第一話『転生と女体化』
転生した瞬間、何かが無いことに気づいた。ち◯ちんが無い! は、え?
「俺、これからどうすればぁ……」
これが、後々英雄と呼ばれる俺の地獄の始まりである。
遡ること数時間前――
「バイト…疲れた〜。繁忙期とはいえキツイな」
肩が重く感じる。十九歳のピッチピチの男子大学生であるが、最近忙しくて、足がうまく上がらない。
「家に帰ったら、ゲームの続きでもするかぁ」
いつも通る道をいつも通りに歩いていた。何一つ変化のない平穏が好きな俺にとって、ぴったりな日常だ。
だけど、今日は違った。
俺はいつも通りに横断歩道を渡ろうとした瞬間、車のクラクションの音がした。
その音が耳に入り、その意味に気づくときには時すでにお寿司。
俺の体は宙を舞っていた。バク宙するかの如く――やったことないから分かんないんだけどね。
頭から血が噴水のように吹き出し、俺の意識は途切れた。
◇◇◇◇◇
気づくと、真っ白な空間に立っていた。数メートル先には、見とれてしまうほどの美女が、黄金に彩られた高価そうな椅子に肘を立てて座っている。
「……ええっと……あの……ここは一体?」
ぎこちなくその美女に話しかけた。
生まれてこの方十九年間、女性と話すときは「あ」や「うん」しか言ったことがないが、なぜか今は自然とそれ以外の言葉が出た。
「うん……あ、あぁ……めんごめんご。存在感薄すぎて気づかなかったよ。まぁでもすでに死んでるから物理的に薄いんだけどねぇ。ハハっ!」
ん? いやいい。聞かなかった。多分聞き違いだな。そうでないと困る。
「ええっと……ここは一体?」
再度、同じ問いを投げた。
「ん? ここは多世界の狭間だよ」
イマイチ要領を得ない……多世界の狭間ってなんだ?
「あんましよく分かんない? あれ? 車に頭ごといかれておかしくなっちゃった?」
なんだこいつ。先ほどは聞き間違いだと思ったが、明らかに俺のことを馬鹿にしてやがる。
いやいや、冷静になれ……冷静に――
ん?
美女の最初の発言が脳裏をよぎる。
「how? 俺、死んでるの?」
「あ……気づいてなかった感じ? 君はさっき車に派手に轢かれて死んだんだ」
「死んだのか……」
両親はすでに他界している。何もあそこに残すものはない。少し寂しいが……
「俺、本当に分からないんですが、ここは一体どこなんですか?」
「ここは多世界の狭間。転生する世界を選べるところだよ」
「転生する世界を選べる?」
「うん。ただ、何でも自分の都合のいい世界に転生できるわけじゃないんだ。君の前世の人生に適する世界をこちらで三つ用意して、そこから選ぶって感じ〜」
「その三つとは?」
「うーんと、これ」
美女が合図すると、俺の目の前に三枚の紙がどこからともなく現れた。紙にはこう書かれていた。
1つ目の世界――極寒の世界。年がら年中魔物が襲ってくるよ⭐︎ 今までの転生者の死亡確率、なんと95%だよ⭐︎
2つ目の世界――灼熱の世界。毎年世界大戦が起こってるよ⭐︎ 今までの転生者の死亡確率、なんと100%だよ⭐︎
3つ目の世界――女の子しかいない世界で魔王がいる世界だよ⭐︎ 今までの転生者はいないよ⭐︎ 転生するなら、魔王を転生後20年以内に倒さないと魂が壊れるよ⭐︎
毎回最後に星が付いてんの腹立つなぁ。てか、難易度高くない?! 消去法で三つ目しか無いような……
「三つ目で……」
「ファイナルアンサー?」
もう一度考えよう。三つ目、女の子しかいないってまんまその通りなのか……? かなり地獄だけど、いやむしろ天国……? 魔王を20年以内に倒さないといけない。でも他二つよりはマシだよな……
「はい」
「おっけぇー。あ、ちなみに肉体は君の前世のまま転生するよ。あと、最近、転生者特典ができてさぁー、この三つから選んで」
俺の脳内に情報が直接流れ込んできた。三つの能力説明だ。
1つ目は……自分と同じくらいかそれより小さいものをコピーできる能力……
2つ目は剣を作る能力……
3つ目は蚊を操る能力……
なんか最後だけショボいな。一が無難か。
「一でお願いします」
「おっけぇ〜……よし、準備できたよぉー。じゃあレッツゴー」
俺の足元に魔法陣が現れ、美女が何かを唱える。その瞬間、魔法陣に吸い込まれ、気づけば俺は森の中に立っていた。
なんとも言えない高揚感が俺を包む。ファンタジーの世界に転生したのだと。だが、俺は自分に違和感を覚えた。
なんだ。何かがない。というか胸がキツイ。恐る恐る自分の体を確認する。無いッ! ち◯ちんが無いッ! あれ……もしかして……
そこで気づいたのだ。俺は女の子になってしまったことを。
「何で? え、そんな……女の子になるなんて書いてなかったじゃん」
三つ目が他二つに比べてパンチが弱いなとは思ったけどさぁ!
「俺、これからどうすればぁ……」
◇◇◇◇◇
「よいしょっとぉ〜。さっきの死者送りの仕事、不備ないか確認しとこぉ〜」
「あ、やべ」
彼女は気づいた。さっきの死者に渡した紙に不備があったことを。三つ目の世界についての説明で、最も重要な部分が抜けていたのだ。
「えっとぉ……元の文章は『三つ目の世界――女の子しかいない世界で魔王がいる世界だよ⭐︎ 今までの転生者はいないよ⭐︎ 転生するなら魔王を転生後20年以内に倒さないと魂が壊れるよ⭐︎』……までは同じ……足りないのは、えー、転生するのが男なら女体化するよ、ってことと、それに加えて色々とヤバァイ人ばっかりの世界だよ⭐︎ たまに常識人がいるよ⭐︎ か……ま、まぁ〜一人だけだし、バレなきゃいいよねぇ〜。気づけて良かったぁ〜」
こうして、後々英雄と呼ばれる俺の地獄が始まったのだ。




