貴様の力は本物のようだな。だがそれだけよ』

 死に体のクズが何かを言っているようだった。どうせこいつには何かをする力はもうない。言葉に耳を傾けることにした。

『貴様のやっていたことは勇者のやることではなく、暗殺者のそれよ。そして、勇者。貴様は必ず人間によって滅ぼされるだろう』

 首を切り落とす。何を世迷い言を、そう思った時、違和感に気づいたのだった。腕が震えている。喉が急に乾き、冷や汗が止まらない。絶叫を上げたくなった。もしかして僕は取り返しの付かないことをしてしまったのでは。だが僕は勇者だ、勇者なんだ。そう思い自分を正当化しようとする。けれど、魔王に言われた言葉が僕の逃避を許しはしなかった。今度こそ叫び声を上げた。

 気づいたら謁見の間にいた。王の顔を正面から見据える。この国はつい先日まで戦時中のはずだった。物資は不足し、平民には餓死者も出ているという。だが、目の前の男は醜く肥え、醜悪な息をまき散らしていた。

 気づいてしまった、なぜ今まで気づかなかったのか。いや、気づきたくなかっただけだったのだ。本当の魔物は背後にいたのだ。僕は剣を鞘から抜き、目の前の魔物に斬りかかった。

 どこかで何かが燃える音がする。周りは火の海だった。動く人間は一人足りともいなかった。その代わり、無数の魔物の死体が転がっていた。腹がグゥとなる。意識しだすと急に空腹になってきた。どこかに食べ物がないか、周りを見渡し見つけた。旨そうな魔物の肉が転がっていた。いくらでもあの大陸で食べたではないか。そう思い僕は大きな口を開け肉を貪り食った。

 あそこで食べた肉より多少脂っぽかったが美味しくいただけた。この世界は魔物に溢れている、僕は今更ながらその事実に気付き絶望に飲まれかけた。しかし、僕の妹は人間だったはず。何故か今まですっぽりとその考えが頭から抜け落ちていた。しかし、妹は魔物に殺されてしまった。だが方法ならある。旅の途中で聞いた太陽の塔の話だ。その塔に登り朝日があがると共に願いを話すと願いが叶う。そんな与太話だ。けれど、そのような話に縋るしか僕には残されて居なかった。


 ようやく最上階前の扉についた。今までの旅路は本当に長かった。灼熱を発するワニ、電撃をまき散らす馬。すべてを凍てつかせる狼、大地を割る虎。だが、苦労もここまでだ。扉の先にいる最後の門番さえ倒せば願いが叶う。

 重い扉が軋みながらゆっくりと開く。部屋の中から刺すようなプレッシャーを感じる。唾を飲み込むとゆっくりと部屋に入る。部屋の大きさは奥行きが15M程で、幅は20M程だ。扉が閉まるのと同時に、激しく発光する光の珠が部屋の中央部分に降りてくる。

『汝、欲望を持ち願望を実現させし者か』

 光の珠が脳内に直接語りかけてくる。頭を小さく縦に振ることで自らの意思を示す。

『ここが神の住居に続く道ということを知ってきたのか?』

 恐ろしい程の敵意を感じる。しかし、先ほどと同じようにその質問に肯定の意思を示す。

『身の程を知らぬ愚かな木偶よ、その生命此処で散らしてくれるわ!』

 そう言い放つと珠は突然膨張し、その姿を変えてゆく。一対の大きな神々しい翼を生やし、人一人分はありそうな大きな足。すべてを貫くのかと錯覚する程の鋭いクチバシ、そして額にある絶えず色を変える奇妙な宝石。その姿は神話に出てくる不死鳥と瓜二つだった。

 不死鳥が巨大な羽を飛ばしてくるが、それを切り払い一気に肉薄をする。不死鳥が慌てて空に逃げようとする、だが、さっきのお返しとばかりに斬撃を飛ばし片方の翼を切り落とす。地面に墜落し、苦しそうに呻き声を上げている。トドメを刺そうと近づく、その瞬間額の宝石から眩い光線が一直線にこちらに向かってくる。急所だけは避けたものの、脇腹が赤く染まり軽くはないダメージを受けた。それは向こうも同じようで、精も根も尽き果てたように動きが極端に小さくなっていた。恐ろしい目でこちらを睨みつけてくる。普通の人間ならこの状態の不死鳥にも戦意を喪失してしまうだろう。普通の人間ならば―。傷口を抑えながら少しずつ近づく。その姿はさながら、死神のように見えるだろう。剣の間合いまで入った時一巡もなく命を刈り取る。その目には、命を奪ったことへの罪悪感や、戦いによっての高揚感すら浮かんでおらず、ただただ淀んだ闇が広がっていた。

 不死鳥の死体が閃光を放つ。光が収まり目を開く、そこはさっきまでのジメジメとした陰気臭い塔の内部ではなく、爽やかな風が吹く明るい平原だった。そこにポツンと男が一人立っている。金髪を腰まで伸ばした優男だ。だが、顔の作りは異様に良い。まるで人間ではないようだ…。

『親愛なる人間よ。ここに来たということはすべての試練を突破したということだね』

 脳内に直接声が響く。気付くと自然と最上の礼を体が表していた。頭ではなく本能で理解する。この男は、人間や魔王、果ては勇者を遥かに凌駕した存在だと。

 その男に対して自らの願いを告げる。その口ぶりはたどたどしいが、必死さが伝わってくるものだった。その男は顎に手を乗せ考える素振りをする。しばらく経つと妙案が浮かんだという考えが表情に現れた。

『君の願いを叶えてやろう。ただ、一つだけ条件を付けさせてもらうがね』

 その言葉に飛びついた。自らの妹にもう一度会える。幸せな生活を送れる。しかし、相手は神なのだ。人間の小さな尺度で図れる存在ではなく、さらに、永劫の時間を持て余す者達である。

『それは、僕に面白い見世物を見せることだ』

 そう言うと右手を前に突き出し空中を何かを弄る操作をする。すると、世界が歪み地に伏せてしまう。ひどい頭痛が襲う。そうして思い出した、この神のことを。この神には様々な呼び名があり、人を弄んでは暇を潰している。そして、今回その対象に選ばれたのが…。

『それではもう一度体験してもらおうか、勇者くん』

 その声はどこまでも友好的であった。しかし、こちらを蔑んでいるのがよく分かる。そいつの顔を見据える。だが、顔のあった部分には深い闇が覆っていた。それでも睨み続ける。無謀とも言える行為をし続ける。しかし、奴には届かなく、不快な甲高い笑い声が響き渡るだけであった。そして、意識がなくなった。


 どこからか声が聞こえる。懐かしい声だ。聞いているだけで心に安寧がもたらされるのを感じる。いつまでもこのままでいたい、そんな思いはいとも簡単に踏みにじられた。

「もう、お兄ちゃんいつまで寝てるの。早く起きないと朝ごはんが冷めちゃうよ。…あれ、どうしたの」

 いつの間にか涙が流れていた。妹を抱き寄せる。困惑した声を出しているがそれを無視する。この幸せを噛みしめる。なぜか妹の顔がよく思い出せない。けれど、そんな些細な事は気にも留めない。僕はこの幸せが続くのならばどんなことでもしよう。どこかで笑い声が響き渡った。だが僕は気づかない、気づけない。すでにそんなことなど気にする正気などないのだから。

 クトゥルフ神話を絡めた話を投稿する予定です。次に見まえる時まで、闇からの囁きにご注意ください。

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