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発達障害の結婚相手を受け入れられますか?  作者: めんだCoda


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第11話 すれ違ってる…?

 ——はぁ…。

 ベッドの枕に顔を埋め、深く息を吐く。

 家に戻ってからというものの、溜め息しか出てこない。


 顔を横に向け、枕の隣に置いてあるスマホが視線に入り、ゆっくりと手を伸ばす。

 スマホの上に手をかざすが、一瞬躊躇したのちスマホを掴んだ。


 スマホを掴んだまま、ベッドの上でゆっくり起き上がると、スマホのロックを外し両親指で画面をスライドしていく。


 打ち終わったあと、スマホを持った手を膝と膝の間に落とす。息を深く吐いて窓の外を見ると、帰ってきたときと変わらず、雨がザーザーと音をたて激しく降っていた。


 スマホからヒュンッと音がし、慌ててスマホを持ち上げ、画面をスライドして確認する。


 確認したあと、スマホをショルダーバッグに入れると、ベッドから立ち上がり、静かに音を立てないように階段を降り玄関へ行く。

 玄関のシューズボックスを開けて、長靴を取り出していたときだった。


「ありがとう…あなた…でも急にごめんなさい…ただ、私は…同じ母親として、藤本さんの気持ちを思うと…」


 ドアが閉まっているリビングから、母の声がくぐもって聞こえてくる。


 長靴を履く手を止め、母の声に耳をそばだてた。母が時々、グスッ、グスッ、と鼻をすする音が聞こえてきて、なぜか胸が掻き乱される。その場にいたくなくて、長靴を履く手を早めた。


 カチャッ——


 玄関の取手を掴みドアを押すと、外の雨音が家中に入ってくるかのように響いてくる。


 玄関の外の傘立てから自分の傘を取ると、一葉は傘を開いて、雨の中へと一歩進みでる。


 雨が激しいせいか、道を歩いている人は少なく、赤い目を人に見られることがなくホッと安心した。


 ◇◇


「一葉」


 名前を呼ばれて、前のめりに持っていた傘を、後ろの方に少し下げる。


「藤本くん」


 駅前の軒下に立っている彼が、片手を上げて笑いかけてくれた。


 彼の元に近寄ると、彼も傘を差し雨の中に一歩出てきた。


「どうしようか、どこかこの辺にいい店ある?」


「う〜ん…雨すごいし、そこのカフェにしない?けっこう落ち着いてて、ゆっくりできる所だよ」


「あー、じゃあそこに行こうか」


 雨のせいか、店内は意外にも人はまばらで、窓際の奥の席が空いていたのでそこに座った。

 丸テーブルを中心として、大きめの1人掛けのソファが2つあり、このソファを気に入っていた。

 ソファに座ると、少し下に体は沈み込むのだが、ソファに守られているような安心感を覚える。


「で、話したいことって?」


 注文をし終えた彼がメニューを片付け、こちらを見つめてきた。


「あ…あのね……今日の顔合わせの食事会のあとね…実は藤本くんのお母様に会ったの…」


「——は??うちの母親に??どこで?いつ!?」


「…さっきの食事のお店。別れた後に、店内にいたお母様に呼ばれたの」


「は…?え?うちの母親、あそこにいたの?聞いてねーよ、俺」


 かなり動揺しているようで、背をソファに預けた彼は、天井を見たり、横を向いたり、時計を触ったりと、落ち着かない様子だった。


「やっぱり、来ていたこと、知らなかったんだね」


「いや、聞いてねーよ。てか、来るなら言えよって話だしさー…。え、で何を話したの?」


「それね…話はね……」


(ありのまま全て話したら、傷ついちゃう…よね…)


 言い淀んでいたからか、彼の目はどこか不安そうで、足元はカタカタカタと靴の踵で床を踏み鳴らしていた。


「え、なに、なんか言えないような感じの話?」


「え…あ…ううん、なんていうか…その…」


「言ってみてよ、何話したのか知りたいし。俺に連絡してきたのも、その話をしたいからでしょ?」


「うん…そうなんだけど……どこから話そうかな…まず…ね…、藤本くんのお母さんは、私達の結婚に反対みたい…」


「あーー…だろうね。まぁそれは想定内かな。あとは何話した?」


「え、あぁ…あと…あとはね……その…藤本くんと結婚したら、大変だよ…ってこと…か…な…」


「あ、え、俺と…の結婚が大変…?」


「…うん……」


「なんで大変かとか、理由は言ってた?」


「……言ってた…」


「…なんて?」


「……えっと…それ…は………」


 彼は瞬きもせず、じっと私の目を見つめてくる。


 言ってしまおうか…とも思ったが、彼の口から直接聞いていないのに、彼のパーソナルな部分を、私から言ってしまっていいのか…。


「…もしかして、俺の発達のこと…聞いた?」


 彼を見られないでいた私は、どこに視線をやったらいいのか迷い、丸テーブルに置かれている紙ナプキンを見ていたが、ハッとして彼の顔を見つめる。


「…聞いたんだ。まぁ、別にいいけど」


 彼は、注文したアイスコーヒーにガムシロップを次から次へと入れて、3個入れ終えたところで手を止めた。


 え、別にいい…?別にいいって…なら、なんで私には結婚の話が出たときに、教えてくれなかったの…?…ううん、結婚の前、付き合ってるときでも良かったのに…?


 私は少し疑問が沸き出てモヤモヤとしたが、すぐに彼が話し始めたので、そのモヤモヤは彼の話に掻き消されてしまった。


「俺さ、子どもの頃に医者からadhdって診断受けててさ、ちょっと前まで医者にも定期的に通ってたんだよね。仕事でも日常生活でも、まー、発達のせいで困る?っていうほどのことはないし、今は医者に行くのやめたんだけどさ」


「…お医者に行かなくなって、なんかこう変化とかないの…?…例えば、…怒ったときのイライラがなかなか収まらない、とか…」


「え、なに、それさ、母親から聞いた?」


「え…うん……」


「ふーん。まぁ、いいんだけどさ。イライラしたとき?は、一葉はもう分かってるとは思うけど、俺の場合は放っておいてもらえれば、だんだん収まるからさ」


 ……え?

 喧嘩したとき、論点が二転三転しながら、ずっとあなた怒ってるじゃない。


 私が自分の意見を伝えると、それを全否定して怒るじゃない。私の方がおかしい、って。


 意見の擦り合わせができなくて、2時間以上喧嘩することもあるよね…。


 結局、私が求めすぎたのかもって、ごめんね、って謝って終わってるよね…。


 …あれ?

 私と彼、認識というか捉え方というか、すれ違ってる…?


「で、一葉は聞いてどう思った」


 目の前にあるコーヒーを見つめながら考えていた私は、彼の声にハッとし引き戻される。


「え?」


「俺が、そういうのあるって聞いて。やっぱり結婚は無理だって、そう思った?」


 あぁ…彼は不安なんだ…。


 彼は真っ直ぐに私を見つめているが、その瞳の奥は不安が揺らいでいるのがみえた。


 たぶん、今呼び出されたのも、断りの話だと彼は思ってる。


「ううん、結婚を諦めようとか、すぐに思いはしなかったよ。ただ…正直…今はすぐに結婚しないでもいいかな…って思って…。って、いうのも、私の親も、藤本君のお母様も結婚に反対しているじゃない?だから、仮に結婚しても上手くいかないんじゃないかな、って…。今もここに呼び出したのはね、別れようとかそういう話じゃなくて、しばらくの間は、まだ付き合っている状態のままにしておいて、少し時間かけて結婚を進めるのでもいいのかな、って…」


 私の返答が、彼が思っていたのとちがったのだろう。


 急な私の提案に対し、彼は一瞬ムッとした顔をしたが、そのあと神妙な顔で黙り込んでしまった。


 沈黙になり、不安な気持ちになった私は、コーヒーを飲みながら窓の外に目をやり雨の様子を観察しているフリをし、彼と目が合わないよう努めた。


「…いいよ。一葉がそうしたいなら」


 数分の沈黙の後に彼がポツリと言ったその声に、私は窓から彼の方へと素早く視線を戻す。


「いいの…?」


「いいの、って、そっちがそう言ってきたんでしょ。それに、俺が何を言っても一葉は結婚を進めたくないって言ってるんだから、どっちみち無理じゃん」


 彼はソファにふんぞり返り、大きめの声で話す。

 怒りのスイッチが入ってくると、いつも声が大きくなる。


 彼は納得してないけど、とりあえず了承したっていうのが、見え見えだった。

 彼自身は、私が話した内容を聞いても、私の気持ちや問題は何も理解していない——大抵そうなのだが。


「ごめんね…」


 人気があまりないとはいえ、店内の人の目が気になって、私は周りを見渡したあと、すぐ謝ってしまった。彼の気持ちを沈めるために。


 今はただただ、彼のそばにいることが、居心地が良くなく、早くカフェを出たかった。

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