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迅重帰還そして…


 「此処は…」


 「…気が付いたみたいね。」


 迅重は見知った部屋で目が覚めるが記憶が曖昧な所で詠が声を掛けて来た。


 「詠…俺は」


 「帰還が遅いから先に帰って来ていた華雄に迎えに行かせたら荒野の真ん中で気絶しているアンタを担いで帰ってきてのよ…。」


 そう言って詠は眼鏡の奥で迅重を見つめる。


 「アンタ、なんでそんな所で気絶してたの?霞に勝つほどの人間が…」


 「…ちょっといいか?」


 「…なにかしら?」


 「俺の世界の事だ。俺の世界には…いや、俺の周りと言うのかな…?兎に角平和な物だった。軽犯罪の様な物や重犯罪を侵す者も少なからずいたが俺の周りは…俺の知る範囲では平和だった。小さな島国だがな…。他の国では争い事…此方で言う戦は終わりの見えない泥沼と化した物もあった。そんな平和な所にいた人間が殺人を犯せばどのような状態になるか…分からないよな?」


 「…まともな神経であればね…。でもアンタの場合は城を、町を、民を、そして月を護ってくれたじゃない。」


 「それでもなんだよ…。今でもあの時の感触が手に感覚として残っているんだ。思い出すだけでも三半規管が可笑しくなりそうな位震えるんだ…。今回の戦で俺は初めて人を殺めた。俺は怖いんだ。人を殺すという行いそのものが」


 迅重は自身の心の内にある物を詠に語りかける。


 「確かに人を殺める事は真面な神経をしていればって言うよりもアンタの様に平和な所から来た人間には非常に辛いでしょうけどね。でもやらなければこっちがやられるだけ。殺され、蹂躙され、果ては滅びるしかない。わたし達の世界は非情なのよ。」


 「世界はそこまで優しく出来ていない…か。」


 「そうよ。でも、人を殺めた事に罪悪感があるのならまだ大丈夫よ。罪悪感を感じなくなった時はもう人では無い、賊と同じ獣よ。」


 詠の諭すような言葉と共に憎悪に似た視線を向けられる。


 「今はとにかく休みなさい。後の事はわたし達に任せなさい。月も霞も心配していたんだからそんな腑抜けた表情(かお)のアンタには会わせられないわね…!」


 そう言って詠は部屋を出て行った。


 「詠の毒舌は相変わらず心にクるな…。だけど、詠。どうしようもないんだよ…爺さんの訓練の時には飯となる獣を殺したりしていたが、人を殺した事は俺には無いんだ…アノ時まで…。」


 迅重はそう言って左目から涙を流した。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「詠ちゃん!迅重さんは大丈夫なの!?」


 「賈駆っち、迅重は大丈夫なんやろな!」


 迅重の部屋から自身の部屋に戻ると酒好き将軍の霞と賈駆の友人で太守をしている月が詠に詰め寄る。


 「あぁ…もう!ちょっと!二人とも落ち着きなさい!迅重は無事に意識を取り戻したわ。…けど」


 「けど…?まさか迅重さんになにかあったの!?」


 「月、落ち着いて。迅重が地の御使いなのは(しあ)(ゆえ)も知っているわね?」


 「はい。」


 「知っとるで…。」


 「それで、迅重のいた所は至って平和な国だったそうよ。」


 「凄いですね…。だけどそれと迅重さんがなんの関係が…」


 「大ありよ。アイツは人を殺めた事が一度も無いのよ。」


 月の言葉に賈駆が答える。


 「え…!」


 「そりゃ、そうよね…あれだけ強くても天の国から来た人間…アイツから聞いた話じゃ争いなんて小競り合い程度の物しかないのに本人は賊の頭を単身で殺したのだからね…。平和な国から来た人間なら予想できる事象なのよね…」


 「すまない…。俺が不甲斐無いばかりに詠や月に迷惑を「アンタは黙ってなさい!」しかし」


 「アンタがこうなる事を考えていなかった私の責任よ。取り敢えず今日の所は静養してなさい。後日アンタの持ち場を決め直すわ。」


 詠はそう言って月を伴って迅重の部屋を出る。


 「俺は…何がしたかったんだろうな…。」


 迅重は己の手を見つめ強く握る。


 ―――――――――――――――――――――――――――


 「詠ちゃん、迅重さんは大丈夫かな?」


 「現状は分からないわ。ただ、このままでは危ないのは確かね。恋には踏ん張って貰わないといけないわね。霞と華雄は城の警護と村の巡回に回って貰うわ。」


 「詠ちゃん。迅重さんを私達のお屋敷に棲んで貰わないかな?」


 「…月?」


 月の言葉に詠が疑問の声を零す。


 「お城での静養は難しいから私達のお屋敷の方が気が休まると思うの…。」


 「確かに…、でも…」


 「迅重さんなら大丈夫だよ。いざとなったら私がお世話するから。」


 「月にそんな事させれるわけないでしょ!それなら私がするわよ!」


 「ふふふ、じゃあお願いね。」


 そう言って月は足早にその場を離れる。


 「あ、月…」


 言った後で後の祭り。詠は月の後姿を見送るのであった。


 「私にどうしろってんのよ~!」


 廊下に詠の悲鳴染みた声が木霊するのであった。


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