二
「行ってきまーす!」
優貴はお気に入りのサンダルを履いて家を出た。赤色のロングTシャツにショートパンツ。友人と遊ぶときにヘビーローテーションしている、彼女の中でも上位に入る楽な服装だった。
じりじりと熱を発するサドルに腰を掛ける。ジーンズの上からでもその熱は熱く、腰を浮かせながら必死でペダルを漕ぐ。集合時間3分前。集合場所の駅までは普通に行って10分強。どうあがいても遅刻だ。また祐に文句を言われるだろうな、とぼんやり思いながら足を動かした。遅刻はいつものことなので怒られるのは慣れている。
彼女が地元の駅に着いたのはそれから8分後のことだった。ぜえぜえと荒ぶる息ととめどなく出てくる汗を静めようと、自動販売機でジュースを買った。飲む度に水分が染み渡る。そうして多少冷静になった頭で集合場所の南口へ向かった。走るのも馬鹿らしく、歩いていく。スポーツドリンクの入ったペットボトルは鞄の中で徐々にぬるくなっていっていた。
「あー!遅いよ、もう!」
優貴の姿を見つけ、真由里が真っ先に声を上げた。ごめんと心のこもっていない言葉を言いながら彼女はそちらへ近寄って行く。
「まったく・・・言い出したのはお前だろう。毎回遅れてきて、そもそもお前には」
「あー、もう、ごめんってば!次から気を付けるから!・・・て、李雨は?」
祐の言葉を遮って優貴は尋ねた。祐はいつものよう、諦めたようにため息をつきながら答える。
「体調が悪いから今日来れないと、朝メールが来たが」
ええ、と優貴は不満げに呟いた。勿論メンバーが一人欠ける寂しさもあったが、李雨は人一倍怖がりな面があり、その李雨の反応を見たいというのも彼女が天刻神社を選んだ理由でもあったため、その失望も大きかった。
「・・・まさかお前、また李雨で遊ぶ気だったんじゃねぇだろうな」
正俊が怪訝な顔で彼女に言った。ずばり言い当てられて思わず硬直する。正俊はどうしてこうも勘が働くのか。そんな不満を心のうちに呟きながら、誤魔化すように大声を出した。
「ま、じゃあ皆揃ったことだし、さっさと行こう!よし行こう!」
皆呆れたように顔を見合わせ、優貴の後をついて行った。
神社は駅から歩いて10分程のところにあった。鬱蒼と茂る木々の中に長く不安定な石段があり、その上に鳥居が立っている。敷地内にあるのはその鳥居と本殿、拝殿くらいである。正月にはそれなりに参拝客も集まるらしいが、やはり噂のせいか普段訪れようとする人は少ない。