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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第四章

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喧嘩


 重たい沈黙の中を、さわさわと温かい風が通り抜けていく。

 私の唐突な告白に、みんな何も言わない。慰めてほしいわけじゃないけど、何か言葉がほしいって思う。

 やっぱり私はワガママだ。


 ちゃんとした説明をしようとした時、森の中から人が近づいてくる気配がした。

 リオトやミザールはすぐに警戒したけど、カイドやファドはもう誰だかわかってたみたい。


「大丈夫だ、心配ない」


 カイドの言葉に、みんながほっと力を抜く。

 うん。この匂いは大丈夫だね。ただ今はちょっと気まずいかも。


「あら、今頃いらしたの?」


「ああ、遅くなってすまない。どうも行き違いで、聖城には連絡がこなかったんだ。ここに皆がいると鳥達が知らせてくれてね」


 ミザールの冷たい言葉にも、お兄様は穏やかに答えた。

 それから小っちゃくなってる私を見る。


「やあ、ジャスミン。元気そうだね。……体の方は」


「こんにちは、お兄様」


「そんなに固くならないで。今、女官長はいないんだから」


「うん……」


 お兄様はじっと私の瞳を覗き込んで、ふっと悲しそうに微笑んだ。


「思い出したの?」


「……うん」


「全て?」


「ううん。全部じゃないの。私が森に隠れる少し前のことはまだ……」


「……そうか」


 ふうっと息を吐いたお兄様に、ファドが頭をわしわしかきながら困惑顔を向けた。


「なあ、メグレズ。お前はその……知っているのか?」


「何を?」


「いや、その――」

「私がお兄様の本当の妹じゃないってこと!」


 勢いをつけて言ったから、言い方がきつくなっちゃった

 そんな私を見て、メラクがびっくりした顔してる。

 でも、こんなに悲しい話は勢いがないとできないよ。


「ジャスミンは僕の妹だよ」


「ち、ちがうよ! そんな嘘はいらないもん!」


 一気に感情が高ぶった私の声に、メラクだけじゃなくて小鳥さん達も驚いてばさばさと羽ばたいた。

 ああ、どうしよう。止まらない。これじゃ、あの時と同じだ。

 良い子にしてたら王様に会える。家族で仲良く一緒に暮らせるって信じてたのに。


 興奮する私に、お兄様が両手を伸ばす。

 私がビクって体を強張らせると、ミザールが動く気配がした。

 だけどリオトがミザールの腕をつかんで止めて、お兄様が私をぎゅっと抱きしめる。


「嘘じゃない。ジャスミンは僕の妹だ」


 お兄様の腕の中はとっても温かい。

 それなのに素直になれない私を、みんな静かに見ている。

 そう、そうだね。ちゃんと決着をつけないといけないんだよ。

 前は逃げ出しちゃったから、みんなにたくさん迷惑と心配をかけたんだ。


「お母様は……王様を裏切ったんだよ? だから、私は王様の本当の子供じゃないもん。お兄様の妹じゃないもん!」


「王妃様は陛下を裏切ったりなんてしていないよ。ただ……陛下にも王妃様にもどうしようもないことだったんだ」


「でも私は――」

「僕も陛下も、ジャスミンのことをとても大切に思ってる。たとえ離れて暮らしていても、ジャスミンは家族なんだ」


 温かな声に優しい言葉。

 いっつもこうなんだよ。どんなにワガママ言っても、お兄様は穏やかに微笑んで私を受け入れてくれるんだから。


「お兄様の……お兄様のばかあー!!」


 大きな声でわあわあ泣きだした私を抱きしめるお兄様の腕に力が入る。

 ちょっと苦しいけど、嬉しい。

 王様には会えなくても、お兄様はできる限り会いに来てくれてたんだ。

 月に一回の騎士としての面会だけじゃなくて、みんなにばれないようにこっそりと。

 神殿を抜け出すことを教えてくれたのも、もっと自由にしたらいいって言ってくれたのもお兄様。

 だから、お兄様が本当のお兄様じゃないって知った時にはショックで……すごくショックで……。


「……ごめんなさい、お兄様」


「ううん。僕はジャスミンが久しぶりに甘えてくれて嬉しいくらいだよ」


 もう。やっぱりお兄様は甘い。

 今までにも何度かお兄様に「ばか」って言ったことあるけど、嬉しそうににこにこするだけだったよね。

 それで毒気が抜けちゃうんだよ。


「……えっと、仲直りできたのかな?」


 メラクの遠慮がちな声が聞こえる。

 お兄様の温かい腕の中から離れた私を、今度はミザールがぎゅっと抱きしめた。


「あのね、ジャスミン。私は女神様にお会い出来るのをずっと楽しみにしてたわ。でも直接ジャスミンに会って、ジャスミンを知って、ジャスミン自身のことが大好きになったの。それは女神様とは何の関係もないことよ」


「私もジャスミンが大好きよ。みんなもそうよね?」


 ヴィーも隣に立って優しい言葉をくれる。

 みんなも大きく頷いて笑ってくれる。


「ありがとう、みんな。私もみんなが大好き!」


 本当に私って、幸せ者だよね。

 だから、ちゃんとみんなに説明しないと。

 そんな私の決意に気付いたのか、お兄様がそっと私に言う。


「いいよ、ジャスミン。僕が説明するから」


 お兄様にはすっかりお見通しみたい。

 だけどお兄様はちらりとお母様のお墓を見て、ちょっと悲しそうに笑った。


「その前に、少し場所を移動しようか。僕がここにいるのを、女官長は喜ばないだろうしね」


 うん、聖城に連絡がいかなかったのは行き違いじゃない。

 しょんぼりした私に、気にしないでって言うようにお兄様が頭をなでてくれる。

 むふふふ。この感覚、懐かしいなあ。

 すぐにオナラするお兄ちゃんもよく頭をなでてくれたんだよね。


 お兄様がお墓の前に膝をついて祈りを捧げてる間は、みんな静かに待った。

 本当はお兄様も王様も、他の人達には知られないようにお母様のお墓に訪れてくれてたのは知ってる。

 入れ違いになったことが何度かあって、匂いでわかったんだ。

 それでお兄様に訊いたら、王様と一緒なんだって教えてくれた。

 もちろんアマリには内緒だったけど、すごく嬉しかったな。


「お待たせ。さあ、行こうか」


「うん」


 立ち上がったお兄様が手を差し出してくれる。

 迷わず私は手を取って、振り向いた。


「みんな、行こう。この先にね、とっても素敵な場所があるの。そこで話したいから。私の思い出したこと。恵みの種のことも」


「ええ、わかったわ」


 私の決意に、ミザールやみんなが大きくうなずいた。




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