第5話 結婚への焦り
一葉は家を出てあてもなく歩いていた。サワサワと吹く風が心地いい。
母から結婚は反対だと言われたことに、一葉は怒ってはいなかった。そう思うのもなんとなく分かる気がするからだ。一葉自身も昨日の彼の急にキレたことは受け入れられるものではなかったからだ。まさか親の前で声を荒げるとは思わなかった。彼があんな態度をとったことにショックを受けていた。あの瞬間、自分が恥ずかしい気持ちになったし娘が怒鳴られているのを見て親を傷つけてしまったかもしれないと思い悲しくなった。
一葉の親に会う当日も約束の時間に遅れた原因は彼にあった。
彼には挨拶の日は遅れないようにしようと事前に伝えていたし、何時にどこに集合と連絡していた。けれど、彼は寝過ごしてしまい約束した時間には間に合わなかった。
一葉は自分の親がないがしろにされているようで悲しかったが、その気持ちを彼には伝えなかった。
なぜなら、彼はどこで怒り出すか分からないからだ。
なんてことない会話をしていても、急にスイッチが入り彼が怒り出してしまい最終的には喧嘩になってしまう。そこでなぜ怒るの?そんな怒るポイントあった?と思うようなことばかりで、ただ会話をしたいだけなのに喧嘩になってしまうことに、実は一葉は疲れていた。
それなのに、なぜ一葉が彼と結婚するかというと、結婚に焦っているからだ。20代後半にもなると、大学までの同級生や会社の同僚はだんだんと結婚し始め、彼氏がいない女性は自分も含め片手で数えるくらいだった。
だから異業種交流の場がきたとき、フリーの彼を見つけて交際にまでこぎつけた。
これであとは結婚さえできれば結婚しているみんなへの仲間入りでひとまず安心だわ、と、一葉は結婚することだけを考えていた。




