対面
「ジャスミン、着きましたわよ」
ふむむ? あれれ? 私、寝てたのかな?
ヴィーに優しく揺り起こされて気が付いた。
何か懐かしい夢を見てたみたい。
「ジャスミン、用意はいいかしら?」
「あ、ちょっとだけ待って」
ミザールに声をかけられて、ヴィーのお膝の上で慌てて毛づくろい。
久しぶりに帰るのに、寝ぐせついてたらカッコ悪いからね。
うん。鏡はないけど、きっと大丈夫。自慢の毛はフワフワだもん。
「もういいよ」
私の合図でミザールが扉を小さく叩いた。
すると外から開けてくれたのはカイド。
ミザールが先に降りて、私に手を差し伸べてくれる。
それでヴィーからミザールに抱っこ交代。
なんだか赤ちゃんみたいで、ちょっと恥ずかしいなあって思ったけどしょうがないよね。
お外に出ると、いっぱいの人がいてビックリ仰天。
先に着いてたリオト達もいて、その後ろになんと王子様が立ってた。
もちろん、カイドもリオトもファドもメルクも王子様なんだけど。
なんていうか、王子様然としてるっていうか、ガラスの靴を持ってそうっていうか、笑ったら歯がキラリってしそうっていうか。
きっと、この人がお兄さんだ。
「おかえり、ジャスミン。無事で良かったよ」
優しく微笑んで挨拶してくれた王子様は金色の髪に碧い瞳。
私が人間になった時とちっとも似てないけど、間違いなくお兄さんだ。
だって、ビビビってきたもんね。
ちょっとホッとして、私も挨拶をしようと思ったら、ミザールの腕にギュって力が入って、すぐには声が出なかった。
「よくも、そんな呑気な挨拶ができたものね!? そもそもあなたが――」
「姉さん!」
言いかけたミザールを止めたのはリオト。
だけどそのリオトも怒ってるみたい。
どうして? なんだか空気がピリピリしてるよ?
不安になってカイドを見たら、すぐに笑ってくれた。
「皆の怒りもわかるが、ここでは場違いだ。ジャスミンも怯えているじゃないか」
カイドの言葉と一緒に、張り詰めていた空気もミザールの腕の力も弛んで、ひと安心。
やっぱりみんな怒ってたみたい。
でもなんで?
お兄さんは困った顔してる。
「ごめんなさいね、ジャスミン。苦しかったでしょう?」
「ううん、大丈夫」
よくわからないけど、ミザールは謝ってくれたし、ケンカにならなくて良かった。
みんな仲良しが一番だよね。
そうそう、ちゃんとお兄さんにも挨拶しないと。
ミザールの腕の中で、お兄さんへと方向転換。
「あの――」
「あなた方はいったい何をなさってたのです!」
うむむむ?
今度はいきなり聞こえた甲高い声に遮られちゃったよ。
でもなんだろう? 胸がキュって苦しい。それにこの声……。
「姫様はお怪我をなさっているじゃありませんか!」
お兄さんの隣に立ってる女の人が、蒼白な顔で私を見て叫んだ。
怪我って?……あ!
そうだ、私の大切なおひげ、折れちゃってるんだ。
「ちがうの! これはちょっとしたアクシデントっていうか、みんなは――」
「いいのよ、ジャスミン。ありがとう」
ミザールが私の言い訳を遮って、チュッと私の頭のてっぺんにキスをした。
むふ。ちょっとくすぐったいよ。
って、さっきまで蒼白だった女の人が真っ赤になって、ミザールを睨んでる。
なんだか怖いよ。
「ジャスミンの怪我については、ただ謝罪するしかありません。ですが、それはジャスミンに対してです。メグレズ殿にも女官長殿にも、私は謝罪も弁明もするつもりはありません」
「よくもそんな……。ですが今は、姫様にお体を休めて頂かなくては。長旅でお疲れでしょう?」
そう言って、手を差し出されたけど、どうしよう。
よく知らないのに抱っこされるのはちょっと……。
今は優しく笑ってくれてるけど、さっきまで怒ってたし、なんだか冷たい感じ。
「女官長殿、先に伝えた通り、ジャスミンは記憶を失っているのです。ですから改めて紹介させて頂けませんか?」
カイドの言葉に女の人はハッとして、手を引っ込めた。
私がためらっているのをカイドは気付いてくれたんだ。
さすがカイドだね。
でも、ミザールはフフンって感じで顎を上げてる。
ミザールってなんだか好戦的だなあ。メルクもヴィーも、なんとファドまで、ずっと黙ったままなのに。
みんなから正面に視線を戻したら、女の人が泣きだしてビックリ。
「私は……姫様がお生まれになってからずっと、お世話をさせて頂いた女官長のアマリです。まさか姫様が私をお忘れになるなんて……。お姿が見えなくなってからはもう生きた心地がしませんでした。ですが、無事にお戻りになって本当にようございました」
「えっと……あの、アマリさん。心配かけてごめんなさい。只今、戻りました」
「まあ! 姫様、どうか今までのように、アマリと呼んで下さいませ!」
「は、う、うん」
なんだか感情の激しい人だなあ。
心配してくれるのはわかるけど、息苦しいっていうか……。
って、ダメダメ。そんなこと考えちゃ。
周りにも涙ぐんでる人はたくさんいて、それだけ私はみんなに心配かけてたってわかった。
反省しないと。
「ジャスミン、僕は七星の騎士の一人で君の兄のメグレズ。今までは“お兄様”って呼んでくれていたけど、まあ好きなように呼んでくれてかまわないよ」
「う、は、はい……」
お兄様ってちょっと恥ずかしいね。
でもお姫様っぽくていいかも。
うん、素敵なお姫様計画第一歩だ。
「お、お兄様、心配かけてごめんなさい」
「……いや、謝らなければならないのは僕の方だよ。騎士として、女神様を守れず見失ってしまったんだからね」
「ふんっ! よく言えたものね」
「ミザール!」
そういうことだったんだ!
みんなが怒ってるのは、騎士として私のことをお兄さんが守れなかったから。
本当に私が女神様なのかどうかはわからないけど、このイガイガ空気の原因は迷子になった私のせいなんだ。
うむむむ。これは大問題。
騎士さんはみんな仲良しだと思ったのに、このままだとお兄さんだけ仲間外れになっちゃう。
だとしたら、これから私がすることは一つ。
みんな仲良し大作戦だ!!




