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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第二章
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裏切


 あれからのことは、ぼんやりとしか覚えてない。

 確か、袋に詰め込まれた時に、アルフさんが助けてくれたんだ。

 それはエナの叫び声でわかったことだけど、そのあとすぐに袋から出してくれたのはカイドだった。


 カイドの顔を見た途端に泣き出した私はそのまま寝室に駆け込んだ。

 痛くて、悲しくて、苦しくて。

 お布団に包まってずっと泣いてる私を、みんなが代わる代わるやって来てなぐさめようとしてくれたけど、もうダメ。もう頑張れないよ。


「……ジャスミン。そんなに泣くと、溶けてしまうよ?」


「溶けないよ! リオトの嘘つき! ネズミでもみんな嫌がらないって言ったのに!!」


「うん……ジャスミン、ごめんね。エナは姉さんを盲目的に崇拝していたから……」


「だからって酷いよ! やっぱり私、森に帰る! 森のみんなはネズミだからってバカにしないもん! 意地悪しないもん! 大切なおひげを引っ張ったりしないもん!!」


 自分がすごく子供っぽいこと言ってるのはわかってる。

 だけど、こんなにつらいことを我慢しないといけないなら、大人になんてなれないよ。


「姫……ならば、私の国に行くか?」


「ぜったい、いや!!」


 ファドは心配して言ってくれたのに、これじゃあ八つ当たりだよ。

 それでも止められない。人間が怖い。


 エナはあんなに優しくしてくれたのに、本当は私のことが大嫌いだったんだ。

 歪んでしまった気持ちを利用されたんだって、カイドは苦々しく教えてくれたけど。

 じゃあ、エナは被害者なの? 他に悪い人がいるの? カイド達はそれを知ってたの?

 もう何を信じればいいのかわからないよ。


「ジャスミン、先ほど到着した騎士達とは、明日――」

「知らない!!」


 お布団をギュッとつかんで叫ぶ。

 心も体も痛くて、これ以上は傷つきたくない。


「もう誰とも会わないの!! 出て行って!!」


 人間は嫌い。人間は裏切るから。

 あの時だって私は……私は……なに? 何だろう?

 ううん、とにかく私はこのままネズミでいるんだ。


「姫……」


 らしくないファドの悲しそうな声も聞こえないフリ。


「……お腹すいたよね? ご飯を持ってくるよ」


 リオトの心惹かれる言葉も聞こえないフリ。

 ドアがそっと閉められる音がして誰の気配もなくなったけど、お布団からは出ない。

 きっとドアの外にはアルフさん達の誰かがいて、お部屋の様子をうかがってるのかもしれないし。



 そのあと、リオトじゃなくて、カイドがお盆にご飯をのせて持って来てくれた。

 だけど私はお布団から顔も出さなかった。

 美味しそうな匂いにはお腹がグーって鳴ったけど我慢。


「ジャスミン……」


「ほっといて! カイドなんて大っきらい!!」


 違う、本当は大好き。

 わからないことばっかりだけど、カイドの優しさは嘘じゃないってわかるもん。

 だからこそ、もう甘えちゃダメなんだ。

 私は森で動物さん達と暮らすって決めたから。


 カイドは何も言わずにベッドに座って、お布団をかぶった私の背中をポンポンって軽く叩いてくれてた。

 ふぬぬぬ。

 どうにか泣きつかないように黙ってじっとしてたら、カイドは最後に優しく背中を撫でてくれてから出て行った。


 一人になって、そっとお布団から抜け出す。

 今まで以上にお部屋は広く寂しく感じてまた涙が出そうになったけど、グッとこらえてソファのすき間からラピスラズリを取り出した。

 結局カイドには渡せなかったけど、回収した他の四つの石と一緒にハンカチに包み直す。

 それから、作ったばかりの変身ブランケットを小さく広げて、そこに置いた。


 これを作ってる時にはとっても楽しかったのに……。

 またまた込み上げてきた涙をグッとこらえたら、またお腹がグーって鳴った。

 カイドが持って来てくれたご飯をチラリと見る。


 うん、そうだよね。腹が減っては戦はできないんだよ。

 だってすごく美味しそうだし、残すのはもったいないし。

 ちょっと悩んだけど勇気を出して小部屋に行って、新しいハンカチを拝借。

 パンを二つハンカチに包んで、残りは全部しっかり食べた。


 よし、お腹がいっぱいになったら元気が出てきた。

 鼻息荒くフフンって息を吐いて包んだパンを石の横に置いて、ブランケットをたたむ。

 パンは潰れちゃっても、味は変わらないし。


 今度は寝室に戻って、ベッドの横にあるチェストの引き出しからペンと紙を取り出すと、両前足を使って手紙を書いた。

 前足は勝手に動いて、頭の中の文章を書きだしてくれる。


 伝えたいことはいっぱいあったけど、書けそうになくて一番大切なことだけにした。

 言い訳にしかなりそうにないし、それはかっこ悪くて情けないからね。


 さあ、これで準備万端。

 ブランケットを背負うと最初はヨロヨロしたけど、すぐに慣れた。

 気合いを入れて、助走をつけて、ジャンプ!

 ちょっとふらつきながらも、なんとか窓際のチェストの上に到達。

 お外はお月さまが厚い雲に隠れて真っ暗だったけど、見つからずに出て行くにはもってこいだよ。


 うーん。荷物を背負ったまま降りるのはさすがにムリだね。

 どうしようか考えて、一か八かで先に荷物を茂みに落とす。

 物音に夜警の人達が来るかもしれない。

 ドキドキしながら少し様子を見てたけど、大丈夫そう。


 次は私自身の番だったけど、四階だって平気。

 卑しくなんてない、ネズミは勇敢なんだから。

 だからどうにか壁を伝って地面まで降りた。


 そして改めてブランケットを背負うと、振り向いてお城を見上げた。

 こうやって私が黙ってお城を出て行くのは裏切りなんじゃないかな?

 この先、オオカミさんや他の怖い動物さん達に襲われるかもしれないよ?


 忍び寄ってくる後悔と恐怖を振り切るように、私は向き直って駆け出した。

 大丈夫、大丈夫。

 一人でだってちゃんと森に着ける。

 そうしたらもう、ネズミだからって誰にもバカにさせないんだ!




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