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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第二章
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記憶


「うん、完ぺき!」


 頑張って磨いたラピスラズリは曇りもなくなって、とっても綺麗。

 おひさまに負けないくらいキラキラ輝いてる。

 ウットリ眺めたあとは、お部屋探検で見つけたレースのハンカチに包んでソファの隙間に隠す。

 それから、いつカイドに渡そうかってワクワクしながら寝床を整えた。


 昨日はミザールに抱っこされたまま寝ちゃったから、気が付いた時には夜になってたんだよね。

 あれから始まった難しい話を聞いてるうちに、ウトウトしちゃってたみたい。

 でも大事なことはちゃんと覚えてる。


 しばらくこのお城で他の騎士さん達の到着を待って、そのあと聖国に向かうんだって。

 聖国に戻って家族に会えば、自分のこと思い出せるかな?

 うむむ。私の記憶、どこに行っちゃったんだろう。


 それにファドが言ってたことも気になるよね。

 みんなにそのことを訊こうと思ってたのに、すっかり忘れてた。

 大失敗だよ。


 だけど、冷静に考えればわかる。

 たぶん私は十六歳になったばかりなんだよ。

 ちょっと背は低いけど、胸はあるもんね。

 てへへ。


 あとは何だっけ? えーっと……。

 うん、まあいっか。

 考えるのは一時中断。クッションの位置を調整して寝床に入り込む。


 そういえば、十六歳は前世の私が死んじゃった年だ。

 覚悟もしてたし、心残りもないつもりだったけど、本当はお姉ちゃんが貸してくれたマンガの主人公みたいな恋をしてみたかったなあ。

 それで彼氏とかできちゃったりして、キ、キスとかしちゃったりして! むふー!

 まだ途中だったのに「茉莉花には刺激が強すぎる」って、お兄ちゃんに取り上げられたんだよね。

 あの続き、どうなったんだろう? うむむむ?


 なんだか急にお腹がもやもやして目が冴えてきた。

 お昼に何か変なの食べたっけ?

 うーん。お昼寝はやめて走ろうかな。

 そうすれば消化もできてお腹もすっきりするかも。


 走るのは楽しくて大好き。

 前世では小さい頃から運動は禁止されてて、体育の時間も見学ばかりでつまらなかったんだ。


 って、あれ?

 前世のことはけっこう思い出せるのに、今のことが思い出せないのは何でだろう。

 ふと頭に浮かんだ疑問を考えてるうちに、どんどん不安になってきた。

 心臓がバクバクしてる。

 まさか私……ひょっとして……。


 急に怖くなった私は、ソファから起き出してレースのハンカチを見つけた小さなお部屋に向かった。

 それから鏡の前に立って全身を映して、クルリと回って後ろ姿もチェックして、ようやくホッとする。

 もしかしたら、私は生まれ変わったんじゃなくて、お姫様に取り憑いた悪いお化けなのかもと思ったけど、鏡に変な影も映ってないし、とりあえず大丈夫そう。


 居間に戻ってお水を飲んだら、なんとか落ち着いてきた。

 そうだよね。カイドだってリオトだって、あんなに自信たっぷりに私がお姫様だって言ってたもん。

 どんな姿になってても、わかるって。


 カイドとリオトの言葉を信じなきゃ。

 それに、もし私が悪いお化けだったとしても、お姫様が帰って来た時にはちゃんと体を返せばいいんだし。

 うん、頑張って成仏しよう。


 結論が出て安心すると、今度こそ眠くなってきた。

 落ちてたクッションをえいっとソファに投げて、私も戻る。

 その時、空気がいつもと違うことに気付いた。


 んん? この感じはひょっとして……。

 おひげをピクピク、お鼻をクンクンしてわかった。

 これは夜から雨になりそう。

 それで私もウジウジしちゃったんだね。

 明日にはファドの従者さん達が到着するらしいけど、あまり強く雨に降られないといいなあ。


 ふうっと息を吐いて、目をつぶる。

 ファドはお話してみると、とっても面白い人だった。

 でも猛禽類は天敵だから油断大敵。

 二人きりにはなっちゃダメってミザールも言ってたし、気を付けなきゃ。


 まあ、すぐお隣がミザールのお部屋だから安心・安全・大丈夫。

 何かあればすぐに来てくれるって。

 頼もしいよね。


 昨日の夜は人間に変身した途端、ミザールがお部屋にやって来てビックリしたけど。

 それから興奮したミザールにいきなり抱きしめられちゃって、まだスッポンポンだったから恥ずかしかったな。

 その後は朝までいっぱいおしゃべりして、疲れて寝ちゃったらネズミの姿に戻ってた。

 だけど、いつもより人間でいられた時間は長かった気がする。


 あ! そうだ!

 人間の姿だったら、今よりたくさんご飯が食べられるんじゃないかな?

 それってすごくお得かも!


 昨日の晩ご飯もとっても美味しかったんだよねえ。

 しかも、デザートの栗の甘露煮はみんなが自分達の分までくれて、食べきれないかと思ったもん。

 もちろん全部食べたけど。

 自分のご飯を分けてくれるなんて、ファドって実は良い人かも知れないなあ。


 幸せなことを考えながら眠った私は、素敵な夢を見た。

 それは退屈な病院を抜け出した時の楽しかった思い出。

 森で動物さん達といっぱい遊んだんだ。


 そうそう、同じように抜け出して来てたあの子ともよく遊んだよね。

 キラキラ光る銀色の髪に、透き通った灰色の瞳がすごく綺麗なちょっと年上の男の子。

 懐かしいなあ。今はどうしてるのなあ……。





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