第3話 初対面
あの後、週末の食事について娘の一葉と話したが結局何なら食べられるのかはっきりとは分からず、食事は用意せずお菓子などを準備するにとどまった。
お菓子など甘いものは好きなようで和洋折衷なんでも好むらしい。
飲み物もなんでも大丈夫とのことで、お気に入りの紅茶を用意した。
あと15分ほどで約束の時間だと、夫と私はソワソワ落ち着かず部屋の中を歩いている。私はワックスでよく磨いた床をスリッパでパタパタ、ペタペタと落ち着きなく行ったり来たりする。
ボーン ボーン
時計がなる。約束の時間がきた。電車が遅れてるのかしら?娘からは到着の時間についても、遅れるなどの連絡もきていない。大丈夫かしらと心配しながらも約束の時間をこくこくと過ぎていく。
約束の時間から15分過ぎたころ、インターフォンがなる。急いで迎えにいくと玄関に娘と相手の彼が立っていた。
一般的な体型より少しふくよか・・いわば少し太っている体型が一番最初に目にに入った。
「遅れてしまい申し訳ありません。初めまして、藤本と申します。本日はお時間をとっていただきありがとうございます。」
ハキハキと丁寧な挨拶を受け見た目とは異なり内面はしっかりしている方なのかしら、と印象は少し良い方向にいった。
娘をみると少し緊張しているのか、表情は固かった。娘の緊張をほぐそうと、大丈夫よ、と小声で伝え娘の背中に手をあてながら笑顔で2人をテーブルへと案内した。
皆みな席に着き、夫が今日の天気やら何の交通手段でここまで来たのかなど、たわいもない話をし場を和ませようと、緊張をほぐそうとした。
娘の彼は緊張しているのか、そんな夫の会話に対し、はい。そうですね。などの単語で返すのみで、会話のラリーはそんなに長く続かなかった。
娘は彼が会話を続けようとしないことを気にしてか沈黙を気にしてか、必死に会話に入ってきては盛り上げようとしている。娘はもともと気をつかう性格であり、なんとかこの場を取り持とうと親と彼との間を取り持とうとしているのがみえた。だがそんな娘の努力虚しく、だんだんと沈黙の回数が増えていく。
夫もそろそろ頃合いかと職業を聞いてみたところ、公務員とのことだった。
公務員ならば辞めさえしなければ安泰かしら、とつい親心で娘の結婚後の生活のことだけ考えてしまった。
ただ娘はとある企業の会社員、公務員とは接点がないはずだがどこで出会ったのか。
気になり2人に聞いたところ、異業種交流で出会ったとのこと。異業種交流には全員が参加できるわけではなく勤務先側が選んだ人のみだと聞いたことがある。それならば娘の彼もある程度はきちんとした人なのだろう。
テーブルに並べたお菓子を食べるようすすめつつ、みんなのカップに紅茶をつぎ足していく。
ひとしきり話し終え沈黙が続くなか、娘がテーブル横にあるラックから新聞を取り出す。夫が新聞を毎日読むのを見ていたためか娘は幼いころから新聞が好きで暇さえあれば記事に目を通していた。手に取った新聞にお祭りの記事があった。見出しには大きな文字で、必見!豪華な山車。娘がその記事を見ているのを横目で確認した娘の彼は、
「その漢字なんて書いてあるか読めるの?」
と、少しほくそ笑んだ感じで小声で娘に聞く。
「このくらいわかるよ。だし、でしょ?」
娘はニコニコ笑いながら答える。
「いや、絶対やまぐるまって読んだでしょ。」
「読んでないって。ちゃんと読めるよ。」
「いや、嘘だね。最初、やまぐるまって読んだはず。」
娘の読めたということに納得がいかないのか、ただからかいだけなのか、しつこく娘に言っている。
「そしたら私の親になんて読むか知ってるか聞いてみるよ?ねぇ、おかあ・・」
「そんなん読めるに決まってるだろ!!いちいち聞くなよそんなこと!!」
急に娘の彼が声を荒げた様子に私と夫は固まった。突然のことに驚き目を見開き娘たちを見た。娘の彼は何事もなかったように目の前のテーブルに置いてある新聞を見ながら紅茶を飲んでいる。サッと娘をみると娘は少し青ざめたような焦った様子を見せつつも、笑顔で、別にいいじゃん、と彼に言っている。その笑顔はどこかぎこちなく、無理に作っている感じがした。
娘の彼が声を荒げた、というより怒鳴り出した、いや、キレた、といった方がピッタリ合うように私には思えた。
娘たちの会話を聞いていたが、そんな急に怒るような話の流れだったかしら??と、不思議に思うと共に、彼は自分達とは何か違う気がする、と言葉に言い表せない不可解な印象を持った。
帰る時間となり、娘は彼を送っていく、と彼と出て行った。彼は帰り際ももれなく丁寧に社会人としてきちんとした態度で挨拶をし出て行った。
夫と私はテーブルへ戻るなり、先ほどの彼の突然の怒りについて、
あれはなんだったのか?娘に対して、しかも私たち親がいる前で初対面なのにあんなにキレられるものなのか?どうでもいい話のあの流れで?普通の感覚では考えられない、普通じゃないのではないか?娘に対しても酷すぎる、
と私は夫にまくしたてた。不安で舌が口の中が乾いていていく。消えたモヤモヤがまた胸の中に広がっていく。
夫は口をギュッと結び、難しく考え込む顔を見せ、そうだな、と低い暗い声でゆっくり話し出した。娘に対して怒鳴ったこと、またそれに対して娘に謝るでもなく普通にその後椅子に座り堂々と過ごしていたこと、私たち親の目の前でそれをしてしまうほど怒りを抑えられなかったこと、気になる点は私とほとんど同じだった。
夫は勤務先では多くの部下を従える役職についている。彼を一社会人としてどうなのか、判断するには早いと分かりつつも受け入れ難い様子がみてとれた。
私は、娘が帰ってきたらすぐ話しましょうと夫に言ったが、娘も疲れているだろうし明日にでもまた改めて聞いた方がいい、それまでに私たち夫婦は冷静に話せるようにしておこう、という夫の意見に従うことにした。夫自身も少し疲れているような気がした。
娘が帰ってきたら笑顔で今日のことを話せるかしら、と胃がキリキリする思いで夜ご飯の準備をする。
スマホで今日は外泊するねとだけ連絡があり、結局その日は娘は帰ってこなかった。




