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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第二章
18/51

獲物


「大丈夫よ、ジャスミン。あれはただの空飛ぶバカだから」


 飾り棚の陰で震える私を、ミザールが抱き上げて優しく撫でてくれた。

 今度はミザールの力強さも頼もしく感じるよ。

 私ってば、ちゃっかりしてるね。

 でも、たとえ空飛ぶバカでもあんなに大きいとすごく怖い。


 って、あれ? ひょっとして知り合いなの?

 ビクビクしながら窓へと顔を向けた時、強い風が部屋の中に吹込んだ。

 それは大きな大きなワシさんが窓辺にとまったから。


「ちょっと、バカ! いきなり飛んで来ないでよ! ジャスミンが怯えているじゃない!!」


「姉さん、その通りだけど、一応あれでもアグリア国の王太子なんだから、もう少し言い方を考えた方がいい」


「いや、兄さんも十分酷いよ。だけど実際、一国の王太子が従者も連れず、他国の城に窓から訪問するのはどうかと思うね」


 なんだか息がぴったり合ってる三人のやり取りを聞いていると、ちょっと落ち着いてきた。

 すぐパニックになる悪い癖もなんとかしないとダメだよね。

 『落ち着いて行動する』

 うん、これも目標に加えよう。

 新たに私が決意していると、ワシさんのとっても大きな声が聞こえた。


「おお、これは失礼した。いやあ、姫が見つかったって吉報に喜びのあまり飛んで来たんだ! ところで姫は?」


 姫って、もしかして私のことかな?

 そう思ってワシさんを見たら……。


 ロックオンされたー!!


 鋭い眼光でひと睨みされたらもう動けない。

 カイドに一歩でも逃げてくれって言われたけど無理。

 自慢の毛も逆立って、一時停止から抜け出せないよ。

 ワシさんは硬直した私から視線を逸らさないまま、立派な羽をふわりとさせて部屋に入って来た。

 瞬間、その姿が人間に変わった。


 って、裸だよおおー!!

 金縛りが解けて、慌てて前足で目を塞いだけど、ばっちり見ちゃった。

 男の人の体!!


「服も用意せずに何を考えているんだ、バカ」


「ちょっと! いきなり人間に戻らないでよ! 気持ち悪いじゃない!」


「うわー、ホントに筋肉バカだ」


 三人が口々に文句を言ってるけど、ワシさんは豪快に笑うだけ。

 えっと、もういいのかな?

 指の隙間からそっとのぞいて見たら、まだスッポンポンだった!


「ふひぁぁ!!」


「まあ、ジャスミン。かわいそうに。あんなモノを見てしまうなんて」


 初めて目撃してしまったモノの衝撃に頭がクラクラして、ミザールにギュッと抱きつくと、慰めるように軽くポンポンって背中を叩いてくれた。

 これ落ち着くんだ。

 それにしてもあんなのが足の間にあるなんて、男の人は大変だよ。

 だって、走ったり座ったりする時に、とっても……。


「とっても?」


「――邪魔そう」


 ミザールに促されて素直に答えたけど、どうやらまだまだ動揺してたみたい。

 大きく頷いたミザールの声で、はじめて考えてることを口に出してたって気付いたから。


「そうよねえ。あんな邪魔なモノ、ちょん切ってしまえばいいのよ」


 カイドとリオトが小さくうめいた。

 うん、さすがにちょん切るのはダメだよ。

 きっとすごく痛いもん。


「ははは! 相変わらずミザールは冗談が過ぎるな!」


「本気よ、バカ」


「おい、カイド。何か服貸してくれ。今のままじゃ、ちゃんと姫に挨拶できねえじゃねえか」


「知るか、バカ」


 あれ? こんなに口の悪いカイドは初めてだ。

 呆れてるような、イライラしてるような感じ。

 それよりもワシさんはまだ服着てないんだ。

 困ったな。いつまでもミザールに甘えていられないよ。


「んだよ、姫が怯えてるから人間に戻ったのに」


 ちょっとふてたワシさんの言葉を聞いて、なんだか申し訳なくなった。

 私のために着替えもないのに人間になってくれたんだ。

 だとしたら、私の方がすごく失礼な態度だったよね。


「あの――」

「まあ、実際ネズミは好物だが、姫は別の意味で頂きた――イッ!!」


 いぃぃやぁぁ!!

 謝ろうと思ったのに! お礼を言おうと思ったのに!!

 好物だって! 頂きたいって!!

 やっぱり猛禽類は天敵だ!


「お前ら前後から蹴りを入れるんじゃねえ! 避けられねえだろうが!!」


「避ける必要なんてないよ。もう死ねばいいと思う」


「俺はあんな婚約話認めてねえんだよ!! 姫が十六になってようやく解禁かと思ったら、こんなバカな話があるか!!」


 守るように抱っこしてくれるミザールの腕の中で、私はぶるぶる震えていたけど、さすがにワシさんの大きな声は耳に入ってきた。

 婚約? 十六? 解禁?

 どういうことか訊こうとミザールを見上げて……やめた。

 微笑むミザールがなんだかすごく怖いから。


「……アルフ、私の剣を取って来てちょうだい」


 え? アルフさん?

 と思ったら、アルフさんがいつの間にか洋服らしき物を持って部屋にいた。絶対、忍者だ。

 ううん、それよりも……。


「ミザール……剣で何するの?」


「害虫駆除よ」


 剣で?

 この世界って、そんなに大きな虫がいるの?

 ちっちゃいのは平気だけど、大きい虫はいやだよ。


「姉さん、苛立ちはわかるけど、ジャスミンが不安になっているから、剣を握るのはやめてくれ」


「カイド……」


「ジャスミン、悪かったな」


 涙が出そうになった私の頭をカイドは優しく撫でて、謝ってくれた。

 ふむむ。カイドはちっとも悪くない。意気地のない私がダメなんだよ。

 だから勇気を出して振り向いたら、ワシさんは服を着てすぐ側に立っていた。


「ジャスミン姫、怖がらせてしまい申し訳ありませんでした。私は七星の騎士の一人、アグリア国の王太子、ファド・アグリアと申します。どうぞ、ファドとお呼び下さい」


 ワシさん――ファドは茶色い瞳を細めて笑うと、短い金色の髪の毛があちこちにはねてる頭を下げた。

 ファドの笑顔はそれまでの鋭さを途端に柔らかくしてくれる。

 それで私もホッとして、ちゃんと挨拶ができた。


「ジャスミンです。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げた私の前足をファドが手に取った。

 てっきり握手だと思って握り返そうとしたら、ファドは屈んでいきなり前足にキスをした。


「ファド!!」


 驚いて私は声も出せなかったけど、同時に三人の怒ったような声がした。

 でもファドは気にした様子もなく、顔を上げてニヤって笑った。

 なんで? なんでネズミの足にキスするの?

 頭の中がグルグルしたけど、深呼吸したらなんとか落ち着いた。


 もしかしたら、今のは味見だったのかも知れない。

 うむむ。やっぱり自分の身は自分で守れるようにならなきゃ。

 じゃないとオオカミさんに食べられる前に、ファドに食べられちゃうかも。




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