蟹工船で死んだ仲間と転生して地下アイドルになっていた
蟹工船で死んだ仲間と転生して地下アイドルになっていた
視界がぼんやりと白い ここは夢なのだろうか?
誰かに呼ばれている気がする。
「おい!〇〇○!」
煙と石炭、タバコ、酒と油と磯の臭い
腐った果物と海産物の生臭さ、糞の臭いがした。
しかし空は私の現状を無視するかのように真っ青で綺麗だった。
何が起きているのかわからないまま朦朧とする頭にはっきりとこう聞こえた。
地獄さ いぐんだで
ハッとして目が覚めると、そこはいつもの天井、四畳半の部屋に蛇口からピション、ピションと落ちる水の音が響く 土壁が前より削られているのをみて屋根裏のドブネズミの仕業かと疑った。
「クソみたいな夢だったな」
しかしどうも夢にしてはリアルで、体にしっくりとくる嫌に懐かしさのようなものを感じた。
日課の窓際で育てた豆苗を確認し、その夢を忘れようとする。
動かない引き戸は開きっぱで寒い風が皮膚を鳥肌にさせた。
「寒っ」
家賃3万円、風呂無し、和式トイレ、ボットンとカビの臭いがミックスされたこの部屋で身支度を済ませたら、私はこの後とびきり可愛いことをするのである・・・!!
「みんなー!!!行くぞーー!!!!」
地下の暗くて暑くて汗臭いライブハウスで
ファンがペンライトを持ち蠢く
アイドルグループ「LOVE♡倶楽部」
今夜も光の波に酔いながら歌い踊るのだ・・・。
夕張 七菜
さっきから話してるのはこの私。
LOVE♡倶楽部のリーダー、地下アイドル兼コンビニ店員のバイトをしている。
私の家は超ド貧乏でバイトができる年齢になると親の借金を少しでも減らすべくとにかく働いている。
アイドルになろうとしたきっかけは家でも外でもストレスが絶えなくて、
たまたまテレビで見たアイドルとやらにとても魅力を感じるようになったからだ。
可愛い服を着て、キラキラ光ってて、しかもお金も貰えて、なんかいいなって、今のリアルをこんなふうに変えられたら良いよなとか現実逃避のように憧れた。
そんで善?は急げってわけで、勢いよく、何も省みず、契約書もちゃんとよく読まなかったために騙されて契約を結び芸能活動が始まった。
私を含め5人かき集められグループを組まされた。
他のメンバーは、なんというか私を含め一風変わった、独特なやつらばっかりだった。
1人目は園田 紅羽
えらく華奢な身体に真っピンクの頭にハーフツインの毒っぽい小悪魔系なやつだと大層SNSで話題になったで、DMでスカウトされそのまま加入。
アイドルではあるが秘密で彼氏がいて、ホスト兼転売ヤーらしく、もれなく園田もそいつに身体を売られそうになったとか。
しかも、そのクソ男に今も貢いでいるらしい・・・しょーもない。
2人目は石墨 藍
青みがかった黒のショートボブ、メンバーの中で一番謎が多い。
園田と1、2を争う人気っぷりだ。
いつも冷静で何考えているのかわからずとっつきにくい奴だ。
しかし言いたいことはしっかり言うし毒舌なので園田と大層仲が悪い。
なんでアイドルになったのかは不明。
3人目は雨山 菫
紫の髪に小さな2つ結いをしているちんちくりんな、まるで小学生みたいなやつだ。
臆病で対人恐怖症なので楽屋の隅に隠れていたり、プルプル震えていたり、人とのコミュニケーションを避けるためか、ゲームばかりしている。
なんでそんなんでアイドルやっているのか尋ねると、家庭環境が悪く、家にも帰りたくないがお金もないので、街中をフラフラ彷徨っていたところプロデューサーにスカウトされ、一見良さげな契約条件にまんまと騙されてこの業界に入ったとか・・・。
4人目はアンナ・ニコラエヴナ・ペトロワ(Анна Николаевна Петрова)
ロシアの金髪娘。日本語はまだカタコトで、変な話し方だが、日本での暮らしは長い。
私と同じく親が超貧乏でホームレスを6回経験したそう。
知り合いの伝手で日本に上陸し出稼ぎに。
大食いなため常に飢えている。youtube等にフードファイターとして裏で動画投稿している。
本当はダメだけど顔出しせずに着々と登録者数を増やしている。
そんな感じで勢いとノリで契約してしまったために、こんなにブラックで劣悪な仕事だとは誰も思ってみなかったんだ。
何人かは辞めたいと言い出したがとても出せる金額ではない違約金が発生して、仕方なく続けているのだ。
こういうやり口に引っかかると貧乏な奴ほど心の根の部分が締め付けられ、精神がぐらぐらになってもう命懸けで生きているような感覚になる。
夢と憧れほど闇に近いものはない。
現実はお金の絡む黒い話ばかりだ。
契約時に耳心地のいいことばかりで、あのよくわからない甲乙だの、日本で生まれた日本人なのに全く理解できなかった長文をよく読まなかった自分が悪いが、加入時にレッスン費、衣装代、MV制作費、宣材写真、ライブ出演費を立て替えて実際はアイドルの借金扱い。わずかなギャラから差し引かれる。
チェキ売り上げノルマ未達成だと自腹・・・・。く、苦しい・・・。
ここの事務所はギリギリ訴えられない程度にうまいことやってる。
今は低賃金でも将来的に大きいバックが返ってくるというのだ。
はじめは本当にやばい契約をしたなとショックを受けた。
体力いるし、売れなきゃ気が滅入る、普段の騒音が耳に残って眠れないこともあった。
雨山は後悔して泣くわ、園田はブチギレて楽屋のガラス製の灰皿をマネージャーにぶん投げるわ、状況は最悪だった。
限られた時間の中で、私たちは契約上搾取されて、得られる報酬はほんのわずかで奴隷のようにほぼ毎日働かせられている。
もっと会社員とか、月に安定した給料がもらえる場所、他の道を選べばよかった。
「私ら、人間扱いされていないよ」
雨山はもともと体が弱いのに、よく頑張っている。
流行りの風邪をもらったせいで鼻水がよく垂れてしまう。
しかし今日もライブが始まるからステージ上でなんとかやり通すのだった。
ライブが終わると園田の奴は楽屋のくたびれたカビ臭いソファにどかっと勢いよく座り、お菓子なんぞを食いながら過労で溜まったストレスをぶちまけた。
「ったく、こんなんで承認欲求満たされるとと思ってんのかクソがっ!!最初は自己投資と思って加入してやったのにコキ使いやがって!!!!」
石墨はいつもの冷笑で「彼氏にもコキ使われて、騙されて、可哀想ね。」
相変わらず毒舌がすぎるぜ・・・耳に聴こえてきて毎回ヒヤヒヤする。
園田から日頃の恨みと怒りと恥の炎が見えた。
「黙れ!そういうお前はどうなんだよ!!」
私も聞いてみたい話だった、
確かに、石墨はこういうのに引っかかるようなタチではないように思える。
相変わらず少しニヒルな感じで微笑み何も言わず帰っていった。
「あいつっっマジでムカつくうぅっっ!!!」
アンナは園田がキレている隙に大半のお菓子を完食していた。
「私のおやつがない・・・!!」
「藍はいっつも秘密にするネ、あんなにおっぱいでかいのも謎だし。」
「確かにデカいが……ってそんなことじゃなくて石墨は別に金に困っているわけでも、芸能界に興味があるわけでもない。ここに加入する理由が見当たらない。何が目的なんだ?」
園田も張り合うように言う、
「まぁ私もお金に困ってんじゃなくて?芸能界に入りたかったからだし?他が放っておけなかったってのもあるわけで、ここの事務所も大手の傘下だからってんで入ってやったのにこのザマよ。なんなんだよマジでさぁ。」
「私も、芸能界入ればお金がっぽがっぽもらえると思ったから入ったのにネ、前より貧乏になっちゃったヨ。」
3人でガヤガヤと話していると突然後ろからバタン!と音がした、振り返ってみると雨山が倒れていた。
「大丈夫か!?」
ものすごい体が熱い、ゼェハァと上がる息で、か細く話した、
「ごめんね・・・最近よく眠れなくて・・・変な夢を見るの・・・。」
夢・・・?
「どんな夢なんだ?」
「なんだか臭くて、大きい船の上にいて、すごい大きな網を力一杯上げているの・・すごく疲れているのに、ずっと大きな声で怒鳴られて、目が覚めた後、汗がすごいの・・・。」
腕に鳥肌がたった、
「私も臭ぇとこにゆらゆら揺れて船みたいなとこにいる夢を見たんだよ・・・。」
園田も不思議そうに、
「私も変な夢見て、くっせぇ壺みたいなところで線香の香りがした。」
「私もだヨ!!」
「も、もしかして。」
4人は目を合わせて頭に浮かんだ言葉を合わせた、
「地獄さいぐんだで」
ゾッとした
1人は小声で「カムサツカ体操・・・。」と呟いた。
楽屋の空気がドヨドヨとした
青ざめて、何が一体どうなっているのかわからないが、とにかく急いで雨山をソファに寝かせた。
「こういうときどうすればいいんだ!?」
「薬と熱冷まシートと薬とポカリか?」
「あとお粥だネ!毛布取ってくるヨ」
私は急いできたままだった衣装を着替えて近くの薬局を探した。
ほとんど閉まっていて結局コンビニで買うことにした。
ゼェ・・・ハァ・・・・
走りながら今日の夢のことをまた思い出していた。
一方その頃、石墨はひと足さきに返ってしまったわけだが、外階段でタバコを吸い終えた後1人の従業員の男が声をかけた。
「お前風俗やってんだって?」
「だったら何?」
「俺とどう?」
答えるまでもなく去ろうとすると腕を強く引っ張られた。
「そしたら園田より圧倒的に勝たせてやるよ。」
「さわんじゃねぇ!!やってねぇよ!!」
振りほどき胸糞悪く舌打ちをした。
すると表情や態度がいきなり脅迫的になり欄干から落ちそうなくらい追いやられた。
「ここ六階なんだけど、落ちたら死ぬよ?」
「裏でこそこそ何やってんだよ、余計なことしてみろ?お前を世間からも仲間からも敵にされて一生後悔させてやるからな、覚えとけよ。俺らはさ、金で動いてんだよ。」
「いいからどけよ!!!」
吸い殻入れが勢いで倒れ大きな音を立てた。
男はガンをとばしながら、体を避け、石墨が帰っていくのをじっと見ていた。
一方楽屋では、お粥作りと自分たちの晩飯作りが始まっていた。
私は家で備蓄しているうちの一つから持ってきたカップ麺をバッグから取り出した。
お湯を沸かし3分、パキャッと下手くそな割り方をした箸で、
一気にズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッとゾーンに入りながら夢中に貪っていた。
この瞬間精神と身体が統一されるのだ。
瞑想より効くものがある。
するとアンナは少し怒った表情で、
「ナナ!いくら貧乏だからって毎日カップ麺ばかりじゃ身体に毒だからネ!」
「好きで食べてんだからいーの!生まれてから一度も病気怪我したことないのはカップ麺のおかげだ」
「私も健康に気をつけてそこら辺の雑草食べてビタミンや食物繊維とってるから身体丈夫ヨ!」
「お前らは何で競い合ってんだよ」
「ゼェ・・・ハァ・・・・」
雨山に出来上がったお粥を食べさせた。
「ふふふ、なんだかスミレ子供みたいだネ。フゥフゥしてあげましょ〜ネ♡」
「もぐもぐ」
小動物の餌付けシーンでも見ているかのようだった。
「帰りはどうする?このまま雨山を置いていくわけにいかないしな・・・。」
「ナナ、お前ん家ここから近いしお泊まり会だネ。」
「えっ」
園田は即座に「アタシは帰るわ」と言った。
「ハクジョウモノメ!」
「だって部屋汚そうなんだもん」
「失礼な!私の家は確かに古いが汚部屋ではないぞ、園田は自分家の汚いコスメと脱ぎ捨てた服の山んとこへ帰れ帰れ!」
「なんで知ってんの・・・」
冗談で言ったつもりがまさか本当だったとは
「マジでそうなのかよ」
「・・・アタシは朝早いから帰んだよ‼︎」
アンナは笑いを堪えながらいよいよ耐えられなくなって大笑いした。
園田は恥ずかしそうにキレ気味でそう言って帰って行った。
「クレハはきっとあのクソ男のホストへ行ったネ」
「まーだ付き合ってたのか、懲りない奴だなぁ、なんであんな奴がいいんだ?」
「誰だって独りは寂しいからネ。」
自分にはよくわからないことだった。
自分の家はそれこそ貧乏で親の借金まみれの家だが、仲が悪いわけではない。
ストレスを感じることもあるがここまで育ててくれたことに感謝もしている。
家からここまでかなり遠いから安いとこ借りて1人暮らしをしているが、今も連絡は欠かさずとっている。
こんな騙されて薄給ながらも自分にこんな感謝されると怒りより少し嬉しい気持ちになる。
いつか必ず、返済してみせたい。
園田は母子家庭でネグレクトされ今は絶縁状態らしく、雨山は親が無自覚で毒持ちの逃げ場なし家庭崩壊状態。アンナだって家や財産、兄弟も失って辛かっただろうに。
誰だってなりたくてなってるわけじゃない、そんな不遇があったとしても自分で決断して今を作っているメンバーを少なくとも自分は誇りに思っている。
ぐったりしている雨山をアンナと一緒に抱き上げてそのまま自分の部屋まで戻った。
玄関まで着いたらとりあえずチャカッと電気の紐を引っ張った。
「雨山は布団で、うちらはコタツで寝よう。」
寝支度を終えると、アンナと今日の夢の話を思い出していた
「変な話だよなぁ、皆んな同じ夢みてたなんて。」
「そうだヨ、大きい網にいっぱいのカニ。蟹漁!」
「美味しそうだな、食べたことあるか?」
「モチロン!安くスーパーに売ってるヨ!スィーっってほそーく一本ずつ食べてるとお腹いっぱいになるヨ。」
「・・・・多分それカニカマじゃね?」
「Серьёзно(セリョーズナ)?!」
こうして話しているうちに寝てしまっていいた。
朝になると雨山がちゃんと寝ていてくれたので少しホッとした。
「ありがとう、七菜ちゃん、アンナちゃん」
「具合少し良くなってよかったな。」
「まだ安静にネ。今日のライブは休んだ方がいいヨ。」
「でも今日のライブって大型合同ライブだから行かなきゃ。」
「えぇ・・・そんなの・・・。」
でも確かに今回のライブはいつもと違って合同ライブだからかなりお客さんが来る、ここで出なかったらせっかくファンを増やすチャンスを失うことになる。
「無理だけはするなよ。」
「うん、私は今動けるし大丈夫。」
「私はこれからバイトがあるから部屋を空けるけど、お前たちはどーすんだ?」
「ここでゴロゴロしてっていーい?あと棚にある漫画読んでイイ?」
数時間はゴロゴロしていきそうだな
「ちゃんと片付けろよ!鍵はポストに入れといて!」
朝〜夕方くらいまではコンビニバイトをしてる。
ぶっちゃけ、ライブしてるよりレジ打ちしてる方がマシ。
これがまた落ち着くんだよね。
わりとテキパキこなせるし、休んだりバックれたことも実は今まで一度もない。
そこら辺がグループのリーダーたる所以っていうか?まぁA型なんで(?)自分偉くね?
でも、私はアイドルなんか向いてない。
人前に出て歌って踊ってファンサして、それらを園田やアンナみたいに楽しんでやってない。
裏方でアレコレやってる方が性に合ってる。
掛け持ちでアイドルなんかしていなきゃ今頃バイトリーダーなのにさ!
そんなこんなでついにライブが始まる頃になる。
楽屋に全員集まって、ミーティングをする、
が、雨山の調子がまた悪くなってしまったのだ。
ヨロヨロとこんなんじゃろくに踊れもしない。
しかし、
「いいからやれ!!!!」
プロデューサーが大声で怒鳴る。
これにはメンバー全員ブチギレる
「はぁ?!これでもやれって言ってんのか!」
「それじゃお前にファンはこの日つかねぇぞ、2度とねぇんだからな。他のメンバーと差が出んだぞ?!」
「どうせ金のために言ってるだけだろボケ‼︎」
「ガキの遊びじゃねぇんだぞ‼︎そんなんで休んでるようじゃどこにいっても通用しねぇよ‼︎」
私たちはライブどころではなく、この事務所の体制そのものに対する怨みで、人前で踊れるような気に1ミリもなれなかった。
他のアイドルもいる中で、楽屋は静まり返って最悪な空気になっていた。
「わ……私……出ます……。」
「あんな事言われたからって無理すんな……。」
「そうだぞ、ちゃんと元気になってからで——」
「いいの——‼︎私、出るから——‼︎‼︎」
カスカスの声で苦しそうに腹から声を出してそう言った。
ライブ本番、雨山は足元フラフラしながら最後まで踊りきった。
その後すぐさま横にさせて休養をとらせた。
結果、その日の合同ライブでどのアイドルグループよりも一番ファンがついたのは雨山だった。
心配からかえって注目を浴びて、遂にはSNSで拡散までされ、その日のうちにとんでもない数のフォロワーがついたのだ。
「これが商売だ——」
プロデューサーは馬鹿にした眼差しで結果を知ってたかのようにそう言い放った。
私たちは何も言い返せなかった……。
「皮肉にもそういうことなのかもな……」
翌日の事務所の屋上で五人揃って遠いどす黒赤い夕焼け雲を見つめながら、
私は虚ろで無気力な眼でそんなことをうっかり呟いてしまった。
「でもあんな無茶はするもんじゃねぇヨ」
「今回の件もそうだけど精神的にキツいわ……」
「ふん、威張ってんじゃねーこの野郎‼︎どうせあのプロデューサーだって下っ端の犬のくせに‼︎‼︎」
「…………」
全員深いため息をつく
「あ!ソウダ!皆んなでパァーッと打ち上げしよーヨ」
「おっ!いいじゃん♪何食べる?」
「ケーキとか?」
「……………………蟹はどう?」
全員が少しびっくりした
「あぁ〜!」
「じゃあ蟹鍋にする?」
四人はその話で盛り上がりを見せているが石墨だけが引き気味な顔でいた。
「……何で蟹なの?」
「あっ、アイはあの時同じ場所にいなかったからわからないんだったネ、私たち、実は同じ夢を見ていたみたいなんだヨ。蟹漁に出てて、皆んなその場にいたって夢だヨ」
「えっ…………」
石墨は今まで見たこともない表情だった。
「私も…………同じ夢を最近見たの……。」
「えええええ!?!?」
「どーゆーこと?これってなんか夢男みたいな?そんな都市伝説みたいな話?‼︎」
「ちょ、一体何がどーなってんだ……」
「私は、海と何か鎖のようなものが耳障りにガラガラと音がして、怒鳴り声と石炭の臭いがした。」
「やっぱり…………私たちは、たぶん生まれ変わりだネ。」
「前世で会ってたってやつか?」
「そんなことってある?」
「私テレビでみたことある!アンビリーバボーな話じゃんそれー!ウケるw」
「でもあんまり良くない前世だね……」
…………………………
「こんなところでまた繋がって会えるなんてそうはないし、記念に蟹を買ってお鍋にしよーヨ、クレハ、アイ、そこは金持ちがよろしくネ」
「はぁーーー?!」
とにかく前日の合同ライブを忘れたいが一心で適当な話をアテにして私の家で鍋をすることになったのだった。
「お前と同じ鍋なんか食えるかぁ」
「……いいのよ食べなくて」
「チッ」
「クレハ!アイ!小競り合ってないでコタツに来て食べるヨ‼︎さっさと来いヨ‼︎」
気まずそうに2人は座布団の上に座る。
「では、いっただきまーす!!!!」
そう、この匂い、夢の中で嗅いだ匂いだ。
しかしながら蟹は美味い硬い殻の中からプリっと出てきてそれを貪り食べた。
「白米も炊けたから、好きなだけ掬って食べていいぞー‼︎‼︎」
久々にまともなご飯を食べて、お腹いっぱいになると、コタツから東西南北と倒れていくように皆んなごろごろ寝た。
これはきっとなんかの縁だ。
そうに違いない。
でも、何のなのだろう。
私たちは前に蟹漁をして生活をしていたのか?
あまり思い出したくない夢ではあるが、考えれば考えるほど不思議でしょうがなくなった。
夜、皆んながそのまま寝落ちしているところ、自分だけがトイレに行きたくなって起き上がった。
そしたら、石墨がタバコを吸いにベランダに居たのだった。
用を足した後、ガラス越しに手招きをされて、ベランダの方へ向かう。
石墨はふかーくタバコを吸って吐いた後、こう話した、
「今の事務所は相当ヤバいことしてる。」
「そりゃもう。」
「私はこの事務所を潰すつもりでここに入ったの。」
「え?」
いきなり言われたせいで、眠気がどっか他の家に吹っ飛んでいった。
「私は普通の家族の子供って生まれ方をしてない。私の母親はさ、女優をやってたんだけど、この事務所の上のヤツとの間に私ができて、いわゆる私生児ってやつで生まれてきた。そのまま都合が悪くなったからって急に扱いが酷くなってそのまま死に追いやったんだ。その方が色々都合が良いから。」
絶句したまま、私は最後まで話を聞いていた。
「その復讐をするために、わざわざこんなところにいる。」
いつも、何を考えて行動しているのかわからなかったけど、そんな理由があったなんて、どう反応していいか、わからない。
「私と一緒に協力してほしいの。」
「…………どんな?」
「2度とこんな事務所が設立されないように、徹底的に潰してやりたいから、ありとあらゆる証拠を集めてほしいの。」
「他のメンバーは?」
「あんまりそういうの得意そうじゃないでしょ?」
「…………確かに、なんか、そうだなぁ・・・。」
「日頃から必ずこのレコーダーで録音していて。」
「おう」
「ありがとう、じゃ、もう寝るね。寒い中悪いね。」
「いや、大丈夫だ。」
これで何かが変われば、やるに越したことはない。
それから毎日毎日、証拠集めをしていった。
忙しい日々を繰り返し繰り返し、滑車を走り続けるハムスターのように、この馬鹿げた労働は続く。
ある日、雨山はライブ後にプロデューサーに呼ばれて、怪しい男たちと別室へ向かうところを見た。
私はとてつもなく嫌な胸騒ぎがした。
石墨を連れて、雨山の元へ急いで向かった。
同じ階にはもう居ない、ここのビルは16階まである。
その中からどうやって呼ばれた部屋を見つけ出す、すると、上の階から微かに悲鳴がきこえた——
「…………ぁああ‼︎」
「雨山‼︎」
部屋がなかなか見つからない・・・!!
走って走って、遂に連れて行った男たちが照明もつけていない廊下の暗いドアの前で通せんぼしているのを見た。
「退けよ‼︎中に雨山がいるんだろ‼︎」
肩を掴まれ身動きを止められた
「離せよ、雨山‼︎大丈夫か‼︎」
2人とも大柄の男たちに掴まれて、とてもじゃないが敵わない。
すると、
「七菜!藍!そこから離れろ‼︎」
後ろから声がして振り向くと、駆けつけてきた園田とアンナがいた!
園田は消化器の栓を抜き思いっきり噴射した。
「うわぁぁあ‼︎このガキぁ‼︎」
やられている隙を見てドンドンドンドンとドアが壊れるくらい叩いてやった。
しかし、全くうんともすんともしない鉄のドア。
仕方なく引き返すようなフリをして、外階段の下で何もわからないで歩いている人にも聞こえるくらいの声で叫んでやった。
「誰か助けてーー!!!」
すると多くの人がビックリして上を見上げてくれた。
こうでもして、状況を動かさないと、どうにもならないと思った。
それが良かったおかげで中から気持ちの悪い熱風に包まれた男たちとプロデューサーがなめくじのようにゾロゾロと出てきた。
「チッ、今日はここまでだ、邪魔しやがって。これじゃ金は払わねぇからな」
そんな捨てゼリフなど全くどうでもよく、急いで中に入って雨山を確認した。
あまりにその状態はショックなものだった
服は暴力的に無理矢理脱がされ破れていた。
トレードマークの二つ結いの髪はほどけて、抵抗して擦り傷やあざができていた。
顔や目はぐしゃぐしゃに赤く腫れて涙が止まらず泣いていた。
「雨山…………お前、何があったんだよ……‼︎‼︎」
あとで判明した話だが、
雨山の親が裏でプロデューサーと交渉して大金を貰う代わりに不当な接待を強要させたのだった。
本人は当然知らない。
「もう………無理」
「でもこれで、大きな証拠が残った。雨山、もうすぐでこんな地獄から抜け出せるぞ……‼︎」
「え?」
私たちは、新しい服を着させて、ほとんど身体に力が入らない雨山を二人がかりで担いで、
この忌々しいビルからも抜け出して、いつもの自分の家に向かった。
メンバー全員平静を保つのがやっとだった。
しかし、ここから私たちは反撃をするのだ。
さぁ!立ち向かおう!
「プロレタリア……!」
「なにそれ?」
「なんか、頭にフッとそんな言葉が浮かんだヨ。」
「なんかの呪文?」
「わからないけど、きっとそうだヨ!」
最後に自分を奮い立たせ、集めた証拠で、社会的な制裁を受けてもらおう。
そして、たちまち私たちの事務所はSNS、全国ネットでテレビニュースの話題となった。
もう二度とこんな事は起きてほしくない。
事務所はあっという間に潰れて、この後も同じ会社の別の事務所に所属する他の活動者の暴露が立て続けに起こり、会社は徐々に勢力を失い、ついに数年後、倒産したのだった。
ようやく石墨の願いが叶ったのだ。
解散後メンバーとはろくに話しもできないまま、それっきりになっていた。
私は中々上手くいかない就職活動とコンビニアルバイトで忙しいし、園田はそのままアイドルとして個人活動しているみたいだ。
石墨はその後不明。
アンナは大食い系YouTuberとして活動していた。
雨山は家を出て、メンタルケアセンターに通いながら、自分のできるところから少しずつ何かをはじめているようだった。
本当に、ビックリするくらい連絡も取り合えてなかったし、会えていなかったからいきなり石墨から電話がかかってくるなんて思っても見なかったんだ!
「企業?!」
「そ、貴方にまた手伝ってもらいたいの。」
こりゃまたえらく突然だった。
「芸能事務所設立?!」
「他のメンバーにも連絡して、いつものところで合流しましょう。」
そしてまた、あのボットンとカビの臭いがする部屋で私達はまた会うことになったのだ。
蟹でも用意してさ!




