昼間、彼と
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八月もお盆が終われば、街にも時折涼しい風が吹き付け、暑さも幾分引いていた。その月の休日、あたしは彼氏の祐次のスマホに電話を掛けて誘う。「今から一緒に食事しない?」と。彼も応じるようにして「ああ」と頷き、自宅マンション前で待っていると言った。あたしの方がゆっくりと祐次のマンションまで歩き続ける。疲れていた。さすがにお盆の真っ最中は酷暑だったからである。今は少し気分が収まっていた。あたしも普段ずっと会社で仕事をしていて、一度結婚した旦那とはすでに別れてしまっている。子供がいなかったから、案外簡単に離婚できた。そして今は年下の彼と付き合っている。祐次が三十代前半で、あたしの方は四十代も後半に差し掛かっていた。だけどいつも思えるのが、彼と一緒にいると楽しいということだ。別に特別なことはしてない。ただ、あたしの方がバレンタインや誕生日などの記念日にプレゼントをしたりするのだし、祐次もあたしと会ってからいろんな意味で変わった。彼も会社員だったが、あたしに対し、いろんな記念日にプレゼントをくれるのである。お互いいい関係なのだった。別に自然なのである。出会ったのが六年前の二〇〇六年の春で、あたしもとてもいい出会いなんじゃないかと思えていたからだ。現に今から一緒に食事を取るのだし、その後はあたしのマンションでゆっくりと時を送るつもりでいた。単に一緒にいるだけでも楽しい。年の差など関係がないぐらい、あたしたちはしっかりと繋がっていた。目には見えないのだが、その分頑丈な鎖のようなもので。あたしも歩きながら、祐次と共に過ごせる時間を大事にしていた。確かにお互いある程度年齢が行っている。だけど、それが故にあたしたちは素直に愛し合えた。普段ずっと会社でパソコンのキーを叩く。慣れていたのだが、やはりきつい。あたしも腱鞘炎がひどくなっていた。以前からあったのだが、最近作る資料や書類などが多くなり、担当する仕事も増えた。でも、その分充実している。あたしも歩きながら、そんなことを考え続けていた。
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「祐次」
「ああ、理沙子。待ってたよ」
「食事に行きましょ」
「うん」
彼は端的に頷き、あたしと共にゆっくりと歩き出す。残暑に蒸されながら……。辺り一帯には熱が漂っている。別に気にする必要はなかったのだが、わずかに汗が出てきた。ゆっくりと歩きながら、近くにあるランチ店へと入っていく。疲労が溜まっていた。夏の暑さは体に悪い。だけど蒸すような暑さもいずれは引いていく。夏の終わりが近付くと共に。そしてあたしたちはランチ店でステーキのセットものを二人分頼んだ。何も特別に食事に気を遣う必要はない。あたしだって職場にお弁当を持っていくわけじゃなくて、普通に外食していた。ただ、店は選んでいる。同じ外食するにしてもなるだけ安く付く店を、だ。あたし自身、経済感覚はしっかりしているのだった。会社でも管理職にいて、部下を見張るのが主な仕事なのだが、自分の方も仕事が山積みだ。何か特別に気になることはない。淡々と仕事が続く。その繰り返しなのである。あたしも慣れてしまっていた。ずっと仕事が溜まっているのだけれど……。食事はものの二十分ほどでテーブルへと届けられた。一緒に食事を取りながら話をする。「最近どう?」などと言って。不自然さはなかった。単に普通の会話である。あたしも普段の職場での憂さなどを祐次に話しながら、気分を落ち着けていた。確かに仕事をしていると疲れてしまう。でもこうやってパートナーと食事を取れて、いろいろと話が出来てよかった。最後にデザートとアイスコーヒーが出て、それで会食は終わる。今からあたしのマンションに行き、ゆっくりと過ごすつもりでいた。何もかもを忘れてしまって。
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街を歩いていると、地方の一都市とあってか、人間はある程度多い。通りには人が大勢いて、店などがずらりと並び、大都会ではないにしても疲れる。あたしも慣れていた。こういった地方都市に住むのにもある程度お金が掛かることに対して。そしてスマホを持っていたので、絶えず会社の外の人間たちとも接触し続ける。仕事での疲労や人間関係の苦労はあったのだが、別にいいと思っていた。そして今はスマホをマナーモードに設定して自宅マンションに入り、ゆっくりし始める。ベッドに寝転がると、祐次が覆いかぶさってきた。それから性行為が始まる。体を重ね合うごとに愛情が増した。あたし自身、何も怖がることはないのだ。彼がいてくれることで。ベッドの上で情事に浸りながら、何もかもを忘れてしまう。ゆっくりと性交に浸る。互いの体を愛撫しながら……。
性行為が終わり、ベッド上で余韻に浸りながら、会話し合う。
「もうすぐ夏も終わりね」
「ああ。……今年も暑かったから、君も疲れただろ?」
「ええ。だけど、あなたがいてくれるからこそ、あたしも頑張れるって思ってるわ」
「そう。……今から混浴しようよ。お風呂に入って体の汚れ落とさないと」
「そうね。ゆっくりするわ。幾分温めのシャワー浴びて」
下着類を準備し、バスルームに向かい、揃って歩き出す。疲れてしまっていたのだが、入浴は心地いい。そう思いながら風呂場に行ってシャワーを出す。いくらか温いぐらいが晩夏の入浴に最適だ。あたしもそう感じていた。シャワーを浴び続ける。互いに髪や体を洗い合って。互いの髪からはシャンプーやコンディショナーの残り香が漂っていた。タオルで髪を拭き終え、ゆっくりとリビングへ舞い戻る。キッチンへと入っていき、冷蔵庫から冷えたミネラルウオーターのボトルを二本取り出した。確かに喉越しがいいので、入浴後の水分補給には最適だ。祐次にも渡すと、彼が、
「ああ、ありがとう」
と言ってキャップを捻り開け、飲み始める。祐次も普段会社ではコーヒーばかりらしいので、たまにはミネラルウオーターもいいと思う。コーヒーはブラックで飲むと苦いのだし、胃に悪いからだ。ペットボトルに入っていた冷たい水を半分ほど飲み干し、髪をドライヤーで乾かしてベッドへと戻る。彼も入ってきた。互いに何でもない話でも盛り上がるのだ。昼間からずっと一緒なのだが、こういったときゆっくり出来る。忌憚なく。そしてまた口付けを交わし、抱き合った。遠慮は要らない。あたしもドラマや恋愛小説などに出てくる主人公やヒロインなどには容易に感情移入できていたのだし、これからもそういったものを鑑賞しながら、実生活では祐次と一緒に歩いていくつもりでいた。何ら抵抗はない。互いに若くはないのだが、その分、円熟した恋愛が出来ている。これが本当の愛だろう。相手のことを具に察し合える男女間においての。
(了)