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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第二章
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人間


 ピタン、ピトン、ってしずくが落ちる音がする。

 そうか、雨が降ってるから小鳥さん達の声がしないんだ。

 まだ重たいまぶたを上げて窓の外を見ると、昨日の夜から続くシトシト雨模様だった。


 湿気は苦手なんだよね。

 自慢のフワフワした毛がベッタリしちゃって気持ち悪いから。

 って、あれ? 何か変じゃない?


 異変に気付いて手を上げてみたら、人間の右手。

 驚いて起き上がると、やっぱり人間になってる。

 夜中に遊んで、早朝に寝る時にはネズミだったのに。

 シーツと枕で作ってた巣穴もいつの間にか崩れてる。


 この大ニュースをカイド達に知らせようとベッドから飛び出して、はたと気付いた。

 スッポンポンだ。

 急いでハンカチの小部屋に走り込んで、たくさんある中から大好きなピンク色の服を取って着る。


 ふぬぬ! 背中のボタンが上手く留められない!

 この世界はチャックがないみたいでちょっと不便。しかも髪の毛がお尻まであるからちょっと邪魔。


 悪戦苦闘してボタンを適当に留めてから髪の毛で隠すと、お部屋から駆け出した。

 ひとまずリオトの部屋を目指したけど、すぐにカイド達の匂いに気付いて方向転換。

 こっちの方だ!


 人間になっても普通よりは嗅覚もいいから自信がある。

 雨でお城の中の空気は淀んでいるけど、近くだったからすぐにわかった。

 みんなの気配がするお部屋のドアを勢いよく開けて飛び込む。


「私、人間なの!!」


「うん、そうだね」


 朝でも人間になれてた興奮そのままに叫んだら、リオトが笑って頷いてくれた。

 でもお部屋の中を見た私の気分は途端に急降下。

 だって、お部屋にはカイドやミザールやファド以外にも人がいたから。

 どうやら会議中だったみたい。

 大失敗だ。すごくお行儀悪いことしちゃったよ。


「あの……お邪魔しました……」


 シンとした会議室からすごすご退散しようとしたところで、カイドが立ち上がって微笑んでくれた。


「ジャスミン、おはよう」


「……おはようございます」


 頭を下げて、きちんと挨拶。

 せめてそれくらいはしないと。

 カイドはそんな私の後ろに向かって声をかけた。


「アルフ、もういい」


 え? アルフさん?

 驚いて振り向いたけど、開けっぱなしだったはずのドアが閉まっているだけで誰もいない。

 忍者だから天井に張り付いているのかもと思って見上げたけど、やっぱりいなかった。


「なるほどね。こりゃ、ベンジャミン王が必死になって隠すわけだ」


 ん? ベンジャミン王?

 ファドの大きな声に向き直ったら、いきなりカイドに抱き上げられた。


「カイド!?」


「ジャスミン、靴を忘れている」


「え? あ……」


 言われてはじめて裸足だったことに気付いて、スカートの裾に慌てて足を隠した。

 うう、これまた失敗だ。

 それにパンツもはくの忘れてる。


「あら、気にする必要はないのよ。ただ、ジャスミンの可愛い足に傷でも付いたら大変ですものね」


 ミザールが立ち上がりながら優しい慰めの言葉をくれて、私の背中のボタンをそっと留め直してくれた。

 そして気が付くと、いつの間にかお部屋には四人以外の人達はいなくなってた。みんな忍者?

 不思議に思ってキョロキョロしてた私に、カイドが静かに言った。


「ジャスミン、一度部屋に戻って、侍女達に着替えを手伝ってもらうといい」


「でも……」


 侍女さん達とはまだお話したことないから緊張するよ。

 ネズミだって嫌がられたりしないかも心配。

 私の不安に気付いたのか、ミザールが髪の毛を梳かすようにゆっくりと頭を撫でてくれた。


「もちろん、私も側にいるわ。この綺麗な髪を可愛く結ってもらいましょうね?」


「ありがとう、ミザール」


 ミザールが側にいてくれたら、すごく心強くて嬉しい。

 ホッとした私を見て、カイドがちょっと眉を寄せて呟いた。


「ああ、そうか……」


 ん? なにが?

 ミザールからカイドに視線を移すと、澄んだ蒼い瞳がすぐ近くにあった。

 カイドは子供みたいに私を抱っこしてくれてるから、顔が同じ位置にあるんだよね。


「気が付かなくて、すまなかったな」


「ううん! 大丈夫!」


 申し訳なさそうにカイドが謝るから、私はすぐに否定した。

 ふむむ。私が怖気づいたから、カイドに余計な気を使わせちゃったよ。

 またまた大失敗だ。


 カイドはいつも私のことを考えてくれるのに、私は迷惑かけてばっかり。

 大きくて温かくて、とっても安心できるカイドには、ついつい甘えちゃうんだよね。

 なんて言うか、カイドはまるで……。

 あ、そうだ!


「カイドって、お父さんみたいなんだ!」


「……」


 自分では納得の答えだったけど、ファドがなぜだか大爆笑。

 それにリオトとミザールが残念そうな顔をしてる。

 私、なにか変なこと言ったのかな?


 そう思って間近にあるカイドの顔を見たら……。

 まさかショック受けてる?

 ああ、しまった! カイドはまだ若いのに、お父さんなんて失礼だった!


「違うの! カイドはお父さんじゃないの! そうじゃなくて、えっと、大好きってことなの!」


 上手く言えないけど、それが一番の気持ちだから。

 首に腕を回してギュって抱きついたら、カイドは驚いたみたいだけど、何も言わずに背中をポンポンって軽く叩いてくれた。

 えへへ。これも大好き。


「まあ! カイドはずるいわ!」


「そうだ、そうだ! ずるいぞ!」


 ミザールとファドの不満そうな声が聞こえる。

 リオトはいつものように笑ってる。

 この温かい時間も大好き。

 だから、まだまだわからないことばかりだけど、大切なみんなの為に精いっぱい頑張るんだ。




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