いかにもなこと
海岸の男女二人連れ。女性の方が『これはタコですか』と聞くと、男性は『イカにも』と答えたそうです。
その森ではクサイチゴが赤い実がなっている。
木の根元に小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、茶菓子が乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
「んとね。白猿さん。ぼくが読んだ小説に、時間がたつと消える黒いインクが出てきたの。イカの墨で作ったって書いてあったの」
「イカスミそのものだと、時間がたっても消えないな。むしろ乾いて定着する。ただ、化学反応で色が消えたり変わったりする『消えるインク』は実際にある。紫外線や空気に触れることで、だんだん薄くなるものもあるぞ」
「んとね。小説では、証拠を消すのに使われてたの」
「フィクションではよくある設定だな。実際にも『時間がたつと見えにくくなるインク』はあるけど、完全に自然消滅するものは条件が限られる。それと似た話で、温度で消えるインクもある」
「温度で?」
「『フリクションペン』って知ってるか? こすると消えるボールペンだ。あれは摩擦で温度が上がって、インクの色が見えなくなる仕組みなんだ。だいたい60度くらいで消えて、逆に冷やすとまた色が戻る」
「へえ、戻るんだ。完全に消したわけじゃないの」
「だから契約書みたいな大事な書類には使えない。消せてしまうからな」
「消えるインクって他にもあるの?」
「用途は違うけど、手芸で使うチャコペンは水で洗うと消える。建設現場でも、あとで消す前提の墨やマーカーを使うことがあるな」
「んとね。消せないインクだと、間違えたとき困るの」
「そうだな。逆に『ふだんは無色で、熱を加えると黒くなる』ものもある」
「それって、何に使うの?」
「感熱紙だ。レシートなんかに使われている紙で、熱を加えたところだけ黒く発色する。爪でこすると黒くなるのも、その仕組みだ。昔のワープロ専用機では感熱紙でテスト印刷することが多かった」
「感熱紙は今も使われているの?」
「かなり使われているぞ。レシートや整理券、小型プリンターなんかだな。インクがいらないから、持ち運び用のプリンターに向いている」
「持ち運び用のプリンターって、電池で動くのかな」
「そういうタイプもあるな。イベント会場や電車の車内で、チケットをその場で印刷する機械なんかがそうだ。ただし、感熱紙は熱や光で変色しやすいから、長期保存には向かない」
「なるほど、便利だけど弱点もあるの」
「あと、捨てるときは注意だ。感熱紙はリサイクルに向かないから、基本は可燃ごみだ。資源ごみに混ぜると、再生工程でトラブルになることがあるぜ」




