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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第一章
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標的

 

 あれ? 臭くない。


 意識を取り戻した私は、今までの事は全て夢だったのかと目を開けて思った。

 視界に入ったのは夜空ではなくて、腐界でもないどこかのお部屋の天井。

 それにフニフニ揺れるおひげがない。

 恐る恐る手を上げてみたら、人間の右手。


「気が付いたようだね」


 静かに聞こえた声の方に目を向ければ、少し離れた場所に置かれた椅子に座ったリオトの優しい顔が見えた。


 いけない!

 リオトにこの姿を見られちゃった! 


 慌ててお布団を頭まで被ったけど、状況が全然わからない。

 どうしよう? どうしたらいい!? 

 焦って考えがまとまらない私の耳に、リオトのかすれた笑い声が届く。


「ジャスミン、隠れなくていいよ。知っているから」


「……何を?」


「ジャスミンが人間だってこと」


「違うの! 私はネズミなの! 今はちょっと人間になる時間なだけ!」


 いきなりリオトは何を言い出すんだろう。

 たまに人間には変身するけど、それでも私はネズミなんだから。


「ジャスミン……」


 なだめるようなリオトの声。

 でも、もう少ししたら私はネズミに戻るんだから。

 そう思って、お布団の中でうずくまっていたら、別の声が聞こえた。


「リオト、私が話をするから、お前は席を外してくれ」


 リオト以外の気配を全く感じなかったから驚いたけど、低くて柔らかな声はすぐに誰だかわかった。


「カイド!!」


 頼れる存在にすがろうとして、急いで起き上がる。

 それなのに、目の前にいたのは知らない存在。


「……だれ?」


 うそ。本当は知ってる。

 褐色の肌に精悍な顔立ち、それに澄んだ蒼い瞳は人間の姿になっていてもすぐにわかるよ。

 やっぱり思った通りかっこいいんだから。


「カイドも……人間になれたの?」


「いや……」


 カイドは今までリオトが座っていた椅子を引き寄せて座ると、真っ直ぐに私を見た。

 その眼差しはとても力強くて、目を逸らす事が出来ない。


「私は、ヒョウになれるんだ」


「ヒョウに……」


 間違えようがないほどに、はっきりした言葉。

 元々カイドは人間ってことなんだ。


「じゃあ、今までなんで……」


 私を騙してたの? 

 リオトと二人で笑ってたの?

 嫌な考えばかりが頭の中をグルグル回っちゃうよ。


「初めにあの姿で気絶させるほど驚かせてしまったからな。それでしばらく様子を見ていたんだが、今のジャスミンには人間としてより、ヒョウとしての方がいいんじゃないかと思ったんだ」


 確かにカイドが人間の姿で現れていたら警戒してたと思う。

 でも他にもわからないことばっかりで、何を言えばいいのかわからない。

 ううん、違う。そうじゃない。

 本当は一番に言わないといけないことがある。


「カイド……あの、部屋から抜け出して……ごめんなさい」


「……」


 怒られることを覚悟して絞り出した言葉。

 沈黙が重くて、心が苦しいよ。

 カイドはもう怒る気も失くしちゃった?

 怖くて次の言葉が出てこない。

 だけど、いきなりカイドが私を抱きしめるから、今度はびっくりして言葉が出なかった。


「頼むから……危険が迫っている時には一歩でもいいから逃げてくれ。気絶した姿は心臓に悪い」


 笑っているような、怒っているようなカイドの震えた声。

 私の軽はずみな行動で、いっぱい心配をかけてしまったんだ。

 反省してもダメダメな悪ネズミなのに。


「……ごめんなさい」


「いや、私も悪かったんだ。あいつらの気配が城から遠のいて油断していた。それでジャスミンに怖い思いをさせてしまった」


「違うよ。カイドは全然悪くない。私は自業自得だもん」


 カイドはちっとも悪くないのに、謝ってくれる。

 本当に優しくて、責任感が強いんだから。

 って、あれ? 


「あいつらって、あのイヌさん以外にもいたの? カイド、怪我してない!? 大丈夫!?」


「――ああ、私は大丈夫だ」


「そっか……よかった」


 すぐにカイドが返事をくれたから、私もすぐに安心できた。

 あのイヌさんはとっても大きくて怖かったのに、他にもいたなんて。

 今更だけど、事の重大さが身にしみてきて体が小さく震えだした。

 するとカイドがまた抱きしめてくれた。


 うん、もう大丈夫。

 カイドは落ち着きを取り戻した私の背中をポンポンと叩いて離れると、ちょっと呆れたように笑った。


「あのな、ジャスミン。あいつらはイヌではない、オオカミだ」


「え?」


 あれれ? イヌさんじゃなくて、オオカミさんだった?

 まあ、私もちょっとおかしいなとは……思ってもなかったけど。

 それにしてもパントレ王国のお城にオオカミさんが現れるなんて変じゃない?


「なんでオオカミさんが?」


「オオカミはロウヴォ王国の守護獣だからな。ジャスミンを狙ってやって来たんだ。あいつらは私達の何倍も鼻が利くから、リオトの腐った部屋でもやはり誤魔化せなかったようだな」


「ロウヴォ王国? 聖なる森だけじゃなくて、この国も狙ってるの?」


 どれだけ欲張りな国なんだろう。

 酷いよ。

 ロウヴォ王国に対して腹を立てた私を見て、カイドはなんだか困ったような顔をした。


「ジャスミン、ロウヴォ王国が狙っているのは、聖なる森でも、この国でもない。――ジャスミンだ」


「……私?」


 なんで? どういうこと?

 さっぱり訳がわからなかったけど、次の言葉をためらっているようなカイドを見てピンときた。


 きっとネズミはオオカミさん達の大好物なんだ。

 ひょっとすると、私は特に脂がのったおいしそうな匂いがしてるのかも知れない。

 他のネズミさん達よりデブっちょだし。

 ということは、このままだと危険が増すのかも。


「うん、わかった。これから私、頑張ってやせる!」


「……何のために?」


 私の強い決意はどうもカイドに上手く伝わらなかったみたい。

 やっぱりダイエットしたくらいじゃ無駄なのかな。

 それでも身軽になったら少しは違うと思うし、頑張ろう!




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