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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

到る間の追想

作者: 銑鉄

何処で間違えたのか

今でもそれが分からない

心臓に突き刺さる短剣を避けなかった時か

突き刺した者の存在にもっと早く気付けなかった時か

彼を寄越した誰かの恨みを買った時か

恨みを買うほど有名になった時か

有名になるきっかけ、襲われていた彼女を助けた時か

救う力になった剣術を学びたいと思った時か


それとももっと根本的に


生まれた時から間違っていたのだろうか



生まれた時、私の身体は小さく騎士として名を馳せた父はとてもがっかりしたという

生まれた子供には自分のような騎士になって欲しいと思っていた当てが外れたかららしい


だがそれでも始めての子供だったからずいぶんと可愛がってもらった


私が10才の頃、父の思いを裏切り剣を学びたいと伝えた


最初は渋っていた父も当初の夢が叶うのは嬉しかったのだろう

最初は見稽古か始まり、二年後には父と私は打ち合い稽古をするようになった


その様子を見て母は心配そうにおろおろとしながらも暖かい食事と湯の用意をして私と父を癒してくれた


それから更に三年、15になった私は父との稽古を続けていた

父との打ち合いにも勝ちを拾う時が出始め、その頃には母も心配するのは止め呆れたようにしながらも優しい笑みを浮かべていた


父は強く、平等な人だった

過去の功績から領地を持つ貴族と言っても良かったのかも知れないが、父は貴族と呼ばれるよりも騎士と呼ばれる事を好み、望んだ


父の言葉を借りるのならば「貴族として上に立つのではなく騎士として守り、支えられているのだ」とのこと


言葉の通り、父はただそこに居て指示を出すよりも率先して行動する事を良しとしていた

村で争いがあれば部下よりも早く駆けつけ解決する


止めるのではなく解決するのだ


父は村人たちにとって名君だったのだろう

父と母は村人から愛されており、その子供である私も愛してもらえた


それから二年

私は父と共に巡礼に出た

この巡礼は騎士として名乗るために必要な事であり父が教えられる最後の事だと言っていた


この一年では打ち合い稽古で父に負けた覚えがない

その事が父の誇りを圧し折ったのだが、父は出来のいい子だと私を褒め巡礼に出る事を決めた


巡礼は一年ほど掛けて国中を見て回る

その間に自分の進む道を決め、首都にて自らが決めた道を王に報告するのだ


巡礼の旅は幾多の苦難に苛まれた

村に立ち寄れば圧制を聞きつけた父が領主の元に殴りこむ共をし

森に入ればオークの群れをエルフと共に狩立て

草原を行けば賊の集団に狙われ

街に泊まれば逆恨みした貴族の間者を相手取り

退屈する暇はもちろん、自分が進む道を探す暇さえない旅だった


父はその旅路を母への良い土産話になると喜んでいたが私は、面倒ごとに頭から飛び込んでいく父がどうかしているのではないかと思って穏やかではない目線をくれてやった


だが父はそんな目線を物ともせずに自分も巡礼の時は同じ様な目つきで師を睨んだ物だと笑って見せた

私はそれに毒気を抜かれ、父共々厄介ごとに飛び込むように各地を回っていった


気付けば半年が過ぎていた

父と共に巻き込まれる騒動はどれもこれも慌しく時をあっという間に経過させた


草原に陣を張り、野営の準備を終えた私は何気なしに剣を抜く


半年の間酷使されたそれは初めて手にした時と比べずいぶんと薄くなった

巡礼に出る時、出来るだけ頑丈な物をと用意したが度重なる戦闘によって刃毀れした物を何度も研磨して使ってきたのだ


これはある種の日記のような物だ


この傷はオークの剣を受けた時に出来たもの

こっちは賊の矢を防いだ時に出来た痕

この紋章はエルフが友好の証として刻んでくれた


他にも語りだせば尽きぬほどの記録がこの剣には刻まれている

薄くなった刃を月夜にかざし空を切るように何度か振るう


手に馴染む、腕の延長の様に

その感覚を確かめた後、剣を鞘に戻しスープを作っている父の正面に腰を降ろす


父は味見をして満足そうに頷いた後、カップに注いだスープをこちらに渡しながら聞いた


進むべき道は見つかったか、と


私は受け取りながら首を振る


未だ見つからず、ただ笑みを与えられる剣を振るいたいとは思います


父はそうかと短く返した後は何も語らなかった

辺りにはスープを啜る音と風の音だけが満ちていた


更に五月、巡礼の旅は終わりを見せ始め父と共に王都へと足を向けた

今までの騒動とは打って変わって落ち着いた旅になった


だが王都が遠めに見え始めた頃、聞き慣れた音が私と父の耳に届いた


襲撃の音、悲鳴、怒声、様々な音の混じった音


王都に近づくと油断する者が多く、そこを狙った襲撃が多いと父が教えてくれた

そして王都の周囲で賊を生業とするのは、衛兵が駆けつけるまでに仕事を終えて逃げ遂せる実力者が多いのだという


私と父は視線を交わし、周囲に身を隠せる障害物が無いことから隠れて近づくことはせずに音に向かって一直線に走り出した


音はまだ続いている、それは生存者がいるということだ

そして王都の周囲の賊は隠れる場所の少なさから人数は少ないらしい


護衛を雇わない商人はいないだろう、すぐに加勢すれば賊を仕留める事も不可能ではないと判断したのだ


少し走ると襲われているであろう馬車が見えてきた

だが予想とは違い、襲われていたのは商人の扱う馬車ではなく豪華で人を乗せるための馬車であった


その馬車の周囲にはいかにも賊といった風貌の男達が七人

その賊達に囲まれるように金属鎧を纏った人物が一人

その周囲には倒れて動かない王都兵の格好をした人が三人


思っていた以上に厄介な状況だった

実入りの悪い乗合馬車を賊が襲うとは思えない

そもそも乗合馬車に王都の兵が護衛に付くなんて聞いた事がない

あの馬車には誰か重要な人物が乗っていて、誘拐目的で襲ったということだろうか


いつにもまして厄介な事に巻き込まれそうだと思いながら、すでに抜剣している父に続いて走る


草原を疾走する姿に賊の一人が気付きジェスチャーだけで存在を知らせ指示を出す

その指示を確認すると二人の男達がこちらに向かって走り出した


明らかに賊の行動ではない、錬度も高く取り乱す様子もない

二人で此方を足止めしている内に目標を仕留め、その後全員で此方を始末するつもりなのだろう


対処法は簡単だ


足止めされなければいい


私は剣の柄を握り父の後ろに入る

二人とも速度は緩めずに一直線に男たちに向かっていく


こちらに向かってくる二人との距離が20m程になった時私は父の影から半身を出して剣を抜いた


そして抜いた勢いを殺さずにナイフを投げるように剣を飛ばす


男達も剣そのものが飛んでくるとは思わなかったのだろう

まして自分のような若造がそのような事をするとは想像もしなかったようだ


剣は見事に虚を突いて男の一人に突き刺さった

剣が突き刺さった男は走っていた勢いに任せて地面を転がる


もう一人の男は一瞬足を緩めたが此方に向かって再度走り出す


一人は無手になったことから戦力からはずされたのかもしれない

だが、それは間違いだ


私は無手のまま父の前に出る

こちらもあちらも歩は緩めず目の前まで迫った男が剣を振り上げる


私は前に倒れこむように飛び込んで振り下ろされてくる剣を交わし、受身を取った反動を使って起き上がり走り出す

そして振り下ろしがら空きになった男を父が切り捨てて後に続く


少しだけ先を行った私は剣が刺さったまま転がっている男の体から剣を抜いて血糊を払い追いつき追い抜いた父の後ろを走る


馬車の周囲にまだ変化はない


金属鎧を纏った人物は健在であり、堅牢だ

五人もいる男達は洗練されたコンビネーションを見せるが堅実な壁はそう簡単には崩れそうにない


このまま合流できれば押し切れるか


そう判断したのは賊も同じだったようだ


指示を出していた男が再度周囲に指示を出す


それを見た男達は一目散に逃げ出した


ずいぶんとあっさり引くものだと少々呆気に取られたが父も剣を納め金属鎧の人物も警戒を緩めたようだ


父は金属鎧の男性に声をかける


私は父の後ろに立ち周囲の警戒に勤める


撤退を装って油断した所を再度襲撃する

そんな事を警戒していたのだが、見渡す範囲に不振な影は見えなかった


これなら再度襲撃をされても抜剣に遅れる事はないと判断して剣を納める


父は巡礼の最中である事を話している


金属鎧の男性が私を見て一瞬眉を顰めたが、先の戦いの様子を見ていたのだろう

すぐに元の仏教面に戻った


が、その仏教面は長続きしなかった


馬車の中から声が聞こえる

鈴を鳴らしたような美しい声色

それでいて聞く者の骨子を揺するような覇気を含んでいた


「その方は騎士になりたいのですか?

 でしたら、ぜひ私の騎士になって頂きたいのですが」


あくまで口調は問い掛けるようだった

だが、此方が拒否するとは考えてもいないというのはひしひしと感じられた


私も父の性格に毒されていたのだ


民を守り民に支えられる者


少なくとも、そこにあるトースト食べて良い?みたいな誘いで専属の騎士になんてなりたいとは思えなかった


金属鎧の男性は困ったように頭を押えている

父は私に選択を任せているのか、何も言わずただ見つめている


私は、どこの誰かも知らない相手の騎士にはなれないと答えた


しばしの沈黙


わずかな静寂


ゆっくりと馬車の扉が開き、少女が現れた


金属鎧の男性は深いため息を吐いた後、周囲に目を配らせている

父は少女を一度見た後、何も見ていないとでも言う風に金属鎧の男性に習い周囲の警戒を始めた


私は、ずいぶん若い子が出てきたな程度にしか考えていなかった


「仰る通りです、ですが先ほどの無礼にも理由あってのことです

 私はエリス。サンフォーデン・シンレックス・エリザベス

 国王、サンフォーゲン・ゲイルフィール・アルベルトの第三子

 この身分がありましたので易々と姿を見せる訳にはいかなかったのです」


それなりの身分だとは予測していたが、王族だとは思わなかった

それよりも恐らく父は王女の事を知っていたのだ、もう少し手助けしてくれても良いんじゃないだろうか


私は方膝を付き頭を垂れる


先ほどの無礼な物言いを詫び、尚のこと自分では騎士になる資格がないと告げた


だが少女は引き下がらなかった

それどころか笑みを浮かべ、金属鎧の男性に声をかける


「顔を上げてください、資格が必要と仰るのでしたら

 断った事が資格になります、そうでしょう?ゼル

 先の刺客と関わっているなら騎士となり内部から狙った方が確実です

 二度、それも姿を直接見ても辞退するのですからきっと無関係ですわ

 姉上様達と関わりがなく、気概があり腕も良い

 それに年もそんなに離れてないようですし、良い友達になってくれると思いますわ」


そう言って少女、エリスは方膝を付いている私に手を差し出す


ゼルと呼ばれた男性は、姫の望むままにとぶっきらぼうに言っただけで済ませてしまった


私は、差し出された手を取った


先ほどまでの感情とは打って変わって、僅かながらエリスに好意を抱いていた

王族なら簡単に姿を晒す事はしないだろう、上から目線の言葉もまぁ理解できる

だが、その上で彼女は同じ位置まで降りてきて手を差し伸べたのだ


なんとなく、直感としか言えないがエリスとなら共に歩けると思ったのだ


その直感は当ったと言える


目的地は一緒と言う事で共に王都に入り巡礼を終えた私は父と別れエリスと共にいた

父は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながら部屋はそのままにしておくから何時でも帰ってきて良いと言い、その後にその前に母に叱られると思うぞと零して帰っていった


若干の寂しさを私も感じていたが、その寂しさを感じる余裕はすぐに無くなった


彼女、エリスは善人だった

民を思い、国を愛し、命を賭けていた


次から次に騒動に巻き込まれ、それを乗り越える度に少しずつ人々はエリスを王の器だと認めていった


そしてその横に立つ騎士、私とゼルもまた民衆に広く名が広まった


もとよりゼル、ゼルベルト・ハーケンは名の有る騎士であり

堅牢な守りを持って敵軍を個人で封殺する事すらできたという


味方曰く、鉄壁のゼルベルト

その壁は頼もしく誰もが信頼する


敵軍曰く、断崖のゼルベルト

その先に道はなく誰もが歩を止める


そして、恐れ多い事に私もそんな高名な騎士であるゼルベルトと同列に語られているそうだ


私、アウラー・エデルトルートは姫が窮地の時に颯爽と現れた巡礼中の騎士見習いであり

その後、姫に降り注ぐ災いを振り払う矛であると

また、策略、陰謀によって何度も危険な戦地に送り込まれたが勝利を収めている事と

貴族よりも民を優先する事から戦女神付きなんて呼ばれているらしい


味方からの評価は恥ずかしくて聞きたくないのだが、顔と名が売れてしまい迂闊に街に出ると

そこら中から声をかけられてしまう

しかも女神様と呼んでくるから性質が悪い

最近はもう諦めが付いてもいるが


敵軍からは、悪魔とだけ


燃える様な赤髪が尾を引くような速度で戦場を駆け回り、その後には死体が積まれる事から悪魔だそうだ

なんとも、恐れ多い事である

しかし積んだ屍の数ならゼルベルトの方が圧倒的に多いはずなのにどうしてここまで差が出るのか


まぁなんにせよ、私は目立ちすぎた

騎士・・・兵としても姫の友人としても


その日、ゼルベルトは不在だった

急な指令を受け馬で一時間ほどの詰め所に出向いている


私は、エリスの共をして第一王女の部屋へと向かっていた


第一王女は穏健派、正当に行けば王位を受け継ぐのは彼女である

人柄は温厚で自愛に満ち、尚且つ自分の芯を持った人物


現状エリスと王位を争っている一番の相手、ということになっている


だがそもそも、エリスは王位に興味がないのだ

その事は第一王女も理解しており、もっぱらの相手は第二王女である


今日は、その第二王女の件で話し合うために第一王女の元を訪れた


部屋の前に着き扉を叩いて返事を待つ


扉が開かれ、第一王女の騎士が中へと促す

私が先に入り安全を確認してエリスを促し第一王女の騎士と共に部屋の外に出る


こうして待つのも騎士の仕事ではあるが、その日は待つだけでは済まなかった


襲撃である


一部屋に王女が二人

第二王女からすれば絶好の機会だったのだろう


城の中だと言うのに武装した男達がぞろぞろと現れる

男たちからはひしひしと殺気を感じる


それなりに腕の立つ者を集めたのだろう

よくもこれだけの賊を集めたものだと半場飽きれながら眺める

第一王女の護衛も数に霹靂としたのか小さくため息をついている


隣に居るのがゼルベルトなら私が前に出てゼルベルトに扉を守ってもらうだけで済むのだが

居ない相手の事をとやかく言っても仕方ない


もっとも彼も第一王女の護衛であり、正統後継者を守護しているのだからそれなり所か一等級の実力を持っているのだと思うが


彼はショートソードを抜き前に出る

前衛型としてそこそこ名の売れた自分を差し置いて前に出るのは、まだ自分を若輩と思ってか、それとも騎士道精神なのか


私は不敵な笑みを浮かべて剣を抜く


彼はショートソードとバックラーというよく見る構成

敵の攻撃を受け流し斬る

敵を叩き崩し必殺の突きを放つ

そういう堅実な戦い方をする装備だ


その一方で、私の装備は剣のみ

腰にもう一振り下げているが盾は無いし堅牢な鎧も着込んでいない


私は抜き放った剣を片手に倒れこむ様な姿勢で駆け出し数歩分前に出ていた騎士を抜き去った


私が走り出した事で敵も臨戦態勢を取る


だが、それも遅い

腰に下げているもう一振りを空いた手で抜き放つと同時に投擲する

剣はまっすぐに先頭の男に迫るが、構えていた男は投擲された剣を弾く

剣は甲高い音を発しながら宙高くをくるくると舞う


そして、その宙を舞う剣に飛びつきしっかりと柄を握って落下する勢いに任せて振り下ろす

確かな手応えと水音を感じながら私は次の相手へ駈け出していた


そこから先は殲滅である


私は室内、ある程度障害物があった所で戦う方が強いのだ


それは壁、天井、扉、人

重力から解き放たれたかのように縦横無尽に走り、飛び、斬り、刺す

数時後には通路は屍が並び、どこもかしこも血で汚れていた

先ほどまで感じていた殺気は今は微塵も感じない

もっとも最後の方は殺気よりも恐怖や後悔の念を感じてはいたが


私は剣を振って血を払うと鞘に納め扉の前に戻ろうと踵を返す

第一王女の騎士は前に出ると邪魔になると判断したのか扉の前を守っていてくれた

こういう物分りの良い相手は本当に貴重である


その騎士は扉を少しだけ開け、中の二人に襲撃と殲滅を伝えているようだ

部屋の前をこんな状況にした事で少しだけ叱られるかもしれない

そんな事を考えていた時だ


背後でかすかにだが水音が聞こえた

私は剣の柄を握り抜きながら振り向く


そこに居たのは少年だった


それも、見知った顔の


以前街で助けた少年

あれはなんだったか

両親が悪徳商人に騙されて奴隷にされる所だったか


あの時お礼を言ってくれた少年

素晴らしい笑みを見せてくれた少年


その少年が、今にも死んでしまいそうな顔で私を見ている

その手には小さな小さな短剣

しかしその刃は奇妙な光り方をしている

おそらく何か塗られているのだろう

防がなければ

しかし弾くには近すぎる

腕を斬り落とすのは間に合う


切り落とすのか?


この泣き出しそうな少年の腕を


私にお礼を言い、家族と抱擁していた少年を斬るのか?


できるわけがない


それは今までの人生を否定するような行いだ

私は剣を落とし、少年を腕の中に迎えた


短剣も共に迎え入れられ、その刃はまっすぐに心臓へと突き刺さる


少年は震えていた

脅えた眼差しを私に向けている

私はゆっくりと手を少年の脊と頭に回す

そして優しく抱きしめながら頭を撫でた


少年の瞳からは涙ががあふれ出る


私の体は急速に熱を失っていく

そして足が言うことを聞かなくなり、崩れ落ちるように床に倒れた


異変を察したのだろう、騎士が駆けてくる

私は少年から離れてしまった手を再度少年に伸ばす

力なく震える手を少年はおずおずと握りしめてくれた


その様子を見た騎士も何か事情があると察してくれたのか、いきなり少年を切り捨てるような真似はしなかった


私は声を絞り出し、騎士に姫の事、そして少年の事を頼むと言った

騎士が頷いたのを見て、私の体から力がさらに抜けたように感じる

少年の手を強く握り、私は再度声を絞り出す


「助けられなくてごめんね?でも君はもう大丈夫だから、これからは誰かを助けてあげてね」


声は擦れ、ちゃんと伝わったか分らないが少年は泣きながら何度も頷いてくれた


もう、眼もろくに開かない

体は重く、意識は鈍い

遠くで、名前を呼ばれている気がする

この声は彼女の

私の主人、私の王


私の友達の声


彼女は悲しむだろう、両親も悲しむだろう、慕ってくれた民も、同僚も


どこで、どこで間違えたのか


私はもっと


もっと女性らしい生き方をするべきだったのか

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