表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王ルグレが学ぶ街  作者: じゃっく
1章 「少女との出会い」
2/3

少女と失ったもの



私は人間は嫌いだ。


人間は助けた天使を私の友を刺した。


私は神が嫌いだ。


神はそのようなことをした人間を罰しない。


私は天使が嫌いだ。


天使はその判決に何も疑問に思わぬ。


この世界は神の心に反した者は堕ちて捨てられる。


この世界は正しいことをしても堕ちる。


この世界は人間が罪を犯しても許される。


この世界はこの世界は。











ふと、ルシフェルは眼が覚めた。



「お、おきた…」


彼の目の前には金髪の人間の少女がいた。

大きな青い目から涙を流しながら、小さな体を震わせている。




---私はいつのまに眠っていたのだろうか。




ルシフェルが周りを見渡すと、廃れた部屋のようだった。


ところどころに見たことのない魔方陣が描かれている。


「なんだこれは」


頭を抱え、ルシフェルは目覚める前のことを思い出す。

確か自分はミカエルに剣を刺されてそのまま。


少なくともここはルシフェルの知る場所ではない。



ルシフェルは横たわった体を起こし、少女の方を見た。

少女はビクッと体を震わせる。


--人間の子供?とにかく今は分からないことばかりだ。信用はできんが、状況を知る為にも聞くか。


「そこの人間。ここはどこだ?」


その質問に少女は狼狽ながら、答えた。


「わ、わかんないけど、こわいひと、たくさん」


「怖い人?沢山?」


怖い人。ルシフェルは少女が自身に怯えていると思っていたが、沢山と言っていることは、どうやら自分だけではないらしい。


「それは俺以外に人がいるということ…」


「きゃぁあ!!」


ルシフェルが声をかけようとした途端、ルシフェルの後ろの壁が壊れた。


「ヒャハハハハ!」


「これは」


振り向くとルシフェルが見たことのない物を持った人間の男がいた。


「き、きた!」


チェーンソー。


ルシフェルは知らないながらも壊れた壁を見ていくつかは殺傷能力があるのが分かった。


「エモノ、エモノエモノ!!」


男はぎょろりと目を回し、奇声をあげ、笑う。

ふらりふらりとしている。


「これは人間か?」


ルシフェルが疑問に思うくらい様子がおかしい人間。

そのうちの1人が少女にチェーンソーを振りかざした。


「いやぁぁぁあ!」


それを見て、ルシフェルは少女を拾い上げ、抱える。

少女から離れた地面はチェーンソーでえぐれた。


「えっ」


抱かれた少女は驚き、初めてルシフェルの顔を見る。

少女を抱き上げた勢いで、男の頭を右足で蹴るルシフェルの顔。

少なくともその顔は他の大人と違い、正気を保った顔だ。それを見て少女の何かが決壊した。


「う、うわぁぁあん!」


少女は思い出す。

気がついたらこの部屋にいた。

外を覗くと皆、この男のように狂ってしまっている。

息を殺して自分が殺されないようにじっと耐えていた。


「なぜ泣く」


怪訝そうに顔を歪めるルシフェルは安心できる正気の大人。

やっと出会えた安堵感に少女は耐えていた恐怖を全力でさらけ出す。


「こわかった!こわかった!おにいちゃん!おねがい!たすけて!」


めいいっぱい泣いてルシフェルにしがみつく少女。

ルシフェルは戸惑いながらも


「ここを抜けたら、話を聞かせてもらう。助けるのはその為だ」


「うん!」


ルシフェルは泣きながらも嬉しそうな少女の顔を見て悪い気はしなかった。

何故悪気がしないのだろうとその疑問をごまかす為、顔を背けた。


「先ほど言っていた怖い人とはこれのことか?」


男を見下げながら、倒れているチェーンソー男を足蹴りする。


「うん」


「たくさんと言っていたな」


「うん」


涙ながら質問に答える少女。

ルシフェルは答えるごとにキュッと抱きしめる。

なぜそうしてしまいそうなのか、ルシフェルには分からない。

ただ、胸の中もキュと締め付けられるのを感じた。

答えさせるのに罪悪感を感じるルシフェルは頷いた。


「それだけ分かれば十分だ」


人間なら自身の力で蹴散らせばいい、そう思いルシフェルはベランダから外に出る。

顔を上げルシフェルは初めてその状況を目にする。


「なんだこれは」


先ほどの男のようにふらりふらりとしながら奇声を上げる人間達。

手にはルシフェルの見たことのない物を持っており、殺し合う。


バール、バット、鍬、斧


それを振りかざすと潰れ、斬れ、その先のものが倒れていく。


ショットガン、拳銃、ロケットランチャー。


それを向けると何かが飛び出し、貫通し、その先の者が倒れていく。


死んでいく、倒れていくのに、皆笑っているのだ。



「やはり愚かしいな」



この幼い人間はこれを見ていたのか。


こんな狂気的で残酷で異様な光景を



思わずルシフェルは少女の顔を自身の胸に押し付ける。


これ以上見ないように。


---これでは少女が酷だ。早くこの状況から脱出せねば。


ルシフェルは逃げる為に状況を確認する為に窓の外を見る。


ここは二階。

街全体を囲う大きな壁。

壁の外に出れば、この状況から脱出できるかもしれない。

ここからかなり遠いが壁を視認できた。

空を飛べば、すぐ着くだろう。


「しっかり掴まれ」


少女に衝撃に備えるように声をかけると、答えるように彼女はルシフェルの体をキュと掴む。

ルシフェルは空を飛ぶ為に、体勢を低くし、窓枠に乗り、翼をはためかそうとした。



「は...?」



ここでルシフェルは違和感を覚える。はためかそうとするが翼の感覚がない。

ハッとして自身の背中を見た。


---翼がない!


そう、目覚める前に彼の背に生えていた翼がないのだ。

背中から何も感覚がない。



---どうする!壁までかなり遠いぞ!


どうしたものかと右手で頭を抱える。

するといつもある硬い感触の物がない。


---まさかツノもないのか!


ルシフェルは横の窓ガラスを見る。

そこにはツノも翼もないまるで人間のような自分の姿が映っていた。


「ヒャハハハ!!」


自身の姿に戸惑うルシフェル。

しかし、後ろからまた笑い声が聞こえた。


振り向くと部屋には銃を持った女が立っている。

ルシフェルが乗る窓枠の後ろには足をつける場所が何もない。


「くそ!」


女性が手に持っているものが何か分からないが、まだ距離がある。逃げる隙を作ろうと氷の矢を作ろうと右手を前に出し、魔力を込めようとする。

女性がトリガーに手をかける。


次に破裂音が聞こえた。


「何故何も!ぐぅ!!」


ルシフェルは何もできないまま、肩を撃たれ、その反動で窓から落ちてしまう。


「キャァァァ!!」


叫ぶ少女を守る為、ルシフェルは自身を下にする


軽い衝撃。


「ぐぅ!」


ルシフェルと少女はゴミ袋の海の中に沈んでいた。


---どうなっている!


撃ち抜かれた肩がジクジクと痛む。

目覚める前でも怪我をしたら痛みはあったが、修復はした。今は一向に修復しない。

それに先程氷の矢を出そうとして何もできなかった。

込めようとした魔力を感じることができなかった。

そして、あの女性が何か分からない武器を使っていた。

体が、未知への恐怖で震える。


「これではまるで」


---人間のようではないか


力を失ったことへの不安、そして自身が嫌いな者へと成り下がってしまった絶望で身が固まる。


「おにいちゃん、だ、大丈夫?」


ルシフェルは掛けられた高い声に意識が引き戻された。


改めて少女を見る。


金髪は薄汚れているが海のように青い瞳は心配そうにルシフェルの方を見る。

ルシフェルの腕をさする彼女の顔は止めも可愛らしい。それが害のあるものにも思えない。

ルシフェルは少女の頭を撫でた。


「大丈夫だ」


守らなければ。


不思議とルシフェルはそう思った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ