暴露
「姫様!!」
神殿に戻った途端に聞こえた甲高い声。
入口でウロウロしてたアマリは私を見て青ざめた。
うむむ。ダメだって言われたのに逃げ出しちゃったから、怒ってるよね。
ちゃんと覚悟を決めて、叱られよう。
「アマリ、ごめ――」
「姫様! お早く、その汚らわしい獣の背からお降り下さい!」
「え?」
アマリの言葉にビックリ。
汚らわしい獣って、まさかカイドのこと?
リオト達が怒ってるのがわかる。でもカイドは気にしてないみたいで、私が降りやすいように屈んでくれた。
「ありがとう、カイド」
よいしょ、とカイドから降りて、駆け寄って来るアマリを見上げた。
私は反省することばっかりの悪い子だけど、今の間違ってる言葉はしっかり訂正しないと。
「アマリ! このヒョウさんはカイドなんだよ! 私をここまで乗せて帰ってくれたの。それにカイドはちっとも汚くないんだから! ツヤツヤのピカピカで、とっても綺麗なの! それにそれに、カイドの胸毛はすっごくフワフワで、柔らかくて、気持ち良くって、ほっぺたでグリグリしたら、もふもふってなって、むふふって幸せなんだよ? しかもとってもいい匂いなんだから!」
「……」
フンフンって鼻息荒く説明したら、立ち止まってたアマリがいきなり泣き崩れた。
なんで!?
「姫様が……私の姫様が……まさかそのような……」
そのようなって何? 私が泣かせちゃったの? 言い方がきつかった?
ずんどうの腰に当ててた両前足を慌てて下ろす。
それから、どうしたらいいのかわからなくてオロオロしてたら、ファドが大声で笑い始めた。
なんで?
リオトもミザールも笑ってるし、メラクはちょっと困った顔して、ヴィーは……ファドを思いっきり叩いた。
「って! なんで叩くんだよ!?」
「その下品な笑い声、バカっぽさが増してますわ」
「んだよ! カイドがうろたえる姿なんてそうそう見れねえだろ?」
え? カイド?
驚いて振り向いたけど、カイドはいつものカイドだった。
ポンポンと私の背中を軽く叩いて、落ち着かせてくれる。
「ジャスミン、女官長と部屋に戻って、きちんと話をした方がいい」
「……うん」
そうだ。アマリが泣いてるのは、きっと私が逃げ出したからだ。
ちゃんと謝らないと。
ぽてぽてと歩いて、膝をついたアマリの側に行く。
「アマリ、あの……心配かけて、ごめんなさい。色々ごめんなさい」
なんだか謝ってばかりの私は、ちっとも成長してない。
やっぱりおしとやかは無理かも知れないけど、元気いっぱいの素敵なお姫様を目指そう。
うん、頑張るよ。
何度目かの決意をして、そっとアマリの服に触れてみた。
「アマリ、わっ! ふぇむっ!!」
途端にアマリがギュッと私を抱きしめたから、変な声が出ちゃったよ。
「女官長! ジャスミンが苦しがっているじゃない!」
「確かにそうだけど、姉さんが言ってもね……」
ミザールとリオトのいつものやり取りが聞こえる。
なんだかホッとするけど、ちょっと苦しい。
でも、この感覚は覚えてる?
うん、すごく覚えてる。
なんで今まで忘れてたんだろう。
ずっと、いつも私を抱きしめてくれてたのに。
あたたかくて、優しくて、安心できる、アマリの細い腕の中。
「アマリ……今まで、本当にごめんなさい」
こんな体じゃ抱きしめ返すことはできないけど、それでも精いっぱい抱きつく。
って、あれ? ひょっとして、これは……。
「人間になりそう……」
「まあ!」
ぼそりと呟いた私の言葉に、アマリがすばやく反応した。
アマリは猛スピードで私を抱っこしたまま駆け出して、気が付いた時には編みぐるみのお部屋に到着してた。
ミザールとヴィーが追いついたところで、人間に変身。
せっかくの変身ブランケットは、肝心な時に持ってなくて大失敗だよ。
スッポンポンの私に、アマリはすぐにストールみたいな大きな布を巻き付けてくれる。
「本当に……姫様はお変わりありませんね。いつも限界まで変化していらっしゃるのですから……」
「そうなの?」
呆れた声の中にも、あたたかい響きを感じる。
さっきまで冷たい感じがするなんて思ってたのが嘘みたい。
「さようでございます。それで私共は何度も肝を冷やしました」
「……ごめんなさい」
「そのお言葉も、何度も頂いております」
うう。冷たくはないけど、厳しいことに変わりはないよ。
しょんぼりした私を、ミザールが庇ってくれる。
「あら、ジャスミンの変化した姿はとても可愛らしいんだから、いいじゃない」
「もちろん、姫様は人間のお姿でも、ネズミのお姿でも、この世で一番でございます。ですが、時と場所を選んで頂きたいと申し上げているのです。今までに何度お着替えが間に合わず、このお姿を皆の目に触れさせてしまったとお思いですか?」
「ええ!?」
そんな恥ずかしい衝撃の事実があったなんて。
皆って、いったい誰のことなんだろう。さっき、おじさんとかもいっぱいいたけど……。
「ま、まさか、私……スッポンポンで歩き回ったりしてないよね?」
「ええ、もちろんでございます」
そっか。さすがに、そこまでは私もしないよね。
大きく頷いたアマリの言葉にホッとひと安心。
でもアマリは、そんな私にとどめの一撃。
「姫様は、歩いたりなさりません。走り回っておいででしたから」
そ、そんな……。
ひょっとして、私の記憶がないのは忘れたい過去のせい?
きっと、きっとそうなんだ。




