友達
「ジャスミン、大丈夫?」
「うん……」
ミザールにどうにか笑って応えたけど、体の震えは止まらない。
どうしたらいいのかわからない。
でも、でも……。
「じゃあ、どうしてベンジャミン王はジャスミンに会おうとしなかったんだ? それに……」
「俺たちにも会わせてもらえなかったのは?」
怒りを抑えているようなファドとは逆に、カイドはとても冷静に訊いた。
だけど、なんでだろう。ちょっと怖い。
「それは……王妃様のご遺志だったそうだ。成人するまでは神殿で何にも囚われず自由に育って欲しい。神殿に仕える者達以外に会わせるつもりはない、と」
「自由? それのどこが自由なの?」
「ミザール」
吐き出すように言うミザールと、それを止めるヴィー。
二人とも私のために怒ってくれてる。だからちゃんと誤解をとかないと。
「神殿のみんなはとても優しくて、すごく幸せだったよ。そりゃ、騎士のみんなに会えなかったのは残念だけど、森の動物さん達もいたから、不自由なんて思ったこともなかったの。それにお兄様も会いに来てくれたし」
うん。そうだよ。寂しいこともあったけど、楽しいことの方がたくさんだったから。
にっこり感謝の笑顔を向けたら、お兄様は困ったような笑顔を返してくれた。
「僕は……」
「お兄様は神官さん達にいっぱいお願いして月に一回の面会ができるように約束してくれたんだよね? 私、知ってるの。みんなみんな、私のことをすごく大切にしてくれていること」
「……ジャスミンが成人するまでなんて待てなかったんだ。家族なのに会えないなんて、おかしいじゃないか。陛下は王妃様のご遺志を尊重するとおっしゃっていたけれど……。そのくせ、森で遊ぶジャスミンを遠くからこっそり覗き見していらしたんだから」
「え……」
それって、あんなことやあれなこと……見られてたってことかな?
ふぬぬうぅ! それは恥ずかしすぎるようぅ。
「森の動物達にはご自分のことをばらさないようにと言い含めて、遠くの木陰からこっそり覗いているなんて、まるで変た……いや、少々怪しげだったよね。ご本人はジャスミンの健やかな成長を見守っているおつもりだったものだから、僕も止めることができなくて……」
恥ずかしがる私を見て、お兄様が気まずそうに言う。
ううん。お兄様は気にしなくていいんだよ。私が森ではちょっとはめをはずし過ぎてたっていうか……。
そこでふと思い出した。
そうだ。一人で照れてる場合じゃないよ! 自分のことばっかりで、大変なことを忘れてた!
「ジャスミン、どうしたの?」
いきなり立ち上がった私にみんな驚いてたけど、それどころじゃない。
「王様は……王様は今、病気なんでしょ!? 大丈夫なのかな!?」
「うん、大丈夫だよ。心配しないで、ジャスミン。少し心労がたたってしまわれただけだから、今はもうずいぶん回復なされてる」
「心労って……」
お兄様の笑顔は安心させるような優しいものに変わったけど、やっぱり私のせいじゃないのかな。
すっかり落ち込んでしまった私に近づいて、お兄様がそっと頭をなでてくれた。
「もうずっと、この世界は厳しい時代が続き、陛下は聖王として世界中から救いを求められ、多忙な日々を過ごしておられている。だから、ジャスミンのせいではないよ。まあ、確かに行方不明になった時には、それはもう心配なされていたけれど、彼らが――殿下たちがジャスミンの無事を伝えてくれたからね。すぐに迎えに行かなかったのは、ロウヴォ王国のシリウス王のことを考えてのことなんだよ。しばらくジャスミンはパントレ王国で静養した方がいいだろうと……すでに十六歳の誕生日は迎えていたから、神殿の反対も押し切ったんだ」
「なんかさあ……そういうことは早く言えよ」
「そうよ。事情をきちんと説明してくれていたら、そもそもジャスミンをしっかり守れたのに」
ファドとミザールはすごく不満そうだった。
でも、守るっていうのはシリウスのことを言ってるのかな。だとしたら、やっぱりここで説明しておかないと。
「あの、あのね! シリウスは悪くないの!」
「ジャスミン、落ち着いて。ゆっくりでいいのよ」
鼻息荒く叫んだ私をなだめるように、ヴィーが優しく声をかけてくれた。
さっきまで座ってた石をミザールが軽く叩いてる。
ふうっと息を吐いて、おとなしく座ったら、カイドがまっすぐに私を見てた。
「やはりジャスミンはシリウスを知っているのか?」
「あ、う……」
思わずためらってしまう私は本当に臆病者の卑怯者だ。
でも逃げちゃダメ。ちゃんと向き合わないと。
大きく深呼吸をして、はっきり声を出す。
「シリウスは……友達なの。もうずっと前から」




