洛陽到着…猛将は女の子!?
「此処が洛陽か…。結構賑わっているな…。」
迅重は街に入り、最初に目にした感想を1人口にしていた。
「董卓が圧政を敷いていると言う史実とは異なるな…この街は活気に溢れ笑顔が絶えないな。」
迅重は街中を歩きながら独り言を口にする。
「取り敢えず、ほんとに三國志の世界なのか確かめる術は無いものか…。」
その時、大通りで人集りがある一角を見つける。そこで迅重は近くの町人に話を聞く事にした。
「何があったんですか?」
「…あんたは?」
「あ~、旅の者でこの街に来たばかりなんだ。」
「そうか…あそこで二人の食い逃げした奴がいるんだ。悪足掻きか何か知らないけど近くにいた女の子が人質にされているから街の警邏の方も無闇に手出しができないでいるんだよ。」
「成る程…。」
町人の話に迅重は人集りの中に何人か武装した人がいる事を今の話で合点がいく。そして道端に落ちている手頃な石を2つ袖の中に隠すと…
「活気のある街で騒ぎを起こすなんてね…」
「お、おい!危ないぞ!」
迅重はそう言ってゆっくりとした歩みで騒ぎの中心に歩いていく。町人の言葉に耳を傾けず…
「そこの人、俺が時間を稼ぐかなんかするから捕まっている女の子達の事任せるよ。」
長物…竜の頭が意匠された薙刀の様な物を担ぐ自分よりも頭ひとつ分低い女性にすれ違いざまに声を掛けて輪の中心に入る。
「な、なんだおまえは!?」
「この街に来たばかりの旅の者だ。」
迅重の言葉に食い逃げ犯の1人が短刀の様な物をちらつかせながらも狼狽える。
「そ、その旅の人間が首を突っ込んでくるんじゃねぇ!」
その際に少女の目の前を刃が通り過ぎ短い悲鳴を上げる。
「彼女達を解放すれば痛い目を見ずに済むんだぞ?」
「舐めた事言ってんじゃねぇぞ!こっちには人質がいることを忘れんじゃねえぞ!」
男の近くに更に寄せられた少女は泣き声を上げない様に我慢していた。
「(ほぅ…気骨のある少女だな…。)だが、人質がいなくなればその安全が無くなる事が分からないのか?」
「あ…?」
男が間の抜けた声を上げる。
「はぁ、そんな事にも気付かなかったのか?頭の足らない上に浅慮だな。」
「んだと!」
「第一、俺が時間稼ぎなのにも気付かないんだからな?」
迅重はいもしない男達の後ろを意味ありげに見れば釣られて後ろを振り向く。その瞬間を迅重は見逃さずに行動に移る。
「何も無いじゃ…」
男の1人がそう言って前を向けば目と鼻の先に迅重がいる事に驚き硬直する。その隙を見逃す程迅重は甘くはない。
「覇ッ!」
顔面に拳を見舞い一撃で昏倒させる。
「このっ!?」
気が付いた男はナイフを少女に振りかぶろうとした所でナイフを何かで弾かれる。
「お前も終わりだ!」
怯んだ所で迅重が少女を引き剥がし抱き寄せ、男の顎を打ち抜き地面に倒れる。
「ふぅ、これで大丈夫だな…。」
一息吐いた所で周りの民衆から歓声が湧く。
「凄い無茶しよるなぁ。」
民衆の中を掻き分けて現れたのは先程迅重がすれ違いざまに声を掛けた女性である。
「相手はただの食い逃げだからな。意表を突くのは簡単だよ。貴女は?」
「ウチの名前は張遼や。ここ、洛陽で主に警邏をやっとるもんや。」
張遼の言葉に迅重は表情に出さない様にしつつ内心では驚きに満ちていた。
「張遼さんですか。」
迅重は改めて張遼と名乗る女性を見る。モデル顔負けのプロポーションに袴を穿き羽織を掛け、胸にはサラシを巻いた奇抜な格好をしていた。
「んなさん付けせんでもええで。 賈駆っちに月っちを助けてくれたんやからな♪ 」
「賈文和?あの神算鬼謀の名軍師の…」
「あんた…何者?ボクの字まで知ってるしその奇妙な格好をしてる…それに刃物を持った人間に対して冷静に対処し、一撃で意識を刈り取るその手際の良さ…不審に思うなって方が無理よ…って、いつまで抱き寄せたままなのよ!?」
迅重の言葉に抱き寄せていた少女がそのツリ目がちな瞳を眼鏡越しで迅重を睨み付け、問いただす。それと同時にいつまでも自分を離さない迅重にしびれを切らし僅かに暴れる。
「わ、悪い…。」
「まったく助けてくれた事には感謝するわ。」
「あぁ、だけどなんで捕まったりしたんだ?太守様や軍師なら護衛の1人や2人付いているはずだろ?」
迅重の言葉に賈駆は気まずいのか目を逸らしながら…
「一応お忍びなのよ。月のお願いでね…。」
「誰…?」
「董卓よ。」
「え…?あの薄幸そうな子が…董卓?」
迅重は今日一番の困惑にみまわれる。
「(え?董卓ってあの董卓だよな…圧政を敷き反発する者は極刑にする悪逆非道をした大悪党が……この子!?)……それじゃ、俺はこれで!」
「霞!ソイツを捕まえて!」
「あんさん、すまんな。賈駆っちの命令やからな…」
「流石に張文遠から逃げ切る自信はないよ…。」
「ほな、大人しく来てくれな?」
張遼の言葉に人知れずに迅重は天を仰いだ。